起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第十話:0079/05/09 マ・クベ(偽)と無理難題

ガルマ様との楽しい男子トークから10日が過ぎ、ヒルドルブが居なくなった基地は、少し静かに、寂しくなるかと思ったら全くそんなこと無かった。ツィマッドの生産設備と作業員の受け入れをしていたら(ハルバさんが頑張ったらしく、実機は持ち込まなかったが、熱核ジェットエンジンの開発スタッフが既に一緒に来ていた)、前線からお礼と共に愉快なものが送られてきたからだ。

 

「ヒルドルブの増産嘆願書か。デメジエール少佐が泣いて喜びそうだな」

 

実際の所、あれが活躍できているのは少佐の類い希なる技量による所も大きいのだが、そこまでは前線の指揮官には解らないだろうし、何よりMSの人員を減らさず強力な戦力が手に入るのが魅力的に映ったらしい。まだ何も言っていないうちに候補生とか言ってマゼラアタックの搭乗員を送ってきた。いや、そんな人だけ送られても困るんだけど。

取り敢えず説明しようと候補生(仮)達と会ったら、みんな超期待した目で見てくるの。この人達もどうやらMS適性試験に落ちた口らしく、ヒルドルブは彼らにとって所謂希望になってしまっていたようだ。帰れって言ったらすっごい落ち込むだろうなぁ、なんて思いながら喋っていたのが不味かったのだろう。気がついたらヒルドルブの追加生産をキシリア様にお願いすることを約束してしまっていた。これが4日前。

そうそう、ヒルドルブと言えば、デメジエール少佐を引き抜いたせいで、北米のフェデリコ君達がはっちゃけたら不味いと思って、ガルマ様に警戒するよう忠告しといたら、かなり張り切ったらしく襲撃を未然に防いだどころか返り討ちにした上に捕虜まで捕まえたそうだ。

おかげでガルマ様は、今度本国で表彰され、ついでに大々的にプロパガンダ放送もされるらしい。お礼に壺が贈られてきたときは正直困ったが、飾っていたら段々愛着が湧いてきた。…この壺変な成分とか練り込まれてないよな?そんな事があったのが昨日。

そんで、今日なのだが。

 

「ウラガン、あれは何だ?」

 

キシリア様に頼み込んだら、ヒルドルブの件は思ったより良い返事が返ってきた。予備機として仮組みしていた2号車と、環境耐久試験に使っていた3号車を送ってくれる事になったのだ。3号車の方はバラして部品取りだが、それでもほぼ完成している機体が1機手に入るのは大きい。ついでに開発スタッフも何人か降りてきていて、ツィマッドに間借りしつつ、最終的にはMIP社から生産設備を持ってきてヒルドルブを製造するらしい。どんどん大事になってるな。

んで、今日はその機体の受け入れだったんだが。

 

「は、添付された資料によりますと、グラナダで開発した新兵器、とのことです。地上での動作試験実施の指令が届いております」

 

大型輸送機から運び出されているのは、どう見てもジオンのビックリドッキリメカ、アッザムである。そういえばグラナダに配備されているルナタンクを改造して造ったって設定でしたね。落ち着け俺、大丈夫だ。コイツの時は確かにやばかったが、史実でガンダムに襲われてもマさんは生き延びた。つまりコイツは死亡フラグじゃない、大丈…駄目だ、自分が騙しきれん。

 

「趣味の悪いタマネギだな。いや、食えるだけタマネギの方がマシかもしれん」

 

携帯端末に送られた資料に目を通しながら思わず口にしてしまう。いやだって、これどうしろというのだ。

 

「連続飛行時間は約50分、時速16キロ?メガ粒子砲を搭載しているが出力不足な上、ドライブさせると飛行時間が減るため発射数に制限がある?技術部はアホなのか?」

 

ヒルドルブ不採用にしといてこんなの造ってるとかちょっと正気を疑うのだが。

頭を抱えながら執務机に戻ると、絶妙なタイミングで通信室から連絡が来た。

 

「…閣下、キシリア少将から通信が入っているとのことです」

 

幾分硬くなった声音でウラガンがそう告げてくる。質問の前に連絡来るとか、嫌な予感しかしないんですが。

 

「解った、すぐ行く」

 

大急ぎで通信室に入ると、画面越しの美女は優雅にお茶を飲んでいた。あれか、紅茶なんかキメてるからあんな愉快な兵器造っちゃうのか、英国面に堕ちちゃってるのか。

 

「お待たせ致しました、キシリア様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「先日連絡があった機体の件だ、今日辺り届くはずだと思ってな」

 

そう言って柔らかく微笑むキシリア様。今まで機体の補充で確認の連絡なんて無かったんだけどな。ああ、あれか?貴重な機体だから流石に気になったんかな?

