ダンボール戦機-Zero-   作:赤倉翔

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第23話 狂える者

 金属と金属がぶつかり合う音がフィールド中に響き渡る。機槍ディアブロを手にしたイプシロンと、水月棍を構えるウォーリアーとの戦闘は熾烈を極めた。

 

 

「さぁ…こい、黒田君!」

 

 

 ウォーリアーはイプシロンの懐に潜り込み、水月棍を真横に振るう。しかしイプシロンは機槍ディアブロの先を水月棍に当て、軌道を僅かに逸らした。

 

「嘘っ…そんな事もできるの!?」

 

「やるじゃねぇか、アイツ!」

 

 ウォーリアーは地面を蹴り、一気に飛び出した。水月棍がイプシロンのボディを貫かんと迫る。しかし黒田ユウはチャンス到来とばかりに笑みを浮かべ、口を吊り上げた。

 イプシロンは機槍ディアブロを使わず、右拳をウォーリアーに目掛けて突き出した。どうにかウォーリアーはラウンドシールドで防御するも、勢いまでは殺せなかった。

 

 

「中々…!やるじゃないかッ!!」

 

「なら、これならどうだ…ッ!」

 

 

 イプシロンの機槍ディアブロが残像を残しながら、幾つもの弧を描いた。残像が見えるほど早く振るわれる槍、優に十や二十を超える斬撃は、まるで流星群のようだった。

 しかし繰り出される斬撃をウォーリアーは必要最低限の動きでそれを躱した。少しでも見切りが甘ければイプシロンの振るう機槍ディアブロに斬り裂かれることになる。

 だが、森上ケイタの顔に焦りはない。ただ冷静にイプシロンの動きを観察していた。

 

 

「あたしがいること、忘れないでよ!!」

 

「チッ!アマゾネスか…!」

 

 

 空気を貫くかのような速さで迫るアマゾネスがパルチザンを振り下ろすも、直後にイプシロンがZ=ディフェンダーで受け止め、隙を逃せまいと機槍ディアブロをアマゾネスに向かって真っ直ぐ突き出した。

 その瞬間、工場地帯フィールドに響き渡る銃撃音。ブルドが放った弾丸が発射されてから一秒、或いはそれ未満か、Z=ディフェンダーに着弾した弾丸が盛大に火花を散らせ、爆発を引き起こした。

 

 

「よし!命中したぜ!!」

 

「コウジ、油断は禁物よ…!」

 

「あぁ、落ち着いて––––––––––––––」

 

 

 行動するんだ!そう森上ケイタが言おうとした瞬間、何の前触れもなく、アマゾネスの背後にイプシロンが現れた。

 なぜ気配を悟られずにここまで近づけたのか、3人は今の状況を理解することが出来なかった。

 

 

「クソ、勝手に発動するとはなぁ…ッ!!」

 

 

 ユウは世界が遅延して見えた、森上ケイタの呆然とした顔も、指先の動き一つでさえも、ハッキリと見えている。一秒が凝縮され、それはユウには十分にも数時間にも感じられた。

 

 

「避けろ、コウジッ!!」

 

「…っ!?」

 

 

 ウォーリアーは反射的にブルドをその場から突き飛ばした。振り下ろされる機槍ディアブロ。ウォーリアーに出来ることは、ナルカミの炎撃を防ぐことだった。

 

 

「ハァァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 イプシロンは炎撃をウォーリアーのボディに叩き込むように振るう。

 

 

「グッ……!!??」

 

 

 ハズだった。突如ユウのCCMを操作する手が一瞬止まった。脳が活性化することで相手の行動がスローモーションに見ることが出来るオーバーロードだが、当然本人に負担はある。

 

 

「(マジか、ここで時間切れかッ!!)」

 

 

 使用後の疲労は激しく、場合によって倒れてしまう可能性もあった。

 ユウの身体がゆらりと揺れる。だが右足で強く地面を踏み鳴らし、地面に倒れ落ちそうになる身体を支えた。

 

 

「(8秒…か、勝手に発動したくせに、持続時間が短いんだよ…ッ!)」

 

 

