キャスターのほかに残っている最後のサーヴァントであるセイバーが待ち構えているという大空洞、そこに向かう途中で最後の休憩と称して付近の学園に身を休めていた。ロマンから通信機器の補給を受けたこともあり、学園内では各々分かれて休息をとっていた。
俺はアーチャーを連れて、屋上で来る戦いに向けて準備を行っているオルガマリーを遠目に見える位置で自身の境遇に関して説明していた。つまるところ第二の人生に関してだ。
「(なるほど、君が記憶を思い出すに至った経緯に思うところはあるがおおむねの事情は把握した。
仕事仲間ともうまく付き合えているみたいじゃないか、その仕事仲間がほぼ壊滅しているのが問題だがね)」
アーチャーは一通り聞き終えるといつものように眉間にしわを寄せた。小言の冴えは相変わらずのようである。
「岸波、少し時間はあるかしら?」
今まで屋上の真ん中で何らかの準備をしていたオルガマリーが、こちらを気遣ってのことかやや遠くから声をかけてきた。大丈夫だと応えるとこちらに向かってきた。
「席を外しておきたいところだが状況が状況だ。いないものと諦めてくれ」
アーチャーは肩をすくめてやや距離をとるがそれでも話は聞き取れる距離だった。彼なりの気遣いにオルガマリーは頭を軽く下げて感謝の意を示した。
しかし、何の話なのだろうか。無茶な真似はするなと大目玉を食らってからはまともな会話をしていなかったので想像がつかなかった。
「……勝てるのかしら」
ぽつりとこぼれたのは小さな弱音だった。藤丸君の前では極力抑えていたのだろうがそれが今になってこぼれ始めた。先ほどキャスターと話していたが何か吹き込まれたのだろうか。
「倒さなくてはならないセイバーの真名を聞いたわ──アーサー・ペンドラゴン、聖剣エクスカリバーを担う騎士王がセイバーとして召喚されたみたい」
アーサー王はあまりにも有名だ、その伝説然りその強さ然り。彼女が不安になるのも当然だ。
月の聖杯戦争の七回戦であたったサーヴァント・ガウェインの生前の主でもある。あの絶大な強さを誇ったガウェインが仕えていたほどだ弱いわけがない。
少し離れていたアーチャーの表情がゆがんでいる、驚いた様子ではなくどこか諦めていたような節さえ伺えた。たしか彼は生前に騎士王にあったことがあると語っていたはずだ、そのような表情をするのも当然である。
─俺は敵が誰であれ、諦めたくは無いです
本来は技術スタッフとしてカルデアに勤務していた岸波が予期せぬ事態によってレイシフトに巻き込まれ、そのレイシフト先でマスターになってしまった。
だというのに、当然のようにマスターとして振る舞い当然のように諦めない意思を見せる岸波に、オルガマリーは諦めたように笑みをこぼす。少し離れたところにいたアーチャーは肩をすくめながらもその表情は優しかった。
「そうよね、あなたに聞いたのが間違いだったわ。
藤丸たちを呼んでくるからあなたは先に校門で待っていなさい」
首を縦に振り肯定を示すとオルガマリーは下の階に繋がる階段に向かって歩き出す。しかし数歩歩いたところで振り返って戻ってきた。
「ち、ちなみにマスターになって何か変わったことはないかしら?
今まで励起状態になかった魔術回路が活動し始めたとか」
─自分の召喚は参考にしない方が良いかと……
「自分のは、ってなんかズルしたのねっ!
教えなさい!所長命令です、とっとと吐きなさい!」
詰め寄って両肩を掴み揺さぶるオルガマリーだが死にかけた瞬間に召喚に成功したなどと話したところで所長を瀕死に追いやることなど──
─オルガマリー所長はなんで無傷なんですか?
「なんで、ってロマンと一緒で失礼ね!」
どうやら分からないらしい、オルガマリーは普段から防壁機能のある魔術礼装を着ているが、レイシフトする直前に見た管制室の光景からして無傷ですむはずが無い。
通信機器を起動しロマンに連絡を入れる。
─ロマン、管制室のモニターは死んだままか?
