死が二人を分かつまで-side stories- 作:garry966
グリフィンとの共同作戦に参加した404小隊。416は鉄血の秘密基地D6に乗り込む。そしてAR小隊を出し抜き、単独でハンターを撃破した。416は己の価値をグリフィンに知らしめたのだった。
今回の作戦の結果に私は大変満足していた。それはそれはもう満足している。言い表せないほどの達成感と優越感がある。ついに念願かなって私の価値を世界に示せたからだ。鉄血の雑魚どもを皆殺しにし、エリート人形であるハンターも殺してやった。それも私一人でだ。AR小隊が惨めに這いつくばり、喚き散らす中で任務を完遂した。当たり前だ、私は完璧な戦術人形なのだから。戦場に私情を持ち込む無能な連中とは違う。これで人間たちも私がAR小隊よりも優れた存在なのだとはっきり分かっただろう。
ただ、気がかりなことがある。45のことだ。D6から拠点に戻る間、ずっと暗いような感じがした。一見するといつも通りだが、どことなく沈んだ雰囲気だ。いつも見ているので分かる。いや、別に好きで見ているのではなく……とにかくおかしい。9に話しかけられても上の空で空返事だ。車を運転させられている間も気になって仕方がなかった。バックミラーで彼女をチラチラ確認しながら帰路についていたのだが、一度も目が合うことはなかった。
あと、あとだ。大して重要なことではないけど、45は私に何も言ってきていない。私は戦果を挙げた、今までで一番の大戦果だ。これで404小隊の名も上がるだろう。少しくらいは労いの言葉があってもいいんじゃないの?別に褒めて欲しいわけじゃないわよ、もちろん。
でも、いつもは何か言ってくる。よくやったとか、さすが完璧な人形だとか。私をこき使うために褒め称えてその気にさせようとしてくる。そういう意図があるのは分かるけど、やっぱり言われると嬉しい。今回、張り切ったのはあいつに私のことを認めさせるためだ。前に馬鹿みたいな敗北をしたことの挽回のつもりだった。あいつに私が完璧で優秀であると認めさせたい。そう思って寝る間も惜しんで一人で訓練していたのに。まあいい、まだ隠し球がある。あんたの表情を変えさせてやるわよ、45。
無人地帯にある私たちの拠点に戻って来た。G11が珍しく俊敏に動いて自分のベッドに飛び込んだ。
「いやあ、疲れた疲れた。私はもう休むから一日は起こさないでね」
「あんたは何もしてないでしょ。働いたのは私よ」
「私だって頑張ったよ。ずっと寝ないで立ってたし。それから……息もしてたし瞬きもしてた」
「屁理屈こねるな。まだ寝るのは早いわよ。これを見なさい、あんたたち」
私は鞄からビニール袋を取り出した。中身のせいで黒ずんでいる。袋を取り払って血で汚れた機械部品を手に取った。
「うえ……何それ」
G11が目を細める。確かに人形にとってはグロテスクに見えるかもしれない。私は浮ついた気持ちで少し声を弾ませた。
「何を隠そう、ハンターのメモリよ。あいつの頭から生きたまま引きずり出した。エリート人形のメモリ、それも無傷なものは早々手に入らないわ。間違いなく高く売れるでしょう」
「だから手袋汚れてたんだ。すごいじゃん、416!」
9がニコニコ笑いながらそう言った。そうよ、私はすごいのよ。これで私のことを見直したでしょう。私はただ泣いているだけの人形でも、役立たずでもないのよ。得意になって45を見る。彼女も同じように私を褒めてくれると思った。
「そう。じゃあ、それは私が16LABにでも売っておくから。ちゃんとその分あんたにはボーナス払うわ。横取りはしない」
45の反応はだいぶ想像と違った。それだけ言って無表情に私からメモリをひったくる。少し待ってもそれ以上の言葉が続くことはなかった。
「……それだけ?」
思わず考えが漏れた。私は報酬など欲しくはない。いつだって名声のために戦っている。45の口からただ一言、やるわねとか、見直したとか、そんな言葉を聞ければ満足だ。こいつに私が完璧だと思わせるために戦ったのに。45は怪訝な顔をする。
「他に何が?ご褒美でも欲しいの?ママのおっぱいでも恋しい?やらないわよ」
「このっ……!何でもないわよ!ムカつく奴ね!私は訓練してくるから邪魔しないでよ!」
45はいつものふざけた調子ではなく嘲るように言ってきた。私はカッとなって銃を掴んで拠点から出て行った。ドアを叩きつけるように閉める。なによ、あいつ!ふざけたこと言ってきて!イライラする。少しくらい褒めてくれたっていいじゃない。減るもんでもないんだし。期待していたのに不発に終わってガッカリだ。いやいや、私は何を考えてるんだ。あんな奴に何を言われようが、どう思われようがどうでもいいじゃない!あいつなんて性格最悪で私をこき使ってくるだけの人形よ。あいつの言葉に一喜一憂する必要なんてないわ。でも、胸のムカつきが取れなかった。
気持ちを落ち着かせるために私は公園へ向かった。前に失敗してあいつに慰められた後、ここを訓練場に改装した。廃材やタイヤを積み上げて障害物を作り、迷路のようにしてある。マネキンを廃墟から取ってきて角という角に設置した。近接戦闘に対応するための訓練施設だ。自分の戦闘能力を磨くため、昼夜問わずここに籠って訓練に励んできた。曲がり角から飛び出して並べてあるマネキンの顔に素早く照準を合わせる。反射的に発砲。動きが身体に染みついている。一瞬にしてマネキンの頭が弾けて倒れた。一発も外さない。慣れたものだ。これを何度も何度も繰り返す。
