愛と苦痛の花束を   作:黒っぽい猫

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黒っぽい猫です!まさか一話にして三件の感想、二件の評価を頂けるとは思っていなかったのでとても嬉しかったです!

また、二件の文章訂正を頂きまして、そちらも重ねてお礼致します、有難うございました!

そんなこんなで第二話、どうぞ!


第二話

「…………」

 

状況を整理しよう。僕は昼食を取った後、休息の意味も兼ねてベッドに入ったはずだ。そしてその時には楯無先輩は食べた食器の片付けをしていたはずだ。

 

「それが、どうして僕が寝ているベッドに先輩が寝ているという事態になったんだ?」

 

もうこの際この人が僕の嫌悪の対象(女性)だという事とか、そういうのは度外視してもこの状況がおかしいことは分かる。

 

というより、まず動けない。

 

僕の腕には先輩が抱きついており、横を見れば先輩の寝顔が目の前にある。体内時計によると今は午前五時。

 

流石に起こすには忍びない。だが僕は目も完全に覚めたし寝起きのシャワーも日課なので出来れば離して欲しいのである。

 

ゆっくりと先輩の手を僕の腕から離していく。

 

「んぅ………けぃ……いっちゃゃだぁ……」

 

僕の名前を呼んでいるのだろうか?口を動かしながら何か言っている先輩を見ていると微笑ましくなってくる。

 

「シャワーを浴びるだけだし、部屋からは出ないですよ」

 

眠っているのに、そう伝えると満足そうな顔になる。それを見て胸の底から温かさが溢れてきて戸惑う。昨日初めて会ったはずなのに、どうして僕はこんな気持ちになるのだろうか。

 

完全に先輩の手を外した僕は首を振って思考を中断し、音を立てないよう制服の予備を持って浴室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びた後、朝食を作っていると先輩が起きてきた。

 

「くぁ………慧君、何してるの?」

 

「あ、おはようございます先輩。冷蔵庫の中身使わせて貰ってます。今朝食を作ってますので少し待ってて下さい」

 

「ん………ふわぁ…お水……」

 

寝起きがよくないのか、欠伸している先輩にカップに注いだ水を渡す。

 

「ありがと………テーブルに座ってるね…」

 

「はい」

 

どの部屋も基本的に最低限生活できる設備は整っていて、特にキッチン周りは綺麗にされている。先輩の性格が出ているのだろうか。

 

まだ眠そうにしている先輩を眺めながら作っている味噌汁の味を確認する。

 

「うん……こんなもんかな」

 

グリルの鮭もいい感じに焼けている。後はほうれん草のおひたしに鰹節と軽く醤油をかけたら朝食の完成だ。

 

お盆に乗せて二回に分けて運ぶ。並んでいく料理を見て少し驚いた顔をしている先輩が印象的だ。

 

「凄い……手際いいね…」

 

「束は自分で料理したがらないので僕が作るようにしてたんです。栄養食だけじゃ味気ないですしね。まあ、食べてみて下さい。お口に合うといいんですけど」

 

「食べてみるね……いただきます」

 

味噌汁を少し飲んだ先輩が目を丸くしている。

 

「美味しい………!こんなに美味しいお味噌汁初めてよ……!」

 

「喜んでもらえたみたいで何よりですよ」

 

先輩がおひたしにも箸を伸ばしはじめた所で、僕も食べることにした。

 

うん。いつも通り。

 

「そういえば、朝は一緒に登校する?」

 

「今朝は織斑先生に呼ばれているので先に行きます」

 

「そっか……」

 

先輩が少ししょんぼりしているように見えるのは考えすぎかな?

