起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ふと気づきました。当初の予定の8年分更新している。


第百話:0079/11/04 マ・クベ(偽)と分水嶺

「だから私は言ってやったんだ。それで、地球を死の星にした後、君たちは何がしたいのかとね!」

 

地上限定パイロット資格について状況の共有をしようとガルマ様に連絡したら、いきなりそんなことより聞いてくれ大佐よ!って語られたでござる。なにさ、近所の吉野家でも混んでたのかい?なんて誰も解らないネタを胸中でつぶやきつつ、ウラガンの紅茶を楽しみながら話を聞いていたら、とんでもねえものをぶっこんできた。

 

「あの馬鹿共、良い笑顔で巫山戯たことをほざきおって!」

 

なんでも、ジャブローってジャングルにあるんですよね!じゃあジャングル無くしちゃいましょう!コイツを数発撃ち込めば一月もせずに丸裸ですよ!なんて笑顔でアスタロスを紹介されたらしい。

アスタロス。うろ覚えの原作知識だが、確か他の植生を食い尽くして強力に繁殖する植物を応用した環境破壊兵器とか言う、非常にグレーな兵器だ。元々はコロニーという限られたスペースで高収益の作物を作る研究だったらしいのだが、出来上がったのは、異常に繁殖して、おまけに肝心の可食部分が何もないという出来損ないだったそうな。しかも成長に多量の養分を必要とするため、周囲の植物を軒並み枯らしてしまい、そこにコイツが広がっていくという、正に迷惑この上ない雑草が出来上がったのである。んで、それをどっかの馬鹿が、これ地球に撒けば生態系ぶっ壊して戦争どころじゃ無くなるんじゃね!?とか考えて軍事転用した訳だが。

 

「既存の生態系を壊すだけで無く、コイツはそこに組み込まれて居ない異物だ。おかげで繁殖するだけした後は、枯れて何も残らん。確かにジャングルは無くなるだろう。だがそれが意味するところを、奴らはまるで理解していない!」

 

コロニーに住んでいたって、植物が二酸化炭素を酸素に交換してくれる事くらいは知っている。だが、生活空間におけるその大半を機械に依存したスペースノイドにとって、植物の浄化作用なんてものは補助的なものでしかない。特に密閉型で植生なんてものは観賞用以外殆ど配置されていないサイド3の人間ならば、循環系を破壊することの重大さなど、言葉は理解できても、実感を持つことは不可能だろう。何しろ彼らにとって植物は、良いところ小遣い稼ぎのタネくらいな立ち位置だからだ。

 

「…実に今更だが、大佐。私はサイド3に掛けられていた水税や空気税が適切であったと理解したよ。あの規模のシステムを国家の保障でなく、貿易として行うなら、無理の無い数字だ」

 

深々とため息を吐きながらそんなことを言うガルマ様。そうなんだよね。実のところ共和国だ独立だと騒ぎ出すまで、サイド3の生活は言うほど酷くなかった。というのも、重工業コロニーとして建設されたサイド3は、他のサイドの建設用資材や工業製品の受注で利益を上げていたし、連邦政府からも優遇措置を受けていて、他のコロニーと同額でこれら環境システムの運営を行っていた。システムの負荷は倍以上だったというのにだ。んで、独立だなんだと騒いだもんだから、連邦政府が、ウチの国民じゃないって言うなら、政府が生活保障してやる必要ないよね?これからはシステムの管理は適正価格で請け負うよ。と言いだした訳だ。もちろんそんな事がばれたら国民が思いっきり反発するのは目に見えていたから、当時の政権は、全ての問題が連邦政府にあるように仕向けるため、水税、空気税が不当に搾取されているという印象操作をしたわけだ。

ちなみに経済制裁の方も、蓋を開ければ簡単な話で、独立して他国になるって言うなら国内企業保護のためにちゃんと関税掛けるし、他国の経済事情まで鑑みてやる必要ないから要らない物は買わないよ?コロニー建造もひとまず終わるしこの先受注減るよ?それでも独立すんの?って言う圧力だったわけだが、サイド3側が本気で独立したもんだから、単純に関税を掛けられたと言うのが正解である。今次大戦において他のサイドがサイド3に同調しなかったのは、外交努力の不足も大いにあるが、根幹の部分はこの社会保障の差による連邦政府へ対する温度差のせいだろう。

 

「正に今更ですな。そして始めてしまった以上、国民の生活の保障は我々の義務です。あちらの道理とこちらの道理がぶつかるならば、致し方ないことでしょう」

 

今更やっぱり独立はなしで、元の一地方に戻して?なんてどの面下げて言って来やがった!と面罵されても仕方ない物言いだ。国民の皆さんには申し訳ないが、これもどこかのアジテーターに唆されてしまった己の不明を呪って頂きたい。こちらとしても、飢えて死ねとは言えないしね。

 

「大体、今地球を住めない星になんてしてみろ。難民が大挙してコロニーに押し寄せるぞ?地球に住む人間全てを養う体力なんて我が国にはとても無い」

 

「どころかそれを使えば、貴重な水と空気の供給源すら自分たちで破壊することになりますからな。控えめに言って人類は滅びるでしょうな」

 

