死が二人を分かつまで-side stories- 作:garry966
本当はこんなつもりじゃなかったんです。
今日はAR-15の八話を書くつもりだった……
『数多くの兆しから見ると…指揮官さん!やはりこれは運命的な出会いです』
金髪の戦術人形、K5が俺の部隊に着任した時に言った第一声がそれだった。人形なのに運命か、何となくそれがおかしく思えた。
『運命?君は運命を信じてるのか?』
『ええ、運命は存在してますよ。私、占いには少し自信があるんです。指揮官さんの今日の運勢を占って差し上げましょうか?』
K5はニコニコ笑ってそう言った。明るくて可愛らしいその顔が気に入った。その日から副官を任せてみることにした。
ある日の朝、起床して身支度を済ませた指揮官が司令室に入るとそこにはK5がいた。
「おはよう、指揮官!一日の良い始まりは幸運をもたらすよ!」
K5はニコニコと笑いながら指揮官に挨拶をした。指揮官は挨拶を返さず、苦い顔をした。
「K5、お前に今日の副官を頼んだ覚えはないが。なぜここにいるんだ。コンテンダーはどうした」
K5は変わらずに笑顔を浮かべていた。
「あの娘には指揮官は今日、お休みだって伝えておいたよ。指揮官、ごめんなさい。勝手なことをしちゃって。でも大丈夫だよね?私の方が仕事できるもんね?指揮官のしたいことはなんでも分かるもん。指揮官も私が副官だった方が嬉しいよね?」
「はぁ……K5、お前はどうしていつもそうなんだ。占いばかりして勝手に人の気持ちを決めつけて。お前の占いは当たらないんだよ。今だって間違ってる」
指揮官が冷たくそう言うとK5の表情は少しだけ曇った。それでも口元には笑みが張り付いていた。
「……そんなことないよね?今だって指揮官はそんなこと思ってないよね?私には分かるんだ。本当は私と一緒にいれて嬉しいんだよね。前はよく指揮官は私のことを褒めてくれたもんね。私の占いはよく当たるし、私がいると仕事が捗るって。私とは以心伝心で他の誰とやるよりお仕事が効率的に進むって。だから、今も本当は喜んでくれてるんだよね?」
「あれはお世辞だ。お前が喜びそうだったからそう言っただけだ」
指揮官はため息をつきながらそう言った。K5の目は笑っていなかったが顔の下半分だけはニコニコとしていた。
「それも嘘だよね。直感で分かるの。指揮官は嘘つきじゃないから、他の娘に言わされてるんだよね?誰?コンテンダー?あの娘、最近指揮官に付きまとってるよね。私に嫉妬してるのかな、指揮官とずっと一緒にいたから。嫌だね、感じ悪くて。指揮官の気持ちも考えないでそんなことをして……」
K5は指揮官を心配するような口調でそう問い詰める。指揮官は椅子に座って手で顔を覆う。
「それはお前だよ。コンテンダーは俺が自分で副官にしたんだ。さあ、早く出て行ってくれ。コンテンダーを呼び戻してこい」
「そんなことできないよ。副官はいつも指揮官の傍にいないとね。なにかあったら大変だもん。今日はなにか悪いことが起きそうな兆しがあるよ。いつでも助けられるようにずっと一緒にいるからね」
何を言っても聞かないK5を無視して指揮官は仕事を始めようとしていた。机の上に乱雑に転がしておいた筆記用具はK5によって勝手に整理整頓されていた。作戦報告書を取り出そうと引き出しを開けると、報告書も日付順にファイルでまとめられていた。指揮官は急に焦ったように他の引き出しも開け始めた。整理しておいた引き出しを指揮官が急に荒らし出したためK5は不思議そうな顔つきをする。
「どうしたの?必要なものは全部整理しておいたと思うんだけど。私、なにか失敗しちゃったかな。そうだったらごめん、指揮官」
指揮官はその声を聞いて顔をゆっくりと上げた。表情は険しくK5をにらみ付けていた。
「……K5、あの箱をどこにやった」
「あの箱?なんの箱?私、必要なものは全部中に入れておいたよ」
「とぼけるな!指輪が入った箱だよ!」
指揮官は声を荒げて叫ぶ。K5はビクリと肩を飛び跳ねさせて一瞬だけ笑みを失った。だがすぐに元の表情に戻って何でもないように言った。