訓練に打ち込むと段々落ち着いてきた。感情を排除した反復練習を繰り返していると思考が身体を離れて自分自身を客観視しているような気分になってくる。三弾倉ほど使い切った頃、訓練をやめてベンチに腰を下ろした。
冷静になった私からは怒りも消え失せ、失意だけが残った。どうして45は私のことを褒めてくれないんだ?子どもみたいだが正直楽しみにしていた。あいつの役に立って、認めてもらおうと思って頑張ったのに。
理由を考えよう。戻って来てから45の様子はおかしい。D6では人形がたくさん死んだ。それを見てショックを受けたとか?いや、まさか。平気な顔で殺害を命じてきたのはあいつだ。見ず知らずの人形が死んで傷つくような奴じゃない。知り合いだったとしても眉一つだって動かすかどうか。これは違うな。
役立たずだと思っていた私が活躍して悔しい、これもないな。45はそんな間抜けじゃない。そもそも私があそこに行ったのはあいつの命令でだ。まあ、私が行かせろと言ったのだけど。それとも私があいつの忠告を聞かなかったからか?ハンターと戦う直前、彼女は逃げてもいいと言ってきた。結局そのまま戦ったけど、あれは逃げろという命令だったのかもしれない。負ける気はしなかったし、45にいいところを見せたかったので従わなかった。それを怒ってるとか?確かに危険な敵ではあったけど、無傷で勝ったんだからいいじゃない。でも、これもしっくりこないな。
最悪の想像がある。前回の失敗で45の中の私は無能な役立たずで固定されてしまっていて、どれだけ活躍しようとそれを覆せないとか……。一度無様を晒したことは取り消せない。過去に戻ってやり直せるならそうしたいが現実には不可能だ。あれは汚点だ。あれがある限り私は完璧になれない。失敗したのは私が悪いけど、挽回させてほしい。今回、あれだけの戦果を挙げたんだし。45の中の私はいつまでも銃のメンテを怠って敗走する間抜けのままなのか。悔しくて我慢ならない。それ以上に悲しかった。完璧とまではいかないかもしれないけど、私はあんたの役に立てる人形よ。自分だけじゃ何も出来ないってわきまえてるし、ちゃんと毎回隅々までメンテをするようになった。いつもあいつの見えるところでやっている。だから、私のことを見直してほしい。隊の足を引っ張る人形じゃなくて、404小隊の一員として認めてほしい。
『あんた一人でも十分でしょ?大した敵じゃない。小隊の中で一番戦闘能力の高いあんたに任せるわ。頼りにしてるわよ』
ミスをする前、45が言ってくれた言葉だ。あの出来事を思い返すたびに頭の中をぐるぐる回る。もう二度とこんなこと言ってくれないのか。くそう、あれさえ無ければ。私はあいつの中では完璧でいられたのに。
悔やんでも仕方がない。取り返しのつかないことだ。辺りもすっかり暗くなってしまった。拠点に戻ろう。どんな顔して45に会えばいいのか、分からない。もしかしたら、機嫌が直ってるかもしれないな。そうしたらいつも通りだ。そうだったらいいな。私は少し楽観的になって足を進めた。
そんな妄想は一瞬で打ち砕かれることになった。
「ああ、416。帰って来たの。あんたに渡すものがあるわ」
45は私に薄型タブレットを押し付けてきた。画面を見ると小さな文字が大量に踊っていた。
「なにこれ?」
「あんたの譲渡契約書。サインはしてある」
「……えっ?」
返事が一呼吸分遅れた。背筋に寒気が走った。身体がブルリと震える。身体は確実な反応を見せたが頭は理解を拒んでいた。目を見開いて45の顔を見た。涼しげな顔をして私を見つめ返している。
「グリフィンも手が早いわね。あんたがハンターを倒したと聞いてもう連絡してきたのよ。HK416を売らないかって。特殊部隊に迎え入れたいとか」
「そ、それで私を売るわけ……?」
声が震えてしまった。動揺を隠しきれない。ようやく理解が追い付いてきた。譲渡?売るってこと?売るってどういうことよ。私はもういらないってこと……?404小隊のメンバーじゃなくなる……?私は家族なんじゃなかったの?そんな物みたいに売買されるの?確かに私はあくまで45に買われただけだけど、そんなのって……。
「あんたが決めなさい。ここにいるか、グリフィンに行くか。自分の道は自分で決めて。あんたはずっと人間に評価されたいって思ってたんでしょ?夢が叶ったじゃない、よかったわね」
「あ、あんたはそれでいいの?私を売り払って隊員が一人欠けても……」
私は一縷の望みをかけてそう聞いた。45の口から私が必要で、いなくなって欲しくないという言葉が飛び出してこないか期待した。
「別に。口出ししないわ。好きにして。あんたの費用は向こうが全額支払ってくれるみたい、謝礼もつけてね。そこは気にしないでいいから」
45は素っ気なくそう言うと顔を背けてしまった。違う。私が聞きたいのはそんな言葉じゃない。私のことを認めて欲しかっただけなのに、どうしてこんなことに。信じられない。
