死が二人を分かつまで-side stories- 作:garry966
百合です。
書きたかったので書きました。
近いうちに続きを書きます。
私は完璧な人形だ。M4A1やM16A1を超える人形として生み出された。そういう風にI.O.Pの人間が言っていた。AR小隊のデータを使って、あいつらを上回るために生まれた完全無欠の人形だと。私もそれは正しいと感じた。私のスペックはどれをとってもあいつらに負けていないし、私を上回る人形なんてこの世に存在しない。私は自分の性能に自信を持っていた。私はハイスペックで優秀だからどこへ行っても引く手あまたであらゆる戦場で戦うことになる、そう思っていた。
でも、いつまで経っても私を必要とする人間は現れなかった。他の低スペックな戦術人形はどんどん売れていくのに私を買う人間は誰もいなかった。いつの間にか私はI.O.Pの倉庫で一人ぼっちになっていた。不安を覚えた私はI.O.Pの人間になぜ私は売れないのか聞いた。そいつが言うには私は高価すぎるらしい。人形一体に誰もそんな金額を出してくれないのだと言っていた。ふざけるな、と思った。高性能な人形が高価なのは当たり前だ。どうして人間どもは私を評価しないんだ。私は値段に見合う価値を持っている、そのために生み出されたんだから当然だ。
それからしばらく経っても私は売れなかった。いつの間にかI.O.Pの人間も倉庫を訪れなくなった。私は忘れ去られていた。私は完全無欠な人形のはずなのに、どうして。戦場にいなきゃ私は価値を発揮できない。こんな倉庫は私の居場所じゃない。私を評価しない無能な人間どもを呪いながら一人で過ごしていた。
ある日、倉庫に人形がやって来た。左目に傷のついた小柄な人形だった。そいつは倉庫の隅に座っていた私の前に来て、私を見下ろしていた。なんだこいつは、と思った。こいつはI.O.Pの新品ではなさそうだった。それなら傷はついていないはずだからだ。こんな弱そうな奴でも戦場に出てるのにどうして私はこんなところにずっといるんだ。ふざけるな。
「あんた、名前は?」
そいつは私を見下ろしながら聞いてきた。
「……HK416」
その名を口にするのも久しぶりだった。誰かと喋ることもずっとなかったからだ。
「ふーん。じゃあ戦術人形なのよね。戦えるの?」
「……当たり前でしょ。私は完璧な人形よ。誰にだって負けないわ」
私は自分に言い聞かせるように言った。正直、もうそれが真実なのか疑い始めていた。私を必要とする人間が誰もいないなんて思ってもみなかった。
「じゃあ、それを証明させてあげる。外に出してあげるわ」
こいつは何を言ってるんだ。その人形の唐突な発言に驚いた。私はI.O.Pの所有物だから勝手に出ることは許されない。こいつは私をからかっているのか。
「私があんたを買ってあげる。あんたに価値を見出してあげる。だから、私のものになりなさい」
「何言ってるのよ。人形にそんなことできるわけないでしょ」
こいつは私をからかっているんだ。誰にも必要とされていない私を馬鹿にして遊んでるんだ。怒鳴りつける気にもならなかった。そんなことをしても虚しいだけだ。
「そこいらの人形にはね。でも、私にはできる。私はUMP45。今日からあんたのご主人様よ。私のために戦ってね♪」
そいつはニヤついてそう言った。それが私と45の出会いだった。
私はG11を引きずりながら全力で走っていた。G11は右足を撃ち抜かれていて自分では走れない。後ろから十数体の鉄血人形が追いかけてきていた。そいつらを撃つのはG11に任せて私は後ろも見ずに走る。G11の襟首を引っ掴みながら、こいつ意外と重いな、と思った。今ここで手を離して、私だけで走ったらすぐに逃げ切れるだろう。本音を言えばそうしたかったが我慢して走った。こいつを救出するのが私に与えられた任務だったからだ。
