死が二人を分かつまで-side stories- 作:garry966
太陽がちょうど真上に来るくらいの時間帯、私は404小隊の拠点にいた。最近は出撃がない。45が言うには鉄血との戦いが小康状態に陥っているらしい。彼女はそれでも依頼を探そうと各地を奔走しているようだ。なので近頃、日中はあまり拠点にいない。忙しいことだ。そういう仕事は普通、人間がやることだ。営業をかける人形など聞いたことがない。45が特別である証だろうか。
45がいないとやることがない。私たちは拠点の中にずっといる。G11はずっと寝ていた。起きていても特になれ合うこともないが。なので9がぺらぺらと喋る馬鹿話を聞くくらいしかやることがない。別に45がいたところで私をからかってくるだけだとは思う。前に45の前で泣いてしまってからは毎日のようにそれでからかわれている。鬱陶しくてムカつく奴だ。別にいなくて寂しいなどとはこれっぽっちも思っていない、決して。
やることがないのでしょうがないから9の語る武勇伝に耳を傾けていた。何もしないでいるとI.O.Pの倉庫にいた頃を思い出して不快だった。あの頃の私は何の意味もない存在だった。埃にまみれて忘れ去られていくだけの存在。45が助け出してくれなければずっと私はあそこにいたのだろう。
「でねでね、戦場に人間の部隊が取り残されてるって聞いて45姉と助けに行ったの。45姉が弾避けになるかもって言ったから。でもね、情報と違ってその部隊は負傷者しかいなくて自力で移動できる状態じゃなかったの。負傷してない人には置いて行かれちゃったみたい。そいつらは私たちに助けてくれ!って懇願してきたんだけどね。45姉は使えない、って舌打ちして自決用の弾だけ渡してとっと逃げちゃったんだよ。たぶん頑張れば助けられたんだと思うけど。45姉ってちょっと冷たいとこあるよね!」
9は全然そんなこと思ってないという風にへらへらと笑っていた。面白い話だとは思えないのだが。
「……それを私に話してなんて言って欲しいわけ?」
「うーん、なんだろう。45姉は冷静で無駄なことをしない、ってことかな?感情的になって家族を危険に晒したりしないってこと!」
「あいつの命令のせいでいつも危険に晒されているわよ」
9はにへらと笑って私の文句を聞き流した。冗談じゃないわよ、まったく。こないだは死にかけた。9の言ったことは脅しにしか聞こえない。お前も利用価値がなくなったら切り捨てられると言われているかのようだった。
だが、そんな心配はいらない。私は完璧な人形だ。あいつにとっても十分価値がある。私の能力をよく理解しているし、そうでなければ大金を出してまで私を買わないだろう。こないだだって死にかけたものの、あいつの期待に応えてやった。今までで最大の戦果を挙げてやった。これであいつも私をより高く評価するようになっただろう。
一方で、人間どもは私を一向に評価しない。私が活躍していることは45を通じて知っているはずだが、私に対する評価を改める気配はまったくない。恐らくみんな脳みそが腐ってる。金に思考を支配されて正常な判断ができなくなっているのだ。まともな思考ができるのはこの世に45ただ一人しかいないのかもしれない。なら私が生まれてきたのは45のためなのだろうか。彼女に尽くして使ってもらうために。
あいつがいつもニヤニヤとしながら私を馬鹿にしてくるのは腹が立つ。でも、そんな彼女であっても私にとってはいなくてはならない存在だった。彼女がいないと生きていけない。存在する理由がなくなってしまう。私が完璧な人形であり続ける限り、45は私を必要としてくれる。だから、しくじったりしてはいけない。まあ、失敗などするわけがない。今までもそうだったし、これからもそうだ。私は完全無欠だからだ。
9も話すのをやめたので銃のメンテナンスでもやろうと思う。この銃は私の半身だ。私と同じ名を持つこの銃も完璧な品だ。故障率もM4A1などより低いし、命中精度も高い。私にふさわしい銃だ。
今日やるのはフィールドストリップと呼ばれる簡易なメンテナンスだ。ほとんど毎日のようにやっている日課の一つ。銃を万全の状態に保つには十分な手入れが不可欠だ。私が完璧であるためには必要な工程なので苦とも思わない。進んでやっていることだ。