『あぁ、爆発の影響で壊れたままだね。
修復にリソースを割いた方がいいかい?』
ロマンの問いかけに首を振る、恐らく管制室の状況は
ただでさえ最悪と言える状況だがそれ以上かもしれないと頭を痛める。今は少しでも考察と魔力の回復に努めたい。
─アーチャー、着地は任せる。
屋上の壊れたフェンスから身を乗り出し、そのまま飛び降りる。アーチャーが捕まえてくれるだろうと、迫る地面を気にせず思考を巡らせる。
アーチャーは自分が直接契約したサーヴァントである。そのためカルデアと繋がりを持つマシュと契約した藤丸君と自分の状況は異なる。
つまるところ、カルデアから受ける魔力供給の効率が悪いのである。先程の戦闘で消耗した魔力を僅かばかりでも回復しなければ
効率の悪さに目を瞑りカルデアから供給してもらうことも考えたが、カルデアの壊滅的な状況を鑑みるにそのような余裕はない。
アーチャーに抱えられたまま校門に着いていたらしく、やや遅れて集まってきた他の面々にどうしたのかと心配される羽目になってしまった。これから敵地に向かうというのにアーチャーの手を煩わせる訳にもいかないので降りる。
大空洞に着くまでの編成として前衛にマシュ後衛にキャスターを置き、アーチャーは離れた位置から索敵に当たることになった。マシュと藤丸君の戦闘経験を積むためにも道中の怪物に関してはマシュが担当することになった。
「坊主も癖のあるサーヴァントを引いたもんだ、あいつのマスターは苦労するねぇ」
─そうでもない、小言は多いが頼りになる。
先の戦闘で消耗した自分と後衛のキャスターはやや気を抜いて会話に興じている。どうやらキャスターもアーチャーとはどこかで縁があったようでこちらに同情していた。
「サーヴァントに単騎で挑むたぁよっぽどの規格外か……とんでもねぇ馬鹿しかいねぇと思っていたが。
なるほどあいつと縁があるとは坊主は後者だな?」
爆笑しながら馬鹿にしてくるキャスターだが否定しにくいのも事実である。否定した場合少し前を歩くオルガマリーに殴られることは想像に難くない。
「まぁお前さんが言うように戦力になるのはたしかだな、俺がランサーならあいつもセイバーもやってたがキャスターでの現界だとどうもなぁ」
─キャスターも外れクラスじゃないと思う。
そうか、ルーン魔術の使い手か。
キャスタークラスにしてはやや武闘派すぎる
───
─索敵お疲れ様、アーチャー。
「実際のところ、警戒していたのはバーサーカーの接近だけだ。労ってもらうほどのことでもないさ」
大空洞の入り口でアーチャーと合流する。道中では警戒していたバーサーカーとの遭遇は起きず怪物を何体か倒すだけに済んだ。
労いの言葉にニヒルに返すアーチャーに先程のキャスターとの会話を伝える。苦々しく表情を歪めながらも、こちらの事情を察したアーチャーは了承した。
「これであとはセイバーを倒すだけだな。
嬢ちゃんの宝具が解放されてないが、まぁ後は土壇場でなんとかしてもらうしかねぇ」
「すみません、私が未熟なばかりに」
力を借りた英霊の真名が判らず、マシュは英霊の切り札──その英霊を英霊たらしめる宝具が未だに使用できていない。申し訳なさそうに視線を落とすマシュだが藤丸君が励ました。
「未熟なのは俺の方だ。
一緒に頑張ろう、マシュ」
この感じであれば、問題ないだろう。藤丸君の言葉にマシュも勇気付けられた様で応えている。
道中、セイバーと戦う前に宝具が解禁出来るように稽古をつけるかとキャスターに提案されたが断って正解だっただろう。ケルト神話の英雄の稽古など地雷に決まっている、稽古にかこつけて殴り込んでくるだろう。ケルトだし。
この先に待ち構えるセイバーを倒したところで問題が全て解決するわけではない。レイシフトする直前に見えた真っ赤に染まるカルデアスに爆発テロの首謀者──そしてオルガマリー。
夜空を見上げる、満天のとはいかないが炎上した地上に反して綺麗な空に満月を見つけた。左手の甲には止まらぬ熱を感じていた。
前に進むしかない、結局のところ自分にできるのはそれだけなのだから。
誤字報告助かっています。これからもよろしくお願いします。
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