 

「そういえば、先輩は会長としての仕事があるんですよね?」

 

「ええ、まあ一応これでも生徒会長だし」

 

「そうですよね。先輩に校内を案内して頂けたらと思ったんですが……」

 

「へ?」

 

「その、正直一人で居る時に探索とかは無理だと思うんです、体質的に。でも、校内のこと知らないと不便じゃないですか」

 

「うーん………あ、じゃあ慧君も生徒会に入ればいいよ!授業終わったら迎えに行くからさ」

 

「何がいいのかはわかりませんが、わかりました。放課後は教室で待ってますね」

 

「あ、ご飯作ってくれたお礼に食器は洗っておくから職員室に向かっていいよ」

 

「え、でも昨日も任せてしまいましたし……」

 

「私がいいって言ってるんだから良いの」

 

「……わかりました。先に行きますね」

 

「素直なのはおねーさん好きよ♪」

 

この人の事は、信用したいと思うが、何処と無く掴み所がないのは不思議だ。それでも不快感は無いのだけれど。

 

取り敢えず、後を先輩に任せて、僕は先に部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。一年の八代で…………す……」

 

職員室について、扉を開けるまではよかった。ただ僕は忘れていた。ここがほぼ女子校であることを。

 

当然、教師も大多数が女性なわけで。薬を飲んで、朝早い時間に部屋を出るなど極力女性と顔を合わせないように立ち回っていだけに、この不意打ちには反応できなかった。

 

「えーと……八代君…?」

 

「……ゴメンなさい」

 

「えぇ?!なんで謝るんですか?!何か悪いことしちゃったんですか?」

 

声をかけてきた先生に反射的に謝ってしまう。それに対して過剰に反応したその先生はオロオロしながら近づいてくる──ッ?!

 

「──近寄るなッ!!!」

 

「はぃぃっ!!」

 

自分を害する人じゃないのはわかっている…つもりだったが、不意に近寄られてしまったことで過剰にこちらも反応を返してしまう。

 

「朝から何をしている、バカ者が」

 

べチン!という音と共に後頭部に衝撃が走り、目の前に火花が散った。

 

「………織斑先生…ですか?」

 

「正解だ。朝っぱらから問題を起こしてくれるなよ、八代。それと山田先生、話した筈ですがこの男は女性恐怖症ですから注意して下さい。頭でどんなに危険じゃないとわかっていても反射的に構えてしまうんです」

 

「そ、そうでした………ゴメンなさい、八代君」

 

「いえ………僕の方こそ…すみません……自制心が甘すぎるせいでこんな」

 

「ち、違いますよ!八代君は悪くないですっ!ってあぁ、強く言ってしまってごめんなさい……」

 

「謝りあってどうする……それより八代、私についてこい。話がある」

 

「わかりました。山田先生、失礼します」

 

「はい、また教室で」

 

柔らかく微笑んだ山田先生を後ろに、千冬さんの後についていく。

 

「それで………話とは?」

 

「まあ待て。ここでする話でもないからな……この部屋だ」

 

そのプレートには『寮監室』と書いてある。

 

「私は教師だけでなく寮監もやっているんだよ」

 

「そういえば、そんな事を話してましたね」

 

時々千冬さんは束の隠れ家にお忍びで会いに来ていた。僕の症状が出ない数少ない女性の一人だ。

 

「まあ適当に腰掛けてくれ。ああそれと、ここは盗聴の心配もないからいつも通りで構わないぞ」

 

「わかりました、改めてお久しぶりです千冬さん。急に来てしまってすみません」

 

「いや、お前の転入についてはかなり前から束に頼まれていたが………その顔だと聞いてなかったんだな」

 

「言われたのは昨日の午前三時です」

 

「…………」

 

こめかみに手を当てて少し瞑目したあと切り替えるように目を開いた。その目の奥には同情が色濃く滲んでいる。

 

「まあ、束への制裁は後で話すとして、だ。話があるのはお前の専用機に関してだ……黄、赤、青の使用は認めるが黒の無断使用は許可しない………いいな?」

 

「……わかっています。あれは正真正銘の殺人武器ですから」

 

「それならいい。念を押しておくが、あれの使用条件は私が許可を下すこと。お前の独断による使用は認められん。その場合は営倉に容赦なく叩き込む。覚悟しておけ」

 

「はい……それだけですか?」

 

