起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今年最後の投稿になります。


第百五話:0079/11/12 マ・クベ(偽)と欧州戦線

「なあ、正直なところ、お前さんは何処が狙われていると思う?」

 

MSの供給の相談をしていたら、必然そう言う話になるよね。ユーリ少将は酷く真面目な顔でそう俺に問うてきた。

 

「現状ではなんとも。何しろ情報が無い。もしかすれば攻勢準備がブラフで、こちらの動員能力や、物資の流れを調査している。なんてことだってあり得ます」

 

先日から始まったMSの大規模増員で欧州の抱えている戦線はどれもジオンが優勢だ。あちらさんの増強も満遍なくおこなっているから、当初は全域での大規模攻勢、ぶっちゃけオデッサ作戦だと考えたのだが、今それをやるのは博打が過ぎるだろう。

 

「どうしてもやるというなら、私なら欧州西岸の港湾…ブレスト辺りを狙いますな」

 

そう言うと面白そうにユーリ少将が聞き返してくる。

 

「ほう?歴史好きのお前さんだから、てっきりカレーかノルマンディーと言うかと思ったが?」

 

いつの時代の話をしているんですかねぇ?

 

「カレーは攻略後全周囲から圧力がかかります。こちらの展開できる平地に事欠きませんからな。ノルマンディーもブレストもこの点は同一ですが、ブレストならば撤退時に即座に南米を目指せます」

 

「撤退が前提とは随分後ろ向きな理由だな?」

 

「仮にブリテン島が十分な兵站拠点として機能しているならどちらも選択肢に挙がります。しかし、現状ブリテン島の戦力は損耗した場合、補給をジャブローに頼らざるをえない。万一にもブリテン島の航空隊が全損したら欧州攻略に採用できる選択肢が極端に減ります」

 

だから見せる戦力としてブリテン島は残して置く必要がある。それがあるだけでこちらの航空隊や地上戦力の動きを牽制できるからだ。そうなると、上陸時に使える航空戦力は大西洋艦隊の空母群になるが、こちらもそう簡単に喪失するわけにはいかない。そうなればできる限りこちらの航空戦力の範囲外に配置したいというのが心理だろう。つまり、万一の場合ブリテン島から航空支援が受けられて、かつ空母打撃軍のリスクが低く、それでいて橋頭堡を確保したら迅速に物資を運び込める大規模な港湾施設が有る場所が望ましい。こちらのゼーフントの活動範囲はそろそろばれているだろうから、北海に進出するのはリスクが高いことはあちらも承知しているとすれば、カレーはそもそも攻略が難しいし、港湾施設がシェルブールかル・アプールになるノルマンディーへの上陸はドーヴァーの制海権が確立出来ないとその後の輸送が難しい。今あの辺りは両軍の機雷まみれで、MSですら航行が困難だ。あるいはイベリア半島の奪還も考えられるが、こちらほど水陸両用の重戦力を有していない連邦では、トライデント作戦の巻き返しは難しいだろう。いくら何でもビッグトレーとファンファンやホバートラックだけでは地上戦はできんだろうし。

 

「もしくは、これだけ欧州に目を向けておいて、アフリカへ上陸、などという手もありますな」

 

「石っころと砂漠ばかり、後はジャングルがせいぜいの場所を命がけで取り返すと?」

 

「そう馬鹿に出来ません。アフリカは我が軍第二のチタニウム採掘拠点ですよ。そしてあちらのMSはチタン製ですからな、それこそ喉から手が出るほど欲しいでしょう」

 

問題はアフリカが非常に広く、ユーリ少将が言う通りインフラが極めて脆弱かつ水資源が乏しい点だ。水が無くてもMSは動くが、兵隊は無理だ。となれば確保した後の物資輸送の難易度は欧州の比では無い。大規模な港湾施設を持つ都市が離れているのもマイナスだ。ただ、もしアフリカを奪還出来れば、ジブラルタルを無視して地中海方面から欧州へ侵攻することも可能になる。これは非常にやっかいだ。

 

「アフリカにアッザムを優先して送っていたのはそのせいか。連中アプサラスももっと寄越せと言っていたが。まったく贅沢な奴らだ」

 

「仕方がありません。あの砂漠を防衛するのにMSは全く向いていませんからな。速度と打撃力のあるMAを主軸に据えるのは自然でしょう」

 

むしろMS神話に縋らずに航空機とMAを重用する事に躊躇しなかったあたり、ノイエン・ビッター少将も優秀な人だ。デラーズのハゲに共感できちゃうとか、思想面では危なっかしいけども。

 

「やれやれ、怪物でも連邦の考えを見通すことはできんか。しかしそうなると動ける部隊が欲しいな。大佐、忙しいところ悪いが砲戦カーゴの増産も頼む」

 

相変わらずさらっととんでもねえ事言いやがるな、この鳥の巣頭!

 

「最大限努力はしましょう」

 

史実を考慮すれば今一番有力な候補はこのオデッサだけど、欧州から完全に連邦をたたき出しているから、同じようにやってくる確証は無い。と言うより、仮に狙われていても絶対別の方法で来るだろう。

 

(さて…、地中海、バルト海、カレリア。ああ、マドラスからアラビア経由でカスピ海西岸なんてルートもあるか?)