 直ぐ様離脱しようとイプシロンはスモークグレネードで煙幕を張り、逃走を試みる。

 だがイプシロンは動くことはなかった。それは何故なのか、ユウはその理由は直ぐに分かった。

 凍らされたイプシロンの足元、知らぬ間に相手が仕掛けたフリーズマインを喰らってしまった。

 

 

「行くわよ、必殺ファンクション!!」

 

《Attack Function!アクアスプラッシュ!》

 

 

 アマゾネスを中心に発生した水の渦がパルチザンを包み込む。うねる水流の如く放たれる衝撃波、一撃目、二撃目、三撃目、放たれるたびに威力が増していく。

 

 

「頼むぞ、耐えてくれッ!!」

 

《Attack Function!ハルベルトガード!》

 

 

 光の壁を生み出し、アマゾネスの必殺ファンクションによるダメージを軽減するが、受け止めきれずに体勢を崩し、重々しい音で地面に転がる。しかしケイタチームの攻撃はこれだけではまだ終わらなかった。

 

 

「これでも喰らえッ!!」

 

「(嘘っ!?)」

 

《Attack Function!レーザーカッター!》

 

 

 ズンッ!という振動、轟音、足元のコンクリートにヒビが入り、機体の輪郭がブレる。ブルドの必殺ファンクションがイプシロンのメインカメラにノイズを走らせ、AMライフル44式の銃口から約200℃ものビーム砲が放たれた。

 イプシロンはZ=ディフェンダーを構え、ブルドの必殺ファンクションを受け止める。

 だが真正面で必殺ファンクションを受け止めたが為に、レーザー砲によってZ=ディフェンダーが焼き切れる。

 

 

「(たった今、Z=ディフェンダーが使い物にならなくなった…ッ!!)」

 

 

 ユウの視界の端で、水月棍を振りかぶるウォーリアーの姿を捉える。

 瞬間、轟音。水月棍と機槍ディアブロが重なり合い、空気が震えた。イプシロンは後ろに下がりながら上半身を捻り、辛うじてウォーリアーの斬撃を躱す。

 

 

「──ッ!」

 

「ぐッ……!」

 

 何千もの槍が交差する。貫き、受け止められ、躱し、弾かれ、その繰り返し。

 ウォーリアー右の回し蹴り。イプシロンは即座に右腕を構え、ボディを狙った一撃を間一髪で防御。イプシロンの右腕がウォーリアーの蹴りを受け止め、内部まで衝撃が響くが、少し遅れてイプシロンが踏み込み、無理矢理機槍ディアブロを振り下ろした。

 

 

「ク…フフ…ハハハハァッ!」

 

 

 口端から血が滴るも、ユウは笑う。

 次の瞬間、轟音が鳴り響いた。その轟音の正体は、ウォーリアーの右腕が飛んだ音だった。

 

 

「(な、に…ッ!?)」

 

「アハハッ!!いいゼェ、もっとこいよォ?」

 

《 ranking order 68 B mode ! 》

 

 

 ユウの操作とは関係なく、突如CCMのモニターがスライドし、左右非対称のモニターが出現。さらに3つのスクリーンが表示される。

 さらにその異変イプシロンにも及んだ。

 紅蓮の炎を身に纏うイプシロン。手に持っていた機槍ディアブロを地面に突き刺し、足元から劫火の渦が出現した。

 

 

「……下がれ、二人共!!」

 

「そんな……」

 

 

 これから何が起こるのか、それを理解したケイタは冷静に対処しようと声を張り上げる。だが肌で感じ取った熱に冷や汗を隠せずにいた。

 劫火の渦により、工場地帯フィールドは地獄へと姿が変わる。目前で起こる光景にレイナは傍で叫ぶケイタの声さえ聞こえず、只々眺めるしかなかった。

 

 

「悪く思うなよォ」

 

 

 機槍ディアブロを持つイプシロンが乱雑に振り上げて放つは、何もかも呑み込む獄炎。音を置き去りに、軌跡を残しながら放った炎で空気を焼け斬り、ウォーリアーたちに直撃。

 その衝撃がどれ程の威力だったのか物語る様に怒号となって鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海道先生、これは…!」

 