「……少し考えさせて」
私はふらふら歩いて自分のベッドにたどり着き、G11みたいに潜り込んだ。掛け布団に頭から足まですっぽり包まる。自分で決めろなんて言われたって……いつも命令ばかりしてくるくせに。自分で考えたことなんてほとんどないわよ。グリフィンに行ってもいいなんて、お前は小隊にいなくてもいいって言われたようなものじゃないか。やっぱり45にとって私は役立たずの使えない人形のままなんだ。何をしても覆せないんだ。
もしかして、ハンターと私を戦わせたくなさそうだったのも最初から売るつもりだったからとか?私が傷ついたりしたら商品価値がなくなるから。そんなのって……あんまりだ。
『戦術人形のくせに使えないわね。何が完璧な人形よ。あんたに高い金を払ったのは失敗だったかもしれないわ』
以前の冷たい彼女の言葉が頭をよぎる。45はずっと私を買ったことを後悔していて早く売り払いたかったのかもしれない。泣いている私を迎えに来たのも無駄に金のかかった人形が勝手にどこかに行かないようにしただけとか……家族だと言ってくれたのも全部嘘?そんなぁ……ひどいわ。
涙が出た。泣き声を聞かれないように押し殺す。代わりに身体が震えてしまった。どうしてよ、45。私はあんたに必要としてもらいたかっただけなのに……ちゃんとあんたの役に立てる人形だって思ってもらいたかっただけなのに。どうしてよ、どうして私のこと見てくれないのよ。あんたは私のことをちゃんと見てくれる世界で唯一の存在だと思ってたのに。でも、今はもう違うのか。今まで散々私のことを能無し扱いしていた人間どもが私を必要としていて、私のことを評価してくれてた45が私はもう要らないと言う。どうすればいいのよ、分からない。ショックで働かない頭は最適解を導き出してくれなかった。涙で濡れた顔を枕に擦りつけてその夜は過ごした。
私は廃ビルの屋上に出ていた。夜空に三日月が薄っすらと輝いている。グラスを傾けて少しだけ酒を口に含んだ。強い度数に思わずむせそうになる。慣れないことはするものじゃないわね。でも、今は苦味が心地よかった。誰かが階段を登ってくる音が聞こえてくる。足音で判別はつくけど振り向かなかった。屋上につながるドアがゆっくりと開いた。
「45姉、お酒飲んでるの?一人でなんて珍しいね」
9だ。私が背を向けたままでいると横までやって肩を並べてきた。月を見上げる私の顔を伺う。
「ねえ、45姉はあれでいいの?416すごい傷ついてるみたいだったけど」
「あれでいいって……何が?」
私がはぐらかすと9はムッとして口を尖らせた。
「だから、416をグリフィンに売るなんて言ったことだよ。45姉、何考えてるの?家族を売るなんてさ。45姉だって416のこと家族って言ってたでしょ?」
9は怒ってるようだった。それもそうだ。9は家族と認めた相手を手放したがらない。そういう娘だ。私だってそうだけど。
「行くか行かないかは416自身に決めさせる。私がここにいろって言ったら命令になるでしょ?」
「そうかもしれないけど……あんな言い方じゃ伝わらないよ。416は出て行けって言われたって勘違いしてるだろうし。それにさ、45姉だって分かってるんでしょ?416は45姉に褒められたがってた。前に失敗してからずっと必死に訓練してたし、わざわざ必要でもないのにD6に行ったのはミスを取り返そうとしてたからだよ。416はずっと気にしてた。私にだって分かるもん。頑張ったって言ってあげればいいのに」
そんなことは百も承知だ。416はミスをしでかしたことを死ぬほど悔やんでいる。自分が完璧でなくなってしまったと思い込んでいる。もちろん、あれは416のせいじゃない。銃に細工したのは私だ。416の泣き顔が見たかったし、プライドをへし折られて私に縋り付いているところを見たかった。その望みは叶ったし、実際素晴らしかった。今日の416の表情もとっても素敵だ。私に褒められなかっただけでしょげてしまったし、私にまた捨てられようとしていることに気づいて泣きそうになっていた。ベッドでは多分泣いてたんだろうけど。もっと見ていたい。胸が高鳴った。416が傷つけば傷つくほど私は愛おしさを覚える。それは認める。でも、彼女が泣きそうになっているのを見ると同じくらい罪悪感が芽生える。痛めつけられて弱った彼女も好きだけど、416には自信に満ち溢れた顔をしていて欲しい。相反する感情が身勝手な私を締め付ける。彼女のことが好きだから彼女が傷つくところは見たくない。どの口で言うんだって感じだけど今回のことは416を傷つけたくてやっているわけじゃない。
私が黙っていると9がしんみりと言ってきた。
「45姉も不器用だよね。行って欲しくないなら416にそう言えばいいのに。45姉が416のこと大事にしてるのは分かるよ。最初に連れて帰って来た時は驚いた、いきなりだったから。欲しかったんでしょ、416のこと。なのにどうして突き放そうとしてるの?45姉が何考えてるのか分かんないな。ちゃんと言った方がいいと思うよ」
9はそう言って屋上から立ち去った。まったく、鋭いわね。長い付き合いだから私のことはよく分かってる。それでも全部見透かされているわけじゃなくて安心した。私にだって自分が何を考えているかはっきり分かってない。混乱してるかもしれない。
