ええい、私の機体は百式だと……!   作:カタクリコン

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お久しぶりです、カタクリコンです。気が付いたらこんなに間が空いてしまいましたね……すいません。283でアイドルプロデュースしたり指揮官したり司令官したりマスターやったり諸々してたらこうなってしまいました。
本来ならまだまだ投稿するつもりは無かったのですが、待たせてしまっている方に申し訳なく思い、前編後編に分けて投稿させて頂きます。後編投稿までは結構時間が空いてしまうと思いますので、ご了承ください。


対決 前編

 翌日。一夏は朝食を箒や他の生徒と摂りながら、昨日見たデータについて考えていた。そのため、先ほどからほとんど生返事になっている。

 

(俺……あの2人に勝てるのか?)

 

 そう思わせるほど、2人の戦いは鮮烈だった。確実に相手を削り、自分の被害を最小限に留めたセシリア。そして、

 

(バジーナ・アズナブル。あの人は、一体何なんだ?)

 

 昨夜見たバジーナのデータは、まるでアニメでも見ているかのようだった。ラファールの射撃、全方位に配置されている対空砲。絶え間なく続くそれらを、バジーナは緻密な機体操作で回避し続けていた。SEの表示も少しずつしか下がっておらず、また変動しない時もあった。どうやら一夏の覗いたデータは機動性と運動性の限界を測定する試験だったようで、バジーナ側からは何もすることなく終わる。しかし、その時間が問題だった。

 

 30分。つまり、集中すれば30分もの間にSEがほぼ減らない(・・・・・・・・・)ということだ。あれを難なくこなすということは、通常の戦闘でも問題なく戦えるほどの身体と精神がバジーナに備わっているといえるだろう。迫力のある金色と相まって、一夏にはそのISが大きく見えた。

 

(……っ、馬鹿!弱気になるな、何とかするしかないんだ!)

 

 そう自分を鼓舞しつつ、一夏は朝食をかきこんだ。その様子を箒は心配そうに見つめていた。また、そんな2人を見つめる集団がいた。

 

「おりむ~元気ないね~」

「あ~……あれは多分自分が改めて誰と戦うのかを認識しちゃった感じだね」

「織斑君には同情します。せめて、善戦してくれればいいですね……」

「でも~しののんは乙女の顔してるね~」

「幼馴染って言ってたし……大丈夫よ、清香!私にだってチャンスはあるんだから!」

「わ、私にもあります、よね?」

 

 本音・清香・理子である。もちろん癒子とバジーナも一緒に朝食を摂っていた。

 

「でも良いのバジーナさん?せっかく織斑君に教えてくれって言われたのに」

 

 清香の問い掛けに皆も頷いている。既に学園の注目の元である一夏がバジーナにISを教えて欲しいとお願いされたことは、周知の事実らしく今もちらほらとこちらを窺っている視線を感じた。

 

「遅かれ早かれ、彼は自分で自分を守れるようにならなければならない。今回は、そのための最初の一歩といったところさ」

 

 その言葉に4人は首を傾げる。バジーナはそれを見て、更に続けた。

 

「そもそもだ。ここを卒業すれば、彼はもうどこからも干渉される立場にある。希少な男性のISパイロットだ、最悪命を狙われることがあってもおかしくない。そこで、だ。どうすれば状況が好転する?」

 

 4人はそれについて考えるも、中々思い浮かばないようで頭を悩ませている。彼自身の状況を自分に置き換えて考えさせるのは少々難しかったか、とバジーナが思い、答えを言うべく口を開こうとした、その時。

 

「……ISパイロットとしての腕を、磨く?」

 

 癒子が呟く。そう、それこそが正解である。

 

「そうだ、彼が優秀なISパイロットになればいい。そうすれば、非人道的なことは少なくともされなくなるだろう。優秀なISパイロットで男性だ、研究材料にするよりもマスコミに露出させた方が良いだろう?」

 

 成る程、と癒子以外の3人が頷いている。しかし、瞬間顔を青ざめさせていた。

 

「……誰の弟が実験材料だと?」

 