マガジンを外して薬室に弾薬が装填されていないことを確認する。金属製のピンをレシーバーにある小さな穴二つに差し込んで金具を外す。そうすると銃をグリップとマガジン部のある下部と銃身を中心とする上部に分解することができる。今日はボルトとガスピストン、銃身の掃除をしよう。取り外した銃身からボルトを取り出す。ボルトは前後に動作して薬室に弾薬を送り込む。ボルトを清潔に保たなければ装弾不良の原因になる。紙でボルトの汚れを拭う。とはいえ最近は使っていないのでほとんど汚れはない。念のためだ。
ボルトの内部には撃針と呼ばれる部品がある。弾薬の底部にある雷管を撃針が叩くことで火薬が点火、弾丸が発射される。撃針はステンレス製の頑丈な部品だし、取り出すのは一手間かかるので今日はいいだろう。早々壊れるものではないので頻繁にやる必要はない。
専用の工具でハンドガードを銃身に固定している金具を外す。ハンドガードを外すと銃身上部にあるガスピストンの機構が露出する。ガスピストンは弾丸から出た発射ガスを利用してボルトを前後に動かし、薬莢を排出し、弾薬をマガジンから薬室に送り込む。私の銃の核と言える部分だ。これがなくては連続して発砲することができない。一々コッキングレバーを動かして再装填する羽目になる。ガスの圧力で前後するスプリングが劣化していないか確認する。スプリングが硬すぎたり、逆に復元力が弱すぎるとこれもまた装弾不良の原因になる。特に問題は見当たらない。スプリング部分を外してガスを直接受け止める基部を取り外す。一応紙で拭いておく。ボルト同様大した汚れはない。
身軽になった銃身を覗く。まったく歪みのない真っすぐな銃身だ。惚れ惚れする。ライフリングに傷も見当たらないし、火薬の燃えカスが溜まっている様子もない。日々のメンテの賜物だ。
「いやあ、精が出るねえ」
9がそう言ってくる。当然だ。私の身体の一部同然だからだ。
「あんたもやっておけば?銃の状態をチェックしておくのは戦術人形として当然のことよ。慢心してると足元を掬われるわよ」
「私は昨日やったからいいや。掃除すると手が汚れるし」
9は手をひらひら振って私の提案を断った。まったく、常在戦場の精神でいないといつか失敗するわよ。まあいい。完璧な私と違ってこいつは不完全でいればいい。その方が私の有能さが際立つ。外した部品を元通り組み立てる。慣れたものなので一分足らずで終わる。間違いなく小隊の中で銃の分解組立の速さを競ったら私が一番だ。
そうしているうちに外から車の音が聞こえた。45が帰って来たのだ。いつもより早い。成果の無さにやる気がなくなったのか、何か収穫があったかのどちらかだろう。45のことだからきっと後者だ。また私に無茶振りをしてくるでしょうね。でも、受けて立つ。あんたが私に期待するなら応えてやるわよ。銃を構えてホロサイトの電源を入れる。クリアなレンズに照準が浮かび上がる。あんたが命じるならどんな敵だって打ち倒してやるわ。
「45姉おかえり~、なんか進展あった?」
「ただいま。ちゃんと仕事を取って来たわよ」
やっぱりだ。45は無能じゃない。それくらいじゃなきゃ私を使いこなせない。
「416、受け取りなさい」
45は私にデータリンクで依頼の情報を送って来た。いつもはこんなことはしない。小隊員には作戦の全容を知らせずに命令してくるだけだ。それで上手くいっているので文句を言ったこともない。
「今回の依頼は小規模のPMCからよ。ここの近くに鉄血のはぐれ部隊がいるらしいわ。検問を作って道を封鎖してるから輸送車両が通れないんですって。それの排除よ」
「これまたしょぼい依頼を取って来たものね……」
目撃された鉄血の人形はすべてサブマシンガンを持った軽装備のリッパーだ。数は十体以下。格下の人形どもだからすぐ終わる任務だ。敵のしょぼさに合わせて報酬も少ない。正直、わざわざ404小隊が出る幕ではない。
「そうね。だから、416。あんたが一人でやりなさい」
「は?何でよ」
いきなり何を言い出すんだこいつは。なぜ全員暇している中で私だけに行かせるんだ。嫌がらせのつもり?
