起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百六話:0079/11/15 マ・クベ(偽)と前夜

「ふん、レビルも無茶をする」

 

オトモダチの情報から、連邦が本格的な欧州での大攻勢を計画しているのが明らかになって3日、欧州方面軍の偉いさん達とあーだこーだ言い合った結果、狙いはオデッサで間違いないだろうという結論に至った。まあ、ある程度身動きが取れる司令部と違って、生産拠点も鉱山も抱えて逃げるなんて出来ないからね。ここまで史実より前線を押し上げていたので起きない事を期待していたのだが、あのヒゲ爺強引に作戦を実施したようだ。

しかし本当に無茶してきやがった。史実では欧州方面軍が確保できて居たのは地中海沿岸部とバルカン半島、それとアナトリア半島の一部分で、実際のところ欧州のほとんどはまだまだ連邦の勢力圏と言えた。特にバルト海および北大西洋を抑えきれなかったために、ブリテン島に退避したビッグトレーなどの陸上戦艦に堂々と再上陸されている。つうか集結地点がワルシャワって目と鼻の先じゃねえか。この上東欧、旧ロシア領からも進撃って、完全に包囲されてるってレベルじゃねえぞ。

対してこちらでは欧州の全域を確保した上、黒海で好き放題作った潜水部隊を存分に送り出して、大西洋で散々船団襲撃してやったんだが。

 

「出来れば、集結までにある程度削りたいが。まあ、無理だろうな」

 

相変わらずバルト海は連邦の勢力圏だし、ブリテン島周辺は偏執的なまでの対潜防御網が構築されている。史実はよく知らんが、情報からすると船団襲撃が相当頭にきたらしい。攻撃は難しいがそれだけ手間を掛けさせたし、何より輸送路はまだまだ隙だらけだ、潜水艦隊は無理せず引き続き船団襲撃を続けていく方針だそうだ。

史実より装備も数も増えている欧州方面軍だが、支配地域が史実の倍以上あるので正直戦力密度的には史実とそれほど変わらなかったりする。おまけにどうも敵の主力はスカンジナビア半島に集結しているようで、こちらの航空戦力では爆撃も難しい。フィヨルドに引きこもるとか、お前らはティルピッツかと言いたい。仕方が無いので、使わなくなった280ミリや175ミリなんかをバルト海沿岸の上陸しやすそうな位置にトーチカとして設置。ついでにアッガイで機雷をばらまいておいた。現地の人たちの疎開準備や、戦闘後の補償なんかを考えると今から頭が痛いが、戦闘に巻き込んで余計な死人を出すよりは幾らかマシだろう。おまけに欧州全域で敵の活動が活発化している。奇襲効果を完全に捨て、こちらの前線部隊を拘束するつもりだろう。なんかブリテン島も騒がしくなっているし、最近大人しかった中東も活発化しているし、ウラルの第4軍もバイコヌール辺りに頻繁に出没するしで、もう何処の戦線も蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。おかげで狙いはオデッサだって解っているんだけど、何処の部隊も自分たちの前面が主攻だと確信していて戦力はこちらに送れないと申し訳なさそうに謝ってきた。まあ、敵が目の前に居る状態で戦力下げるなんて無理だよね。

 

「主力が居なければ後方の拠点くらい簡単に落とせるとでも?あまりなめてくれるなよ?」

 

チート野郎の底力を存分に堪能させてやろう。

 

 

 

 

「集積状況は?」

 

「はっ、現状で目標値の98%を達成しております。揚陸部隊の準備も問題なく」

 

「ヘビィ・フォーク級、ハルツーム及びアシガバード、並びにウェリントン、キャンベラへの弾薬並びに燃料補給は完了、両日中にその他物資の搬入も終了致します」

 

次々に参謀から返ってくる報告にヨハンは深く頷くと、秘書官の一人に小声で確認を取る。

 

「バターンの方はどうなっている?」

 

「昨日ベルファストにモルトケ、マルケッティアと共に入港、現在対機雷装備の増設中とのことです。作業終了は明日1500予定です」

 

「…エルラン中将からは、何かあるかね?」

 

「今のところ、掃海艇の増員要請のみです」

 

「…そうか」

 

本音からすれば、ヨハンはエルランがあまり信用できていなかった。何しろ派閥内で和平論を唱える程度には、今大戦に否定的であるし、サイド3へ駐留武官として赴任していた期間も長い。思想的にジオンに染まっていないとは言い切れないのだ。ヨハン自身の同期や後輩からジオン公国へ移り――当時は共和国だったが――国防軍の発足どころか、現在でも軍の重鎮として職務に当たっている者がいるくらいだ。

故にバターン号を使った囮部隊の指揮を任せている。敵戦力を引きつけられればよし、例え出来なくとも、本部に居なければ徒に意見を衝突させ、本隊の行動を邪魔する事も無いという考えだ。加えてジオンが以前流したプロパガンダ放送だ。連邦軍高官にシンパ、すなわちスパイが居るとした放送であったが、エルラン中将に不審な動きや通信記録などは無く、潔白は証明されている。ヨハン自身追加の調査を各上級士官相手に行ったが、結局誰一人不審な点は見られなかった。

 

(つまり、この疑心暗鬼による相互不和そのものが連中の望みか)

 

理解したつもりであっても、簡単に割り切れるものではない。普段から意見が対立していれば尚のことである。

 

「…敵はこちらの作戦に掛かるでしょうか?」

 

「安心したまえ、便宜上主攻、囮とは言っているが、実のところこの作戦は二正面作戦だ。薄く欧州全域に広がっているジオンではこちらと当たったとき、どうやっても戦力の逐次投入となる。ゴップ君のおかげで少なくともこの攻勢中に物資に困る事は無い。ならば後は前へ進むだけだ」