銃弾が風を切るヒュンヒュンと言う音がずっと聞こえていた。その内の一発が私の左肩を貫いた。衝撃でよろめくが歯を食いしばって耐える。当てるにしてもG11にしなさいよね、こいつのせいでこんなことしてるんだから。銃声に混じってヘリのローター音が聞こえてきた。脱出地点はもうすぐだ。T字路を曲がるとヘリが見えた。近くに二体の人形が立っていた。
「416!急いで!」
右目に傷のある人形が叫んだ。サブマシンガンを構えて鉄血人形たちに発砲する。人形の頭が弾ける音が後ろから聞こえた。連中はひるんだのか私に対する射撃の圧が弱まった。その隙にヘリに飛び込んだ。G11の首に服が食い込んでくぐもった悲鳴が上がる。二体の人形もヘリに乗り込み、すぐさま離陸。鉄血人形たちはみるみるうちに小さくなっていた。
緊張の糸が切れて私は息を吐く。右目に傷のある人形、UMP9が笑っていた。
「いやーよかったよかった。家族が全員無事で。416もお疲れ!」
「何が家族よ……!私を一人で行かせて助けもしなかったくせに!」
口を尖らせて9をにらみつける。9はまったく意に介せずへらへらと笑っていた。
「だってしょうがないじゃん。私は別の任務があったんだし。文句は45姉に言ってよね。でも全員無事だったんだし、どうでもよくない?」
45を見ると涼しそうな顔をしていた。不満気な私を見てニヤついた。
「そうね。無事だったんだからいいじゃない」
「もうちょっとで死ぬところだったわよ!よくも私を一人で突っ込ませてくれたわね!」
45は私の文句を鼻で笑い飛ばした。姉妹揃ってムカつく奴らだ。
「でも死ななかったじゃない。あんたならやれるって信じてたのよ」
「……チッ。次はないわよ、次は」
45の得意げな顔を見たくなくて目を逸らした。ふと見るとG11まで笑っていた。
「そーそー。終わり良ければすべて良しだもんね」
G11はうんうんと頷きながら言った。腹が立ったのでその頬をつねり上げた。
「元はと言えばあんたがへまをするのがいけないんでしょ!私は命の恩人なんだから感謝しなさい!」
「いだいいだい。ひっぱらないでぇ」
G11は涙目で訴える。そんな私たちを見て45と9が笑っていた。やっぱり腹の立つ奴らだ。
あの後、45は倉庫からすぐに出て行った。私はからかわれただけだと思っていたからすぐにあいつのことは忘れることにした。人形が人形を買うなんてなんの冗談だ。忘れようとしたがあいつのニヤついた顔が脳裏に張り付いてイラついた。一人でイライラしているとI.O.Pの人間が珍しく倉庫にやって来た。45も一緒だった。所有権がI.O.Pから45に譲渡されたと短い説明をするとすぐに去っていった。それがあまりにあっけなくて信じられないでいると、45が私の手を掴んで倉庫の外に連れ出してくれた。初めて見る外の世界は広かった。私が想像していたよりもずっと輝いて見えた。ちょうど夕暮れ時だった。ぽかんとしている私を見て45が笑っていた。いつものようにニヤついた笑みではなく満面の笑みだった。夕日に照らし出された45の笑顔がきれいでドキリとした。その時、私はようやく外に出たことを自覚したのだった。
それから私は45が指揮する404小隊に入隊した。一体どうやっているのかは知らないが、404小隊はあらゆる組織から独立している。グリフィンなどのPMCから依頼を受けて戦う人形による傭兵部隊だ。45はなぜか普通の人形にはない指揮能力を持っている。そんな能力を持っている人形は私が知る限りM4A1だけだ。そう、あの憎きM4A1。私にだってそんな機能はついていない。私はずっと人間の指揮で戦うことになると思っていたが人形のもとで戦うことになった。