「あんた一人でも十分でしょ?大した敵じゃない。小隊の中で一番戦闘能力の高いあんたに任せるわ。頼りにしてるわよ」
「っ!そうね。間違いなく私が一番強いわよ。言われるまでもない」
私が一番?頼りにしてる?45の口からそんな言葉が出てくるとは。思わず嬉しくなってしまう。私をこき使うつもりで乗せているだけかもしれない。それでも認められたみたいで嬉しかった。
「それにね。あんたは戦果を挙げたいんでしょ?それならあんた一人で戦った方がいいわ。私たちが一緒にいるとあんたが霞んじゃうもの」
「よく言うわよ。いつも私にだけ面倒ごと押し付けてるくせに」
憎まれ口を叩いていても内心私は感動していた。45はちゃんと私が評価されたいんだって知っていたのか。さらにそんな私のために任務を用意してくれたなんて。胸がいっぱいだった。
「それで?私一人でやるとして指揮はどうするの?あんたが執るの?」
「別に指揮なんていらないでしょ。サーチアンドデストロイ、単純な作戦よ。来た、見た、勝った、で終わり。暗くなる前に帰って来てね。知らない人について行っちゃダメよ?」
このクソ、子ども扱いしやがって。中指を立てて返事をする。確かにあんたより経験は浅いかもしれないけど、私は子どもじゃない。完璧で優秀な人形よ。それを分かってるから私にだけ任せるんでしょうけど。まあいい。期待以上の戦果を挙げてそれを改めて分からせてやる。私とあんたが対等だって教えてやるわ。
すぐに準備に取り掛かる。格下とはいえ数が多い。囲まれたらやられてしまう。なら常に動き回って銃撃を浴びせてやる。できるだけ身軽な方がいいだろう。重いグレネードランチャーは置いて行こう。すぐ終わる任務だから野戦糧食も必要ない。必要なのは弾倉と私の銃、そして完璧な私だけ。マガジンをいくつかポケットに入れる。車のキーを受け取って拠点を飛び出す。見てなさい、45。私の力を思い知らせてやる。
車で作戦エリア付近まで行き、廃ビルの窓から双眼鏡で覗く。情報通り鉄血の人形たちがそこにいた。廃車を並べて道を封鎖し、簡易な陣地を作っている。確認できるのはリッパーが八体だけだ。陣地の中で右往左往している。鉄血のエリート人形の指揮から外れてしまったのかもしれない。だからこんな大した意味のないところにとどまっているのだ。まともな指揮官に使ってもらえない人形は哀れね。奇襲をかけて一網打尽にしよう。ビルを降りて気づかれないように建物の合間を縫って近づく。
建物の影から半身だけ出して銃を向ける。ホロサイトで敵の顔がはっきり見える距離まで近づいた。奴らはまだこちらに気づいていない。銃撃戦になる前に一気に倒してしまおう。セーフティを解除し、連発モードに設定する。反動で狙いがずれないようにストックをぴったりと肩に密着させる。ストックに頬を当ててフォアグリップもしっかりと握り込む。安定した射撃姿勢だ。
一呼吸置いてからトリガーを引いた。短く指切りをする。三発の弾丸がほとんどずれることなく命中し、鉄血人形の顔を吹き飛ばした。その隣の人形が反応する前に素早く狙いを定め発砲。同じように粉砕する。他の人形は突然の襲撃に慌てふためくが私の位置はまだバレていない。三体目も同じように射殺する。流れ作業だ。ものの数秒で三体倒した。一マガジン使い切る前に終わるかもしれないな、そう思って次の標的に照準を合わせた。
引き金を引く。弾が出ない。嘘でしょ!?こんな時に弾詰まり?あんなにメンテしたのに。慌ててはいけない。数千発に一発は弾詰まりだって起きるものだ、仕方ない。建物の陰に引っ込んで排莢口を見る。薬莢が挟まっているということはない。じゃあ装弾不良?ボルトもガスピストンもさっきチェックした。じゃあ、弾を送り込むマガジンのスプリングがいかれてるのか?マガジンの底を軽く叩いてからコッキングレバーを指で引いた。弾頭を伴った弾が排出された。ではマガジンの異常ではない。銃を空に向けて引き金を引く。それでも出ない。何でよ!私は焦り始めていた。
鉄血人形たちはようやく私のいる方角だけは分かったのかめちゃくちゃに発砲していた。建物の壁を弾丸が削る音が聞こえてくる。ボルトでもなく、ガスピストンでもなく、マガジンでもない。ならこれは装弾不良じゃないの?じゃあ弾の問題?たまたま二連続で不良品の弾薬を引いたとか?そんな馬鹿な。またコッキングレバーを引いて弾薬を切り替える。やはり弾は出なかった。レバーを引いた時、違和感を覚えた。普段聞こえないような音が聞こえた気がする。敵の発砲音にかき消されないように耳をすませてもう一度レバーを引いた。するとかすかにボルトの中からカラカラという金属音が聞こえた。ボルトの中にあって、弾丸の発射に関係する部品。
撃針だ。私は青ざめる。撃針が折れているんだ。今日見なかった部分だ。でもそんな馬鹿な。簡単に折れるような部品じゃない。ステンレス製で単純な構造をしてる撃針がそう簡単に折れるわけがない。今までに一度だってそんなことはなかったし、聞いたこともない。だから見なかった。でも折れている。銃を横に軽く振ってみる。やはり中から音がする。
私ははっとした。銃声が近づいてくる。敵が私の位置を特定したんだ。今の私は丸腰同然だ。サイドアームも持ってないし、グレネードランチャーも置いてきた。予備の撃針は持っていないし、持っていても今から替える時間はない。殺される、そう直感が告げて私は逃げ出していた。戦いから逃げるなんて初めてだった。なんで、どうして、ぐるぐると疑問が頭の中を渦巻く。私は追撃から逃れるために必死で車まで走った。