「ここからは業務連絡だ。本格的な授業は今日から行うからそのつもりで居ろ。教科書はリストと一緒に机の上に置いてあるから確認しておけ」

 

「わかりました。それじゃあ失礼します」

 

「ああ、そうだ。更識とはどうだ?上手くやっていけそうか?束から同室にするなら更識以外ありえないと言われ、本人の強い意向もあって認めたが……大丈夫か?」

 

「あの人の事は………信じてみたいと思いました」

 

この感情に名前をつけるのは難しい、だから曖昧な表現でお茶を濁したが千冬さんは笑っていた。

 

「そうか……行っていいぞ、慧」

 

「はい、失礼しました織斑先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一コマ50分のカリキュラムを三回こなした後の休み時間。僕は織斑一夏とコンタクトを取ってみることにした。否が応でも唯一無二の男同士なのだからあちらも拒んだりはしないはずだ。

 

「随分とお疲れみたいだね織斑」

 

「あぁ……昨日の女嫌いの………ええっと…」

 

「八代だよ、八代 慧。好きなように呼んでくれていいよ」

 

「わかった、じゃあ慧って呼ぶから俺の事も一夏で頼む。名字で呼ばれると千冬姉と被るからな」

 

「ん、了解。それにしても随分とへばってるね、一夏。まだISの方も普通過程の方も基本しかやってないのに」

 

「なぁ……慧も覚えたのか?あの電話帳みたいな量のテキスト」

 

「いや、あれは四年前に既に覚えてた内容だから特に」

 

「え?いや、あれ配られたのここの合格が決まってからなんじゃ……」

 

「僕にも色々あるのさ。それに関してはまた別の機会に話すよ」

 

「ふうん……「ちょっとよろしくて?」そういえば慧は昼飯誰と食べるか決まってるのか?」

 

「いいや、特には決まってないけど」

 

「じゃあ一緒に食べようぜ!昨日はもう肩身狭くてさ。飯が美味いのはいいけど視線を向けられてて」

 

「なるほど……いいよ。食べに行こう」

 

「んじゃ決まりだ「貴方達!!わたくしの事を馬鹿にしてますの?!」……なんだよ、俺達に話しかけてたのか?」

 

一度目は意識的に無視していたが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。というか、一夏はそもそも気づいてなかったらしい。天然なのかな?

 

「わたくしに話しかけられているのに無視するとは何事ですか!礼儀も弁えていませんのね!」

 

腰に手を当てて怒る少女。威圧的な態度を取られるのは苦手なので無意識のうちに距離を取り一夏の後ろに下がる。

 

一夏も面倒くさそうな顔をしながらもちゃんと答えることにしたらしい。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

その言葉に若干青筋を浮かべながらその生徒は捲したてる。

 

「わたくしを知らない?!このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを?!」

 

ポカンと口を開いている一夏。恐らく代表候補生について知らないのだろう…これ以上波風立てられても困るからこっそり耳打ちして教えよう。

 

「代表候補生っていうのは、IS適正とその操縦技術のみで選抜されたエリートの事だよ」

 

「その通り!!エリートなのですわ!ってちょっとお待ちなさい!今IS適正と技術のみとおっしゃいましたわね!!」

 

「…っ!」

 

話しかけられるとは思っていなかったのでビクリと体が跳ねる。全身の毛穴が粟立ち、寒気が背筋を撫でる。

 

「それは…………その……言葉のあやと言いますか悪い意味で言ったのではなくて………」

 

「ど、どうしましたの?」

 

セシリア・オルコットが手を伸ばして──その手にはよく見慣れた血まみれのペンチが握られて

 

「ぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい僕が悪かったです痛いのはやめてくださいそれ以外ならできる限り謝罪致しますので許して下さい」

 

蹲って目を瞑ることしかできなかった。だが瞼の裏にも今も近づいてきているオンナの姿が見えて──

 

「い、いえですから──」

 

「何をしている。授業を──ッ!オルコット!八代から距離を取れっ!!」

 

