人は恋をすると思考力が著しく低下するらしい。あらゆる物質が脳内で分泌し、酔っぱらいと同じくらいまで判断能力が落ちてしまうのだ。つまり、騙されてはならないのだ。
キャバクラで男が女性の手のひらの上で踊らされて大金をつぎ込むのも、ちょっとかわいいお姉ちゃんからボディタッチをされ、高いボトルを開ける羽目になってしまうのもそのせいだ。
だからこそ、恋をするというのはとてもリスキーなことなのである。常に危険が伴うからこそ、自らが身の安全に徹底して注意をしなくては、いつか必ず自己破産をしてしまう。
だから、恋をしてはならないのだ。恋をした方が敗者、相手を好きになってしまった方が負けなのである。今宵俺の高校生活最大の頭脳バトルが始まる。
あれ?これパクりじゃね?
俺が誰かを好きになるなんてあり得ないはずだった。中学時代のあの黒歴史以来、二度と誰かに好意を抱くなどということがあるはずもなかったのだ。
けれど今、俺はある女の子に恋をしているのだ。
「せんぱーーい」
来た!!聞き慣れた彼女の声を聞くたびに心が踊ってしまう。しかし、ここでデレては負けなのだ。何事も無いかのように振る舞ってこそ、比企谷八幡なのである。
「げっ!」
本当は今すぐにでも一色に想いを伝えたい。好きって言いたい。
けれど、彼女には好きな人がいるのだ。
「むうっ、げっ!って何ですかひどいです。早く行きますよ。今日は葉山先輩とのデートの作戦についての実践練習を行う日なんですよ!」
俺が想いを伝えられない理由。
それは一色にはすでに葉山隼人という好きな人がいるのだ。だからこそ、俺の気持ちは意地でも心の奥にしまったままでいなければならない。俺は、奉仕部の部員。そして、これは俺に対する彼女からの依頼。彼女を俺の私情で困らせるわけにはいかないのだ。
たとえ、どんなに彼女のことが好きであったとしても、彼女を苦しめるわけにはいかない。
「けど、、、結構きついな、やっぱり、、、」
「どうかしましたか?せんぱい?」
「なんでもねーよ」
本当は辛いけれど、これも彼女の為だ。一色が幸せになるなら。俺は自らが不幸になる道を選ぶ。
「じゃあ。行くか」
ばれないように左手に力を込め、気合いを入れ直す。
「せんぱい、今日なんか機嫌いいですね。何か良いことありました?」
「なんもねーよ」
空元気に決まってるだろ。
「そうですか。それは良かったです。」
あと少し、あと少しの辛抱なのだ。一色と葉山が上手く付き合えばきっと彼女のことも忘れられるはずだ。だから、もう少しだけ頑張ってみよう。
本当に好きなった方が負けなんだな。
放課後になり、一色が葉山とのデートの実践ということで模擬試験を行う事となった。所詮は葉山の代替物ということもあり、多少は複雑な気持ちではあるが、反面一色とデートできるということでいつもより、テンションが上がっている。
「せんぱい、お腹空きませんか?どこ行きます?」
モテる男性は総じて一回目のデートでは、女性をスイーツに連れて行くらしい。心理学でも甘くて、かわいいスイーツは女性の共感を得やすいという研究結果もあるくらいだ。
しかし、俺がスイーツとか言おうものなら、多分こいつは怪しむだろう。ならば、ここは俺らしく ひねくれてみるのが吉だ。
「家」
「やりなおし」
まあ、そうだよな、普通はそうなるよな。
ていうか、俺だって一色とご飯食べたり、普通に買い物したりしてみたい。
でも、これ以上こいつのことを好きになったら、今のままではいられない気がするのだ。
だから、今まで我慢をしてきたのだ。
「じゃあ、あのカフェなんかどうだ?なんかオシャレだし、ああいうの好きだろ、お前」
「 」
えっ?何この沈黙?俺なんかまずいこと言った?
まさか、俺の気持ちがばれたとか?それだけは、避けておきたいことだ。
「何?嫌なの?」
「いえ、そういう訳ではなくて、、、その、なんかちょっと意外だったので、、、先輩もちゃんと女の子のこと考えてあげることができるんですね」
失礼すぎるだろ。それに、お前にことなら毎日考えてる。今だって理性を保つのに必死なくらいだ。
「まあな、小町のことなら毎日考えてるからな」
「せんぱい、本当にシスコンなんですね」
千葉県の兄は総じてシスコンである。ほら証拠に川なんとかさんもシスコンだしな。そういえばあれは姉だな。
「ところで、せんぱいって、好きな女の子とかっているんですか?」
「ふぇっ?」
突然の質問に思わず声が裏返る。『あべしっ!!』とか、絶対出ないだろと思っていたが意外と分からなくないな。
「なんですか、それ。私の真似ですか普通にキモいです」
最近の女の子は息を吐くようにキモいキモい言
いすぎだ。
それに自覚あったのかよ。
「そんなのいるわけねーだろ」
本当はいるけど
「そうですか、、、せんぱいも好きな人くらい作った方がいいですよ。恋をすると世界が違って見えるっていいますし」
「まあ、そのうちな」
一色の側にいるといつもの町並みも帰り道も確かに違った風に見えてくる。何気ないモノクロの世界に色が灯るように華やかな日常へと変化を遂げる。平凡な俺の日常も一色がいて初めて美しく輝きを放つ。
あと少し手を伸ばせば届きそうな距離なのにその道のりは途方もない程に険しくいばらの道であった。
一色は俺をどういう風に見てくれているだろうか。少しは楽しいと思ってくれているだろうか。無理をしてはいないだろうか。こいつが楽しいと思ってくれているなら俺も楽しい。
一色が俺に誰かを好きになるという気持ちを教えてくれたんだ。
苦しいけど嬉しい、悲しいけど楽しい、そんな日常。
「ありがとうな、一色。」
「えっ?はい。」
そう彼女に言い放ちオシャレなカフェへと足を運ぶ。
ありがとうございました。感想などがあれば、よろしくお願いします。