起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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連休ももうすぐ終わり、皆覚悟は良いか?俺は出来てない。


第百七話:0079/11/15 マ・クベ(偽)と嵐

「イヤです」

 

「イヤですじゃないが」

 

連邦軍が動き出したので呼応する形で部隊を移動させるべく、シーマ中佐を呼び出して作戦を伝えたら思いっきり拒否されたでござる。

 

「連中の狙いはオデッサなのでしょう?なら、後方遮断は欧州方面軍に任せて、私達は基地の守りに徹するべきです」

 

敵は何しろ軍団規模、それこそオデッサを確実に落とすべく数十個師団を擁しての進撃だ。対して基地の防衛戦力はかき集めても二個旅団相当。それも広い範囲に展開しているから、数的劣勢は覆せない。故に機動力のあるシーマ中佐隷下の任務部隊を予備戦力として取っておき、敵の突破戦力を吹き飛ばす事で防衛を堅固なものにしようと言うのが中佐の考えだ。成程、オデッサを守り抜くだけならば、確かにその方が確実だ。でも、俺は欲張りなんだよね。

 

「基地を維持するだけなら中佐の意見は正しい。…だが私は欲張りでね。そろそろこの戦いに決着をつけたいと考えている」

 

「決着?」

 

「中佐、私はね、今回の作戦でレビルの首が取りたいんだ」

 

俺がそう言うと中佐は目を見開いた。はっはっは、驚くのはまだ早いぞう?

 

「君の隊は名が売れているからね。“ジブラルタルの悪魔”が後方、自身の生命線たる物資集積所に現れたと知れば、一個師団は確実に釣れる。釣れなくても物資を焼き払えばあちらさんは大損害、実に割の良い取引だ。まあ、おかげでメインディッシュは欧州方面軍に渡す事になるがね」

 

「そうは言いますが、連中が私達だと気づかなければ意味がないのでは?でしたら…」

 

「気付くよ、それも確実に」

 

俺がそう言って笑って見せると、訳が解らないと言う表情になる中佐。うん、そろそろ良いかな?

 

「一月程前だったかな?亡命してきた技術士官が居たんだ、連邦の新兵器の情報を持ってね」

 

丁度ホワイトベース落とした辺りだったから、タイミング的には中々迫真に迫っていたんだが、彼はどうも運がなかった。何せ潜り込む先であるオデッサが、入り込もうとした矢先に総司令部付きに変更。おかげでいつもは丸投げしてくるユーリ少将が、一応発送手続きの前に連絡を入れてきたのだ。

 

「亡命してきた技術士官、そっちに送るぞ?」

 

「そいつスパイだからノーセンキュー」

 

あの時の少将の顔は中々に傑作だったなぁ。因みに持ってきた資料は強襲型ガンタンクだと思ったら、普通のガンタンクだった。ほほう、つまりあいつは対ヒルドルブ用か何かで隠しておきたいと言うことだな?折角だから有効活用してやろうと言うことで、欧州方面軍司令部の技術部――と、言う名の偽部署、中身は情報部のエージェントさんしかいません――に放り込んで、無い事無い事それから無い事を吹き込んで盛大に情報流して貰っている。具体的には、欧州のMS配備数は実際の3分の1くらいとかね。

 

「そういう訳で、私達に都合の良いスピーカーが居てくれるのでね、中佐の存在を敵に教えるのも教えないのもこちらの胸三寸なのだよ」

 

それにしても、よく考えたらあの情報を基に攻めてくるのか、ちょっと連邦軍将兵には同情するな、手は抜かんけど。

 

「それにそう悲観することもない。MS部隊は無理だが、歩兵部隊は北方と東方合わせて20師団が防衛戦に参加してくれる。つまり、基地のMS部隊は完全に機動戦力として暴れられる訳だ」

 

俺がそう言ってみせれば、中佐は複雑な表情で口を開いた。

 

「…もしかして、今回の攻勢そのものが大佐の書いたシナリオですか?」

 

いえいえ、それは流石に買いかぶりすぎですよ。

 

「そこまで操れるなら、そもそもここを戦場にするなんてプランは作らんよ。余計なリスクを負うほど、私は酔狂ではない」

 

死ぬのも死なせるのも、ご免だからね。

 

 

 

 

「それでは、お世話になりました。ビッター閣下」

 

「それはこちらの台詞だ。こちらこそ世話になった。大佐によろしく頼むぞ、大尉」

 

初めて会ったときとは比べものにならないほど綺麗な敬礼をするヴェルナー大尉に向けて、答礼をしつつノイエン・ビッター少将は感嘆と憧憬の混じった感情を覚えた。ヴェルナー大尉――初めて会ったときは中尉だったが――の出会った頃と言えば、誰にも飼い慣らせない野生の獣の様な男だった。そんな男を従えているという事実に、飼い主たる大佐の評価を上げたのは記憶に新しいが。あれから半年も経たないと言うのに、ヴェルナー大尉の更なる変わりように、ノイエンは大佐という人間の面白さを実感した。

 

「少しは偉くなりませんと、大佐を守ることもままなりません。あれで危なっかしい人ですから」

 