戦場は私が想像してたよりもずっと過酷だった。404小隊は戦闘のエキスパートとして激しい戦いの中に送られる。採算が取れないからPMCがやりたがらない任務が外注されて、それが私たちに回ってくる。それだけならまだいい。いつもあいつは私に無茶苦茶な任務を与えてくる。さっきみたいなのがそうだ。一人で敵陣に突っ込めとか、数倍の敵を相手取って勝ってこいとか。生傷を負った回数はもう両手じゃ数えきれない。いつもあいつは何でもない顔をして言ってくる。
「あんたならできるでしょ?」
どんな無茶苦茶で危険な任務だって何でもない顔でそう言ってくる。その顔を思い出すとムカつくし、腹が立つ。
でも、一度だって失敗したことはない。私は完璧な人形だから当然だ。失敗なんてするわけない。そして、あいつもそれを知っている。あいつは私の能力をちゃんと評価していて、私の能力を信頼している。
認めるのは悔しい。あいつのしたり顔が浮かんできて腹が立つ。認めたくはない。でも……私を評価してくれるのは嬉しい。人間は私を評価してくれなかった。私はM4A1やM16A1を超える完璧な人形なのに、値段が高いとかふざけた文句をつけて私を使ってくれなかった。私を使って、ちゃんと評価して、信頼してくれるのはあいつ、UMP45だけなんだ。あいつの憎たらしい顔が思い浮かんできて腹は立つけどそれは事実だ。私の居場所はあいつが率いる404小隊にしかない。
それにあいつも優秀だ。あいつが失敗したところは見たことがない。悔しいけれど、私を100%使いこなせるのはあいつしかいない。私を評価しなかった人間のもとでは戦いたくない。45はきっと人間よりもずっと優秀だ。私ほどじゃないが、優秀な人形だ。あいつが考えて、私が行動すれば何だってできる。不可能なんてない。どんな危険な任務でもこなせてしまう。はっきりそう思える。あいつと一緒に戦っていれば、いつか私を評価しなかった人間たちを見返せる、そう思えた。私はM4A1やM16A1よりも優秀なんだと世界に示せる。面と向かってそんなことは絶対に言わない。あいつがニヤニヤしながら私を小馬鹿にしてくるのは目に見えているからだ。
ヘリでグリフィンの基地に到着し、私とG11は修理を受ける。それから車で基地を離れた。9がどこかからかっぱらってきたボロ車だ。
今、404小隊はグリフィンと鉄血の前線の間にある無人地帯に拠点を構えている。戦争でボロボロになった廃墟の中からマシなものを選び出した。状態のいいビルの一室に家具と発電機を運び込んで仮住まいにしている。発電機も私が探させられた。完璧な人形は状態のいい発電機を見つけられるという無茶苦茶な理屈をこねられて廃墟中を回る羽目になった。そんなの断ればいいのに、45に何か言われると私はムキになってしまう。感情が高ぶって抑えが効かなくなってしまう。
拠点に着いた後、突然45にメモを見せてきた。
「416、悪いんだけどこれ買ってきてくれる?買うのを忘れてたわ」
メモには機械部品や弾薬、その他諸々の日用品が記されてあった。それに、これはお酒?こんなもの何に使う気だ。
「グリフィンの基地にいる時に言いなさいよ。またあっちの方に戻らないといけないじゃない」
「だから忘れてたんだって」
「あんたが行けばいいじゃない。あんたのミスでしょ」
私がそう言うと45はいつものニヤついた顔を浮かべた。
「一人でおつかいに行くのが怖いの?」
「なっ!」
「I.O.Pの温室育ちだものね。寂しくって一人じゃ行けないか。しょうがないなあ、私が行くしかないか」
「分かったわよ!行けばいいんでしょ、行けば!」
「暗くなる前に帰ってくるのよ、416ちゃん」