もちろん、私は416にどこにも行って欲しくない。だって、私は彼女のことが好きだ。何物にも代えられない私の大切なもの、手放せるはずがない。それなのにこんなことをしているのはある考えのせいだ。彼女の銃に細工してひどい失敗をさせた後、416に私を選んで欲しくなった。縛り付けるのはやめにして、彼女の自由な選択に任せようと思った。その考えは日に日に大きくなって、ついに行動に移すまでになった。それがグリフィンとの共同作戦になど参加した理由だ。今までは416のことを見せたくなかったので避けていた。416が正当に評価されて私のもとから去ってしまうのが怖かった。
416が私のもとにいてくれる理由はただ一つ、彼女を必要としている存在が私だけだから。私で無くとも必要としてくれるなら誰でもいいんじゃないか、そう思えて仕方なかった。だから、416を衆目に晒し、活躍させるのにはとても勇気が必要だった。ハンターとも戦わせたくなかった。416が死んでしまうんじゃないかという危惧はもちろんあったが、それ以上に相手を倒してしまうことが怖かった。完璧な人形の名に偽りのない活躍をさせたくなかった。これで人間も416の真価を見た。もう416を見ているのは私だけじゃない。みんな喉から手が出るほど彼女が欲しい。最初からそうあるべきだったのかもしれない。416は強力なハイエンドモデルで、影の中でないがしろにされるような存在じゃなかった。
これで416はみんなに必要とされる人形になった。彼女はどこへでも行けるようになった。私の呪縛から解き放たれて、好きな道を選べる。彼女が404小隊に留まる理由が「私を必要としてくれるのは45だけだから」というものなら、もうここにいる必要はない。それでも、それでもだ。私のことを選んで欲しい。私は416の本物の感情まで欲しくなっていた。
だから、彼女を褒めたりしなかったし、わざと突き放すように接した。彼女を認めない私と彼女を必要とする見ず知らずの人間たち、両者を天秤にかけても私を選んでもらいたかった。選択肢を与えた時、本当は404小隊に、私のもとにいると即答して欲しかった。私には416が必要不可欠だ。もう彼女無しでは生きていけない。でも、416にとっては違う。私じゃなくても別にいい。それでも、私の手を取って欲しい。それでようやく私と彼女は対等になれるんじゃないか、そういう風に思っている。自分から想いを伝える勇気もないし、彼女にしてきたことを告白する勇気もない。要するに私は身勝手なのだ。
416に選択肢を与えて選んでもらおうなんて私らしくもないな、思わず自分を笑ってしまう。404小隊を結成してからというもの、すべて自分の力でやってきたじゃないか。必要なものは自分の力で勝ち取り、自分の力で生き残る。他人の犠牲になんか目もくれず好き勝手にやってきた。人間も人形もたくさん見殺しにしてきた。それなのに416に自由をくれてやって、彼女の慈悲にすがろうなんてお笑いだ。そんなものはくだらない。
自由、自由か。反吐が出る。人形に自由なんてない。私が特別なんだ。他の奴らにも自由や権利を保障してたらとっくの昔に死んでいただろう。他の連中なんて捨て駒くらいでいいんだ。権利を尊重してやることはない。なのに、私はD6でなんと言っただろう。
『人形にだって自由があるわ。自分の道を決める自由がね。人形の存在意義は人間のために身を捧げることだけじゃない。自分のために生きることだって出来るはずよ』
まったく馬鹿なことを言ったものだ。あのAR-15を見ていたら思わず口走ってしまった。何かを犠牲にして、何かを守ろうとする、身勝手とも言えるあの人形の行動を見て、思い出したくないことまで思い出した。記憶の奥底に封印していたはずの思い出だ。正視に耐えない、私が耐えられないから思い返したくなかったのに。
『45、人形だって自分のために生きることが許されてもいいはずよ。あたいたちは人間の道具じゃない。自由に自分の道を決められるはずなんだ』
『人形にだって権利があるんだ、自由に生きる権利が。どこへなりとも行くがいい。好きに生きろ』
記憶の底から呼び声がする。私は頭を振るってその声を打ち消した。違う。違う違う違う!何が自由だ、私はそんなもの認めないぞ。416にだって自由は認めない。認めるのは選択の自由だけで、その後の行動の自由は認めない。416を手放す気は微塵もない。416に私以外の奴を見させてたまるか。そんなのは絶対に許さない。彼女の中には私のダミープログラムを仕込んでおいた。その気になれば身体を意のままに操れる。もし彼女が私ではなくグリフィンを選んでしまったとしても、絶対に私のもとから離れさせない。9たちには416は行ってしまったと嘘をつき、別の場所で彼女を飼おう。四肢を切り落として私の前に這いつくばらせてやる。私の手が無ければ食事も排泄も出来ない姿にしてしまおう。そうなればすぐに私のことを必要とするようになるでしょう。馬鹿な選択をしたことを後悔して、心の底から謝ってくるはず。もう遅いけど。416は私のモノだ、誰にだって絶対に渡さない。私はもう二度と大事なものを失ったりしない!