 バジーナの後方から今この場に居る4人以外の声がする。それは、静かな威圧感を伴ってバジーナを圧迫する。周囲が圧倒される中、当のバジーナは涼しい顔をしていた。

 

「これは織斑先生、おはようございます」

 

 相手に顔を向けず、堂々と挨拶をするバジーナ。それに対し、千冬はその威圧を止めることは無い。

 

「ああ、おはようアズナブル。それで、興味深い話をしていたな?」

「気分を害したのなら申し訳ない。しかし、仮定であれど可能性はあるでしょう?」

 

 4人が緊張した面持ちで2人のやり取りを見つめている。先ほどまで騒がしかった食堂も、千冬の威圧(プレッシャー)で静まりかえっていた。

 

「いかに世界最強(ブリュンヒルデ)と言えども、世界を相手に出来るわけではない」

「確かに、私では世界は変えられんさ。だが、たった1人の作ったもので、世界は変化したようだが?」 

 

 千冬の問い掛けに、バジーナは振り返る。

 

「たった1人では世界は変わらない。1人に影響されて周囲が変化するからあくまで世界は変わるのだ。その1人がもし世界を変えた気でいるなら、面白い。あくまでその1人は、世界を変えた気でいるだけだ」

 

 あくまできっかけにすぎない、と言ったバジーナのその瞳には独特の説得力があった。千冬はそれに気圧される。そして、ため息を吐いた後笑みをこぼした。

 

「……脱線したな。アズナブル、あまりこういう場ではそういった込み入った話は慎め。貴様も専用機乗りなのだからな」

 

 遅刻するなよ、そう周囲に言って千冬は去っていった。威圧感から解放されたためか、すぐにまた喧騒が響き始める。

 

「ねえ、今のってつまりどういうこと?」

 

 4人が思っている疑問を癒子がバジーナに問い掛ける。バジーナは先程千冬に釘を刺されていたが、応えることにした。

 

「そうだな……IS学園は治外法権という扱いでこそあるが、その実外交の場としても使われている」

「えっ、そうなの!?誰がどうやって?」

「う~んびっくりだね~」

 

 清香と本音は驚いているが、癒子と理子は違った。

 

「成る程、代表候補生……ですか?」

「そうじゃなくてもここって良家のお嬢様とか議員さんが親にいる子とかもいるからね。そういう関係かな?」

 

 2人の回答に、笑みを浮かべながら頷く。

 

「正解だ。まあ、結局の所ルールなんてものはやろうと思えばどうとでもできるものさ」

 

 逆にIS学園が一時的に権限を行使できる場合もあるだろう、と補足する。そんなことをしていると、始業時刻が刻々と近づいてきていた。バジーナは4人に促しながら、食事を手早く済ませると教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから何日か経ち、ついにクラス代表選抜戦が始まることになった。初戦は一夏の専用機がまだ届いていないとのことで、バジーナとセシリアが行うことになった。既に広大な空間であるアリーナの観覧席には、1年1組や他の生徒で溢れかえっている。バジーナはその熱狂を聞きながら、アリーナ前にあるピットで機体の最終チェックを行っている。

 

「フレーム、問題無し。反応も良し。武装も問題無いな……」

 

 ISコアと連動したタブレットで機体の状態を確認していると、背後にある扉から何人かの足音が聞こえた。

 

「アズナブルさん、今大丈夫?」

 

 足音の主は癒子と他3人だった。彼女たちは、バジーナとその専用機に近づきつつもその作業を興味深げに見つめている。

 

「わ~金ピカだね~」

 

 本音が見たままの感想を述べているのに対し苦笑しながらも、バジーナが確認が終わったため彼女たちに振り向いた。

 

「激励に来てくれたのか、ありがとう」

「そんな……私が応援したいだけだから気にしないで!」

 

 バジーナが頭を下げると癒子は慌てた様子で突き出した手を左右に振りながら狼狽している。3人はそれを見て呆れつつも笑っていた。

 

「そのISがバジーナさんの専用機?」

 

 清香の問い掛けに対して頷きながらも、時間を確認する。まだ試合の開始までは時間があった。

 