 

もしオデッサ作戦をやるつもりなら、後1~2週間がリミットだ。何せ旧ロシア領に展開している連邦の第4軍はウラル近郊に引きこもっているから、ロシアで冬季攻勢とかいう自殺願望でも無い限り、そのくらいで身動きが取れなくなる。正直こちらもミノフスキー粒子で溺れながら更に吹雪の中で戦争とか絶対したくない。ユーリ少将との通信を終えて、そんなことを考えながら執務室へ向かっていたら、丁度部屋に入ろうとしているウラガンと鉢合わせた。

 

「失礼します、大佐。ご友人から手紙が届いております」

 

「珍しいな」

 

受け取った手紙を見て、思わず俺は口に出した。これまで慎重に動いていて、送ってくるタイミングすら不定期にしていた彼が、今回に限っては速達で送ってきている。しかも前回の手紙からまだ一週間も経っていない。そのことから、これが極めて重要な情報であると察した俺はすぐに封を切り部屋に入りながら紙面に目を通す。そしてその推察は見事に的中していた。

 

「ウラガン、まずいぞ。近日中に連邦軍が大攻勢に出る可能性が極めて高い」

 

 

 

 

唐突に語られた内容にウラガンは一瞬思考が止まった。大佐は、今なんと言ったのか。

 

「申し訳ありません、大佐。今なんと?」

 

そう聞き返すウラガンに、大佐本人もそれを認めたくないのだろう。苦虫を口いっぱい噛み潰した様な顔で、もう一度口を開いた。

 

「近日中。少なくとも今月中に連邦軍が欧州へ攻撃を掛けてくる可能性が極めて高い。いや、間違いなく攻撃を掛けてくる」

 

大佐はそう断言すると、言葉を続ける。

 

「だがこれで少なくともブラフの線は消えたし、進撃ルートもかなり絞られる。アフリカからの迂回と…中央アジアからの進撃は考慮しなくて良い」

 

そう言って大佐は送られてきた手紙を机へとしまう。あの場所に手紙をしまっているのを知っているのはウラガンだけで、そのウラガンであっても、手紙の内容について見たことは無い。

 

「彼くらいになると、少々代えがきかん」

 

以前手紙の中身を見せて欲しいと頼んだ際、防諜を理由に断る大佐が言った台詞だ。それだけでその手紙の人物が、連邦軍に深く、しかも相応の地位で存在していることが理解できる。以来、ウラガンは配達してくる人間から直接受け取り、自分以外基地の者でも触れさせずに大佐へ届けている。

 

「理由は不明だが、連邦軍のゴップ大将が襲撃され重体だそうだ。何処の誰が考えた演出か知らないが余計なことをしてくれる」

 

敵とは言え大将クラスともなれば、自然と耳に入るものだが、あまり聞き慣れない名前にウラガンは眉を寄せた。

 

「あまり聞き及ばない名前の方ですが。その大将の負傷と攻勢にどのような関係が?」

 

ウラガンの質問に大佐は一瞬呆けた顔になった後、真顔に戻り質問に答えた。

 

「ウラガンでも耳にしない程度には用心深い人物だ。そして連邦きっての兵站屋だな」

 

「兵站屋…ですか?でしたら彼の負傷で今後の物資輸送に影響が出るでしょうから、むしろ攻勢は延期されるのでは?」

 

そう疑問を返せば、大佐は首を振り否定する。

 

「彼ほどの男だ、恐らく今回の攻勢分の手配は抜かりないだろう。そして、その後が混乱することに気づいているのは私達だけではない。間違いなくレビル大将もそのことを考慮した行動を起こすはずだ」

 

だとすれば、そう大佐は続ける。今回の攻勢を維持するだけの物資と、その輸送手段は確保できているが、仮にここで攻勢を延期した場合、連邦による攻撃は来春までずれ込む公算が高いのだと大佐は言う。冬季になれば北方に展開している連邦軍は動けなくなるためだそうだ。コロニーで育っているウラガンには、人が動けなくなる程の寒さというものが、頭では理解しているものの実感としては無い。だが、その寒さの中で数ヶ月兵を養うと言うことのやっかいさは理解できた。何しろ過ごしやすい今のオデッサですら、部隊を大過なく維持し続けるのは結構な仕事なのだから。

 

「つまり先延ばしにすればするだけ、連邦軍の予定は狂っていくと?だからといって博打のような戦いを仕掛けるものでしょうか?」

 

「常識的に考えればな。しかしそうしたくても状況が悪すぎる。あれだけでかい口をきいておいて、ここまでレビルは勝利らしい勝利を提示できていない。総司令から降りるにしろ降ろされるにしろ、一度も判りやすくやり合わずには引けまいよ。だとすれば想定内の戦いが出来る内に殴りかかった方が良い、とあの老人が考えても不思議ではない。何しろ停戦を蹴り飛ばして戦争を続けるような御仁だからね」

 

実際南極条約後もジオンの優勢は崩れておらず、ウラガンからすればレビルは自ら泥沼の戦争へ飛び込んだように見える。そしてそのような選択をする人間ならば、攻撃が難しくなったからと言って和平へ舵取りをするとは考えにくかった。

 

「そう言う意味ではゴップ大将の離脱はこちらにとってもマイナスだな。彼の思考は軍人より政治家、政治家より商人に近い。採算のとれない戦いになれば、彼を中心に和平交渉すら出来たかもしれない。まったく、本当に余計なことをしてくれたものだよ」

 

その言葉にウラガンは深く同意した。戦争など、所詮外交の手段に過ぎない。そうであるならば、そこにつぎ込むコストは少なければ少ないほど良いのだから。




皆さん良いお年を。
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