本編どうぞ
まだ着かないのか、たえの家はこんなに遠かったのか、俺の心は色々なことでいっぱいいっぱいだった。たえに告白しないと!俺はそれだけのために全力で走っていた。
「はあ、はあ。待ってろよたえ!」
俺はあいつを何年も待たせてしまった。精々十年くらいか?どうして俺はたえの想いに気づかなかったのか、どうしてもっと早くに付き合えなかったのか、俺は罪悪感に駆られていた。
自分を責めてもしょうがない。過去は変えられないんだ。今が大事なんだ。俺はたえに何をしてあげられるだろうか、付き合ったら何をしようか、付き合ってからはどんな人生になるのか、これからのことを考えていた。
それは付き合ってからにしよう。だから今は.....。
――前を進まないと!大切な人の元に向かわないと!
走って走ってひたすら走り、ようやくたえの家に着いた。やっと着いた、早く......早く向かわないと!
俺は家の前のチャイムを押した。さて、息を整えよう。あと、心の準備もだ。ここからが正念場だ。たえに何を言われようと覚悟はできてる。俺は想いを伝えてその後どうなるかが大事なんだから......。
その時、ドアが開いた。迎えてくれたのはたえだった。明るい表情をしていた。待ってたと語りかけるかのように明るかった。
「ハク、こんばんは。一週間ぶりだね」
「そうだな。こんばんはたえ」
「さ、上がって。今日は家私だけだから」
お邪魔します、俺はそう言ってたえの家に上がった。緊張する。告白ってこんなにも緊張するものなんだな。たえはコーヒーを淹れてくると言って台所に向かった。俺はそのままリビングで待つことにした。
「ここじゃなんだから、私の部屋に来てくれる?」
「わかった」
俺とたえは部屋に向かった。
告白の刻は近づいている。今日で俺とたえの関係は変わる。どうなるかはわからない、覚悟は出来てる。だからたえ......。
――お前の気持ちを聞かせてくれ。
▼▼▼▼
私はトレーにコーヒーを淹れたマグカップを二つ乗せてハクに部屋に来るように言った。準備は出来てる。ギターの方は一週間練習したから問題はない。だけど、告白の方が心配だった。何故かというと、告白は一切練習していないからだ。
どうしよう、不安になってきた。でも、後戻りはできない。ハクを想い続けて十年、やっとここまで来たんだ。苦しい想いをしながらもがいてもがいてもがき続けて、私は耐えながらこの日を待っていた。私の心は壊れる寸前だ。
もしハクと付き合えなかったら私はここで死のう。もちろん、本気だ。私はもう追い詰められてる。いや、正確にはマイナスに思い込んで自分で追い込んだんだ。
「なあ、たえ」
「なに?」
「外寒かったろ?」
「え?まだ6月末だよ、寒いはずないよ」
違う、本当は寒い。私の心が寒いんだ。寒いどころか凍ってしまいそうなくらいに冷めている。私は早くハクの返事を聞きたい。その前にやることがある、まずは段階を踏んでからだ。
ドクンドクンと鳴っていた心臓の鼓動はさらに増していく。ここで死ぬか、それとも結ばれるか。私の全ては行動によって決まるんだ。
今更だけど、私がギターを聞かせるなんていつぶりだろう。私がポピパに入る前だよね。あの時はお互いに聞かせて、それからはハクが私に聞かせてくれた。今度は私がハクのために弾こう。
――私の想いを音楽に乗せよう!
「たえ、俺がここに来た理由はわかってるんだろ?」
「わかるよ」
「そうか。なら話が早い......」
「待ってハク。その前に聞いてほしいことがあるんだ」
私はスタンドに立て掛けてあったギターを持ち、弾く準備をした。さあ、私の全力を込めよう。聞いてねハク。私の想いを聞いて!
