失踪はしませんよ。
フヨフヨと浮遊感を感じる。空中に浮いているというよりは水の中を漂っているという感じだ。
(どこだ、ここ?)
なぜだか体が動かない。目だけ動かし、辺りを見るが何も無い。ただただ灰色の空間が続いているだけであった。
(どうしてこんな場所に?)
何も思い出せず疑問ばかりが浮かんでくる。なにか一大事が、人生を左右するような一大事があったような気がするがそれを思い出すことが出来ない。しばらく思い出そうと努力したがその甲斐なく何も思い出せず、代わりに猛烈な眠気が彼を襲った。
(さっきまで寝ていたはずなのに)
変わらず疑問だらけの彼だが、ここは体の生理反応に従っておくとした。願わくば目が覚めたとき、状況が変わっていることを祈って。
また目を覚ました彼だが、相も変わらずそこにあったのは灰色の空間であった。変わらない状況に落胆する彼だがすぐに異変に気付く。
「・・・・・・。体が動かせるな・・・・・・」
眠る前は指先一本も動かせなかったのに、今では体を十全に動かすことが出来る。浮遊感はあるが、水の中を泳ぐ要領で移動も出来る。自由を得た喜びもつかの間、辺りを見渡すと『窓』のような物がポツンと存在していた。これも眠る前にはなかった物だ。
「パソコンのモニター・・・・・・か?」
その『窓』の前まで移動すると、それまで何も映していなかった『窓』に砂嵐が生じ、次の瞬間には幼い子供がそこには映っていた。どこかで見たことのある風貌であったが思い出せない。『窓』の中の子供は3歳ぐらいに見えるが、その周りには大人の姿は無い。ただ、無心で塗り絵を塗ったり絵本を読んだりしている幼児が映るだけである。
(・・・・・・小さい頃の俺みたいだ)
まだ幼稚園に入るぐらいの頃、両親は共働きでなかなか俺にかまってくれなかったのを思い出す。懐かしい記憶に浸っていると『窓』の中の幼児に変化があった。それまで無心で塗り続けた塗り絵を放り出し二人の大人の元に駆け寄っていった。アングルが変わり、両親と思われる男女の顔が明らかになる。
「これ、父さんと母さんだ・・・・・・。」
そこに映っていたのは、とうの昔に帰らぬ人となった俺の両親だった。ということは、
(この小さい子は俺か?)
俺は小さい頃の自分の写真を見たことが無いので、この幼児が俺だとは分からなかった。三人は手を繋いで幸せそうに夕暮れの中に消えていった。と同時に砂嵐が生じ、『窓』そのものが消滅した。
(一体、何だったんだ?)
と考え込んだ瞬間、ドドドドッという何かが崩れるような音が響いてくる。辺りを見回すと、至る所にヒビが入っていく。
まるで、この灰色の空間そのものが崩壊していくようだ。
「一体、何が!?」
必死に手をかき足をバタつかせ、その崩壊から逃れようとするがもう遅い。彼はこの崩壊に飲まれ気を失った。
「フフッ、ようやくお目覚めかしら。お寝坊さん」
幻想郷のどこか。彼女と彼女の眷属たちの屋敷。
その一室で彼女は笑っていた。
彼がこの屋敷に来る日は近い。
雰囲気だけお楽しみください。作者は頭が悪いので伏線などは張れません。
次話は今月末に投稿予定です。お楽しみに。