Fate/Grand Order Ex   作:Luegner

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第四話

 新たな参入者──キャスターの登場で、形勢が大きく変わった。容易く撃ち出される火の玉は所長が放っていたそれよりも遥かに強力で、敵サーヴァント──ランサーも無視はできない。マシュに向けていた猛攻は自然とキャスターに矛先を変えていた。

 キャスターが大きくかわした時に生じた隙を狙い、ランサーが大振りの攻撃を仕掛ける。ランサーが自ら語っていた得物の説明を真に受けるのであればそれは不死殺しの鎌(ハルペー)、生身で受ければその被害は窺い知れない。だが、マシュの盾ならば防げるはず──

 

「マシュ、いまだ!」

 

 お粗末な指示をマシュは意図を察してくれたようで、ランサーのハルパーがキャスターを捉える直前に自身と盾をねじ込む。マシュの盾に、大振りな攻撃を弾かれたランサーに大きな隙が生じる。そしてその隙をキャスターが逃すはずが無かった。

 

 キャスターの使うルーン魔術によって現れた大きな火柱がランサーを呑み込む、火柱が収まると同時にランサーが消滅していた。未熟なマスターと未熟なサーヴァントによる初の対サーヴァント戦は、想定外の乱入者の助けによって勝利を掴んだ。

 

───

 

「あ、あのありがとうございます。危ないところを助けていただいて」

 

 戦闘の終了を確認すると所長とともにマシュとキャスターのもとに駆け寄った。マシュの感謝の言葉にたいしてキャスターは笑顔で返す。

 

「おう、おつかれさん。この程度貸しにもならねえ。

お嬢ちゃんこそあのタイミングはよかったぜ」

 

「せんぱ……マスターの指示があったからこそ反応できただけです。私だけじゃとても」

 

 マシュたちと合流すると、通信を介してロマンによってカルデアの目的と状況をキャスターに説明し始めた。そしてキャスターからもこの状況──いつの間にかに豹変していた聖杯戦争の説明を受けた。

 七騎のサーヴァントによる聖杯戦争は唐突に豹変し、真っ先に動き出したセイバーによってキャスターを除くサーヴァントが倒されたこと、そして倒されたサーヴァントはセイバーの指揮下に置かれており、セイバーかキャスターが倒されない限りこの聖杯戦争が終了しないこと。

 

「セイバーとその指揮下のサーヴァントはどこにいるのかしら?」

 

 所長の表情は硬い。ランサー一騎に対しマシュ一人では勝負にならなかったのだ、これでセイバー含め残り五騎が相手となると勝ち目は限りなく薄い。

 

「アサシンとライダーはすでに倒した。あとはバーサーカーとアーチャーだな。

本命のセイバーは対岸にある大空洞、あそこでずっと何かを待っていやがる。バーサーカーはどこにいるかわからねえ、出くわさねえことを祈るだけだな」

 

 所長はキャスターの言葉を聞きやや安堵した面持ちを見せた。キャスターはそこで言葉を切り、彼方を睨む。その方向は確か橋が見えた方向だったはずである。

 

「アーチャーはこの感じだと橋にいやがるな、しかも微かにだが別の音が混ざっているな。誰かと戦っているのか?

あんたらのいうもう一人の魔術師ってんなら急いだほうがいいな、しばらく音が聞こえることが不思議なくらいだ、サーヴァントでも召喚できてねえならすぐにでも死んでるぜ」

 

「っつ!!

藤丸、マシュすぐに向かうわよ。

ロマニ!怪物がいない道を案内しなさい!」

 

 安堵した面持ちを一気に青ざめさせた所長は勢いよく指示を出し走り出す、俺もまたキャスターの言葉を聞くと同時に走り出していた。キャスターはそんなこちらを見てニヒルに笑みを浮かべる。

 

「目的はおなじみてえだな、そういうことなら仮契約だが手を貸すぜ坊主」

 

───

 

 振り上げられた白黒対の双剣だったが、獲物を食らうことはかなわなかった。その担い手は驚きを隠せずにいた。

 想像することすらできなかっただろうまさか()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 左手に生じた熱が魂に刻み込まれた記憶を震わせる、ひどく懐かしい声を聴いた。

 

「──まったく、呆れたものだ。

君は窮地に陥らないとサーヴァントを召喚できないのかね、まともに会話すらできない状況に呼び出されるこちらの身を案じたことは?」

 

 双剣を押しとめたのは、それと全く同一の双剣。そしてまたその担い手もまた同じ顔のサーヴァント。アーチャー・無銘──岸波白野とともに月の聖杯戦争を駆け抜けたサーヴァントの()()だ。

 開幕から皮肉を飛ばしてくるアーチャーだが、視線は敵サーヴァントから外さない。苦悶の表情を浮かべる敵サーヴァントは後退し一度距離をとった。

 

