スランプからの脱却を目指し、リハビリの一環として新作の投稿とさせていただきます
それでは、どうぞ
僕──八代慧は、絶賛大ピンチを迎えている。
周りからはひそひそ話が聞こえる。それも四方にいるのは女子、女子、女子、女子だ。場違いな程の男女比、その中にぽつんと一人立たされているのだ、針のむしろもいい所ではないか。
挙句の果てに僕は女性恐怖症というこの場にいるのが罪な程の体質を持っている。
恐怖、と言うより嫌悪、と言うべきだろうか。女性が近くにいると吐き気、寒気、恐怖などの感情が湧いてくる。
接触された日にはその場で卒倒することすらあった。
僕のような人間がIS学園、などという女子校の代名詞のような学校に通うことになったのか。それは数時間前に溯る。
──数時間前──
いつもの様に、午前二時に起きた僕は料理をしていた。それは、僕の保護者的な人に夜食を届ける為だ。
生活リズムは午後六時寝の午前二時起きなので別にそこは問題ではない。学校に通っていない僕に早寝早起きなど関係ないのだから。
ただ、作ったおにぎりと玉子焼き、漬け物などを届けに行った時から、僕の人生は90度ほど歪んでしまった。
「お夜食を持ってきたよ?」
『はいはーい!どうぞー!!』
ドアから快活な返事が聞こえるので相変わらず元気だな、と思いながら部屋に入る。
「散らかってるのによくこんな部屋で研究に集中できるよね、束」
「入ってきて早々お小言いわないでよ〜!おはようけー君」
「あ、うん。おはよう。はい、おにぎりと玉子焼きと漬け物。デザートにミカンも置いとくからね。お茶は水筒の中に入ってるから注いで飲んで」
「ありがとー!いただきまーす!!」
一区切り着いた所だったのか、珍しく素直にこちらを向いて食べ始める。
「珍しいね?区切りついたの?」
「ぜーんぜん!ただ、今日からしばらくはけー君の手料理が食べられないから悲しいなーと思って、折角だから出来たてを食べよう!と思った束さんなのだよ」
「ふーん、よくわか………ん?僕が何?」
相変わらずよくわからない人だな、と納得しかけた時にとんでもないこと言ってる気がしたので聞いてみた。
「けー君は今日からISを操れる二人目の男としてIS学園に通ってもらいます!!」
「………は?」
「ほらー、この際私とかちーちゃん以外の女の子と会話した方がいいと思うし、女性恐怖症もいい加減なんとかしないとけー君の復讐に差し障りが──いふぁいいふぁいへーふんひっふぁふぁらふぁいで!!」
「束………その話、ちゃーーんと僕が納得するように話してね?」
それから聞いたところによると、女性にしか操れないはずのISを織斑一夏、という男が動かした。で、放っておくと女尊男卑社会でいい思いをしている人間達が何をしでかすかわからないのであらゆる組織、国家にも属さないIS学園で彼を保護──という名目で監禁する事にした。
そして、彼は束の親友の弟だからどうにかして守りたい。でも天災とすら呼ばれ世界中から嫌われている──指名手配すらされている──束本人が行くと問題になるから彼と同じ様にISを動かせる男性である僕が行って守って欲しいと。
束からのお願いなら、当日まで伏せておくなんて事しなくても了承したのに……と納得いかない部分もあったけどそれはそれ、どちらにせよ恩人からの頼みは断らない事にしている僕は始発でIS学園に向かった。
束には黙っていたことの制裁として頭を拳でグリグリした。バカになっちゃうーとか言ってたけど容赦はしなかった。
そして、今に至るという訳だ。教室に入ったはいいものの、周りからものすごく見られている。外に出たのもかれこれ10年ぶり?位だし知り合い以外の女性の顔を見るのも7年ぶりくらいだ。正直、今すぐにでも帰りたい……。
因みに今はHRで、自己紹介が行われている。
「織斑一夏です……よろしくお願いします」
あ、件の織斑一夏が挨拶をしている。かなり素っ気ないな。
「えーっと……それだけですか?」
のんびりとした雰囲気を漂わせた人が困惑している。あの人は担任の……山田先生…かな?