「ほう…遂に発動したか」

 

 

 第3回LBX世界大会アルテミス大会の会場の隣接に聳え立つホテルの一室で、Bモードを発動させたイプシロンの様子をスクリーン越しで見ていた3人の男がいた。

 

 

「AX–01を彼に渡した判断は正解だったみたいですねぇ…」

 

 

 海道義光にそう話すのは、神谷グループの会長である神谷藤吾郎だ。海道義光の側近的存在であり、神谷重工を通じてイノベーターに密かに武器やLBXの供給を行なっていた人物だ。

 もう1人の男の名は沢村宗人。タイニーオービット社の役員でありながら、海道義光の側近として()()()()()()()()()()だ。

 神谷と沢村は利益のために戦争待ち望んでおり、海道の考える理想の世界に同調していた。

 

 

「しかし海道先生、AX-01のあの姿は一体…?」

 

「BモードはAX–01の適合者のみ発動する特殊モードだ」

 

「適合者、ですか?」

 

 

 神谷重工が総力を挙げて製作されたAX–01には特殊モード、Bモードが搭載されている。

 AX–00とは違い、神谷重工の者ならば不適合者が使っても起動はできるBモード。だが適合しているか否かを判別する機能が無い上に、不適合だった場合は死に至る可能性あるという致命的な問題点があった。

 

 

「使用者の命を省みない危険性の高いLBX、なんと恐ろしい……」

 

「だがそれだけではないのだよ沢村くん」

 

「それはどういう意味でしょうか、海道先生?」

 

「AX–01の力を最大限まで引き上げるために特殊な電気信号で闘争本能を活性化させる装置が備わっているのだ」

 

「それはなんと!?」

 

 

 神谷重工は使用者にAX–01の力を100%に引き上げる為に、闘争本能を強制的に引き上げる特殊な電気信号を発生させるStruggle instinct activation device(闘争本能活性化装置)がインプットされており、これにより使用者は無意識のうちに極めて攻撃的な性格へと変貌する代物だ。

 

 

「しかし海堂先生、本来であれば神谷重工の者しか扱えないAX–01が何故彼は扱えるのでしょうか…?」

 

「そうだな、時期に教えるつもりだが、彼はそういう星の下に生まれた運命の子とだけでも言っておこう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、赤い悪魔だった。

 地上は焼き焦げ、空気は爛れ、フィールドに聳え立っていた工場地帯は見る影も無く消え去り、ただ其所には炎が揺らめいていた。

 

 

「熱っ––––––くっそ………ッ!!」

 

「……こりゃひでぇやられっぷりだなッ!」

 

 

 槍と槍がせめぎ合って弾き合い、銃声が鋭く響き渡る。間を縫うようにアマゾネスとのパルチザンとウォーリアーの水月棍が駆け巡られ、イプシロンは動きを止められる。

 ユウは獣のように吠えた。

 飛びかかり、手に掴んだパルチザンを叩きつけるようにアマゾネスに振り下ろす。火花が散り、横薙ぎに振られた機槍ディアブロを咄嗟に跳んで回避するブルド。

 そのまま右足を軸に振り返り、ターンしたまま振るわれたイプシロンの二撃目をAMライフル44式で何とか受け止めた。だが先程のように受け止めきれなかった衝撃が通り、ブルドのボディごと後退させられた。

 

 

「っぐ、おわぁ!!?」

 

「チッ……ギリギリ耐えやがったか……」

 

「喰らえ、必殺ファンクションッ!!」

 

《Attack Function!カゲヌイ!》

 

 

 アマゾネスはエネルギーが集まったパルチザンをイプシロンに向かって投げた瞬間、轟音が響き、爆風が吹き荒れた。

 だが苦し紛れに出した必殺ファンクションも、今のイプシロンの前では単なる飛来する障害物程度でしかなった。

 

 

「イプシロン、防げ」

 

「なッ…にッッ!!?」

 

 

 イプシロンは偶然近くにあったブルド()を掴み、アマゾネスの必殺ファンクションを防いだ。もろに必殺ファンクションを喰らい、ボロボロとなったブルドをイプシロンはまるでゴミを捨てるかのように投げ捨てた。