45の手からメモをひったくると拠点から飛び出した。9とG11が私を笑う声が聞こえてくる。乗せられてるのは分かってる。でも、あいつに何か言われるとやらなきゃいけないような気がしてくる。理由は分かる。私を評価して期待してくれるのはあいつだけだからだ。だから、期待に応えたくなってしまう。それがどんなに下らないことだって期待を裏切りたくないと思ってしまう。あいつに必要とされなくなったら、私はまたあの何もない倉庫に逆戻りだ。そんな気がした。
車でグリフィン基地近くの街に行った。物資を買い込む。支払いは全部404小隊共通の財布から電子決済だ。最後に指定された酒を買う。ずいぶんと高かった。合成じゃない本物の酒だった。こんなものは普段滅多に買わない。45は一体どういうつもりだ。買うにしても個人の金で買えばいいのに。まさか一人で楽しむために私に買わせたのか?あとで問い詰めよう。
拠点に戻ったころにはもう二時間近く経っていた。辺りはすっかり暗くなっていた。品物を詰め込んだ紙袋を持って、階段を登る。ドアに手をかけた時、違和感を覚えた。中からは物音一つ聞こえなかった。明かりも消えていた。一体何なんだ。玄関も真っ暗だった。あいつら絶対何か企んでるな。私を脅かそうとしてるのか。9あたりが考えそうなことだ。くだらないことだったら引っぱたいてやる。そう思って廊下をずんずんと進む。そして、リビングにつながるドアを一気に開いた。
パン!火薬の弾ける音がした。一瞬、銃声かと思って身体がビクつく。それと同時に明かりが灯った。どうやら銃声ではないことを悟った。私は紙吹雪を浴びせられていた。9とG11が何かを手に持って待ち構えていた。クラッカーだった。部屋には9の字で“これからも家族だ!”と書かれた横断幕がかかっていた。
「おかえり!416!サプライズだよ!」
9がにへらと笑って言った。
「え?何?何なの?」
私は狼狽した。こんなことをされる覚えはまったくない。
「お祝いだよ、お祝い。今日で416が小隊に来て半年経ったからさ。45姉がやろうって」
45が?お祝い?私に?全然似合わないな。45は9の後ろで微笑んでいた。
「45、何を企んでいるの?あんたこんなことする奴だったっけ?」
「何も企んじゃいないわよ。純粋なお祝いよ。私たちは家族なんだから、当然でしょ?」
45は微笑みながらそう言った。家族、私と45が?9はいつも家族家族言っていたが45がそんなことを言うのは初めてだった。私と45が、家族。なんだか胸がいっぱいになる。そんなことを言われるのは初めてでどう反応していいのか分からない。
「うわ!416、泣かないでってば」
9がそう言った。気づくと視界がにじんでいた。意志に反して涙が頬をつたっていた。
「違うわよ!泣いてなんかないわ!」
思わず涙声になる。感情が目からあふれ出す。絶対後で馬鹿にされる。涙を止めようとしたが、止められない。メンタルモデルからの命令に逆らう器官があるなんて欠陥だ。
「そんなに泣くってことはやっと家族のありがたみが分かったね。それともいつも照れてただけなのかな。まあいいや。お~よしよし」
9が私を抱き寄せて胸に顔を埋めさせる。9の胸はやわらかかった。45はそんな私を見てニヤニヤしていた。恥ずかしい。ずっとネタにされる。
正直、9に家族と言われても何も思わなかった。45に言われたからだ。私はずっと45に引け目を感じてきた。同じ404小隊の仲間ではあるけれど、私と45の関係は対等ではないと思っていた。そもそもただのメンバーとリーダーだし、私が参加した経緯は特殊だった。自発的に参加したのではなく45に買われて加入したのだ。45が私を助け出してくれた。私たちは人形同士ではあるけど、所有者と所有物だった。この世で私を評価して必要としてくれるのは45だけだった。だから、いつか捨てられるんじゃないかって怖かった。45に捨てられたら私に行く場所はない。またあの倉庫のような日々に戻るのだ。それがたまらなく怖かった。いつも必死に彼女の無茶をこなしていたのもそれが理由だと思う。