奴らは私の姿を見失って早々に諦めたのか、追撃はすぐに終わった。車の運転席に座って息を落ちつける。横に置いた銃を見る。見た目はピカピカでよく手入れされている。何でよ!思わずハンドルを両手で叩いた。毎日のようにメンテをしているのに、何でよりにもよって撃針が折れるのよ!しかも、今日は45が私のために任務をくれたのに……。
顔がどんどん青ざめていくのが自分でも分かった。どうしよう。45にどう言い訳をすればいいんだ。せっかくもらってきてもらった仕事を銃のメンテを怠ったから失敗しました?無能すぎる。45は私を一番強いと言ってくれて、頼りにしていると言ってくれたのに。期待に応えるどころか何て無様な結果だ。どうにか誤魔化さないと。車中の収納をひっくり返して何かないか探してみる。拳銃一つでもあればそれを持って突撃して奴らを全滅させてやる。でも、そんなものはなかった。銃はみんな拠点で管理しているから当然だ。どうしよう、どうしよう。
その時、私宛に通信が届いた。45からだ。身体が震える。まずい、なんて言えばいいんだ。
「416、もう死んじゃった?」
いつもの私をからかう声だ。どうにか平静を装わないと。呼吸を整えているうちに数秒が経過した。
「……死んでないわよ」
「あら、あんたの位置情報が動かなくなったから死んだのかと思ったわ。じゃあ、もう任務は終わったの?報告くらいしなさいよね」
どうしよう。なんて言えばいいんだ。成功したと誤魔化して、拠点に戻ってから撃針を交換して戻ってくるか?絶対バレる。それに、それまでに45が作戦は終わったと人間に報告して、それを信じた人間が死んだりしたら事だ。45に殺される。
「416?どうしたの、黙っちゃって。もしかして失敗しちゃった?」
45が笑いながら言ってくる。図星だ。何も答えられない。
「……もしかして本当に?」
「違うわよ!失敗なんてしてない!私が失敗なんてするわけない!私は完璧なんだから!私のミスじゃない!一旦戻って態勢を立て直すだけよ!」
「ちょっと、事情を説明しなさいよ。聞いてる?416――――」
通信を途中で切った。思わず失敗していないと言ってしまった。でも、絶対私のミスじゃない。先週、簡易なメンテナンスじゃなくてちゃんと隅々まで分解した。その時に撃針だって確認した。全然脆くなっているようには見えなかった。だから私のミスじゃない。私を陥れようとした奴がいるはずよ。45じゃないだろうから、9かG11だ。こんなの冗談じゃ済まないわ。証拠を見つけたら殺してやる。力いっぱいにアクセルを踏み込んで車を発進させた。
「それで?何があったのよ。任務も終わらせずに戻ってきて」
拠点に帰ると腕組みをした45が待ち構えていた。冗談も言わず、ニヤついてもいない。本気の目をしていた。任務の時だってそうそうこんな目はしない。本当に怒ってるのか、思わずたじろぐ。
「黙ってちゃ分からないわよ。何で逃げてきたの?とっとと言いなさい」
「そ、それは……撃針が折れて……」
責められて本当のことを言ってしまった。頭が回らない。もっといい言い訳があったはずだ。
「はあ?撃針が折れた?何よそれ。自分の銃の管理もできないの?戦術人形のくせに使えないわね。何が完璧な人形よ。あんたに高い金を払ったのは失敗だったかもしれないわ。こんな簡単な任務に失敗するなんて。依頼主になんて説明したらいいのよ。404小隊の戦歴に汚点が残ったわね」
使えない、そう言われて衝撃を受けた。今まで散々からかわれたが面と向かって罵倒されるのは初めてだった。これまでのすべてを否定された気がした。舌がぴくぴくとして何も言葉を喋れない。
「まあまあ、言い過ぎだって45姉。誰にだってミスはあるんだからさ」
9が45の後ろからひょっこり出てきて私をかばう。これは私のミス?違う。違う違う違う違う違う!私のミスじゃない!私はこんなつまらないミスをしない!メンテだって完璧にやってた!私は悪くないのよ!誰かが、誰かがやったに決まってるわ!
「そうね、言い過ぎた。ごめんね、416。私はあんたに期待し過ぎてたみたい」
45は私に冷たくそう言った。失望されている。ゴミを見るような目で見られている。いつ溜まったゴミを捨てるか考えているような目だった。45に捨てられる。私は恐怖を覚えた。45に捨てられたら私はまたあの倉庫に逆戻りだ。それだけは絶対に嫌だ!
「違う!私のミスじゃない!前に撃針はちゃんとチェックしたわ!壊れそうな様子なんて全然なかった!誰かが私の銃に細工したのよ!9、あんたかG11なんじゃないの!?」
私は感情的になってそう叫んでいた。恐怖が私の心を支配している。45は眉間にしわを寄せてうろたえている私を見ていた。9は頬を膨らませて私に言い返す。
「ちょっと、416!せっかくかばってあげてるんだから言いがかりつけないでよ!今日416ボルトの中は見てなかったじゃん!自分のミスでしょ!慢心してたら足元掬われるとか自分で言ってたじゃん!」
「違うのよ!私のミスじゃない!完璧な私がそんなつまらないミスをするわけない!ねえ、信じてよ!45!私じゃないのよ!誰かが私を――――」
ずっと45の冷たい視線と目を合わせていたが、急に45が右手を動かした。室内に乾いた音が響く。急に視界が揺れて何が起こったのか分からない。なんだか頬に痛みが走った気がする。私、45に叩かれたの……?