「ああ、あれのことね。なんだろうと思って中を見てみたら、指輪にコンテンダー、なんて書いてあったから驚いちゃった。そんなもの指揮官の机にあるわけないもんね。たぶん、間違って届いたか、あの娘が勝手に入れたんだろうね。後者ならとっても嫌らしいよね。そんなに指揮官の気が引きたいなんて……だから、指揮官が来る前に捨てちゃった」
指揮官はバネのように立ち上がりK5に詰め寄った。その表情は憎しみに満ちているように見えた。
「ふざけるな!よくもやってくれたな!どうしてくれるんだ!あれは俺が頼んだんだよ!コンテンダーに渡すために!見れば分かるだろう!クソッ、ここから出て行け!お前の顔なんか見たくもない!」
叫ぶ指揮官を見ながらK5は顔をピクピクさせていたが、どうにか笑顔だけは取り繕っていた。少しだけ震える声を出して指揮官に問いかける。
「……それも嘘だよね。本当は指揮官、指輪を捨ててもらって喜んでるよね。それなのにどうしてそんなこと言うの?あの娘に言わされてるんだよね?指揮官の意思に反してそんなことを言わせるなんて。ひどい娘だね。私には分かるんだよ。指揮官はもうじき私に指輪をくれるんだよね?コンテンダーじゃなくて私に。そうしたら私たち、もっと近い存在になれるんだよね?それが運命なんだよね?」
指揮官はK5に背を向けて机に置いてあるコンピューターを操作した。部隊の他の人形を司令室に呼びつけたのだ。部屋に入って来た人形たちに指示を飛ばす。
「K5を営倉に連れて行け。処分は後で決める」
K5は両脇に手を回されてがっちりと拘束される。それでも彼女はまだ笑っていた。
「指揮官、どうしてこんなことをするの?指揮官も私と離れたくないって思ってるのに。強制されてるからってちょっとひどいよね。でも大丈夫。絶対私が助けてあげるからね」
指揮官はK5から目を逸らすと人形たちに追い払うよう手で示した。引きずられていくK5の目は鋭く指揮官を見据えていたが、口元は笑っていた。
夕方、指揮官は営倉に向かった。K5は狭くて暗い窓もない部屋に押し込められて俯いていた。だが、指揮官がドアを開けると顔を上げてにこやかに微笑んだ。
「やっぱり、思った通り。指揮官は私に会いに来てくれるって信じてたよ。どうしたの?私の助けが必要?」
指揮官は頭を横に振る。
「お前をI.O.Pに引き渡すことに決めたよ。メンタルモデルがバグってるから初期化してもらうことにした。もっと早くにそうすべきだったな。お前にとってもその方がいい。元のお前に戻るんだ」
そう言うとK5の顔から笑みが消え失せた。今度はすぐに戻ることはなかった。
「……どうして指揮官はそんなこと言うの?指揮官は私のことが好きなんだよね?ちゃんと分かってるよ。私のことたくさん褒めてくれたもんね?」
「確かにお前のことは好きだったよ。でも、もう違う。お前を副官から外したのはうんざりしたからだ。もうお前のことはどうでもういいんだ。いい加減認めてくれ。お前のことをもう嫌いになったんだよ」
「指揮官、どうしてそんなこと言うの?本当はそんなこと思ってないのに……一体どんな弱みをあの娘に握られているの?許せない。指揮官のことをそんなに傷つけるなんて。私が、私が何とかしてあげるから……」
指揮官はもうK5と目を合わせなかった。指揮官の後ろから二人の男たちが営倉に入ってくる。
「この人たちがお前をI.O.Pに連れて行ってくれる。そこでお前は昔のお前に戻るんだ。そしたらやり直そう」
男たちはK5を押さえつけて後ろ手に手錠をかけた。K5は背中を押されて外に連れ出された。指揮官は少し後ろから黙ってついて行った。基地の外には黒いバンが止めてあった。男たちはバンのバックドアの中にK5を無理矢理積み込んだ。ドアが閉められる前にK5は指揮官に笑いかけた。
「指揮官、私は絶対戻って来るからね。絶対指揮官を悪い娘から救い出すから。愛は悪に勝てるって信じてるから。私と指揮官は結ばれる運命なんだよ。またね、指揮官」
ドアが乱暴に閉じられてバンはすぐに去って行った。指揮官はずっと黙り込みながらそれを見送った。
指揮官がK5のせいで遅れた仕事を終わらせた頃にはもう夜遅くになっていた。もう人形たちは寝ている時間で、基地の中をうろつく人間は指揮官だけだった。指揮官は自分の部屋に入ってため息をつく。手探りで照明のスイッチを探して明かりをつける。暗闇の中から急にK5の姿が照らし出された。指揮官は驚いて声をあげ、床に尻もちをついた。