「ぅぁぁああああ!!」

 

閉まっておいた予備のナイフを近くにいるオンナに突き立て……る直前で千冬さんに止められそのまま抱きとめられた。

 

「落ち着け、八代………ここにはお前を傷つける人間はいない」

 

その温もりが、労るような優しい声が、いつの間にか惹き込まれていた狂気の中から引き上げてくれる。

 

「織斑………先生……?ぁ……薬を………多分効果が切れかけて──」

 

「おい織斑、八代のカバンに水があるだろう。渡してやれ」

 

「は、はいっ!」

 

「どうだ。少しは落ち着いたか?」

 

「すみません………また…ご迷惑を………」

 

「仕方あるまい。どうしてこうなったのかは聞かないでおくが……やはりお前の話は一度クラスに周知しておくべきだった」

 

僕を離した千冬さんに支えられながら一夏の席を借りて腰を下ろす。

 

「慧、水持ってきたぞ」

 

「ありがとう一夏……それと驚かせてごめん」

 

「気にすんなよ、困った時はなんとやらだろ」

 

「うん」

 

薬を嚥下して少しすると落ち着いてくる。

 

「八代も落ち着いた所で、皆聞いてほしい。八代は嘗て母親やそれに類する女性達に酷い虐待を六歳の頃から四年間受け続けていた。

 

皆が先程見た行動もそれに起因する防衛本能の様なものだ。八代自身がお前達を嫌っているのではなく、本能的に一部を除く女性という存在そのものに攻撃するようになっている。

 

それを知った上でコイツとは接してやって欲しい。以上だ」

 

体はフラつくが、なんとか自席まで戻り座る。

 

「八代君………大丈夫…ですか?」

 

千冬さんから代わって教卓に立った山田先生から聞かれる。

 

「はい。安定剤に合わせて吐き気の方を収める薬も飲んだので、万全とまではいきませんが授業を受けるくらいなら問題ありません」

 

その後は、特に何事も問題なく授業が進み昼休みになった。

 

「あー……ごめん一夏。一回部屋に戻ってシャワー浴びてくる。飯も部屋で食べるから………」

 

「ん、わかった。食堂だと落ち着けないもんな」

 

言外の意味を上手く拾ってくれたことに感謝しつつ教室を出た。

 

「夜ご飯はそっちで食べるよ」

 

「おう」

 

それじゃ、と一夏と別れ部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あっ」」

 

昼休みも残り少なくなった頃、教室の前でセシリア・オルコットとばったり出くわした。

 

「「…………」」

 

互いに無言になり、僕の方が道を譲る。

 

「……申し訳ありません八代さん。事情を知らなかったとはいえ、不快な思いをさせてしまいました」

 

「……いえ、オルコットさん、僕の方が説明不足だった所もありますのでお気になさらず」

 

「距離を取られながら言われてもあまり納得は行きませんわね」

 

苦笑いを浮かべるオルコットさんに、こちらは俯くことしか出来ない。

 

「ゆっくりで構いませんわ。貴方のやり方で慣れていけばいいのです………わたくしもそうしてきましたから」

 

高圧的な態度ではなく、その様な柔らかい顔もできるのか、と失礼ながら思ってしまった。

 

「……それでは、失礼します。あ、それとわたくしは貴方やもう一人の彼を認めたわけではありませんので勘違いしないように」

 

最後に一言をつけ加えて、オルコットさんは教室に入っていった。

 

「ゆっくりでいい………か」

 

彼女のその言葉に、少しだけ心が軽くなったような気がした。




ここまでお読み下さり有難うございました。一応三回ほど読み直しをしたのですが、もし誤字脱字等ありましたらまたご指摘の程よろしくお願い致します。

この作品は、今後は月に一度以上の更新を予定していきたいと思います、どうかお付き合いくださると幸いです

皆様のお気に入り登録、感想、評価は作者の執筆の養分となっております。

それでは、また次回更新でお会いしましょう(・ω・)ノシ
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