愛と苦痛の花束を   作:黒っぽい猫

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お久しぶりです、黒っぽい猫にございます
毎回お久しぶりです、と挨拶してる気がしますね……気の所為ですか?

そろそろ定期的な更新に切り替えたい所ですがやる気にムラの多い私だから無理だろうなぁ……

とまあ、雑談は置いといて本編をどうぞ!


第六話〜閑話〜

例の試合から二日後。僕は少し無理をして登校していた。頭痛はすっかり取れたものの、まだ体の芯にだるさは残っている。

 

「おはよう、一夏」

 

「ああ。おはよう慧。体調はもういいのか?」

 

「ありがとう、もう大丈夫だよ。それと、一昨日は戦えなくてごめん」

 

「気にすんなって!セシリアと戦ってる時の慧の迫力は凄かったしな!観てるこっちまで震えたぜ!!」

 

カラカラと陽気に笑いながら背中を叩いてくる一夏。どうやら、昨日の試合は本当に白熱したものだったらしい(・・・)

 

昨日目を覚ました僕からは、気を失うまでの昨日一日の記憶が全て失われていた。

 

文字通り、何も覚えていないのである。目が覚めた時には試合の日は過ぎていて、慌てて楯無先輩に確認をした。その後どんなに楯無先輩や千冬さんからその話を聞いても、僕は何も思い出せなかった。

 

ただ、オルコットさん──セシリアさんとの試合で僕は《同調》を使ったらしい。だとすれば直接的な原因はそこか。人間であればギリギリ耐えられる情報量にしたつもりだったが調整が甘かったらしい。

 

今日の放課後には試合映像を見せてもらうので、それで自分の動きを研究するべきだろう。僕自身の使い方が悪かった可能性もある。

 

(ともあれ、また調整が必要なのか………)

 

束から貰った基礎機体『打鉄』に約二年半に及ぶ発展改良を加えてきた僕専用の機体『閻魔』。手がかかる子ほど可愛いというものだが、子と言うより手間のかかる相棒だ。

 

(まあ、それが楽しいのも事実なんだけどね)

 

とはいえ、今は学業もあるし楯無先輩と同室で過ごす時間も捨て難い。倉庫に籠らず少しずつ行う調整は時間がかかるだろうし、それまでは《同調》も使えないと考えるべきだろう。

 

「あれはそろそろ届くし、それほど問題にはならないけどね」

 

「ん?何か言ったか、慧?」

 

「んーや、なんでもないよ一夏。それより、クラスの女子の視線が僕の方にも向いてるのはどうして?」

 

周囲を見渡すと、目が合ったクラスメイトに目を逸らされた。この前まで目が合うことなんて無かったのに。

 

「どうしても何も、昨日の慧とセシリアの試合は凄かったからな!皆も口々にそう言ってたし俺もそう思ったぞ!あんなに綺麗な試合はIS世界選手権の決勝戦のレベルだって」

 

そう言われても、僕自身はまだ試合の内容を知らないからなんとも言えないんだけどなぁ………。

 

「あ!見つけましたよ!!八代君、織斑君!」

 

「──ッ!!」

 

咄嗟に声をかけられたことに身の毛がよだつ感覚と共に胸ポケットから折りたたみのナイフを取り出──

 

「彼女は大丈夫よ、慧君」

 

──そうとした所で僕の右腕が先輩に掴まれた。

 

「………先輩」

 

「彼女は、ただ取材に来ただけの新聞部よ。貴方に危害は加えないわ」

 

「……わかっています、わかってますよ。そのくらい」

 

ただ、反射的に身体が動いただけだ。それに僕の反応は決して的はずれなモノじゃないはずだ。既に千冬さんが僕の女性への拒絶反応の事は話しているのにわざわざ後ろから話しかけてくる人相手に僕が取る反応としては間違っていない。

 

いくつも反論は思いついたが、優しく諭すような先輩の口調にそれ以上の反論はできなかった。

 

「それと貴女もよ、猿飛さん。私が行くまで話しかけないように言ったはずよね?」

 

一転、冷たい目で取材に来たという女子生徒を睨み付ける楯無先輩。見ている僕と一夏の背中にも嫌な汗が流れた。うん、先輩って本気で怒ると怖いんだな。

 

だが、慣れているのかその女子生徒はニコニコと笑ってその視線をいなした。それどころか一歩こちらに近づいてきた。

 

「ごめんごめん、楯無ちゃんのお気にの男の子が、実物で見るとこんなに可愛いなんて知らなくってさ〜」

 

そして嬉々として楯無先輩を弄り始めた。それに対して顔を真っ赤にする楯無先輩。うん、可愛い。

 

「んな!お気に入りって?!そ、そういうのじゃな──「え〜、じゃあ私がちょっかい出しちゃおっかな〜?」あーもう!猿飛さん!そういう話はやめて頂戴!!」

 

頭を抱えてしまった先輩に代わり、その女子生徒はこちらを向いて握手を求めてくる。

 