「ああ、これが私のIS『ダストテイル』。私は百式と呼んでいるがね」

 

 どうやら名前と機体のギャップが激しすぎたようで、4人は首を傾げている。

 

「ダストテイルって『塵の尾』って意味ですよね?あんまりこのISにそぐわない感じがしますけど……」

 

 理子の素直な指摘に対し、

 

「言葉通りに捉えれば、確かにこの機体にはそぐわないのだろう。しかし、この名前には確かな意味がある」

 

 そう述べるバジーナの顔は真剣そのものだった。

 

「この機体は、機動性と運動性を限界まで突き詰めた代物だ。このISの初めての起動試験の際『彗星みたいだ』と評したロマンチストがいてね。彗星は主に塵で構成され、尾を引いているような軌道を描いている。そこからこの名前は取られたのさ」

 

 その言葉に、神妙に頷く4人。そこで癒子が何か気になったのか、口を開く。

 

「さっき、百式?って言ってたけど……それって何のことなの?」

「ああ、実はこのISは元々は我が社が日本のお偉方から依頼されて提案したものでね。と言っても設計図止まりだったが……その設計図に記載されていた名前が『第100式試作機動装甲』だったので百式、と呼ばれるようになった」

 

 無論理由はそれ以外にもある。バジーナの前世にも似たようなコンセプトと見た目をしたロボットが映像作品に存在していた。その機体の「百式」の名前にあやかった、という理由が個人的には大きいのだろう。

 百式。本来ならば可変機能がついたはずの高性能機だったが、可変という複雑な機構を取り入れたことによってフレームの耐久性が著しく損なわれることがシュミレータで発覚し開発が中止。しかし、機体の性能は当時でも高い部類に入ったため、可変機構をオミットすることによってロールアウトされることになった。特殊な塗料を利用し「攻撃を受けることなく避ける」ことに主眼をおいたこの機体は一般的なパイロットには扱いにくく、そのため優秀なパイロットである()が乗ることになったのだが。

 

「成る程、説明してくれてありがとう!頑張ってね!」

 

 癒子の応援に対し、バジーナは無言だった。いつもなら何かしらの返答があるため、不思議に思う4人。

 

「……バジーナさん?」

 

 バジーナは百式のフレームを静かに撫でている。4人が見たバジーナの百式を見る目は、どこか懐かしいようでいて哀愁を漂わせていた。そうしていると、遂に時間がやって来たようだ。小さいながらも模擬戦を待ち望んでいる観衆の溢れんばかりの歓声がこちらにも響いてくる。

 

「……では行ってくる」

 

 そう言って、黄金を纏ったバジーナは出撃した。

 

 

 

 

 

「ようやく、ですわね」

 

 アリーナに躍り出たバジーナをセシリアが待っていた。彼女のISはデータで見た通りの鮮やかな蒼で、彼女自身の美貌と相まってまるでドレスを着て今から舞踏会にでも、という雰囲気だ。手元にある長大なライフルさえなければ。

 

「おや、待たせてしまっていたかな?」

「いいえ、私も先程着いたばかりですの」

 

 まるで逢引きでもするかのような内容の会話だが、バジーナの顔はすでに真剣そのもので、反対にセシリアの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 

「色々と聞いていますわ。『アナハイムの彗星は規格外』『あれで第二世代なのか』等……」

「私は、常に最善を尽くすだけだ。それ以上も以下も無い」

 

 セシリアはまだ何かを喋りそうな勢いだったが、それバジーナは言葉で切った。瞬間、戦闘の開始を促すブザーが鳴り響く。

 

「彗星の異名、今ここで墜とさせていただきます!」

 

 セシリアはブザーが鳴った瞬間、バジーナへとライフルを向け引き金を絞る。それは熟練された滑らかな動きで、ほぼ一瞬の内に放たれた。しかし、

 

「……ッ」

 

 それをギリギリで避けながら、こちらへと向かってくる。そして、腰のアーマーから何かを取り出した。それは、掌に収まる程度の直方体だった。それから、光の刀身(・・・・)が現れ。セシリアを斬り裂く。

 