笑いながらそう心変わりの理由を話すヴェルナー大尉は、どこから見ても立派なジオン軍人だった。残念な事に教官としての技量は相変わらずだったが。

 

「しかし、決戦か。ヴェルナー大尉の言う通り、確かに思い切りの良い男だ」

 

アッザムの借用で何度か連絡も取り合ったが、出陣式で会った頃に比べ、随分と精悍な男になっていた。以前の大佐は用兵家でありながら、どこか現場の人間を下に見ている所があったが、今の彼からはそれは感じられない。どころか、部下が彼を守りたいと言うほどには好かれているようだ。

 

「おまけに覚悟もある。良い将だ、いずれは軍の中核を担う男になるかもしれんな」

 

「閣下も随分と買われているのですね」

 

副官の大尉がコーヒーを差し出しながら、そう話しかけてきた。礼を言いつつマグカップを受け取ると、ノイエンは己の持論を口にする。

 

「兵に生きろと言うのは、実のところそれほど難しくない。誰だって死にたくはないのだから、命じなくてもその為に全力を尽くす。だが、死ねとなれば話は違う。それがどれほど崇高であろうと、意味のあることであろうと、拒絶したくなるのが人だ、それを命じて気分の良い者など居るはずがない。まして命じる相手が己を慕ってくれる者であるなら尚のことな。…だから、将の器とは、その部下に死を命じられるかどうかで決まる、そう私は考えている」

 

そこまで言ってノイエンは、表情を緩め、肩を竦ませてみせる。

 

「もっとも、これは私の様な凡将の持論だ。彼のような戦略家ともなれば、こう言うかもしれん。部下に死ねと命ずる状況を作る時点で将失格だ、とかな?」

 

冗談のつもりで口にした言葉であったが、コーヒーの味を楽しむ内、ノイエンは彼なら本当にそう考えるかもしれない、そんな確信をどこかで得ていた。

 

 

 

 

「失礼します。大佐、カークス大尉より出撃時間の確認が来ております」

 

「またか、今日何度目だ?」

 

端末とペンを置き、ガルマ・ザビ大佐は盛大に溜息を吐いた。確認しているのはカークス大尉、あのアプサラスのガンナーだが、発信源は間違いなくアイナ・サハリン少尉だろう。アプサラスの開発、そして何より兄の命を助けてくれたに等しいマ大佐に彼女は並々ならぬ感謝の念を抱いている。故に大佐から支援要請、それも名指しでアプサラスを指定された際の高揚は、ちょっとした暴走を引き起こしていた。

 

「やる気になっているのは結構なことだがな」

 

午前中だけで3回も出撃時間の確認をされれば、多少落ち着きを身につけたとは言え、まだ年若いガルマには苛立ちの対象にもなる。

 

「仕方が無い。この手はあまり使いたくなかったのだがな。ダロタ、アイナ少尉に伝えろ。君たちの出撃タイミングはマ大佐から細かく指定されている。つまり早すぎても、遅くても大佐の思惑から外れるのだ。大佐にとって君たちは只の増援ではない。切り札なのだよ。だから、その瞬間まで己を律したまえ。とな」

 

「承知しました」

 

そう言って退出する中尉を見送りながら、ガルマは再び端末へ向き直り書類整理を始める。だが、視線こそ文章を追ってはいるが、頭の中では大佐との会話を思い返していた。

 

「増援は問題ないが、直ぐに送るなとはどう言うことだ?」

 

そう聞けば、大佐は至極真面目な顔で口を開いた。

 

「アプサラスは高い攻撃力を誇ります。おまけに重装甲とIフィールドによって半端な攻撃はものともしません。ですが、それ故に戦場に現れれば最優先の目標になります。あれが浮いているだけで被害の桁が一つ変わっても不思議ではありませんから」

 

「つまり、連中がオデッサに食いつく前に警戒から進撃を止めると?」

 

「はい、そうなれば包囲は難しいでしょう。オデッサは陣地を利用して金床の役割は果たせますが、ハンマーにはなれません。いかんせん数が足りませんからな」

 

「それこそアプサラスを押し立てれば良いじゃないか?」

 

大佐の言う通りアプサラスの火力は圧倒的だ。ジャブローを岩盤ごと打ち抜く事を想定した火力は、地上のあらゆる兵器をなぎ払える。ならばそれを前面に押し立てれば十分に働いてくれるとガルマは考えた。

 

「問題はそれだけではないのです。包囲した後方は当然陣地としては損壊していますから、金床としては不足ですし、何よりここを落とすために準備された戦力です。当然航空兵力も相応の規模が予想されます。正直前進するアプサラスを守り切れるだけの航空戦力はオデッサにはありませんし、今後の事を考えれば、欧州方面軍の航空機も余裕はありません」

 

故に最高のタイミングで、全力で横面を殴りつける拳に使うのだ。そう言って笑う大佐を見て、ガルマは心底彼が敵にいないことを感謝すると同時に、彼が守る拠点へ攻撃を仕掛けねばならない連邦兵に同情を禁じ得なかった。




オデッサ作戦の概要を見ながら、この設定を作ったのは誰だ!と雄山ごっこをする連休でした。

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