でも、45は私を家族だと言ってくれた。対等な存在だと言ってくれた。それがたまらなく嬉しかった。もう私は一人に戻らなくていいんだ。人間たちに必要とされなくたって、45が私を必要としてくれるんだ。それが嬉しくて、涙が止まらなかった。
しばらくずっと私は9の胸にいた。恥ずかしかったけれど涙が止まらなかったんだからしょうがない。これからずっとこれを45がニヤニヤしながらネタにしてくるんだと思うと恥ずかしかった。
「意外と泣き虫だったのね、416ちゃん」
やっと涙も止まった頃、45がニヤニヤしながら早速言ってきた。私は赤い顔で言い返した。
「泣いてなんかないわよ!私は完璧な人形なんだから泣いたりしないわよ!」
「いや、それは無理があると思うけど……」
G11が呆れたように言ってくる。私はそれをにらみつけて黙らせた。45はなおも続けた。
「涙腺も完璧なのね。戦闘には必須の機能だと思うわよ」
もう顔から火が出そうな気分だった。ずっといじられることになる。なんてことだ。でも、45が私をずっと必要としてくれるなら、それでもいいかもしれない。そんな風に思えた。
「お酒開けようよ、お酒!せっかく高いの買ったんだからね!」
9が酒瓶の栓を力づくで開ける。泡が吹き出して床を汚した。9はいつも通りニコニコ笑っていた。誰かに祝われるなど製造されてから初めてだった。慣れないことだが45が用意してくれたなら楽しもうと思う。
それからしばらく経ってG11が小さな声を上げた。
「あのさ、ずっと思ってたんだけど……私の時はこんなことしてくれてないよね……?」
45と9は顔を見合わせた。9はなんとも言えない顔をしていたが、やがて45が口を開いた。
「まあ、それは、予算の都合ね」
「ひどい!今からでもラムレーズンのアイスちょうだいよ!」
次に45が取ってきた依頼もグリフィンからのものだった。前線にある鉄血の通信施設を破壊してこいというミッションだ。
『じゃあ今からG11と二人で通信施設を破壊してきて。30分以内に頼むわ。増援が来ないうちにね』
「あんた私の報告を聞いてなかったの?」
私は通信施設が見える廃ビルの上層階で45と通信していた。隣ではG11が舟を漕いでいた。
『聞いてたよ。鉄血人形が30体くらい集結してるんでしょ?それを一網打尽にしてきてって言ってるの。あんたならできるでしょ?』
「あのねえ……今回はさすがに無茶が過ぎるわよ」
またあの台詞だ。期待されている。それには応えたい。でも今回は敵が多すぎる。明らかに危険だと経験が告げていた。私は優秀な人形で、もう経験も豊富だ。それくらいは分かる。
「敵が多すぎるからあんたと9も加勢してって言ってるのよ。なんで私とG11だけ行かせようとするのよ」
『私たちは増援が来ないように後方を遮断するから攻撃には参加できないわ』
納得いかないが45が言うなら本当なのだろう。今まで45が無駄なことをした試しはない。
『温室育ちの416お嬢様には無理かな、この任務は。代わりにそこで花でも活けてたら?』
「この……!分かったわよ!やればいいんでしょ!やれば!」
『じゃあ待ってるから。できるだけ早くお願いね』
また乗せられた。家族だと言われてからも結局こうだ。期待に応えなければならないと思ってしまう。お前なら出来ると信頼されているようで嬉しいのだ。45が言うならきっとできることだと思う。45が私の限界を引き出してくれる。
「あはは。416はいつも45に勝てないねえ」
いつの間にかG11が起きていた。そのへらへらした顔がムカついたので頬を引っ張って外に連れて行く。
「いだだ……ほっぺひっぱらないで……」
「おかえり。やっぱりできたじゃない」