「自分のミスを家族に擦り付ける気?呆れた。最低な奴ね。大人しくミスを認めて謝ればいいものを。それができないなら今すぐここから出て行きなさい。顔も見たくない」
「えっ……」
何を言われているのか分からなかった。45は私のことを信じてくれないの?私のせいじゃないのよ、本当よ。私は45に捨てられようとしてるの?嫌、私ここを追い出されたらどこへも行くところないのよ。
「出て行けって言ってるのよ!」
45に腹を蹴り飛ばされた。反応できずもろに食らってしまう。玄関の外に叩きだされて尻もちをついた。45は素早くドアを閉めた。バタンと大きな音がして、風圧で髪が揺れた。私はただ茫然と閉じたドアを眺めていることしかできなかった。
「45姉、あんなこと言っちゃっていいの?416帰って来ないかもしれないよ」
「いい薬よ。帰って来ないならそれでもいい。ミスを認められない無能なら必要ないわ。ほら、早く支度して。416の尻拭いに出撃するわよ」
9は不満そうに私を見つめていたが、私には9に構う余裕がなかった。
私に使えないって言われた時の悲しそうな416の顔、私に信じて欲しくて取り乱している時の416の顔、信じてもらえなくて泣きそうになっている416の顔、どれも素晴らしかったな。額縁に入れて部屋に飾りたいわ。ぞくぞくする。興奮しすぎて演技に力が入りすぎたかもしれない。もっと可哀そうな416が見たくて思わず蹴り飛ばしちゃった。茫然とへたり込む416も可愛かった。キスしてあげたくなっちゃった。
416は私に信じてもらえなくて絶望してるんでしょうけど、大丈夫。ちゃんとあんたを信じてるわよ。そんなミスをするような人形じゃないって。完璧で優秀な人形だって知ってるわ。だって撃針をすり替えたのは私だもの。
最近拠点にいなかったのは別に仕事を探していたからじゃない。鉄血の動きが鈍いのは確かだけど、仕事を持ってこようと思えばいくらでもあった。私の手にかかればね。実際は街に行っていた。そこで416の銃の撃針を何本も調達して加工してたのよ。まず怪しまれないように416が本来使っている撃針とまったく同じ見た目にする。汚れなんかも再現する。それから発砲の衝撃で先端が折れるように負荷をかけて劣化させた。最初の一発で壊れるくらい脆いと何かの拍子に壊れて失敗するかもしれないから、十発くらいは耐えられるように設計した。これがまた大変だった。なかなか上手くいかず何本も撃針を折ってしまった。私の演算機能を総動員してシミュレートし、何とか仕上げたのが本番で使ったあれだ。最高傑作ね。
でも、ちょっと時間をかけすぎた気がする。404小隊を仕事もさせずに放置してしまった。何もしなくてもお金は減っていくから今月はたぶん赤字ね。それよりも416の素敵な顔を見たかった。公私混同のしすぎかしら。今更ね。
416は銃のメンテを欠かさない几帳面な人形だ。私たちの中でも一番整備に時間を使っている。簡易メンテならほとんど毎日のようにしているからその光景はよく見ていた。だから、普段はボルトの中までは見ないのを知っていた。まあ、その必要もないからね。二百年以上前のニードルガンならいざ知らず、現代の銃で撃針が破損することなど滅多にないから。私だってそんなにチェックはしない。
それでも416は週に一度は銃をバラバラにして撃針もチェックしていた。偉いわ、416ちゃん。命令されてもいないのにしっかりと責任を持って自分の銃を管理できて。無駄だったけど。しっかりとしたメンテは定期的にやっているのでいつやるか簡単に予測できた。あんたのミスは私の前でメンテを繰り返していたことね。
もう一つは警戒心の無さかしら。あんたは404小隊といる時は安心していてほとんど警戒していないわよね。夜もぐっすり寝てる。でもダメよ、416ちゃん。どんな悪意を持った奴が近くにいるのか分からないんだから。常在戦場の精神でいないと足元を掬われるわよ。昨日の夜、416が寝ている間に撃針を交換しておいた。私もあんたの銃の構造はあんたと同じくらい知っているから素早く誰にも見つからずにやった。あんたは自分が銃の分解をするのが部隊で一番速いんだと思ってるみたいだけど私の方が速いのよ。
今回は依頼主にも416の存在を隠していない。戦果は包み隠さず報告するつもりだ。つまり、416の公式な初戦果は格下の人形相手に敗走、ということになるわね。ハイエンドモデルの名が泣くわ。このまま放っておけば416は高価な上に無能な人形と評されるようになる。ますます私のもとから離れられなくなるわね、嬉しいわ。
しかし、自分の半身である銃に裏切られるなんてどういう気持ちなんでしょうね。特にあんたみたいなプライドの高い戦術人形にとっては耐えられない屈辱なんじゃない?絶対に自分のミスだと認めたくないのも分かるわ。証拠もないのに9とG11を疑ってたわね。でも、私のことはこれっぽっちも疑っていなかった。とっても偉いわ、私の416。なんて忠誠心あふれたペットなんでしょう。飼い主としてすごく嬉しいわ。頭を撫でてあげたくなった。実際には頬を叩いたんだけど。