 

切り札も用意してあるしな。口には出さず、ヨハンはそう胸中で付け加える。更に言えば、ビンソン計画を縮小したため、陸戦兵器並びに物資に関しては余裕があった。仮に今回が失敗したとしても、相応の損害をジオンに与えれば、立ち直るのはこちらの方が早いという目論見もヨハンの中にはあった。ゴップ大将の負傷は手痛い損失だが、それでも一度彼が行った事を、もう一度やるだけなら、効率は落ちるものの参謀だけでもやれないことはないからだ。

 

(そう、最低限あの男だけは、ここで始末する必要があるだろう)

 

写真のみで知る敵将を思い起こし、ヨハンは静かに決意する。嵐はもう、目前に迫っていた。

 

 

 

 

オデッサ鉱山基地、最初は3つ程の採掘所からスタートしたのだが、いつの間にやら鉱山だけで20近く、MSの製造工場やらのあるオデッサ郊外の基地を中心に10近い駐屯地を持つ地球でもキャリフォルニアベースに次ぐ大拠点だ。その防衛ラインは直径にして200キロにも及ぶ範囲の総称になっている。

欧州方面軍の心臓である本基地は、中央と呼ばれる司令部の置かれている基地にMS一個大隊。周辺基地に分散して2個大隊が駐屯する他、ヒルドルブⅡで構成された一個戦車大隊を擁する。これに加え、砲兵火力としてギャロップ20両が各MS隊に配備されている。空に関しても爆撃機二個飛行隊と戦闘機四個飛行隊を隷下に持ち、更にガウを4機保有する。ここに特別遊撃部隊としてザンジバル級及びその発展型であるケープタウン級機動巡洋艦をそれぞれ1隻、そこに搭載されるMS2個中隊を指揮下に置いている。

しかもこれらは、あくまで機動力を有する戦力を挙げたのみであり、歩兵で構成された警備隊を始め、高射砲やミサイルで武装した防空隊、移動式のレーダユニットも配備されている索敵隊なども有し、基地一つがコンパクトな軍としてまとめられている。

 

「その気になれば、あいつは一人でも戦争が出来る」

 

オデッサ基地の部隊配備について報告を受けたユーリ・ケラーネが抱いた感想がそれだった。同じ勢力圏に在りながら、指揮系統が異なる上に自らのみで完結した部隊。これがもしあの大佐以外が指揮を執っていたなら、ユーリは全力で戦力の引き剥がしと、信頼できる部下を送り込むことに腐心していただろう。しかし、今のオデッサに感じるのは頼もしさと安堵だ。仮に欧州軍司令部を動かすような事態になっても、オデッサが健在である限り巻き返しが出来る。

 

「用意周到で結構な事だ。おかげでこっちは気にせずやれる」

 

そう言いながら、先ほどまで話していた大佐との会話を思い出す。

 

 

「折角来てくれるのです。引き込みましょう」

 

揚陸地点に防御陣地を作れと提案しながら、大佐は平然とそう言い切った。

 

「おいおい、正気か?万が一にもオデッサが落ちたらどうする!?」

 

「水際で叩く、言葉は魅力的ですが有史以来出来た試しはありません。そうなるとこの戦争は長引きます。ここは一つレビルに退場して貰いましょう」

 

「解りやすく説明しろ。誰も彼もがお前さんと同じ脳みそをしている訳じゃない」

 

憮然とそう聞き返すユーリに、一瞬目を見開いた大佐は、至極真面目な顔になって謝罪を口にした。

 

「失礼しました。恐らく今回の作戦は、連中にとって乾坤一擲の作戦になるでしょう。何せ欧州を奪還出来ればミリタリーバランスが大きく巻き返せますからな。そうなると、恐らく指揮官としてあのご老体が出しゃばってくる可能性は極めて高い」

 

「だろうな」

 

ミノフスキー粒子による通信妨害という問題もあるが、もう一つ。ヨハン・イブラヒム・レビルの政治生命が今や風前の灯火と言う差し迫った状況にあることも大きい。この状況下で作戦が失敗すれば当然更迭だが、仮に勝っても部下に任せていた場合、少々問題がある。いくら指示を出したのがレビルであっても、勝利した人物が別に生まれればどうなるか?落ち目の老人を切り捨てて、新たな英雄を担ぎ上げようとする者や、これ幸いにとレビルを糾弾し、力を削ごうとする連中が必ず出てくるだろう。そうした連中に付け入らせないためにも、レビルは陣頭指揮を執る可能性が高い。

 

「連邦の主戦派を切り崩すためにも、ここでレビル共々その主力を平らげてしまいたい。そのためには連中が逃げられないところまで引き込む必要があります」

 

「それなら揚陸地点も綺麗にしておいてやった方が良いんじゃないか?」

 

「それはこちらが罠を張っていると宣伝しているようなものです。むしろ労力を払って突破してこそ見事に罠に掛かってくれるでしょう。人間、自分の苦労が徒労だったとは思いたくないものですからな」

 

ついでに砲弾も消費させれば、後々の戦いがやりやすくなる。平然とそう言う大佐に、ユーリはつくづくこの男が敵側に居なくて良かったと感じた。

 

「北部に展開している部隊は最低限の警戒部隊を残し欧州中央まで下げます。丁度連中は二正面作戦をしてくるようですからな。精々慌てて配置転換して見せましょう。そしてオデッサに噛み付いた所で後方を遮断します」

 

「簡単に言ってくれるが、どうやってだ?」

 

そう聞き返せば、強い笑みを浮かべながら大佐はそれを口にした。

 

「お忘れですか?ここにはジブラルタルの英雄が居るのですよ」




冒頭の台詞、実は0話書いた時点で決まっていました。台詞だけ。
まさか回収するのにここまでかかるとは…。

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