 

 

《ブ…ブルド、ブレイクオーバーッ!!》

 

「さて、次はどっちだ?」

 

「ぅ…う、うぁぁぁあああああああッ!!!!」

 

 

 中林レイナの咆哮が轟いた。

 振るわれるパルチザン。機槍ディアブロでパルチザンを掴み取ったイプシロンが、激しい火花を散らして鬩ぎ合いを繰り広げた。

 機槍ディアブロを弾いたアマゾネスがバックステップを刻み、イプシロンに突貫する。攻撃を避け、槍を弾き、的確に攻撃し、機槍ディアブロの猛攻を潜り抜けながら襲いかかるイプシロンへと、的確にパルチザンを振るい続ける。

 

 

「オイオイ、やるなァ!!」

 

 

 イプシロンの蹴りがアマゾネスのボディに叩き込まれた。そしてバキッっとアマゾネスの内部にあるパーツをが破壊される。

 

 

「飽きたわ」

 

 

 アマゾネスの首へと沈み込む機槍ディアブロ。コアスケルトンを斬り裂く音が伝って、細やかに震える。交差した二機の後に、捥がれて舞い上がったアマゾネスの首が、静かに落ちた。

 

 

「さて…最後はお前か、森上ケイタ」

 

「そのようだ、ね……!」

 

 

 槍が交差する。衝撃で空気が震え、火花が舞い散る。槍を交じり合わせた後、遅れて甲高い音が2人の耳に届く。極限まで研ぎ澄まされた意識と同様に、極限までカスタマイズされた機体は、既に音さえも置き去りにしていた。

 

 

「…ッハハハッ!!」

 

「なるほど!そう、来たかッ!」

 

 

 振り抜かれていた二機の槍がガキン!とぶつかり合い、火花が空へ舞って衝撃が槍を痺れさせた。

爆炎が立ち昇り、轟音で2人耳を劈く。暴力的な威力に、イプシロンは思わず体勢を崩してしまう。

 

 

「––––そう簡単に、負けるわけにはいかないよッ!」

 

「……なるほどォ」

 

 

 金属音が、高らかに響き渡る。

 ウォーリアーの苛烈な一撃をイプシロンは四肢に力を込めて受け止めてみせるが、勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。しかし常に視界をウォーリアーを捉えつつ、体勢を崩すことなく脚で大地に線を刻む。

 

 

「やるなッ–––––––––!」

 

「オラッ–––––––!!」

 

 

 イプシロンの連撃が百を超えた所で、力が込められた一撃が放たれ、受け止めたウォーリアーが衝撃で後退させられた。伴った金属音は空気を震撼させ、フィールド中響き渡った。

 

 

「これで、最後だッ!!!」

 

「次の一撃で決めてやらアッ!!!」

 

 

 同時にイプシロンとウォーリアー地を蹴り、その強靭さによって地面が砕けて舞う。

 

 

「「必殺ファンクションッ!!!」」

 

《Attack Function!トライデント!》

 

《Attack Function!ソニックランス!》

 

 

 互いの必殺ファンクションが衝突する寸前、フィールド内で稲妻のような軌跡を描きながら、青雷が空を駆けるハズだった。

 

 

「!?」

 

 

 突然、轟音がフィールド中に響渡った。

森上ケイタはその声の出所に視線向けると、紅蓮の炎を纏ったイプシロンがウォーリアーのもとに向かっていた。。

 

 

「ぐぅうっ!?」

 

 

 ウォーリアーはイプシロンの大地を揺らす轟音と音圧の直撃を受けて吹き飛ばされ、地面に転がった

イプシロンは地面に転がったウォーリアーの頭を鷲掴みにし、力任せに地面に叩きつける。

 頭を掴まれたウォーリアーは抵抗するもイプシロンの強力な握力によって頭を容易く握り潰され、そして動かなくなった。

 

 

《ウォーリア、ブレイクオーバー》

 

 

 アジアチャンピオンチームとの激しい戦いの末、ユウは勝利する。

 だがウォーリアーがブレイクオーバーになってもなお、イプシロンの破壊行動が止まることはなかった。

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