起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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懲りもせずまた連話の投稿ですよ。


第百八話:0079/11/17 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―1―

日の出を数時間後に控える暗がりの中を、多くの将兵が蠢いていた。11月のスカンジナビアは、既に肌を切り裂く気温で吐き出す息も白い。

 

「諸君。おはよう」

 

その声に、ざわめきが静まる。一拍空けて再び声は発せられた。

 

「既に承知のことと思うが、今日、我々は欧州の土を踏む。今から3時間後、諸君らは未だかつて人類が経験したことがない上陸作戦の尖兵として、欧州を進むだろう。今、一人の権力者の我欲によって蹂躙されている、故郷を取り戻すために」

 

声は続く、それは集まった将兵全てに隔てなく響いた。

 

「かつて千々に分かたれていた彼の地を、我々の先達は多くの血を流し楽土とした。多くの犠牲の上に、我々は安寧を築き上げた。肌の色、言葉、信じるもの…ありとあらゆる事柄を理由に刃を向け合った時代を過去として、我々は今日を生きている。だが、それを再び甦らせんと目論む者が居る。己の欲望のため、刃を振るい、再び人類を混迷へと誘おうとするかの者は、その欲望を満たすため多くの尊い人命を平然と奪った。そのような者に我々は屈する訳にはいかない」

 

言葉は響く。その場に居る全ての人間が、声も発さず、それに聞き入った。

 

「我々は戦う、再び平和を取り戻すために。我々は戦う、誰もが明日を疑わぬ世界のために。後の戦史において、今日という日は大きな意味を持つことになる。再び連邦が欧州へ舞い戻った日として、そして何よりかの独裁者が打ち倒される始めの一歩として。諸君ら個人にとって、今日の只の一歩は、人類史において偉大な一歩として人々に記憶される事になるだろう。諸君、地球連邦軍将兵の諸君。これよりオデッサ作戦を開始する」

 

歓声が轟き、空気が震え、それに呼応するように次々と陸戦艇のエンジンが呼吸を開始する。航空機が甲高い吸気音と共に、次々と空へと舞い上がり、素早く列を組む。人類が手にした最大規模の暴力装置が、今、解き放たれたのだ。

 

 

 

 

「防衛ラインへの配置転換、及び民間人の避難、完了いたしました」

 

「地雷原の敷設及び対戦車障害物の増設は、予定通り本日1200にて完了いたします」

 

「臨編MS大隊の名簿と使用機体のリストだ、確認を頼む」

 

「シーマ・ガラハウ中佐より電文、「予定通り」以上です」

 

軌道上のパトロール艦隊から連絡が入ったのが一時間ほど前。連邦軍出撃の報を聞いて、ここオデッサも慌ただしくなってきた。

 

「皆、気持ちはわかるが少し落ち着け。敵がここまで来るにはまだ一日以上あるんだ、今から張り詰めていては体が持たんぞ?」

 

報告を見る限り、当初想定していた準備時間より2時間以上予定が繰り上がっている。早い、安い、美味いは良いことであるが、それが負担になってはいけない。地下のチンチロ班長も言っていた、無理は良くない、無理は続かない、至言である。

 

「お前さんはもうちょっと緊張した方が良いんじゃないか?」

 

「私が慌てれば連邦の戦力が減るのなら幾らでも慌てるがね。打つ手は全て打っている以上、後はそれを十全に動かすだけだよ」

 

そう言って送られてきた報告を端末に映し、チェックする。全て指定通り、本当ウチの皆は優秀だなぁ。

 

「そんなもんかね。それで、一応聞いておくが臨編大隊、あれは本当に良いんだな?」

 

良くはないんだけどね。

 

「状況が状況だ、使える戦力は多いに越したことはない。本音を言えば欧州本部の護衛にでも出したかったんだがね」

 

「まあ、あれだけ乗れていればそうそう後れは取らんだろう。指揮官のニアーライトも優秀だし、副官のヘンリー大尉もベテランで戦況把握も良く出来ている。そうそう悪いことにはならんだろうさ」

 

指名したとき二人ともすっげえ驚いてたけどね。まあ、両方とも転換訓練中だったからそうもなるわな、正直すまんかった。

 

「基本的に臨時編成大隊は本部付の予備戦力扱いだ。投入のタイミングは少佐に任せる。上手くやってくれ」

 

「任されよう。…それで大佐、正直なところこの戦い、勝てると思うか?」

 

佐官以上とウラガン、イネス大尉には敵の規模を大凡だが教えているからだろう、少し気まずそうな表情でガデム少佐が言葉を続けた。

 

「オデッサで勝つのは難しいな」

 

相手はこちらの倍じゃ済まない数で来てるもの。そう言うと実に微妙な顔になる爺様。

 

「そこはお前さん、嘘でも勝てると言うところだろう?」

 

はっはっは、冗談じゃない。

 

「指揮官が嘘を吐くなど問題外だ。第一私は小心者でね、嘘に人の命を賭けるなど、とても出来んよ」

 

