今回は文字数多めです
ああ寒い。俺は悴んできた手に息を吹き掛けて暖めようとした。その場しのぎでしかないが、寒くなるより増しだ。冬になればエター達は小屋に籠りっきりになる。
冬になれば兎は冬眠に入ってしまう。エター達が冬眠に入るのは下旬だ。それまで、凍えないようにしてあげないといけない。とにかく、温度に気を付けないと。
「ふう……。そろそろ俺もライブハウスで弾き語りやろうかな」
「ハク、ライブやるの!?」
「た、たえ!いつからいたんだよ、ビックリしたぁ」
「いつからって最初からいたよ。ところでさぁ、いつやるの?」
たえは嬉しそうに聞いた。こんなに嬉しそうにするなんて、どうしたんだ?俺がライブをやるのがそんなにいいことなのか、まぁ聞いてみるか。
たえに何故そんなに嬉しそうにしているのかを聞いたところ、珍しいとのことだった。普段はポピパにしか弾き語りをしないのに、客の前でやるというのは凄いじゃんという。
言われてみるとそうか。今まで俺は弾き語りはたえやポピパに聴かせていた。だが、ライブでやるということは客の前で弾くということだ。前の俺だったらこんなことを思うことはなかったな。
「いつやるかはまだ決まってない。まぁ、やるならクリスマス近くがいいかな」
「じゃあさ、商店街でやらない?」
「商店街で?」
「商店街ならさ、ハクを知ってる人いっぱいいるでしょ?ライブハウスでもいいって思ったんだけど、外でギター弾くのもいいかなってね」
なるほど外か。よく考えると、衣装も用意しないといけなくなる。いや、衣装じゃなくて私服でも問題ないか。私服となると、気合いを入れないと駄目だ。
俺は商店街で弾き語りをすることに決めた。初めてだけど、今の俺なら出来る筈だ。失敗は許されない、成功させないといけない。
「ハク、手震えてるよ。寒いの?」
「震えてたのか?寒くはないが、力入ってたかもな」
いや、緊張してたのかもしれない。俺はたえにバレないように力が入っていただけだ、と嘘をついた。しかし、その嘘はすぐ見抜かれた。たえの前では嘘はつけないようだ。
――俺のことはなんでもお見通しなんだな。
▼▼▼▼
ハクは嘘をついてる。私は震えている手を包み、自分の額をハクの額にくっつけた。安心させてあげよう、一人だと怖いんだ。失敗が怖い、それなら私が一緒にいてあげないと!
「大丈夫だよハク。私が一緒に弾いてあげるよ」
「え?弾くって、なんのことだ?てか、何でこんなことするんだ?」
「ハク、嘘ついてるよね?バレバレだよ?私に嘘をつけるなんて、大間違い。怖いんでしょ、失敗するのが」
「……たえにはお見通しか。ああ、そうだよ。怖いよ。一人で弾くのが怖い。人前で一人で弾くのが怖いさ。だからたえ、一緒に弾いて、一緒に歌ってくれないか?」
ハクは目に涙を浮かべ、私に言った。ハクの悲痛の叫びなんだ。私の想いがハクに届いているのか不安だった時、私が虐められてた時にハクは助けてくれた。だから……だから今度は――
――今度は私がハクを助ける番だ!
私は包んでいた手を離し、ハクの頭を撫でた。今は安心させたい。それで、後でライブについて話し合おう。私はハクに恩返しをしたい。ハクに出会えたから、ハクと付き合えたからここまで来れたんだ。
「いいよハク。私もハクと一緒に歌いたい。ハクと一緒にライブを成功させたいよ」
「ありがとうたえ。俺とたえなら成功する。二人なら怖くないよな」
「うん、怖くないよ。だから、頑張ろうハク」
私は励ますように言った。ハクは涙を拭い、私から離れた。頬が赤い、私に撫でられて恥ずかしかったんだ。元気になったのなら私は満足だ。
「よし、そうと決まればセトリ組もうか。たえ、よろしくな!」
「よろしくされました!頑張ろうねハク!」
私とハクはライブに備えてセトリを組むことにした。ポピパの曲をアコースティックにアレンジしたり、他の曲を入れる等をしていくことにした。衣装は今からだと大変だし、香澄達には迷惑を掛けたくない。そのため、当日は私服でやることに決めた。
▼▼▼▼
セトリが組終わり二日経過、俺とたえはライブに向けて練習を始めた。ライブをやる日はクリスマスより近く前、12月14日に決まった。
商店街でライブをやるということは香澄達に伝えてある。伝えたのはまだいいが、香澄は俺達のためにとポスターを書いてくれた。俺は予想してなかったが、たえは予想していたようだ。
゛香澄なら゛やってくれる、何て言っていたが、言われてみる確かにそうだなと納得した。そうだ、あの香澄だ。なら仕方ないか。
「ハク、そこ間違えてたよ。もう少し練習してみる?付き合うよ」
「マジか……。ありがと、気づかなかった」
「ハク、気合い入れすぎるのもいいけど無理しないでね」
気合い入れすぎてたな。当日に体調崩しましたなんてなったら水の泡だ。無理はしないようにだ。俺は息を整え、練習を再開した。
12月13日ライブ前日、練習をしていたらあっという間に時間が過ぎた。早いな、もうライブが近い、本番が迫っているってことを実感させられてる。
この練習期間中、たえは側にいてくれた。一人では無理でも二人なら乗り越えられる、俺は何としてでもライブを成功させなければならない。とにかく、失敗しないようにしないと。
「いよいよか。とうとうここまで来たんだ。人生初のライブなんだ。感動させられるような……人の心を動かせるような演奏にしたい。何を言ってるんだ俺は」