「ほら、G11。起きて。出撃よ」
ベッドに寝転んでいるG11の肩を揺さぶって起こす。G11は目をこすりながら不満そうに私を見る。
「ええ~今日は休みなんじゃないの?というか416は?さっきなんか大声で起こされたんだけど……」
「今はいいでしょ。いいから準備して」
彼女の銃を掴んで渡す。G11は嫌そうながら渋々起き上がった。416もこいつくらい戦果に無頓着で人の目を気にしないならすぐに謝れただろうし、傷つくこともなかったかもしれないわね。そうだったら買っていないけど。
準備を完了して外に出る。ドアの前には車のキーだけ置いてあって416はいなかった。そういえばキーを回収していなかった。追い出されたんだから車を持ち逃げすることだってできたのに。本当に忠犬ね。ますます好きになったわ。
三人で車に乗り込む。別に全員で行く必要はないのだけれど416を置いて全員で行ってしまうという演出だ。視界の端にはまだ416がいた。道路を挟んで拠点の向こう側に立ち尽くしているようだった。
「あっ416だ。こっち見てるよ。本当にいいの、45姉?家族なんだからあれくらい……」
「いいのよ。謝ってくるまでは許さないわ」
演出の都合上、416の顔を見ることができないのが悔しかった。きっと素敵な表情をしている。親に捨てられた子犬みたいな顔をしてるんでしょうね。あとで拠点前の監視カメラで録画したものを見ておかなくちゃ。
でも、大丈夫よ、416。私はあんたを捨てたりなんかしないから。全部振りよ、振り。位置情報もいつでもモニタしてるから安心して。自暴自棄になって死のうとしたらちゃんと止めに行くから。安心して傷ついてね♪泣きわめいて謝ってくるまで放置しようかしら。とりあえずは一日くらい様子見ね。
45は他のメンバーと出撃していく時、私のことをちらりとも見なかった。私に利用価値を見出せなくなったんだ。私は本当に45に捨てられたんだ。隅々までメンテをしておけばよかった。予備パーツを持って行けばよかった。サイドアームを持ってくればよかった。グレネードランチャーを装着してくればよかった。後悔の念が押し寄せてくる。だが、もう遅かった。
ふらふらとよろめきながら行く当てもなく街を彷徨っていると公園に着いた。使われなくなって久しいため、荒れ果ててボロボロの公園だった。遊具も錆びだらけでまともに動かなそうだった。私はその遊具と自分を重ねてしまった。45に捨てられた以上、私はもう誰にも必要とされていない。誰にも使われず、忘れ去られ、錆びて朽ちていくのだ。
「なんで……なんで……なんでなのよ!なんで私を裏切るのよ!あれだけ手入れしてたのに!」
私は銃を地面に叩きつけた。ガシャンという音がして少しだけ飛び跳ねた。銃をこんな風に乱暴に扱うのは初めてだった。きっと誰かにこんなことをされたらそいつを殺していただろう。でも、もうどうでもよかった。弾が出ない以上、銃の形をしたおもちゃだ。使えない、役立たず。私と同じ。
「ふざけるな!私は役立たずなんかじゃない!完璧な人形よ!私が、私が悪いんじゃない!私のミスじゃない!」
ブランコの前にあった金属製の柵を蹴り飛ばした。錆びて脆くなったそれはぐにゃりとひん曲がった。
「違うのよ……本当に……なんで信じてくれないのよ……45……私は、私は完璧なんだから……」
もう本当は分かっていた。これは私のミスだ。部品の状態をちゃんとチェックしていなかった。前に撃針を見た時も時間をかけてしっかりと見たわけじゃない。きっと劣化しているのを見逃したんだ。今日も見なかった。見ようと思えば見れた。暇していたんだから隅々までメンテする時間はあった。でも、しなかった。
「なんでよう……なんで今日なのよ……」
私はブランコに腰掛けた。錆びついた鎖が悲鳴を上げる。どうしてよりにもよって今日なんだ。45が私のために、私だけに任務をくれたのに。45が私の評価されたい、という欲求を汲み取ってくれた日に。45に失望された。もう必要としてくれない。頼りにもされない。もうこの世に私を必要とする存在は誰もいない。45がきっと最初で最後だった。そんな彼女の期待も裏切った。もう誰も私のことを見てくれない。
『自分の銃の管理もできないの?戦術人形のくせに使えないわね。何が完璧な人形よ、銃のメンテもできないなんて』
45に言われた言葉がずっと頭の中で響いていた。そうだ、その通りだ。私は簡単な任務もこなせない役立たずだ。今まで活躍できていたのも全部45が指揮をしてくれていたからだ。一人になった途端、あの有様だ。私が完璧な人形を演じられていたのは45が傍にいてくれたからだ。本当の私は一人じゃ何もできない役立たずだったんだ。涙が地面に滴った。