「今部隊の士気は高い。だが、例の件を知っているのはここに居る者だけだろう?敵を見たとき、何処まで士気を保てるか正直解らん。だからな、何か拠り所が必要だとワシは思う」

 

あんま、そう言うことはしたくないんだけどなぁ。仕方ないなぁ。

 

「ウラガン、すまんが放送の用意を」

 

そう言うと何故か皆嬉しそうに動き出す。本当、こう言うの柄じゃないと思うんだけどな。

 

 

 

 

「皆、おはよう。少しばかり語るので、手を止めず聞き流して欲しい」

 

ノーマルスーツに着替え待機室で寛いでいると、そんな声がスピーカーから流れ出した。どうにも大佐は、この手の演説が苦手らしく毎回微妙な入りをするのだが、それが却って面白いと兵達の間では意外に好評だ。

 

「今週末こそ、私はイスタンブールの骨董市に赴き、文化財の保護に邁進するつもりだった」

 

あまりな始まりにあちこちで笑い声が上がる、同じく彼女も苦笑してしまった。大佐の外出が軍の命令で禁止されているのは周知の事実だからだ。

 

「だというのに基地に脅威が迫っている。ご苦労なことにたかだか基地一つを落とすために軍団規模での攻勢だそうだ。まったく、その労力をもっと有意義に使えと言いたいね」

 

軍団ともなれば、少なくとも基地にある戦力の10倍は下らない。だと言うのに最初の評価が労力の無駄遣いとは。

 

「しかも笑えるのは、たかだかその程度の戦力で、この基地を本気で落とせると思っていることだ。そのような指揮官の下で戦う兵士には同情を禁じ得ないが、相手は本気だろうから、こちらも本気で相手をして差し上げよう、手加減など偉大な連邦軍に失礼だからね?」

 

その辺りで我慢の限界が来たのだろう、スピーカー越しにも笑い声が聞こえてきた。ひとしきり笑い声がこだまし、それが収まった頃、再び大佐が口を開いた。

 

「今回の客人は少々多い、だが特別なことなど何もない、普段通りだ。訓練通りに業務をこなす。君たちはミスをしない、私もミスをしない。それだけ出来れば全て上手くいく、簡単だろう?普段通り、訓練通りに業務をこなし…世界の守護者などと思い上がっている連中を教育してやれ。以上だ」

 

瞬間、歓声が基地を揺らした。その振動を心地よく感じながら、彼女は微笑む。酷い演説もあったものだ。勇ましさの欠片もない、鼓舞と言うにはあまりな内容だ。だが、それでこそ司令らしいと、あの人らしいと笑ってしまう。

 

「聞いたわね?初陣だからって怖がることも、緊張することもないわ」

 

そう、エリオラは表情を和らげていた部下へ話しかける。

 

「大佐の仰る通り、普段通りやりなさい」

 

「「はい、隊長!」」

 

元気の良い返事に満足しつつ、ただしかし、エリオラは一つ懸念があった。果たして、大佐の動きに慣れてしまった彼女たちが、普通の相手に増長してしまわないだろうかと。

 

 

 

 

「大体だな、私達に求められているのは勝つことではない、負けないことだ」

 

これについては十分に説明したつもりなのだが、今一爺様は理解できていないようだ。

 

「お、おう?」

 

「少佐、解らないなら聞いてくれて構わない。意思の疎通は指揮官にとって重要だろう?」

 

「ならば聞くが、この状況では負けない事すら難しいと思わんか?」

 

「物資の集積状況からすれば、最低でも200万前後は動員しているな、歩兵なら凡そ100個師団という所か?」

 

尤も、機甲戦力やMSなどに航空機などもあるから実際にはもう少し師団の数は減るだろう。

 

「ひゃっ!?正気か!?こちらの20倍以上ではないか!?」

 

「数だけならな。だが、敵の多くは旧来の兵器を運用した部隊だ、戦力比で考えるならばそこまで酷いことにはならん。こちらには防御陣地もあるしな。何より敵はこちらがMSで完全充足した師団を複数所持していることを知らん。北部方面軍にはばれないよう適宜遅滞戦闘をするよう要請してある」

 

なんせドムの大隊を止められる陣地だからなぁ、戦車だと正に鴨撃ちになりかねん。

 

「後は主攻である欧州方面軍が伸びた脇腹を食い破るのを眺めるだけだ」

 

俺はそう不敵に笑う。

 

「指揮官もそうだ。歴戦などとうそぶいているが、所詮奴らは非対称戦ばかりで国家間の正規戦の経験は今次大戦が初めてだ。おまけにミノフスキー粒子下での大規模戦闘など言わずもがな。ならばそんな肩書きなど、どれほど恐れる必要があるというのか」

 

唖然とする爺様に俺は一口紅茶を飲んで、もう一度先ほどの言葉を繰り返した。

 

「言ったろう?普段通りやれば上手くいくとね」




オデッサ作戦はーじまーるよー。
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