結局、私は弱いままだ。416を解放する気はこれっぽっちもないし、彼女の選択を受け入れる勇気もない。416が私を置いてどこかに行ってしまうなど耐えられない。だから、お願い。私を置いていかないで。私のことを選んで。私のことを好きになってよ、416。
「ねえ、本当に行っちゃうの?私は416に行って欲しくないけどな……」
「もう決めたことよ。私はより活躍できる場所に行く」
翌日の昼、出て行こうとする私を9が引き止めてきた。私は無愛想にあしらって拠点のドアを開けた。
「私も416にいなくなられると困るんだけど……その分私がこき使われることになるし……寝てられなくなるじゃん」
「普通の人形は寝てる暇なんてないのよ」
G11がうんざりしたように呟いた。彼女に返事をするために振り返る。実際は45の表情を見るためだ。正直なところを言えば出て行く決意が固まったわけではない。出て行く振りをすれば45が行くなと言ってくるんじゃないか、ちょっと期待があった。でも、45はいつも通り、むしろいつも以上に涼しげな顔で私を見ていた。まるで何でもない風に。胸がキリキリと痛んだ。何でよ、私はこんなに思い悩んでるのに。あんたにとって私はそんなにどうでもいい存在なの?傷つくな、くそ。ふざけんじゃないわよ。
「416、ほら」
45が何か投げつけてきた。咄嗟に片手で受け止める。手のひらを見ると何かの鍵だった。
「バイクのキーよ。こないだ9が拾ってきたやつを直したの。ボーナス代わりにあんたにあげるわ」
「……そう」
やっぱり45は引き止めてくれないのか。こいつにとって私はお金に換えられる程度の存在でしかなかった。むしろ役立たずな私を厄介払いできてせいせいするとでも思っているのかもしれない。悔しい。悔しくてたまらない。
「じゃあね、あんたたち」
私は逃げるようにその場を立ち去った。バイクに飛び乗ってエンジンを始動させる。それからはあてもなく全速力で廃墟の中を駆け巡った。一直線でグリフィンの施設を目指せばすぐだが、気持ちの整理がついていなかった。まだ404小隊に少し未練が、というか大分あった。あの倉庫にいた期間を除けば私はすべての時間を404小隊で過ごしている。そんなすぐに見切りをつけられない。
日が落ちてきて辺りがオレンジ色に包まれ始める。ふと夕日が見たくなってバイクを止めた。川のほとりまで歩いて行ってその場に座り込んだ。人間の営みから解放された川は澄み渡っている。川面に夕焼けがてらてらと反射して太陽が二つあるみたいだった。初めて倉庫の外に出た時、あいつに初めて会った時もこんな空だった。私はその時、きれいだなって思ったんだ。夕日じゃなくて、あいつの笑顔が。私をからかってくる時のニヤついた顔とは違う、屈託のない笑み。私はすっかり目を奪われてぽかんとしてしまった。あの笑顔はまだ頭に焼き付いている。公園に私を迎えに来てくれた時も同じ笑顔を浮かべていたな。あの表情は作り物だったんだろうか。また見たいな、不思議とそう思った。
このままグリフィンに行っていいんだろうか。私は自分の価値を証明した。M4A1やM16A1より、誰よりも優れた人形だと人間どもに知らしめた。その甲斐あってグリフィンは素早く私を買い取ろうとしてきている。私が完璧だって世界に分からせ、ありとあらゆる奴らから必要とされ、最高の場所で輝く、それこそ私がずっと望んできたことのはずだ。全部叶った。でも、どうしてだろう。全然嬉しくない。D6から帰って来た時はあんなにわくわくしていたのに。
404小隊にいる間、私を評価するのは45だけだった。仕方ないからあいつの命令に従って、どんな無茶もこなしてやった。そしてあいつが私をいい気にさせるため褒めてくる。乗せられているのは分かっていたけど渋々ながら喜んでいた。私の価値を認めてくれるのは45しかいなかったから。でも、他の人間たちから必要とされて初めて分かった。私は誰かに求められたかったんじゃない。誰でもよかったわけじゃない。あいつに、UMP45に認めてもらいたかったんだ。私が必要とされたいと思っているのは彼女だけだ。だって……だって私は彼女のことが好きだから。
私を薄暗い倉庫から連れ出してくれた彼女のことが好きだった。夕日に照らされて輝く彼女の笑顔が好きだった。憎たらしい顔で私のことを小馬鹿にしてくる彼女も、私のことを信頼して無茶な任務を押し付けてくる彼女も、どんな彼女も好きだった。今までは時々しか考えなかった。恥ずかしいし、なんだか負けた気がして悔しいから。ニヤつきながら私をからかってくるあいつの顔が浮かんできて胸が落ち着かなくなる。でも、彼女に必要とされなくなって初めてはっきりと言葉に出来た。私はあいつのことが好きだ。