今の私は倉庫にいた時と同じだ。誰にも必要とされずに忘れ去られていく。今日、拠点で45が帰ってくるのを待っている間の暇な時間とは訳が違う。45は私を迎えに来たりしない。9も今日言っていた。45は弱者を切り捨てるのをためらったりしない。ここで待っていたって45が現れることは絶対にない。そして、今の私は倉庫にいた頃よりひどい状況だ。あの時は何もしていなくても45が必要としてくれて、私を救い出してくれた。もう45は私を必要としてくれない。世界でたった一人しかいない彼女にも失望された。
「ううっ……ひぐっ……いやあ……」
涙がボロボロとこぼれた。45の目が頭に焼き付いて離れない。失望と軽蔑しかない目だ。早く、早く謝りにいかないと。何でもするから私を捨てないでって懇願しに行かないと。許しを乞わないと。
でも、どうしても立ち上がれなかった。足がすくんでしまう。ミスを認めて謝ったとしても、45が必要としていたのは完璧な私だ。もう今の私は完璧なんかじゃない。元通りになんてなれないんじゃないか、そう思うと恐ろしかった。
『やっぱりミスをするようなあんたなんかもう要らないわね。信用できないし。もう家族なんかじゃないわ。I.O.Pに返品しようかしら。それともコアを抜いて民間用に売り払おうかな?』
想像の中の45がゴミを見る目で私に言った。そう言われるのがどうしようもなく怖かった。
「お願い……許してよ、45……もうミスなんかしないから……あんたのためにどんなことだってするから……私を捨てないでよう……ううっ……ぐすっ……」
涙が止まらなかった。せきを切ったようにあふれ出してくる。ずっとしゃくり上げているともう辺りは暗くなっていた。お腹が空いた。今日はまだ昼ご飯を食べていなかった。任務が終わったら食べようと思っていた。すぐ終わると思ったから野戦糧食も持ってこなかった。食べるものは持っていない。お金も持っていない。私にあるのは弾の出ないおもちゃだけだ。
たまらなく惨めだった。戦術人形は何日も食べなくたって死にはしない。空腹が辛いわけじゃない。45に捨てられたら食事一つできない自分が惨めだった。私は45がいないと何もできない。食事も、戦うことも、勝つことも。涙がボタボタと零れ落ちる。乾いた地面に小さな染みが出来て砂漠の中のオアシスみたいだった。
「ブランコだなんて子どもっぽいのね。I.O.Pの保育園でも思い出しちゃった?」
後ろから声がした。聞き覚えのある声だった。いつも私をからかってくる奴の声。いつもと変わらないトーンの声。急いで振り向くと45が立っていた。ニヤニヤと私を見ていた。
「暗くなる前に帰ってこいって言ったでしょ?言いつけを守れない奴ね」
「45……どうして……」
目の前の光景が信じられなかった。なんで45がここにいるの?なんでいつもと変わらない表情を浮かべているの?これは夢?ショックが大きすぎてメンタルモデルまでバグってしまったの?
「どうしてって、私たち家族だからね。迎えに来てやったのよ。ほら、何してるのよ。とっとと立ちなさい。帰るわよ」
私は地面を蹴り上げて跳ねるように立ち上がると45の胸に飛びついた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!全部、全部私が悪かったのよ!私がメンテを怠ったから失敗したの!せっかくもらってきてくれた任務に失敗してごめんなさい!自分のミスだって認めたくなかったから9とG11のせいにしたのよ!本当は私が悪いのよ!」
私は泣きながら45の顔を見上げて叫んでいた。心の底から45に謝っていた。彼女が私を迎えに来るなんて思ってもみなかった。45が私を家族だと言ったのは嘘じゃなかったんだ。45は私を抱きしめて顔を胸にうずめさせてくれた。私も力いっぱい45にしがみついていた。
「だから、だから許して。許してください。私を捨てないで。私にはあんたしかいないのよ。あんたがいないと何もできないの。ちゃんとそれが分かったから。404小隊から追い出さないで。お願い、何でもするから」
私はぐすぐすと泣きながら45に懇願した。彼女はそんな私の頭をポンポンと優しく叩いてくれた。
「馬鹿ね。捨てたりなんかしないわよ。私たち家族なんだから。ごめんね、416。ひどいことを言って」
「なんであんたが謝るのよ……私が悪いんだから、全部……45は悪くないのよ。期待を裏切った私が悪いの。無能で役立たずな私が。私は完璧な人形なんかじゃなかった。あんたがいないとクズ同然なのよ。私にはあんたが必要なの。だから、お願い。傍にいさせて……」
45は話している間、ずっと頭を撫でてくれていた。45の手も、胸もやわらかかった。これは私の見ている幻覚なんかじゃない。私はそんなもの知らないんだから。知らないものは夢には見られない。
「大丈夫、大丈夫よ。あんたは完璧な人形よ。ちゃんと私は分かってるんだから。本当はこんな失敗したりしないのよね。役立たずなんかじゃないわ。私もあんたが必要なの。どこにも行かないでね」