もしそうなれば、次の戦争は水と食料を奪い合う生存競争だからな。相手を殺すための戦争になる。太古の昔ならいざ知らず、高度に複雑化した現代において、人口が減少することは、インフラの衰退に直結するから、呼吸すらそれに任せているコロニーでそんなことをすれば、確実に人類は滅びるだろう。

 

「私は我が国の人間が選ばれた優良種だとはとても思えなくなってきたよ。大佐」

 

そう再び溜息を吐くガルマ様に、俺は肩をすくめて返事の代わりにした。

 

 

 

 

医療行為、それも施術と呼ばれるような行為から想像していたものと乖離した部屋へ通され、シャアは仮面の下で眉をひそめた。

 

「治療への立ち会い許可は頂いていたと思ったのだが?」

 

案内してくれたシムス中尉にそう問いかけると、至って真面目な表情で中尉は返事をした。

 

「はい、少佐殿。本日の治療はこの部屋で行います。患者にも少尉にもできるだけ心理的に負担の無い環境で実施するのが最善であると、博士からの指示です」

 

「…どうにも、私の考えているような医療行為とは隔たりがあるようだ」

 

そうシャアが口にすると、シムスが苦笑しながらフォローを入れる。

 

「無理もありません。まだまだ手探りの多い分野ですから」

 

「成程。門外漢は口を慎むとしよう。しかしそうなると施術の成功如何はどう判断するのかな?」

 

「隣室に計測器類は待機しております、医療スタッフもですね。少佐にもそちらに居て貰う予定だったのですが」

 

ララァ少尉からの希望でシャアにはこちらの部屋に居て貰うことになったとシムスは続ける。少尉のコンディションができるだけ良くなるよう配慮した結果だと聞き、シャアは疑問を口にした。

 

「私が居るだけで少尉の助けになるというなら、マレーネ嬢や施設の他のニュータイプの者達が助力は出来ないのか?」

 

そう問えば、シムス中尉は困った顔で答えた。

 

「例えばですが、感動的な光景を見たとき、あるいは目を覆いたくなるような陰惨な場面でも良いですが、大人数で見たから感動が薄れたり、一人で見たからショックが大きくなりますか?精神に対する衝撃とは物理的なそれとは異なります。受け取る側を増やしてもあくまでやりとりは一対一の出来事になりますから、少佐の仰るような助力は難しいでしょう」

 

仮に複数の精神を統合して一つにまとめられる。そんな装置があれば話は変わるとシムス中尉は続ける。

 

「そうしてみると、私の意味は何だ?」

 

「子供が怖いときに、お気に入りのぬいぐるみが有れば我慢できたりするでしょう?」

 

「つまりお守りと言うことか…。いいさ、それで少尉の不安が薄れるというのなら、甘んじて受け入れよう」

 

少佐なら上手くやれますわ、根拠はありませんけれど。そんな身も蓋もないシムス中尉の激励にシャアが苦笑を浮かべていると、入り口が大きく開かれ、病人用の大型ベッドとスタッフが数人、そしてララァ・スン少尉が入室してきた。時計に目をやれば伝えられていた治療の時間まで10分を切っていた。

 

「我儘を聞いて頂き有り難うございます。少佐」

 

そう言って頭を下げる少尉にシャアは笑顔で返した。

 

「いや、こちらこそ無理を言っている。君たちの力を間近で見たいなどとね。それに女性に頼られて悪い気がする男は居ないよ」

 

「まあ」

 

そう笑ってみせるララァだったが、その顔がわずかに強ばっているのをシャアは見逃さなかった。

 

「なあ、少尉。この通り私は役に立たん男だ。だが、頼られた以上できる限りのことはするつもりだ。だから、して欲しいことがあれば何でも言って欲しい」

 

それはシャアの口から出た、打算の無い純粋な言葉だった。故にそれを聞き、ララァは顔を綻ばせた。

 

「役に立たないなんて。少佐が居てくれると言うだけで私は心強いですし、何より少佐はご自身を過小評価しすぎですわ。貴方はまだ、自分の本当の力に気づいていないだけです」

 

「それは…」

 

シャアの中に仄かな期待が灯る。彼女の言う通り、自身もまたニュータイプと呼ばれうる人間ならば。今は無き父が口にした、次のステージへと至った存在だとするならば。

 

(あるいは、復讐よりも見るべき先があると、見ることが私に出来るというなら)

 

それまでの子供のような好奇心と打算、そしてわずかに入り交じった男としての好意を超え、シャアはララァに感じていた憧れが思慕、そして崇拝へと変わっていくのを自覚する。

 

(ならば、ララァ。どうか私を導いてくれ)

 

一言も発していないが、全てを悟った表情となったララァ少尉が、微笑みながら手を差し伸べてくる。シャアは迷わず、その手を取る。壊さぬよう包むように、離れてしまわぬようしっかりと。

 

『時間です、少尉。宜しいですか?』

 

気がつけばスタッフは全員退出しており、シムス中尉も見当たらない。壁に据え付けられたスピーカーから、中尉の声が聞こえて、初めて二人は自分たちの世界に浸っていたことを自覚し、思わず顔を見合わせ苦笑した。

 

「だそうだ、少尉。いけるかな?」

 

「はい、少佐」

 

そして二人は歩き出す。施術が終わる最後の時まで、その手が離れることは無かった。




世間話回、子供の頃ガンダムを見ていて、MSが出てこない回は詐欺だと思っていました。
ええい!ガンダムだ!ガンダムを映せ!

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