「ギター?何をするんだ?」
「弾くんだよ。ハクのためにね」
「そうか。何を弾くんだ?」
「曲はね......」
――花園電気ギターだよ。
今の雰囲気に合わないけれど、私がこれだ!って思って選んだ曲だ。私にとってこの曲はとても思い入れがある。私が自分で作った曲で、歌詞はハクが書いてくれた。だから、私はこの曲にした。
「花園電気ギターか。じゃあ俺は歌うよ」
「え、いいの?」
「いいよ。ギター持ってきてて正解だった。俺は常に持って来てたからな。たえ、一緒に弾きながら歌おう」
一緒に歌う、要するにデュエットだ。花見以来だけど、私はできるかどうか不安になってしまった。手が震える。その時、ハクが私の手を握ってくれた。
「大丈夫だよたえ。俺も不安に感じてるから」
「ハク......」
ハクは微笑んで言った。私の気持ちを分かってくれたんだ。嬉しい。こんな時でも君は優しい、私は改めてハクのことを好きになってよかったと心の中で思った。
ハクは私の額にこつん、と合わせて指を絡めてきた。弾く前にこんなことされたら余計緊張しちゃうよ。後でやってほしかったな。
「大丈夫。大丈夫だよたえ」
「ハク、私の気持ちがわかるんだね」
「もちろん。俺とたえは幼馴染み......。いや、今はやめておこうか」
「そうだね」
私とハクは口に出さなかった。口に出さなくてもわかっている。そう、私達はもう幼馴染みという関係ではないんだ。もう私達は......。
――恋人同士なんだ。
▼▼▼▼
俺とたえは花園電気ギターを弾き始めた。そしてお互いの気持ちをぶつけて語りかけるかのように一緒に歌った。歌詞はほとんどたえのことだけど、たえのことが好きだから、作詞をやったんだ。まあ、好きといっても気づく前だけどな。
俺はアコースティックでたえはリード、種類は違ってもギターであることに変わりはない。俺とたえは想いは届いたはずだ。デュエットする時もどこを歌うかはアイコンタクトをして即興で決めた。目を合わせて次はここだって、自分で言うのもなんだけど、こういうのってロマンチックでいいな。
「お疲れ様たえ」
「ハクもお疲れ様」
俺とたえは互いに笑い合って言った。後は告白だけだ。この告白によって俺とたえの全てが決まる。もし断られたら俺は香澄達の前から姿を消す、たえとも会わないようにする。
どうなるかはわからない。だから俺はこの告白に俺の全てを乗せる。だから何があっても、現実を受け止めよう。
「あ、あの!」
俺とたえの言葉が重なった。
どうしよう。どうする、俺が言うか、それともたえが言うかどっちにする?ここはたえに譲るか。
「ハクからいいよ」
「いや、俺は後でいいよ、たえからどうぞ」
わかったよ、とたえは言った。先に言うみたいだな。とりあえず俺は心の準備をしよう。
......よし。心の準備は出来た。
「ハク」
「なに?」
「私ね、ハクに伝えたいことがあるんだ」
「わかった、聞くよ」
心臓が鳴り止まない。俺は唾を飲み込み、たえの言葉を心に刻み込むように聞いた。
「私は......ハクのことが好き。私の側にいるって言ってくれた時から好きでした。私と......。私と付き合って下さい!」
たえは目を閉じて次の言葉を待っていた。たえ、お前は本当に頑張ったよ。こんなに勇気を出してくれたんだ。俺も勇気を出して伝えよう。
▼▼▼▼
――私と付き合って下さい!
私はハクに告白した。そう、告白をしたんだ。ハクの想いを聞きたい。早く聞きたい!私の想いは届いてるかな?ハクは何て言ってくれるかな?
私の心は限界だった。あとちょっとで壊れそうだ。言葉を伝えたのに、どうして壊れそうなんだろう?きっと私は怖いんだ。ハクがなにを言うのかに恐れているんだ。
「た、たえ!」
「なにハク?」
「お、俺もたえに伝えたいことがあるんだ!聞いて......くれるか?」
「うん。聞くよハク」
ハクの口から言葉が出てくる。怖いけれど......怖いけれど聞こう。聞くんだ、ハクの言葉を!想いを聞くんだ!
「俺は......。俺はたえのことが好きだ!初めて会った時からずっとずっと好きだ!俺と......付き合って下さい!」
――やっと聞けた!やっと聞けたんだ!
――私の想いがハクに届いた!
私はハクに告白され、嬉しさのあまりハクに抱き着いてしまった。
「ちょ、たえ!?」
「嬉しい、嬉しいよハク!」
「ま、待ってくれ!」
「私は六年待ったよ!ずっと待ってたよ!」
そうだ、私はずっとこの時を待っていたんだ。あの日からずっと......!
「たえ、ごめんな待たせちゃって」
「いいよ。私の想いがハクに届いたならそれでいいよ」
「たえ......」
そう、これでいいんだ。
私はやっとハクと恋人になれた。やっと私は楽になれたんだ。私は安心し、ハクに寄りかかった。
「ねえ、ハク」
「なに?」
「キスしていい?」
「いいけど、お前一回キスしただろ?」
え、なんのことかな?もしかして看病した時にハクが寝てた最中にキスをしたのがバレてるの!?
「たえ、あの時は実は半分起きてたからな」
「嘘!?」
「ホントだよ。まあそれはいいとしてキスしようか」
結局この話は水に流された。なんか複雑だなあ。まあいいかな。
「たえ......」
「ハク......」
私とハクは唇を重ねた。私にとっては二回目のキスだけど、今はこの雰囲気に浸っていたい。私はようやくハクと恋人になれたんだ。苦しかったけど、耐えてよかったって思ってる。
ハクの唇は甘酸っぱい味がした。まるで私の心を溶かすような感じがした。
▼▼▼▼
たえと恋人になって本当によかった。好きになってよかった、君と出会えてよかった、俺は嬉しかったんだ。たえと会うことが出来て、たえと付き合えてよかったって。
「なんか静かだな」
「そうだね。でも、私は今のままがいいかな」
「同じく。俺もこの雰囲気がいいよ」
俺とたえはもう一度キスをした。今はこの静かな雰囲気に浸っていようか。
――ウサギは六年の時を経てようやく結ばれ、白兎は六年かけて想いに気付き告白をした。
――どれくらい待ったのか、どれくらい苦しかったか。
――いや、もういいんだ。
――静寂は結ばれた二人を包み込んだ。まるで祝福をするかのように。
やっと結ばれました。
おたえは六年待って、白兎は六年かけて想いに気付いた
なにはともあれようやくここまで来ました
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