こんなこと言うなんて俺らしくない。いつも通りにやればいいんだ。緊張なんてしたら意味がない。いや、するかもしれない。
明日は早い。部屋の電気を消して布団に入り、眠りに就く。初めてのライブは思い出に残るような物にしたい、たえと一緒に、二人で成功させよう。
▼▼▼▼
私ギターケースを背負い、ハクと商店街に向かった。私とハクにとって大事な日で、ハクにとっては初めてのライブだ。商店街でライブ、まるでストリートライブみたいでいい。
「ハク、大丈夫?固まってるけど、緊張してる?」
「ああ、若干緊張してる。本番はまだなのに、落ち着かなくてな。そういうたえこそ、ソワソワしてるぞ」
「そうかな!?私は平気!至ってノーマルだよ!?」
いや、説得力ないだろ、とハクは怪しげに私を見つめた。私も人のこと言えないや、ハクに隠し事は通用しない。嘘は見抜けてもこれじゃ意味がないな。
ライブの時間は昼からだ。今は午前だけど、準備もあるし、最終確認もある。香澄が書いてくれたポスターは商店街中に貼られており、周りの人からも応援された。ここまでされたら期待に応えないといけない。
ハクと今日の事で話し合っていると、商店街に到着した。私はいつも使っているリードギターを、ハクはアコギを持ってきている。弾き語りはアコギがメインだけど、リードでも出来る。音響機器は小さい物しかないけど、今回は使わないことにしている。
「ハク、今日のライブ成功させようね」
「ああ。成功させるっていっても、俺とたえ、二人でだからな?」
「うん、二人でだよね。何か私達一心同体だね!」
「ばっか!恥ずかしい事言うなよ!ドキッとしたじゃねえか!」
ドキッとするなんて可愛い。私は緊張を和らげるつもりで言ったんだけどなぁ。こういう僅かな時間でも、上手くいけるっていう確信が持てる。余裕を持たせたい、ハクに笑顔でいてほしい、だから私は緊張を和らげることも兼ねて一心同体だねって言った。
ギターを弾き、私とハクは最終確認を始める。リハーサルも兼ねての練習だ。弾いていると、周りには商店街の人達が集まっていた。香澄や有咲、りみ、沙綾。ポピパだけじゃない、はぐみやつぐみも来ていた。
「何か……集まっちまったな。ハハ、なんか恥ずかしい」
「ううん、恥ずかしくないよ。こんなに集まってくれるなんて、嬉しいことだよ」
「お二人さん。イチャイチャしてるのはいいけど、人前だからね?あと、時間だよ!」
ハクと話していると、沙綾から時間だと言われた。ううん……私はイチャイチャしているつもりはないんだけど……。また噂になっちゃうよ。しばらく商店街に行けないかもしれない。ああもう、切り替えよう!弾いていれば忘れる!いや、"今だけは"忘れよう!
▼▼▼▼
「えっと、皆さん!今日は来てくれてありがとうございます!は、初めてのライブですが、聴いてもらえると嬉しいです!まず一曲、聴いて下さい」
俺は噛まないように言った。リハやっていたら本番の時間になっていた。突然だったけど、しょうがない。やるしかないんだ。
最初に俺が弾き、途中でたえが弾く。最初の曲は前にやったmagnetだ。前は背中合わせでやってたけど、今は隣だ。弾いている途中で俺とたえは歌いながら向き合った。甘い雰囲気を出していると思われているが、これはアイコンタクトだ。
次の曲は桜、季節外れではあるが、それでも聴いてもらいたい。今回のセトリはこの1年で弾いた曲から何曲かを選んでいる。桜だけじゃない。ハナミズキ、天体観測、花園電気ギター、いくつかあるが、挙げるとしたらこのくらいだろう。
3曲弾き終わり、次で最後の曲となった。次に弾く曲は走り始めたばかりのキミに、ポピパの曲だが、たえが前に弾いていたのを見ていつか一緒に弾きたいと思った。セトリの事で話し合っていた時に最後に弾きたいとたえに言った。
「次の曲で最後になりますが、どうか聴いて下さい。走り始めたばかりのキミに」
最後の曲だと言った後、俺とたえはアイコンタクトをして弾き始めた。ポピパのアコースティックの曲はいくつかあったが、俺はたえが弾いていたこの曲が好きだ。
俺は弾いている途中に目が潤んだような気がした。気のせいではなさそうだ。涙を堪えつつ俺は弾き続ける。弾くのを止めるな、このライブを成功させるんだ!ここで止まったらおしまいだ!
▼▼▼▼
ライブが終わり、私達は拍手に包まれた。曲が終わった瞬間、ハクが泣き始めた。どうやら弾いてる途中で涙が出たんだ。私はライブに慣れてるけど、ハクは初めて。よく頑張ったねハク。
ライブを終えた後、私達は楽器をしまい、帰路に着いた。香澄達からもカッコよかったよ、頑張ったね、凄かったぞと言われた。ハクは皆にありがとうと泣きながら言った。
「ハク、どうだった?」
「どうだったっていうか、何だろうな……。やって良かったっていう気持ちもあるけど、たえと弾けて良かったって気持ちが強いかな」
「何それ、まぁハクらしいからいいか」
私はハクの隣に行き、指を絡めて手を繋いだ。私もハクと弾けて良かった。ハクと出会えて、恋人になって、一緒にライブをやって成功させれた。1日だけなのに、いろんな事があったような気がする。
今は冬、これからハクとどう過ごそうかな。クリスマスや大晦日、色々なことがある。でも、私が一番楽しみにしているのは、来年、これから先のことだ。明日からまた学校だけど、どんなことをしよう。またハクと人前で弾けたらいいな。
残り1、2話で白兎は完結します
最後までよろしくです