「初めましてだね、二人とも。先程はいきなり声をかけてごめんなさい。警戒されるのはわかっていたけど、二人の姿を見たら我慢できなくってついね☆私は二年生の猿飛亜弥奈(あやな)。新聞部の副部長を努めさせてもらってます。

 

楯無ちゃんとは中学の頃からの腐れ縁よ。よろしく」

 

「……ご丁寧にどうも。僕は八代慧と申します。ご存知の通り一年生で専用機『閻魔』の搭乗者です。次からはもう少し遠くからもう少し小さな声でお願いします」

 

「俺は織斑一夏です」

 

僕が若干トゲを込めて、その雰囲気を感じたのか言葉少なに一夏がそれぞれ自己紹介をして握手をする。薬もしっかり飲んでいるので今は特に症状が出ることは無い。

 

「それで……取材、というのは?」

 

「うん、それはね──」

 

先輩の話は所々意味のわかりにくい言葉が使われていたので雰囲気で意訳をすると『クラス代表の織斑一夏、そして男性操縦者である僕にそれぞれ昨日行われた戦闘についてのインタビューをしたい』らしい。

 

あくまで自由意思を尊重されるらしいので僕は断ろうとした。だが一夏が乗り気だったのと、復活した先輩に頼まれてしまったので引き受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、わざわざ迎えに来てくれた楯無先輩に感謝しつつ僕と一夏、それとセシリアさんは移動をしていた。セシリアさんからは試合の感想を聞きたかったらしい。

 

「そういえば、楯無先輩は今日の仕事終わったんですか?」

 

「慧君の付き添いって言ったら虚に許可を貰えたわ。本音も了承してたから問題ないわ!」

 

「それ、その後ろに僕が仕事を手伝うって言葉を込めてませんよね?」

 

「それはそうと、一組のクラス代表はどうしてセシリアさんじゃないの?あの試合はクラス代表を決めるための試合で、勝ったのはセシリアさんよね?」

 

あ、図星だ。先輩は僕から目を逸らしつつ他の二人に話しかけている。まあいいか、虚先輩には後で謝っておこう……多分、見知らぬ女子と会話をする上で僕の抑止にする為に先輩は着いてきたのだろうし。

 

多分きっと、なんとなく面白そうだからとかそんな理由じゃないと思う。思いたい

 

「確かに試合の上ではわたくしの勝ちですが、殆どISに乗ったことの無い一夏さんにあの様に後ろを取られてしまっては代表候補生としては負けも同然です」

 

自らの未熟さを恥入るばかりです、とセシリアさんは苦笑した。あれ?そういえば僕はどうして彼女(オルコットさん)をセシリアさんと呼んでいるのだろう?

 

確か僕は彼女の事をオルコットさん、とそう呼んでいたはずだ。

 

「昨日の一夏君の機動も凄かったわよね。型にはまらない動きだった」

 

「ええ。空中戦のセオリーなどまるで知らないのにあそこまで動けるのは正直予想外でしたわ」

 

「二人とも褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれよ……」

 

「勿論褒めているのよ?一夏君は凄いもの」

 

「そうですかね?」

 

「っ…………?」

 

チクリ、と何処かが一瞬痛んだ。だがその痛みは本当に一瞬で自分で何が痛むのか確かめる前に消えてしまう。

 

「慧さん?どうかしましたの?」

 

足を止めた僕の顔を心配そうにセシリアさんが覗き込んでいた。不思議なもので、先輩同様にセシリアさんに近づかれても不快感は感じない。

 

「いや、なんでもないよ。大丈夫」

 

「?そうですか」

 

無理をしてはいけませんわよ?と不安そうなセシリアさんに笑みを返しながら考えるのをやめる。どうせ考えた所でこのような痛みは初めてなのだから、原因がわかるわけがない。

 

(なら、考えるだけ時間の無駄だね。痛みも治まったし)

 

何の気なしに楯無先輩にチラリと目を向けたら目が合った。咄嗟のことに気まずくて目を逸らす。と、今度は先輩の方から視線を感じる。その視線に耐えきれず振り返ると頬に細い指がぶつかった。

 

「……なんですか?先輩」

 

「ふふっ、ひっかかった♪」

 

「…知りません」

 

今度は自分でも強く認識できるほどに心臓が強く脈打った。顔が少し熱を帯びる。

 

「照れてるの?」

 

「まさか。僕がした試合の内容が気になるだけですよ。恥を晒すような真似をしていなければいいのですが」

 

「あら、かっこよかったわよ?」

 

「………そうですか。それはどうも」

 

そんな僕と先輩のやり取りを見ていた一夏とセシリアさんからの生暖かい視線を受けながらインタビューの為に新聞部が借りたらしい教室へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………死にたい」

 

「はいはい、死んじゃダメよー」

 

それから数十分。一夏とセシリアさんがインタビューを受けている間に僕は昨日の試合のリプレイ映像を観ていたのだが──

 

「なんですかこれ…非効率すぎる……」

 

自分の試合運びの下手さに思わず項垂れる。そもそもビット相手に接近戦を始めるとか何考えてるの僕は……。普通なら冷静にビットを一台ずつ破壊すべきだ。ましてや試合開始直後から《同調》を使わないなんて…。