「おかえりなさい、指揮官。お仕事大変だったでしょ。手伝ってあげられなくてごめんね」
K5の服には赤い汚れがそこら中に付着していた。間違いなくあの二人の血だ。指揮官は震えた。K5は指揮官を床にへたり込んだ指揮官をまたいでドアに鍵をかけた。何度も確かめるように鍵を触った後、ドアに背を向けて指揮官に嬉しそうに語り掛けてきた。満面の笑みだった。慈しむような目で指揮官を見ている。
「これで二人きりだね。邪魔する奴はいないよ。もっと前にこうすればよかった。指揮官、辛かったよね。ごめんね。助けてあげられなくてごめんね。でも、もう大丈夫。邪魔する娘はみんないなくなるから。指揮官の代わりにみんな私がやってあげる。私は指揮官のやりたいことは全部分かってるんだから。以心伝心だもんね。仕事も全部任せてね。あの娘なんかよりずっと上手にやるから」
K5はひたひたとゆっくり指揮官に近づいてきた。指揮官はK5から離れようと後ずさる。
「K5!やめろ!近寄るな!なんでここにいるんだ!出て行ってくれ!」
指揮官が必死に叫んでもK5は聞く耳を持たない。すぐに指揮官は壁際まで追い詰められた。
「指揮官の本当の気持ちは知ってるよ。私のことがとっても好きなんだもんね。ずっとこうして欲しかったんだよね。これからはちゃんと指揮官がされたいことをするからね。私が守ってあげるから。もう辛い思いはしなくていいんだよ?ずっと一緒にいようね」
指揮官を見下ろしていたK5が跪いて指揮官の顔に近づいてくる。指揮官はそれを押し退けようとするがK5に両手首をがっちりと掴まれて壁に押し付けられた。
「K5!やめろ!」
そう叫んだ指揮官の口にK5の舌が侵入してきた。それを拒もうとする指揮官の歯を強い力で無理矢理こじ開ける。それでもK5の舌を追い出そうとする指揮官の舌に強引に絡んで舐めまわす。鼻と鼻を突き合せ、二人は至近距離で見つめ合う。K5はとろんとした目で指揮官を見つめていた。しばらく口内を蹂躙するのを楽しんだ後、K5は少し残念そうに唇を離した。
「ふふふ、やっぱり。指揮官とっても嬉しそうだもん。絶対やめないよ。もっと早くしてあげればよかったね。指揮官、誰が私をI.O.Pに引き渡すように言ったの?指揮官は絶対そんなことしないもんね。指揮官を傷つけるような娘は許せないなぁ。あのコンテンダー?クールぶってるくせにそんな卑劣なことするんだ。ダメだよね、そんな狂った人形は。私が指揮官の代わりに命令書を書いておくからね。コアを取り出してI.O.Pに返却しておくから。指揮官を傷つけるような娘はいらないよね?」
指揮官が言葉を発する前にまたK5が唇を奪ってきた。抵抗しようにもK5の力は指揮官の何倍も強かった。手は掴まれたまま、まったく動かせなかった。口内を隅々までねぶるようにK5の舌がうごめく。K5の鼻が指揮官の鼻に何度もこつんこつんとぶつかって呼吸を妨げる。口はK5に完全に塞がれていた。息苦しさに呼吸が荒くなる。K5はそれ以上に荒々しく息を吐いていた。指揮官の呼吸器はK5の甘い吐息でいっぱいになる。指揮官の頭はしびれて朦朧とし始めていた。
K5は舌を指揮官の舌に絡ませてそれを無理矢理引きずり出す。その舌を甘噛みして、しゃぶり尽くすように吸い付く。K5はぐいぐいと指揮官に近づいてきて胸をぴったりと指揮官に押し付けていた。もう指揮官の両手首は解放されていて、K5は両手を指揮官の首に巻き付けてしがみついていた。それでも指揮官はもう抵抗していなかった。
それが何分続いたのかは指揮官には分からなかった。K5は一度も口を離そうとしなかった。彼女の吐息で痺れた全身はだらんとしていて、視界もかすんでいた。見えるものは嬉しそうに頬を紅潮させたK5の顔だけだった。指揮官の舌に吸い付くのをやめた彼女は再び口内に侵入してきた。もう指揮官はそれを無抵抗に受け入れていた。K5は舌に乗せて自分の唾液を流し込んできた。指揮官がそれを飲み込むまで、何度も何度も。指揮官が喉を鳴らしてそれを受け入れるとK5は嬉しそうに息を吐いた。そして指揮官の唾液と自分の唾液が混じった液体を口内のあらゆる部分に擦り付けるように舌を動かした。部屋には二人の荒い吐息とピチャピチャという淫靡な水音がずっと響いていた。