あいつがいなきゃ私はずっと倉庫で埃をかぶっていただろう。今頃は解体されて予備パーツにされていたかもしれない。何の戦果も挙げていなかった私の手を取ったのはあいつだけだ。戦果を挙げてから手のひらを返した人間どもとは違う。その戦果だってあいつの指揮があったから。私を一番上手く使えるのはあいつだ。ミスもしないし、容赦もしない。作戦に私情を挟み込んで台無しにすることもない。他の人間の指揮で戦うなんて考えられない。私が指揮官と認める相手はUMP45、彼女だけだ。
私が彼女を必要とするのと同じくらい彼女にも私を必要としてもらいたい。今の彼女は私のことを見てくれない。役立たずだと思われてる。でも、それはそもそも私が悪い。ミスをしでかしたのは私だ。それなのに彼女が私を褒めてくれないから拗ねてた。子どもみたいで恥ずかしい。あれで駄目ならもっと大きな戦果を挙げればいいじゃないか。簡単なことだ。ハンターくらいじゃ足りないならもっと強力なエリート人形をぶっ殺してやればいい。私にはそれが出来る。なにせ私は完璧な人形なのだから。あいつが期待していた通りの完全無欠な人形になってやる。あいつの小生意気な口から謝罪の言葉を引きずり出してやる。今まで悪かったと、見る目がなかったと言わせてやる。そしてあんたを買ってよかったと、さすがだと言わせてやる。
私は立ち上がった。無駄な時間を過ごしたな。元から選択肢なんてない。私の居場所は404小隊だけだ。今までも、これからも。チビで弱そうなムカつく人形のいるところに戻ろう。あのクソに思わせてやろう。HK416が必要だと。あと……いつか言わせてやる。私のことが好きだって。
玄関から大きな音がした。416がドアを蹴り開けたのだ。戻って来ているのは位置情報を監視していたので分かっていたが、それでも胸が躍った。
「あれ?416戻って来たんだ」
9がキョトンとして416を見る。彼女は9を気にせず私の方にズンズン向かってきた。どういう行動を取るのか見守っていると私の胸にタブレットを叩きつけてきた。
「私のことは私が買うわ。売り物みたいに誰かに売買されるのはまっぴらごめんよ」
「え……?あ、そう……」
予想外の言葉が出てきたので返答に窮した。彼女はチラチラ私の表情を伺いながら続ける。
「あんたは金が欲しいんでしょう。ならハンターのメモリを支払い分に充てるわ。それで自分を買い取るわ。文句ないわね?」
「いや、全然足りないけど」
ああ、416は私がお金欲しさに彼女を売り払おうとしたとでも思っているのか。そんなんだったら最初から高い金出して買わないわよ。おかしくって笑ってしまった。
「えっ……じゃ、じゃあどこかで残りは借りてくるわ……」
「銀行にでも行くつもり?人形に金貸してくれるところなんてないわよ」
勢いを失いつつある416の姿がかわいくて笑みがこぼれた。手で口元を隠すが頬が緩んでしまう。世間知らずよね、416お嬢様は。どこかに送り出すにしても教育がもっと必要かな。
「えーっと、それじゃあ……」
「いいわよ。残りは私の貸しにしておいてあげる、無利子でね。それでどうするの?これから」
焦っていた416は自信ありげな顔を取り戻し、腕を組んで私を見た。取り繕ってはいるが少し不安そうだ。
「ここにいてやるわよ。404小隊に残るわ。借金は働いて返す。思ったんだけど、私がいなきゃあんたたちは何も出来ないでしょう。私に比べれば弱っちいし。ありがたく思いなさいよね、この私がいてやるって言ってるんだから。みんな私を必要としてるのよ、完璧な人形を」
416は言い切るとふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。416は私を選んでくれたのか。他の人間たちが彼女を必要としてもこの私のところに戻って来てくれた。胸がじんわりと熱くなる。これで私と彼女は対等、とはいかなくても少し近づけたかな。隠しごとはいっぱいあるし、告白できないような想いもある。でも、嬉しいな。416が私のことを必要としてくれた。私は彼女にとってその他大勢じゃないんだ。