《HIT。シールドエネルギー:189減少。機体の戦闘機動への異常無し》

 

 瞠目。しかし、そこは代表候補生。すれ違うように抜けていったバジーナを追撃するべく、セシリアは自らの下僕(しもべ)を呼んだ。

 

「ブルー・ティアーズッ!」

 

 音声認識により、背中に付き従うように浮かんでいた下僕が目を覚ます。刹那、バジーナを取り囲むように動いたそれは、レーザーの雨を降らし始めた。四方から撃たれるレーザーは、並のパイロットなら避けるのは至難だろう。そう、相手が並のパイロットなら。

 

「……嘘、でしょ?」

 

 観衆の歓声は一瞬にして止まっている。皆、声を上げることを忘れ、ただそれを見ていた。

 

「あ……有り得ませんわ!!」

 

 セシリアですら、動揺を隠すことが出来ない。金のISは、絶妙な機体捌きでレーザーを避け続けていた。

 

 

 

(思った以上に……狙いが正確だな……ッ)

 バジーナは額を流れる汗をそのままに、ただレーザーを回避し続けていた。その回避は、ハイパーセンサーが警告を発するよりも少し挙動が早い。まさに、神懸かりとも言うべき技巧(テクニック)だった。しかし、それはパイロットだけで成り立っているわけではない。高い運動性を持つ百式とのある種のコンビネーションによって、状況は拮抗していた。

 

(我ながら、よくもこんな作戦を考え付くものだ)

 そう心の中で自嘲しつつも、油断することなく迅速で丁寧にレーザーを回避、回避、回避していく。しかし、遂に均衡が崩れ始める。バジーナの回避機動に、ムラが出た。一瞬のことだが、相手は代表候補生。小さい隙だろうと見逃すはずもない。

 

「頂きましたわッ!」

 

 そう言い放ち、狙撃が来る。このままでは、避けることは難しい。だが、

 

「それは読めていた……ッ」

 

 バジーナはすぐさま、近くのブルーティアーズの1基を蹴って強制的に機動を変えた(・・・・・・・・・・・・・)。そして、瞬時に呼び出したレーザーライフルで動きの止まった1基を撃ち抜くと、機体を反転させ逃走する。

 

「なぁ……ッ!?」

 

 もはや神懸かり的な回避の機動に呆気にとられるも、狙えたはずの隙を突くことなく躊躇もせず背を向けるバジーナの行動を挑発と受け取ったのか、その背後を残りの下僕(ブルー・ティアーズ)に追わせ飽和射撃を開始する。

 

(……やはり、なッ)

 

 ISはパイロット自身と共に進化していく、と篠ノ之束博士は言った。パイロット自身のパーソナルデータを入力し、経験を積ませることによってなされる最適化。それは、即ち。

 

(パイロット自身の感情をも、顕著に表してしまう……!)

 

 先程の余裕が自らの挑発故か、若干の怒りを滲ませて行われるビットの射撃は精彩を欠いている。そのおかげで、バジーナは幾分かの精神的余裕が生まれていた。そもそも、バジーナの操る機体が分類される第二世代とは、ISの兵器としての側面を際立たせたものだ。ISの兵器としての安定性を追求したこの世代と、国の威信をかけ最新の技術を流用した兵装を搭載させた試作機ではまず機体の出力系統や部品のグレードからして違う。そのため、彼女自身が追い掛けてきた場合の方がバジーナとしては手痛い状況だった。しかし、代表候補生といえども人間であったため、そのプライドの高さを利用させてもらったが。

 

(一夏少年の時間稼ぎは……多めに取ってもあと4分程度か)

 

 バジーナがこうして試合を伸ばしている原因として、一夏の専用機体が直前になっても届いていなかったことがある。素人であるのにも関わらず、機体の最適化もままならないのであれば敗北は必至。ならば、先達として少しばかり塩を送るのはやぶさかではない。

 

(教導を断っておいて何だが、私も存外甘いものだな……)

 

 そう自嘲気味に口角を少し上げつつ、バジーナは逃げ続ける。 

 

 蒼と金の二重奏は、まだ終わらない。

 




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