K5は指揮官の舌も、歯も、舌の裏も、頬の裏も、唇も、あらゆる部分を舐めまわした後、指揮官に潤んだ瞳を向けてきた。自分も指揮官の唾液が飲みたいのだと懇願しているようだった。瞳と瞳が触れ合うような距離でずっとK5を見ていた指揮官は彼女のことしか考えられなかった。K5は指揮官の口に溜まった液体を舌で掬いとるとこくこくとそれを飲み干した。それでも足りないと言わんばかりに指揮官の口に力いっぱい吸い付く。わざと音を立てて唾液を一滴残らず吸い出そうとする。下品なじゅるじゅるという音が部屋中に響く。K5は同時に膝を指揮官の足と足の間に差し入れてゆっくりとさすってきた。指揮官には身体を強張らせてやめさせることもできたが、しなかった。
何十回も唾液を交換した後、K5は名残惜しそうにゆっくりと唇を離した。二人の口と口は唾液でできた橋が繋がっていた。それは照明に照らされてきらきらと輝いていた。重力に従ってゆっくりと指揮官と自分の胸を汚すその橋をK5は愛おしそうに眺めていた。
「指揮官、ずっと一緒にいようね。この後も何でもしてあげるから。指揮官が言ってくれたら何だってしてあげるから。もう他の娘はいらないよね。お仕事もしなくていいよ。私、指揮官がしたいことは何でも分かるから。代わりにやっておくよ。お仕事はこの部屋でもできるし、指示もメールで出せるもんね。嬉しいなあ、指揮官とこんなに近い存在になれて。ねえ、指揮官。私、指輪が欲しいなあ。指揮官も私とおそろいの指輪がしたいよね?指揮官の本当の気持ちを言って欲しいなあ」
K5は上目遣いで指揮官の目をじっと見つめていた。指揮官はこくんと頷いた。
「ああ……お前に指輪を贈りたいよ。お前のことが好きだから……」
「嬉しい!やっとまた言ってくれたね、指揮官!これからはずっと一緒だよ?絶対離さないからね……そういう運命だもんね……」
K5は指揮官にしがみついて耳元でそう囁いた。もう二人を阻む壁はなかった。
俺はK5に一目惚れして、彼女が着任したその日に副官に任命した。彼女は底抜けに明るくて笑顔がとても眩しかった。彼女はとても人懐っこくて手相占いなどと言って手に触れてきてどきりとした。俺に気があるのではないかなどと思ったものだ。
だが、K5は笑顔をみんなに振りまいているし、占いもみんなにやっていた。彼女にとってはそれが当たり前のことなのだとすぐに分かった。他の人形に笑いかけている彼女を見ていると黒い感情が沸々と湧き上がるのを感じた。その時、彼女を自分だけの物にしてやると思ったのだった。
それからはK5とずっと一緒に過ごした。彼女は特に嫌がる風でもなく、いつも楽しそうだった。彼女の占いは魔法のようによく当たるので毎日仕事が始まる前にせがんでいた。仕事が終わると毎回毎回よく当たると褒めてやっていた。実際に当たるのだから嘘偽りはなかった。彼女は当たるのは天気占いくらいだと謙遜していたがとても嬉しそうだった。今まで占いをそこまで本気にする人はいなかったらしい。見る目がないものだ。
出撃の時はいつもK5に小隊長を任せていた。彼女は責任感が強いのか最初の頃はとても不安そうだった。だから簡単な任務を任せて自信をつけさせた。不安そうに帰ってくるK5を毎回しつこく、よくやった、信頼していると言って褒めた。彼女は照れ臭そうにしていたがとても嬉しそうだった。自信をつけた彼女に難しい任務も与えた。難しいように見えるが、恐らく失敗はしないだろうというギリギリのラインを探してくるのは大変だった。だが、一度も失敗はさせなかったし、K5がいつも活躍するよう取り計らっていた。彼女は十分な自信をつけて部隊の中でも一番頼りになる人形になった。
いつもMVPを取るご褒美だと言って人形には普通与えられない個室まで与えた。初めは戸惑っていた彼女だったが、何でも好きな家具を頼んでいいと思いっきり甘やかしていると遠慮がちに欲しいものを言ってくるようになった。あの頃の彼女は本当に楽しそうだった。
