第二話
崩れ去る骸骨に安堵の息を漏らす。実際に戦うのはマシュであって自分は後ろから指示を出すだけなのだが、やはり慣れるようなものではない。
「戦闘終了しました。
お怪我はありませんか、所長」
崩れ去る骸骨を背に、マシュが振り返る。レイシフトした先の炎上した都市の中、マシュがデミ・サーヴァントなるものになっていたり自分と契約し守ってくれるようになったらしい、襲い来る骸骨の集団から何まで訳の分からないこと続きだがそれでも生き残るためにと通信をつなげてきたロマンの指示のもと霊脈地なる場所に向かっていた。
その最中あたりに響く女性の悲鳴を聞きつけ向かうと、数時間前にスナップのきいた平手を披露してくれた女性が、悲鳴を上げながらも手から何かを骸骨に打ち込んで撃退している場面に出くわしたのだった。
悲鳴を上げているせいで途絶えることなく骸骨が寄ってきているのだろうが、そんなことよりもあの手から何か出す奴はどうやったら習得できるのだろうか。やはりあれか気とかそんな感じのものを修行するのだろうか。
「か、感謝するわマシュ」
肩で息をする女性──所長はひとまず礼を述べると、こちらをにらみつけてきた。だいぶ長いこと骸骨と戦っていたのだろうか、それとも悲鳴の出しすぎだろうか。
「色々いいたいことはあるけれど、情報共有を優先しましょう。いいわね」
もちろんです、と返す。そこから自分とマシュはカルデアで起きた爆発事故のこと、そしてもう一人いるはずの転移者岸波さんのことを伝えた。
「……状況は理解しました、あなたとマシュの契約を認めます。
ここからは、私の指揮下に入ってもらいます、まずはベースキャンプの作成を行います」
説明が進むにつれ顔が青ざめる所長は、息を先ほどよりも粗くしながらも務めて冷静に言葉をひねり出した。
「魔力の収束する場所を探します。この街の場合……」
言葉を詰まらせ、思考を巡らせようとしている所長にマシュが助け舟を出した。
「このポイントです、所長。
所長の足下であると報告します」
「そ、そうなのね。
わかりました、マシュ。あなたの盾を触媒にして召喚サークルを設置します」
強がる様子もない所長は、淡々とすべきことを述べ指示を出す。ここはなるべく早くベースキャンプを作成し休息をとるべきだろう。許可を求めて視線を送るマシュにうなずいて答えた。
───
共に月の聖杯戦争を駆け抜けたサーヴァント、
彼の表情が見えるような距離ではないが、おそらく彼のことだまだ殺しにかかるだろう。足に力を籠め正面のビルの陰に隠れる。これで解決できるはずもないが、今は一秒でも長く思考に時間をさきたい。
─どう生き残るか。
目前の問題から、その後の問題まですべてをひっくるめて、どう生き残るか。そのことに専念する。地面に散らばる瓦礫を握りしめ、粗い断面が手のひらに刺さる。
アーチャーの目的から考察を開始する。アーチャーの立っていた立地──橋の先のビルの屋上からは橋の上とそこから伸びる大通りが見通せるはずだ。アーチャーのスペックは身をもって知っている
─なんで
そのように思考している最中にアーチャーからの狙撃は行われない。彼のことだ障害物ごと貫くような武具の投影はできるはずだし、障害物で姿が直接見えなくとも何ら問題ないはずだ。
ならばと、覚悟を決める。あたりを見まわして最寄りの障害物を探す。一度呼吸を整えてから、一息に駆け出す。
待ち構えていたようで次々と武具の射出が行われる。着弾と同時に発生する衝撃に背中を押されるが、あくまでそれだけでこちらを殺すような衝撃ではない。つまるところ高ランクの宝具の射出ではない。
吹き飛ばされた勢いで結果的に障害物の陰に隠れる形となったが飛び散った瓦礫でやや傷を負う。上がった息を整える。走ったことよりもアーチャーから向けられた殺意に体が縮こまってしまっている。
その間にアーチャーからの追撃はない。
─侵入者の阻害を行っているのだろうか。
通信のできない状況下でこの場所が危険であると伝えるには、彼がこの場所が危険であると判断できるような情報を与えればいい。
すでに幾度かの狙撃で削り取られたアスファルトの道路を見やる。同じ回数だけ着弾音が鳴り響いたが、周囲は蠢く炎の轟々という鳴き声が響いている。着弾音がかき消されるほどのものではないがある程度のカモフラージュになってしまっているのは確かだ。
なら──
─ならもっと大きい攻撃をさせればいい。
───
召喚サークルの設置とベースキャンプの作成を完了させ、その一方でロマンからカルデアの現状の報告を受けた所長の面持ちは一層暗くなっていった。
「生き残ったのが二十名に満たない?
マスター適正者はどうなったの!?」
『全員が危篤状態です、スタッフの数もですが医療器具が足りません。数名に限るのであれば助けることも可能ですが……』
「すぐに冷凍保存に移行しなさい!蘇生は後回し死なせないことを優先しなさい!」
勢いよく指示を飛ばす所長に従いロマンは冷凍保存の手配をしだす、その一連の流れを見ていたマシュは驚いた顔で言葉を漏らした。
「驚きました。冷凍保存を本人の許諾なく行うことは犯罪行為です。所長としての責任よりも人命を優先するのですね」
驚きと感心を込めたマシュの言葉は、しかし所長によって否定される。
「47人の命なんて背負えるわけないでしょう。
それに死んでさえいなければ何とでもなるわ」
その言い方は一見冷たいようであったが、その奥には何か違うものがあるように感じた。
一通りの指示を終え、現状の目標──岸波さんとの合流とこの特異点の発生原因の特定を定めると、所長はぐったりと設置した椅子に座りこんだ。マシュは補給された飲み水を差し出した。
所長は低級であると言っていたがそれでも怪物がのさばる場所に、岸波さん一人で放置するわけにはいかない。しかし所長もすぐに動けるようではないと、ひとりでに焦っていたことをロマンが気遣ってくれたのか、先ほどまでとは異なる明るい声で話しかけてきた。
『大丈夫、岸波君はただで死ぬような人間じゃない。
彼との合流が最優先だがさきにオルガマリーを休ませよう』
ただで死ぬような、とはいささか不穏ではなかろうか。
「そうね、自他ともに認める生き汚さの持ち主だったわね」
ロマンの言葉に反論した俺だったが、所長はそこで初めて表情をやわらげた。岸波さんと所長は仲がいいのだろうか。
『お互いいろいろと才能はあるのにマスター候補ではないからね、オルガマリーは負い目に感じていたんだけど岸波君はそういったこと気にしない気質だったからね、いい具合に彼女のストレスのはけ口になっていたというか』
小声でロマンが教えてくれる。なるほどなるほど、ところで所長にマスター適正がないことを自分に教えてしまってよかったのだろうか。
『もちろん怒られるね、だから君にだけ教えたんじゃないか』
では怒られてください、ドクター。
『……え?』
「あなた口が軽すぎるのではなくて?」
小声にしていても聞こえるかもしれないってことを失念していたようだ。
「今のうちに先輩の知らない情報の共有を行いましょうか」
マシュの教師適正は高いようだ、あのメガネの似合いっぷりからしても確かである。
岸波さん、合流にはもう少しかかりそうです、ごめんなさい。
ネロ強化は不意打ちでしたねそれまでの強化クエストが軒並み未所持鯖だったのですがネロ強化は本当にうれしいです。
三千文字程度だと読みごたえに欠けますが書きやすいのでこのくらいに抑えていこうかなと考えています。
感想お待ちしています。
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