 

「はい、たった今到着致しました。荷下ろしも確認しておりましたが、特に問題は無いかと。ご配慮頂きまして、このマ、感謝の念に堪えません」

 

「良い。この所精力的に働いているようだしな。聞いたぞ?ガルマへ忠告したのも貴様だそうだな?」

 

あれ、ガルマ様喋ったのか。自分で思いついたことにしとけば手柄になったろうに。素直な良い子に育っているんだなぁ。こりゃちょっとシャアに暗殺されちゃうのは可哀想になってきたな。

 

「そんな噂がある、と申し上げた程度です。実際に事をなしたのはガルマ様ですから、私が功績だと誇れる事など何処にもありません」

 

そう謙遜して見せると、面白そうにキシリア様は笑みを深めた。卵顔なせいもあってその表情は実に愛らしい。本当にこの人キシリア様なんだろうか。

 

「地上に降りて随分変わったな。そちらの水が合ったのかな?」

 

「食事は悪くありません。ただ埃っぽいのが頂けませんね、兵達も閉口しています」

 

そう言って肩をすくめると、ついには破顔して笑い始めた。

 

「貴様の口からそのようなジョークが出てくるとはな。地球は思ったより興味深い所のようだ。…近々そちらを視察しよう。私も直接確認したいしな」

 

最後の言葉に、すっと体温が下がるのを自覚する。え、もしかしてこれ史実イベントフラグ?

 

「し、視察でございますか?」

 

「ああ、今回の輸送であれも届いているだろう?」

 

アッザムですねワカリマス。

 

「あの大型兵器でしょうか?」

 

「うむ、技術部にルナタンクを地上用に再設計させた。MAという新しいカテゴリーの兵器になる」

 

同じ試作機でもどこかの白い悪魔と比較にならない残念さだけどね。

 

「MA…」

 

「今後のジオンにとって重要な機体だ。貴様に任せる。使いこなしてみせよ」

 

いや、無理だろ、って言えたら楽なんだけどなぁ。これ多分ガルマ様に功績挙げさせたご褒美感覚なんだろう。こんなん断ったら今後の陳情に響いてしまう。ただでさえこの所無理言ってたし。でも流石にそのままは危険が危ないから言質くらいは取っておこう。

 

「承知致しました。しかしここは月や宇宙とは勝手が違います。使いやすいよう手を加えることをお許しください」

 

「構わん、必要なのは使える道具だ。貴様の良いように使え」

 

はい、言質頂きましたー。

 

「有り難うございます。キシリア様のご期待に添えますよう全力を尽くさせて頂きます」

 

「ふふ、ではまた連絡する。それまで壮健でな」

 

そう言って機嫌良さそうな声を残し通信が切れる。さて、あれどうしよう?

 

 

 

 

デニス・フロウはご機嫌だった。ドップの設計主任だった彼は、一介の設計士だったはずが、紆余曲折を経て、ここオデッサ基地で働いている。

 

「始めは殺されるかと思ったけど。重力と埃に慣れたらここは快適だね」

 

部下のジョーイ・ブレンがそんな事を嘯いていたが、全くそうだとデニスも思っていた。

来た当初はとてつもない要求書を突きつけられたと絶望しかけたが、その後に渡された資料でそれも杞憂に終わった。何しろ提示されていた仕様は旧式の航空機をベースに現行のパーツや構造材を用いれば十分達成できる値であり、その再設計についても軍が用意していた高性能CADのおかげでデータを入力すればほぼ自動で設計してくれる。おまけに、必要だと申請した物は即座に届けられる。おかげで今までの残業まみれの人生が嘘だったように連日定時上がりの余裕のある生活を営ませてもらっている。強いて文句を言えば基地から外に出るのに手続きが大変なことと、必ず護衛が付くことだろうか。

 

「失礼します。新型機の進捗報告に参りました」

 

そんな訳で、大幅に親しみを増した基地司令に定例の報告を持って来た訳だが。そこには執務机に突っ伏し、頭を抱えるマ・クベ大佐の姿があった。横にはいつもの副官も居るのだが、こちらも暗い表情だ。

 

「…ん、ああ、すまないデニス主任。進捗報告だな、読んでおくから置いておいてくれ」

 

「あの、何かあったのでしょうか?」

 

保身を考えれば、こんな発言はすべきでは無い。そう思ってもデニスは自然と口を開いていた。その事を後に多くの人に尋ねられることになる。何故、自ら苦労を背負い込むようなことを言ったのかと。その度にデニスは笑って答えた。

 

「だって、大佐が困っていたんだ」




コンゴトモヨロシク

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