 

幾ら試合だからってこんな見所を作るような、カッコをつけるような戦い方は僕らしくもない。

 

「先輩にはわかりますか?僕が何故こんな戦い方をしたのか。先輩から見ても効率的じゃないのは一目瞭然ですよね?」

 

「まあ確かにね。慧君の戦い方はどちらかと言えば試合の見せ場を作るような立ち回りだったわ」

 

「有り得ません。僕の戦闘技術は……っ」

 

僕の戦闘技術は殺しに特化している効率主義的なモノのはずだ。そう続けようとして歯噛みした。先輩にそんな話は聞かせたくなかったし、聞いて欲しくなかった。

 

言葉に詰まった僕の頭に先輩の手が載せられ、そのまま髪がクシャリとかき混ぜられる。先輩の顔は、僕が止めた先の言葉すらも見透かしているかのような、そしてその上で僕に触れているかのような優しい表情だった。

 

「それでもね、慧君。君は実際に昨日()()為ではなく()()為に試合に臨んだのよ。私が証人になる」

 

「……それは何故です?」

 

「約束を、したからね」

 

君は覚えてないみたいだけど、と続けて寂しそうに笑う先輩を見た時、何かを思い出した。

 

──やくそく、しましょう?

 

「!」

 

「………?慧君?」

 

(今のは──?)

 

「ちょっと、どうしたの?」

 

わからない。でも、確かに聞いたことのある声だ。酷く懐かしい 感じがする。それに今湧き上がった感情は──

 

「慧君!!」

 

「うわっ?!いきなり話しかけないで下さいよ先輩」

 

「いやいや!何回も話しかけてるわよ!」

 

「え、あ…そうですか。ゴメンなさい。考え事をしていたらつい」

 

「ふーん。どんな?」

 

「自分の戦い方の見直しが必要だと。こちらが近接武器しか持たない場合にどうやって長距離武装に対抗するのか。そしてどのような手段で相手をこ──倒すのかを考えなければなりません」

 

目に浮かぶのはあの時僕の体を弄り回った外道達の顔だ。その不快感を表に出してから後悔したがもう遅い。

 

「……っ!!……そう……慧君は──」

 

ふと何かを言いかけて、先輩は黙り込んでしまった。その顔には苦々しさが浮かんでいる。そっと目を逸らした先輩に堪えきれず、僕は自分の気を紛らわすように話題のすり替えを試みようとした。

 

「………?僕がどうかしましたか?」

 

「!ううん。何でもないわ……よ?」

 

「僕に聞かれましても困るのですが…」

 

「あはは……うん、そうよね。さっきのは本当になんでもないから忘れて、慧君」

 

「はあ、先輩がそう言うのなら」

 

嘘だ、それは直感的にわかった。でも先輩か僕に嘘をつくのには理由があるのだと思う……いや、そうなのだと信じたい。

 

「慧、次はお前の番だって。セシリアとの対談形式でやるらしいから早く来てくれって言ってるよ」

 

ちょうど会話が途切れたタイミングで一夏が戻ってきた。その言葉に席を立って扉の方に向かう。

 

「それじゃ、行ってきますね。先輩」

 

「うん。行ってらっしゃい、慧君」

 

心に去来した重苦しさを拭えぬまま、僕はインタビューを受ける為にその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーあ、何やってんだか……私は)

 

慧が行ってから、私は強い自己嫌悪に襲われていた。今は一夏君もお手洗いで席を外している。だから思う存分落ち込むことができる。

 

「まだ憎んでいるのね、なんて聞けるわけないし聞くまでもないコトでしょうに……」

 

それに、慧はわざわざ意図的にその言葉を使うことを避けていた。多分私に対してそのような言葉を使いたくなかったのだろう。例えそれが私に向けられていないモノ(憎悪)だったとしても。

 

あの時彼が一瞬だけ見せた深く冷たい目。その目の奥底には確かに私達(女達)への憎悪があった。そしてその目に見据えられた時、私は確かに自分の身が竦んだのを感じた。

 

私が彼と過ごした時間はまだ本の一週間と少し。それなりに親密な関係慧と築き上げられたと思っている。それなのに、私はどうしてもあの目に恐怖を覚えてしまった。

 

「こんな事で…私は本当に慧の支えになれるの………?」

 

震えを抑えるように身体を抱きながらうわ言のように漏れた言葉は、私の中で反響して思考から離れることはなかった。




如何でしたでしょうか

最近大学生活とバイトとイベントに忙殺されておりまして筆が捗らなくて、更新が遅くなったことにお詫び申し上げます…ごめんなさい!!


と、謝罪はこの辺りにして事務報告です。アンケート機能により実地しております第一回アンケートは、7月31日の午前12:00をもって締め切らせて頂きます。ご協力の程よろしくお願いします

ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝申し上げると共に、次はもう少し早く投稿できるように頑張ります。よければ評価や感想、お気に入り登録などをお願い致します

それでは…(・ω・)ノシ

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