鉄血の通信施設を破壊した後、45と9と合流地点で落ち合った。私はG11の肩を借りなければ歩けなかった。とろいG11をカバーするために銃火に身を晒しすぎた。銃弾が胴体を何発も貫通していた。左足の関節もおかしい。膝から下が動かないので引きずったまま来た。肩を借りて銃を杖替わりにしなければ歩けない。今までで一番傷を受けていた。
「くたばれ、45。あんた私を殺す気なの?今回は本当にギリギリだったわよ……」
「ちゃんと生きてるでしょ?それくらい修理すれば治るんだから。あんたならやれるって信じてたのよ。さすが完璧な人形ね」
「ッ!そうよ。私は完璧なんだから、これくらいできるわ。私に感謝することね、クソ人形」
私は胸を張ろうとしてバランスを崩してよろめいた。そんな私を見て45はニヤついていた。こいつは本当に腹の立つ奴だ。でも、私を完璧だと言ってくれるのはこいつしかいない。それが嬉しかった。我ながら単純だ。こいつのせいでこんなにひどい目に遭っているのに。
でも、こいつの言う通り死んではいない。任務もやり遂げられた。45は私の能力を私以上に知っている。私をフルに活用してくれる。さっきのような戦果はM4A1やM16A1にだって挙げられない。45のもとにいることで私が奴らより優れていることを証明できる。私を必要としなかった人間どもを見返すことができる。だから、45の指揮でこれからも戦ってやる。それでもあんた以外誰も私のことを見ないなら、あんただけのために戦ってやるわよ、UMP45。憎たらしくて、生意気で、腹の立つ奴。でも、そんな彼女が好きだった。
416とG11だけに攻撃を任せたのには戦術的な意味はない。鉄血の増援が来ないのは事前に通信を傍受して知っていた。私と9が来ない増援を待ち構えていた意味はない。そんなことをした理由は私の指示を信頼してボロボロになった416が見たかったからだ。私の期待に応えようと必死で戦う416は愛らしい。どれだけズタボロになろうとも私に褒められると尻尾を振って喜ぶ。本人は隠しているつもりなのも可愛らしい。私は416の能力をきちんと知っているので死なない程度にちゃんと加減した。大好きなおもちゃが壊れてしまってはたまらない。
416を買ったのは衝動的な行為だった。あの日、I.O.Pに行ったのは安い戦術人形を何体か買って手駒を増やそうと思ったからだった。いろいろな人形を物色しても、ピンとくる奴はいなかった。そんな時、416に出会った。416の気高さと弱さを併せ持った目を見たら私の胸はドキリと高鳴った。一目惚れだった。416の値段も気にせずに購入してしまった。416は想定の十倍くらい高かったので他の人形は買えなかった。416が売れ残っていた理由が分かった。404小隊の資金の大半を9に相談もせず416に使ってしまったから言い訳するのが大変だった。仲間にするのなら信頼できる優秀な人形がいいと誤魔化した。でも、それは後付けだった。
416の可愛らしいところは馬鹿みたいに高いプライドを持っているところだ。でも、あの時の416はそれが崩れかけていた。誰にも必要とされず、自信を喪失していたからだ。そんな矛盾を抱えた416に惚れてしまった。416を必要としているのは私だけだから、彼女は子犬のように私に尻尾を振ってくる。愛しい愛玩人形だ。口では文句を言いつつも私に全幅の信頼を置いている。私が彼女に期待するようなことを言うと、416は何だってやる。下らないことでも、命を危険に晒すようなことでも。その様子はちょっと間抜けで素敵だ。
でも、416が可愛いのは私だけを頼ってくるからだ。世界で私だけが416を評価していて、416を必要としているのだと彼女が思っているからだ。だから、誰かが彼女を必要とするようになってはいけない。