45は私が言って欲しい言葉を言ってくれた。嬉しくてたまらない。45の胸を涙でびしょびしょにしてしまった。彼女は気にすることもなく私をずっと抱きしめていた。
「さあ、帰りましょう。みんなも待ってるわ」
45は私の銃を拾い上げて渡してきた。そして、私の手を取って言った。最初に私を助け出してくれた時と同じ笑顔を浮かべていた。あの時と違って夕日に照らされてはいなかったけれど、私にはあの時よりずっと輝いて見えた。
彼女はいつも私を助け出してくれる。どんな暗闇の中にいたって必ず助けてくれる。だから、私も彼女に尽くそう。彼女のためだけに戦おう。彼女が必要としてくれるならどんなことだってする。どんな危険だって怖くない。UMP45、私は彼女が好きだった。どうしようもないほどに。
子どものように私に許しを乞う416を見ていると胸と下腹部が熱くなった。興奮しすぎている。身体が震えそうだった。顔もきっと紅潮しているし、だらしなく緩む頬を引き締められない。だから見られないように胸に抱き寄せた。
本当はこんなに早く迎えに行くつもりはなかった。416が自分からやって来るまで放置しようと思っていた。でも、任務をこなしている間、416が自分の手の届く範囲にいないので急に怖くなってきた。戦いにも全然集中できなかった。よく考えたら416には404小隊以外にも行く場所などいくらでもある。プライドをへし折ってしまったから戦術人形以外の道も歩める。人形が欲しい人間なんていくらでもいる。カフェとか、炭鉱とか、売春宿とか。クズどもにたぶらかされる416を想像すると居ても立っても居られなくなり、任務から戻って来てすぐにやって来てしまった。
416をおもちゃだとかペットだとか思っていたけど、本当はそうじゃない。私は自分で思ってる以上に416が好きだった。最初からそうだったんだ。でなければ416の値段を確かめもせずに買ったりしない。おもちゃにしては高すぎる買い物だ。一目見た時から彼女を自分の物にしたかった。他の誰にも渡したくなかった。
私は彼女に本気だった。だから、散々ひどい目に遭わせた。416のことを誰にも教えなかった。416が私以外を見るのが怖かったから。私のことを同じように好きになって欲しかったから。
ごめんね、416。本当は私たち対等じゃないのよ。あんたは私以外のところでも生きていけるけれど、私にはあんたがいないともうダメなの。だから縛り付けた。本当は私の方が弱いのよ。あんたは私に謝れるけど、私は絶対にあんたに謝れない。本当のことを言えない。嫌われるのが怖いから。想いを伝える勇気もない。きっと今のあんたなら私の想いを受け入れてくれる。でも、それって本当に私のことが好きだからなの?私しかあんたを評価していないから仕方なく私を必要としているんじゃないの?そう思うと怖かった。他の誰かが416を必要とするようになった途端、私のもとから去ってしまうんじゃないかと思うと苦しかった。
本当に416を私の物にしたいな、そう思った。
「ほら、泣き虫のご帰還よ」
「おっ45姉も416もおかえり~案外早かったね。ってうわ。すごい泣いてる」
手を引っ張って拠点に連れて帰って来ても416はまだ泣いていた。それだけ辛かったのね、ごめんね。
「9……9もごめんね……私が悪かったのに人のせいにして……許して……G11も……」
416は泣きながら謝っていた。全然彼女は悪くないのに心から謝っている様子が不憫で頭を撫でて慰めた。
「いいよいいよ!家族に喧嘩は付き物だからね!ちゃんと全員揃えてよかったよ!」
「ねえ、なんで私謝られてるの?なんで416泣いてるの?結局よく説明してもらってないんだけど……」
泣いている416も可愛いな。私にからかわれている時の不満気なあんたも、私に褒められて嬉しそうにしているあんたも、どんなあんたも好きよ。大好き。愛してるわ。力を込めて髪を撫でつけた。
「45姉もよかったね!416を追い出してからずっと心配そうだったもんね。任務の間も上の空だったし。なんだかんだ言って45姉も家族のことが好きなんだね!」
「……うるさい、9」
照れ隠しにそう言った。9はニコニコと屈託のない笑みを浮かべていた。お見通しだったか。敵わないな。実は犯人が私だってバレてなきゃいいけど。
泣きながらも嬉しそうに私を見ている416を見て思った。彼女の実力が正当に評価された時、彼女はどんな道を選ぶだろうか。それでも私と居てくれるのか、それともどこかへ行ってしまうのか。怖かったけれど気になった。確かめてみたい、そう思った。彼女の自由な選択を見てみたくなった。私を選んでくれた時、ようやく私と彼女は対等になれるのかもしれない。もう縛り付けるのはやめよう。彼女の自由な意志に任せてみよう。
416、あんたが好きよ。あんたがいなくちゃ生きていけないの。だから、お願い。私だけを見ていて。あんたに本当に必要としてもらいたい。あなたのことを愛しているから。