「はい、以上です」
バコッ、と恐ろしい音と共に織斑一夏の頭に出席簿がめり込んだ……。
「貴様は挨拶もまともにできんのか!」
「げぇ、関羽?!」
いや、それはない。
「誰が三国志の英雄か。織斑、お前舐めているのか?」
ていうか、誰かと思えば千冬さんじゃん……それなら今の僕が取るべき方策は一つ。
「織斑先生、発言よろしいですか?」
「許可する。ついでに名乗ってくれると助かる」
「はい……八代慧と申します。一年間よろしくお願いします。特技は裁縫、料理です。趣味は音楽鑑賞と読書、苦手なものは女性です」
最後の自己紹介に教室全体がざわついている。何ら不思議なことは無い。わざわざここに来て女性嫌いなど全校生徒を敵に回したようなものだ。
でもまぁこう言っておけば不要な接触を図る女子もいないだろう。
「……それと先生、とてつもなく気分が悪く吐きそうなので今日は寮の部屋で休ませて貰えませんか……?そろそろ限界です………」
それを聞くと呆れ半分、同情半分の視線を千冬さんから向けられる。
「………わかった、許可する。ただし明日の朝食後からSHRの間で職員室に来るように。話があるからな」
「はい、失礼します」
許可は貰った、あとは急ぐだけだ。少し駆け足で教室棟から抜け出す。
「………早く自分の部屋に入って横にならないと…本当にマズイ…」
先程までは、電車に乗る時のために飲んでおいた精神安定剤でなんとか持っていたが既に効果の限界が見え始めている。薬を飲んだのは午前四時で今は十一時。効果が切れるのも当然だ。
「薬は確か束が送っておいてくれたはずだから部屋に行けばあるか……」
そこまで考えたところで、とうとう僕の体に限界が訪れた。近くの木にもたれるような形で座り込む。
「はっ………はっ……………少し……ここに」
「ねぇ、貴方」
「ひぁっ?!!」
薬の効果が無ければ、最早敵にしか見えない。いきなり後ろから声をかけられ、咄嗟に護身用のナイフを振った。
「おっとと……危ないなぁ…君、二人目?」
その声の主は、そのナイフをヒラリと躱し、より接近してくる。
「近寄らない方がいい……です………」
恐怖と嫌悪を捩じ伏せながら喉から声を絞り出し、立ち上がろうとするが上手くいかず転んでしまう。と、その人は手を差し出してきた。思わず身体がビクリと跳ねる。
「…貴方が女性恐怖症ということは聞いている。でもね、私は貴方の敵じゃない。貴方を傷つける敵じゃないわ」
「…………」
「今は、信用しなくて構わない。でも肩は貸すわよ。今の君の状況じゃ、とても寮まで持たないでしょ」
信用出来ないと思ったなら、いつでも後ろから私を刺せばいい。そう付け足したその人は、無理矢理僕の右手を背中に回して立ち上がった。
「貴方、見た感じより重いのね」
「………そうですかね……先輩。申し訳ないですが寮までお願いします」
「わかった。おねーさんに任せなさい」
そう言って笑ったその人の笑顔には、不思議と恐怖も嫌悪も感じなかった。そして吐き気もまた、どこかに行ってしまっていた。
「ここが慧君と私の部屋よ」
「そうですか。ええっと………」
「ああ、まだ名乗ってなかったわね。私は未熟ながらここの生徒会長をやってる更識 楯無よ。よろしくね、八代 慧君」
「はい。こちらこそよろしくお願いします、更識会長………いや、待って下さい。今僕と会長の部屋って言いました?」
「うん、言った」
「………どうして異性で相部屋なんですか?そこは普通二人ぼっちの男子で相部屋なんじゃ…」
「それについては後で話すから、先に薬を飲みなさい。慧君のスーツケースは送られてきているからその中でしょ?」
僕をベッドに座らせた会長が『健康第一』と書かれた扇子をこちらに向けてくる。いや、その扇子どうなってんの。
「……はい。わかりました」
私はお水と軽く食べるもの準備するから、そう言い残して会長はキッチンに向かっていった。
確かに、薬の服用前には軽く何か食べるべきなのでお言葉に甘えよう。それに普段ならもっと早く昼食を取るようにしているので空腹なのも確かだ。
「薬はこれかな」
スーツケースの中からガムのようなボトルが四つほど出てきた。フタを開けると全て同じものだった。
「それに入ってるの?はいお水」
「ありがとうございます、会長」