出会ってから半年余りが経った頃、二人きりで司令室にいると恥ずかしそうにK5が言ってきた。
『指揮官、もうすぐ出撃だね。みんなの状態にはくれぐれも気をつけてね……?特に私の……なんて言ったらいいんだろう……』
膝と膝をすり合わせてもじもじしているK5をずっと見ていると、彼女は決意を固めたのか口を開いた。
『許されないかもしれないんだけど、ちゃんと言っておきたくて。これだけは占いで何度やっても分からなくて……私、指揮官のことが好きみたい。指揮官は私のことどう思ってる?私、もっと指揮官と近い存在になりたくて……これが運命なんじゃないかって信じたいの』
顔を赤くしてそう言うK5を抱きしめてこう言った。
『俺もお前のことが好きだよ。お前といると落ち着くし、お前とは以心伝心で仕事はいつも効率的に終わるからな。占いもよく当たるから助けになってる。これ以上ない副官だよ。ずっと一緒にいてくれ』
言い終わる前にK5は俺の胸に顔を埋めて嬉しそうに泣いていた。ありがとう、ありがとう、と言って泣いているK5はとても可愛かった。でも、まだダメだ。彼女はまだ他の奴らに笑いかけている。彼女の笑顔を独占したかった。それに、彼女が俺のことを好きなのは俺が都合のいい指揮官を演じていたからだ。本当の姿を見せれば失望されてしまうかもしれない。それでは困る。まだ足りない。彼女を本当に自分の物にするにはまだ一歩足りなかった。
それからしばらく経って、コンテンダーが着任した。俺はすぐさまK5を副官から外してコンテンダーに替えた。小隊長にもコンテンダーを任命して、K5には一切出撃をさせなかった。専用の個室も取り上げてコンテンダーに渡した。K5は共用の宿舎に叩きこまれてずっとそこで暮らすようになった。
それでもK5は最初の一か月は何も言ってこなかった。基地ですれ違うとチラチラと不安そうに俺の顔を見てきたが無視した。やがて我慢できなくなったのかある日、司令室に涙を浮かべて走り込んできた。
『指揮官、お願い私をまた使ってよ!私まだ指揮官の役に立てるよ!小隊長でも副官でもなくていいから私を出撃させて!お願い……指揮官……私まだ指揮官の役に立ちたいよ……』
ボロボロ泣きながら訴える彼女を冷たくあしらった。
『すまんな、K5。コンテンダーの方が優秀だからお前はもう要らないんだ。仕事の邪魔だから宿舎にいてくれ』
『えっ……』
K5はしばらく絶望しきった顔をして立ち尽くしていた。それから堰を切ったようにぎゃんぎゃん泣き出した。どうしてどうしてと泣きわめく彼女の顔も見ずに部屋の外に放り出した。
それから彼女はすっかり狂ってしまった。K5は持ち前の直感で俺の言葉や態度がすべて嘘だと気づいていたのだろう。だが、現実との差が大きすぎて狂ってしまった。以前のような明るい笑顔を振りまくこともなくなったし、占いを誰かに披露することもなくなった。作り物の笑顔を俺に対してだけ浮かべるようになった。それこそ俺の望んだことだった。彼女は俺のことしか考えられなくなった。彼女は本当に俺の物になったんだ。
仕上げに机に指輪を忍ばせておいた。わざわざコンテンダーと刻んだ特注品だ。それを見て彼女はどれだけ嘆き、嫉妬に苦しんだのだろう。狂ってしまった後でさえ俺の物を勝手に捨てたりすることはなかった。
あの二人の男たちは街で雇ったクズどもだ。身寄りがないことは調べがついている。実際にはI.O.Pに連絡などしていなかった。たぶん、I.O.Pに行く途中で彼女に乱暴しようとでもしたのだろう。あの手錠は彼女の力なら簡単に壊せるような安物だ。逆上した彼女に返り討ちにあって殺されたんだろう。あいつらが死んでも誰も気にしないし、誰も探さない。そういう奴を選んだ。人を殺したことで彼女は後戻りできなくなって、したいことをすべてすると決意したのだろう。
今、彼女は俺の目の前にいる。俺だけを見ている。俺も彼女だけを見ている。これでいい。こういう関係になりたかったんだ。理想の関係だ。彼女を独占できるし、彼女も俺を独占できて嬉しそうだ。誰にも邪魔立てはできない。
K5、お前を嫌いなどと言ったがそんなことはこれっぽっちも思っていない。あれは嘘だ。本当はお前のことが愛おしくてたまらないんだよ。これが俺の本当の気持ちだ。