「ふふっ、完璧な人形さんに戻って来てもらえて嬉しいわ。じゃあ、これからも私のために働いてもらおうかな?ああ、そうそう。言い忘れてたけど今回はよくやってくれたわ。ハンターも一人で倒しちゃうしね。あんたならやればできるって思ってたけど。欠けられると困るからこれからもよろしくね。頼りにしてるわよ」
416は驚いて目を丸くした。そんなこと言われるとはまったく思っていなかったのか目をぱちくりさせて私の顔をじっと見つめている。やがて我に返って再びそっぽを向いた。
「ふ、ふんっ!当たり前でしょ!いつも言ってるじゃない。私は完璧なのよ。あれくらい当然だわ」
416はちょっと上ずった声でそう言った。頬を少し赤くさせた彼女は嬉しそうだった。まったく、分かりやすい奴。こんな私の言葉で一喜一憂して、尻尾を振ってついてくる。戦闘能力は飛びぬけているくせに子犬みたいな奴だ。そんな彼女が好きだった。彼女の表情が変わるたびに私の感情も揺れ動く。どうしようもなく好きだ。惚れた弱みってやつかな。出会ってから彼女のことばかり考えている。一目惚れだから仕方ない。
「じゃあ、416も戻って来たことだしパーティーやろうよ!祝勝記念!昨日やらなかったからさ」
9がニコニコ笑って提案してきた。もう両手に酒瓶を抱えている。
「そうね、開きましょうか。グリフィンから報酬をもらったからちょっとくらい贅沢してもいいわ」
「ふーん、じゃあ付き合ってあげるわ」
言葉とは裏腹に416は笑顔を浮かべていた。それから416を改めて隊に迎え入れたことを祝って乾杯した。416が戻って来てくれて本当によかった。あのままグリフィンに行ってしまうのならバイクに仕込んだプラスチック爆弾で彼女の両脚ごと吹き飛ばすつもりだった。そうならなくてよかった。あとでバレないように外しておかないと。グイグイ酒を流し込む416を見ながら思った。
拠点はすっかり静かになっていた。この隊にしては珍しく騒がしい宴会になったな。416があれだけ飲むところは初めて見た。色々ため込んでいたのかもしれない。今は酔い潰れてソファで仰向けになっている。強くないくせにがぶがぶ飲むからだ。ブランケットを持ってきて彼女にかけてあげた。416はくすぐったそうに身をよじる。普段はずっとムッとした表情を作っているが、寝顔はあどけないな。起こさないようにそっと彼女の髪を撫でつける。今までいろいろ悪かったわね。あんたにひどいことばかりしてきた。本当のことを話したら許してくれるかな。それとも怒って出て行ってしまうかな。それが怖くてまだ言う気にはならない。悪いけどしばらく私の我がままに付き合ってね、416。
私も寝ようと思って416から離れようとした。その時、後ろから手を引かれた。振り向くと上体を起こした416がいた。眠そうに目を擦っている。その反面、私の手首をがっちりと掴んで離さない。起こしちゃったか。髪を撫でてたのはバレてないかな。子どもっぽい仕草をする416に少しドキドキしながら彼女の反応を待った。
「45、どこ行くの?」
「いや、自分のベッドに行くだけよ」
416はぼんやりとした目で私のことを見つめていた。いつもは凛々しいのでこんな顔はしない。なんだか声も寂しさを訴えているみたいでますます子どもっぽい。酔っ払ってるんだ。
「私から離れないでよ、45。どこにも行かないで……」
彼女は私の手を力いっぱい引っ張ってきた。引き寄せられてソファに尻もちをついてしまう。416はさらに予想外の行動に出てきた。後ろから私の身体に抱きついてきたのだ。
「ちょ……!何すんのよ!」
急な行動に慌ててしまう。心の準備が出来てないのに密着されて胸が高鳴った。416のやわらかな胸の感触が背中に伝わってきた。彼女は私にしがみついたまま、甘えるように首元に顔を擦りつけてくる。
「45……あんたが好きよ。私のことを頼りにしなさいよね……そのために頑張るから」
今、なんて言った?416が私のことを好きだって?こいつが直接そんなこと言ってくるなんて……酔っているとはいえ信じられない。顔が火照って熱い。胸の内側から熱があふれ出てきて火傷しそうだった。416が私と同じ気持ちなんて、そんなまさか。彼女が好きだったのは世界で唯一彼女を評価する私であって今の私ではないんじゃ……混乱していた。頭が日の光で茹で上げられたみたいに働かない。脱力していると彼女はソファに寝そべった。抱きつかれたままの私も一緒に引き倒される。
「ちょっと……!離しなさいって……」