「その会長って言うの、かたっくるしいからやめない?普通に名前で呼んでよ」
「では、楯無先輩で」
薬を嚥下した後、先輩が出してくれた簡単なおかずとご飯を食べながら他愛もない話をする。薬のせいもあるのだろうが、この人といることに不快感を感じない。
「そういえば、先輩は授業大丈夫なんですか?」
「ええ、別に一日休んだ程度で響く程馬鹿じゃないもの」
「そうですか……それと、いくつか質問してもいいですか?」
「どうぞ。私が答えられる範囲でなら」
「どうして先輩と相部屋なのか、それと僕の女性恐怖症を知っているのは本来ならたば──僕の保護者と、織斑先生だけの筈です。何故先輩が知っているのですか?」
純粋に、疑問だった。束はともかく千冬さんから会長職とはいえ生徒にそんな情報が流されるとは思えない。
だが、束の知り合いなら僕とも面識があるはずだがそれもない。
「それはね……君の保護者に頼まれたのよ」
「へ?束が?なんでまた……」
「私も驚いたわよ。窓をノックされてカーテンを開けたら窓にへばりついてる篠ノ之博士を見たんだから。軽くホラー体験だったわよ……その時に全部聞いたのよ。貴方を此処に送り込もうとしてる事とか、貴方のその体質のこととか。
それと私相手なら、その症状は軽い……もしくは無いだろうって事も」
「先輩相手ならって……どういう事ですか?」
「それは…………」
言い淀んで目を逸らす先輩。口止めでもされているのだろうか?
「いえ、そちらに関して今回は詮索しませんよ。それで、先輩は束に僕の事を頼まれた、と」
「まあ、端的に言えばそうね」
……そうであるなら、少し警戒すべきだろうか。
「慧君が考えている事はわかるけど私は報酬を提示されて君と接しているわけじゃないわ。私が篠ノ之博士の依頼を受けたのはもっと個人的な理由よ。慧君を放ってはおけなかっただけ」
そんなことを言ってから、何故か頬を赤くした先輩。コホン、と咳払いして真剣な顔付きで僕と目を合わせてきた。
「とにかく!私は頼まれてはいるけど、此処に居るのは私自身の意思よ。それは信じて欲しい」
澄んだ、綺麗な目だとふと思った。でも、僕もそんなに簡単に人を信じられる人生は送れていない。
「………信じるのは、難しいです」
その目がとても悲しげに揺れた。普段の僕ならここで終わっていたのだろう。だが不思議と続きの言葉が口をついて出た。
「でも……先輩の事は、信じてみたいです」
今は無理でも、いつかは信じられるようになりたい。この人は僕の人生の中で初めてそう思わせてくれた人だ。
「………ありがとう、慧君」
「改めて、これからよろしくお願いします。楯無先輩」
どちらともなく、握手を交わした。
彼が疲れのせいか眠ってから、数時間が経った。その間彼は一度も目を覚ましていない。
私はそんな彼の寝顔を見つめていた。その頬にそっと手を当てながら呟く。
「………また会えたわね……慧」
私と彼──更識楯無と慧には面識がある。それはたった一ヶ月、夏休みの間のことではあったけど、私はその時のことを一度も忘れたことは無い。
彼は、私が初めて恋をした人。もちろん当時七歳の私はそんなこと考えていなかったが、歳を重ねるにつれて会いたいという思いが積み重なっていたのは間違いない。
でも私がそう思いを募らせていた間に、彼の人生は大きくねじ曲げられてしまっていた。
両親の離婚、母親の虐待──そして彼自身が売買されていた。
それを博士から聞いた時、私は泣き崩れてしまった。私がそんな事に現を抜かしている間に彼は酷い傷を負っていたのだと、そう突き付けられたのだ。
『……お願い、けー君を助けてあげて』
『束さんには、環境を整えるのが限界だった。けー君の心の傷は、全く癒えていない』
その時の博士の雰囲気は普段テレビ画面で見たり、周りから聞いていたものとは別人のように、真剣そのものだった。
だから、私は彼女の想いに応えたかった。そして私自身も──慧の為に、出来ることをしようと決めた。
「慧………貴方が私を覚えていなくても、私が貴方を覚えてる。あの時私は慧に助けて貰ったの。だから今度は、私が助ける。私が、慧の事を護るから」
眠っている彼の手をそっと握り、私は自分自身に改めてそう誓った。
さすがに、少し短いですかね…導入なのでご容赦下さると幸いです