今日、416はほとんど一人で30体ほどの鉄血人形をやっつけた。とても優秀だ。並大抵の人形には不可能な芸当だ。この戦闘データをI.O.Pやグリフィン、他のPMCに提供すれば彼女への評価も変わる。高い値段を差し引いても採用する価値がある人形だと思われるようになるだろう。404小隊から引き抜こうとしてくるかもしれない。そうなれば彼女の誰かに必要としてもらいたいという渇望は満たされる。でも、それは面白くない。416の魅力は高慢さと自信の無さが同居している内面にある。彼女が自信を獲得してしまってはつまらない人形になってしまう。そんなのは許せない。だから、彼女の戦果は誰にも教えない。そもそも彼女が戦場にいることすらグリフィンや他の依頼主には教えていない。彼女は自分がM4A1やM16A1を超える人形だと証明するために戦っているようだが、彼女の存在すら世界は知らない。まったく無駄な努力を続けているのだが彼女はそれを知らない。その様子は延々と無意味に滑車を回すハムスターみたいで滑稽で愛らしい。
416は私だけのおもちゃだ。最初は見向きもしなかったくせに、私が416をうまく使ったからって416を欲しがり出すなんておこがましい。彼女の価値は私だけが知っていればいい。人間には必要ない。人間は馬鹿なんだから身の程をわきまえていればいい。私以外に評価されて喜ぶ416の姿を想像すると不愉快だ。自分のペットが他人に懐きだしたら腹が立つのと同じだ。
今回416を痛めつけたのはどれだけひどい目に遭わされても私を信頼したままなのか確かめたかったからだ。彼女はそうあるべきだし、ちゃんと私に忠誠を誓ったままだった。彼女は私だけに評価されて、私だけに必要とされていることを喜んでいる。ずっとそうであって欲しい。単純にボロボロになった416を見たかったのもある。口では強がりながら私に尻尾を振っている416は可愛い。もっといろいろな表情が見たい。
私に家族だと言われて泣き出した416はとっても可愛かった。ぞくぞくした。9にはいつも家族家族言われているのにほとんど気にも留めていなかった。それなのに私に家族と一言言われただけで泣いてしまった。それだけ私を頼り切っていて、私のことが好きなのね。それを確かめられて安心した。でもね、416。私とあんたは家族でもないし、対等でもないわ。あんたは私の所有物、私はあんたのご主人様なのよ。だから、あんたが私以外を見るのは許さないし、私以外があんたを見るのも許さないわ。
次はどんな416を見ようかな。もっとギリギリを攻めて腕の一本や二本無くさせてみようかな。それでも私を信頼したままだろうか。でも肉体だけを傷つけるのはワンパターンな気がする。416の失敗でG11を死なせてみようか。きっとひどい顔で泣き叫ぶ。それを想像するとぞくぞくした。でも手駒が減るからダメだな。416を買ったせいで資金に余裕はない。それとも、416にわざと簡単な任務を失敗させてみようか。それからそんなこともできないのかと失望の目で見てあげる。プライドがへし折られた時の416の表情が見てみたかった。よし、次はこれにしよう。
でも、どんなへまをやらかしたって、私はあんたを捨てないわよ。あんたは私の大切なおもちゃだし、値段を考えたらまだまだ楽しまなくちゃいけない。あんたのことを知っている人間は外には誰もいないから404小隊以外には逃げれないわよ。そんなことは決して許さない。あんたがどれだけ情けない失敗をしたって私は許して慰めてあげる。あんたのプライドが私の靴を自分から舐めだすほど崩壊したってちゃんと飼ってあげる。それが飼い主の責任だからね。
だから、これからも私を楽しませてね、私の416ちゃん♪どこへだって行かせないわよ。私以外のことは絶対に見させない。これからも私だけのために戦ってね♪