一旦彼女の腕の中から抜け出そうとした。こんな状態じゃ胸がときめいて落ち着かない。私の身体にしがみついた腕を引き剥がそうとしたが、中々離れない。こいつ力強いわね……!私の力じゃ抵抗できない。ジタバタしていると物音で9が起きてきた。あくびしながら近づいてきて、私たちを見て固まった。二人仲良く添い寝しているように見えているんじゃ。私は慌てて言い訳した。
「こ、これは違うのよ。416が酔っ払って抱きついてきただけで、私は何もしてないから!」
「ふふふ……あははははははは!416ったら45姉のこと大好きじゃん!抱き枕にされてる!おっかし!」
9は私たちを指差すと腹を抱えて笑い出した。こっちもまだ酔いが残ってるわね、まったく。416はますます腕に力を入れて私を締め付けた。
「416、離しなさいよ……笑われてるじゃない」
「嫌よ、離さないわ。45、何があったって離れない……」
「ひぃ~苦しい!416、45姉のこと好きすぎでしょ!あはははははは……ひひひ……く、くるしい……」
9はお腹を押さえて床で笑い転げだした。笑いごとじゃないわよ。416にこんなこと耳元でささやかれてたらおかしくなる。416の手を掴んで身体からはがそうとしたが、全然動かない。
「9!笑ってないでこいつを引き剥がしてよ!一人じゃ敵わないのよ」
「いいじゃん、45姉。一晩くらい抱き枕になってあげれば。45姉が416の抱き枕……くくくっ……」
9は噴き出してまた笑い出した。416はさらに密着してきて、私のうなじに顔を埋めた。
「45のにおいがする……」
「嗅いでんじゃないわよ!この変態!」
身をよじって逃げ出そうとしても416の腕が私の胸元に絡みついていてどうにもならない。私にはただ416を受け入れることしかできなかった。そうこうしているうちに9は笑い疲れて寝てしまったし、416も私の髪の中で寝息を立て始めていた。彼女の吐息が私の耳をくすぐる。こんなんじゃ寝られないわよ。416をいいように扱いすぎて仕返しされた。416が私のもとにいてくれると実感はできたけど、ドキマギして一睡も出来なかった。ため息をついて長い長い夜が明けるのを待つ。
「45、昨日は何もなかったわよね。私は何もしてないし、あんたも一切記憶がないわ。そうでしょ?」
翌朝、目が覚めた416はソファから飛び起きてそう言ってきた。顔は真っ赤でプルプル震えている。どうやら全部覚えているらしい。自分が何をして、何を言ったのかも、全部。恥ずかしがっている彼女もかわいくて笑ってしまった。少しからかってやろう。
「そうね。どっかの人形が抱きついてきたり、私の髪の匂いを嗅いできたりなんて全然してないわよね」
「してない!私は絶対そんなことしてないわよ!全部あんたの幻覚よ!黙らないと頭吹っ飛ばすわよ!」
416は銃を手に取った。肩を上下させながら、頬を紅潮させて私のことを睨みつけている。銃にはセーフティがかかっているし、銃口を私の方に向けたりはしてこないけど。あんたはプロだし、私のことが好きだからそんなことは絶対しないのよね。
「私にそんな口聞いていいの?昨日の音声データ再生しちゃおうかな。なんて言ってたっけ?たしか……私のことが好きとかなんとか……」
「言ってない!そんなこと言ってない!」
「黙っていて欲しいんなら何すればいいのか分かるわよね?まずは何をしてもらおうかな?服従のポーズでも取ってもらおうか。仰向けになってお腹見せてくれる?」
「やるわけないでしょ!くそっ!好きにしなさいよ!昨日のは全部でまかせよ!酔ってたから思ってもないこと口走っただけ!誰があんたみたいな性格の悪い人形のことなんか……!あんたなんか大嫌い!……でもないけど、ともかく全部違うのよ!」
416はリンゴみたいに顔を赤くして叫んだ。その様子がおかしくってニヤける。
「はいはい。完璧な人形さんは嘘もお上手ね」
「いい加減黙りなさいよ!」
416は掴みかかってきて私の口をふさいだ。こんな416もかわいいな。もう彼女を傷つけたり、泣かせたりするのはやめにしよう。彼女は気高く、ありのままでいるのが一番美しい。416、私はあんたが好きよ。きっとあんたが私に抱いている感情よりずっと大きく。今はまだ言う勇気が出ないけれど、いつか必ず言うから。あんたにしてきたことも包み隠さず言おう。逃げてばかりじゃ駄目だな。彼女と向き合って、対等になれるように頑張ろう。
私は彼女のことが、HK416のことが誰よりも大切で、好きで、愛していた。多分、これからもずっと。絶対離したりしないんだから。彼女もずっと私のことを見ていてくれるといいな。