─覚えているのか、岸波白野を。

 

 一種の感動を覚えながら口をつく言葉がある。他人事じみた物言いは、その記憶が魂に刻まれた記憶であり、自身の経験したものではないからだ。一種の罪悪感すら覚えながら発した言葉に、アーチャーは優しい声色でこたえた。

 

「どうやら君の魂と、皮肉にも()()()を媒体に召喚されたようだな。

いっただろう、オレは魔術師の才能ではなく君の心の在り方を認めて剣を預けたのだから」

 

 ああ、忘れるはずもない。このサーヴァントは幾度となく守ってくれたのだ。尽きぬ感謝と信愛はこの身にも確かに──

 

「さしあたって私自身を撃退する前に問いておこう、なに一種の通過儀礼だ。

君が私のマスターか?」

 

─俺はアーチャーのマスター、岸波白野だ。

 

「契約成立だマスター」

 

 錬鉄の剣を岸波白野は再度手に入れた。

 

───

 

 錬鉄の英霊、同一人物ではあるが同一存在ではない二騎は本来はステータスとスキルに大差ない。そんな二騎が争い決着がつくにはどちらかがミスをするか外的要因(マスター)の存在があるかだ。

 セイバーに倒され指揮下に置かれたことで若干のステータスの向上がみられる敵サーヴァントに対し、アーチャー(無銘)が対抗できていてあまつさえ反撃を随時決めているのはマスターによる敵サーヴァントがとる行動の先読みと、合間を縫って挟むコードキャストによるものだ。

 敵サーヴァントもそれは重々承知しており、時折マスターである岸波を狙う一撃を放つがアーチャー(無銘)がそれを許すことはない。自身に向けられた攻撃よりも俊敏に反応し対応する。マスターもまたアーチャー(無銘)が守りやすい位置を守っている。

 

 互いに呼応し、かちりとはまるような動きを見せるマスターとサーヴァント──若干のステータス補正を得ただけのサーヴァントが勝てるわけはなく、重ねて不運なことにこの主従は敵が強ければ強いほどそれに追随して力を得る。最強に至る最弱であるのだ。

 

 万雷の喝采を得るような勝利でもなく絢爛さもなく、二人は堅実に勝利を得た。

 

「まさか鏡写しの自分とまた相対するとはな、今回は相手にマスターがいなかっただけましか。

……いや、今のは忘れてくれ」

 

 鏡写しのアーチャーと交戦した記憶は自分にはない、アーチャーのしゃべる内容に首をかしげていると。アーチャーは何かを察したように言葉を取り消した。いまだに取り戻していない記憶があるのか、それともアーチャーが別のなにかと勘違いしていたのか、今の自分にはわからないことだった。

 とりあえず現状の説明をせねば、と口を開きかけたところで遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「岸波っ!」

 

 アーチャーのものと比べると昔のことではないがそれでも懐かしく聞こえる声と、こちらに駆け寄る四人分の人影が見えた。

 

 

 マシュが眼鏡をはずしているように見えるのだがなくしてしまったのだろうか、早急に補給してほしいところである。

 

───

 

 藤丸君たちをはじめとした四人と合流し彼らが設置したベースキャンプに移動し、所長と自分でお互いの状況を報告し確認した。途中でロマンから通信機器の補給を受ける。

 藤丸と仮契約を結んでいたキャスターはこちらのアーチャーを初めこそ警戒していたがセイバーとのつながりがないことを確認するとその警戒を解いた。というよりもこのキャスターもしかして──

 

「(君の想像通りおそらく凛と契約していた青いランサーだろう。あの英霊にはドルイドとしての逸話もあるからなキャスターとしての適性を持っていてもおかしくはない)」

 

 アーチャーからの肯定を念話で受ける。槍があればと豪語していたし間違いないだろう、キャスタークラスを嘆いてはいるものの、その割には身のこなしはランサーの頃までとはいかないが軽い、さすがはケルトの大英雄である。

 そんなことを思いながらも、こちらに来てからの自身の行動とその理由を所長たちに説明する。途中からアーチャーは呆れた顔を、藤丸君とマシュは驚いた顔をしていたが所長は冷静に聞いていた。キャスターは爆笑していたが。

 そう思っていたが、話し終えると同時に所長に怒鳴り声をあげられる。

 

「あなた馬鹿じゃないのっ!!」

 

 敵のアーチャーがあまりにも初見殺しだったのがいけないと抗議するも、しばらくは怒られ続けた。周りに助けを求めても藤丸君とマシュは目をそらすしアーチャーに至っては反省しろとばかりの表情だった。キャスターは爆笑していた。

 




 戦闘態勢を解除すると眼鏡が戻ってくるマシュの仕様に驚きを隠せないザビーズ


 cccコラボのピックアップ第二弾が怖くて寝れない今日この頃、コメントを励みに頑張ってます。

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