起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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Q:オデッサ作戦は何話で終わりますか?
A:神様に聞いて下さい。

今月中に終わらせると言ったら友人に笑われましたよ?


第百十二話:0079/11/20 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―5―

「状況は?」

 

ここ数日の決まり文句を口にしながら、ヨハンは席に腰掛けた。作戦開始から4日が経過し、ヨハン率いる第三軍の主力はワルシャワに到達していた。

 

「昨夜0200時に前衛部隊がルブリンを解放。攻略の際敵の強い抵抗に遭い、機甲戦力の3割を喪失、補給のため第41師団と交代しております。第35師団には本隊の503、504、508戦車大隊を補充する予定です」

 

「うん、敵の状況はどうか?」

 

「ルブリンにて確認されたMS部隊は、羽つきとスカートつきが合計で2個中隊です。交戦後クラクフ方面へ逃走、この際にスカートつき2機を撃墜しております」

 

「その先は?」

 

その言葉に参謀は報告書へ視線を落とす。

 

「航空偵察にてリヴィウ、コシツェをそれぞれ確認しました。歩兵による防御陣地が主体であり、MSはルブリンと同程度です、キエフへも偵察を実施しましたが敵の防御に阻まれ確認できておりません」

 

その言葉にヨハンは深く頷く。

 

「補給が済み次第35を41へ合流させる。それから38も併せて合流させてくれ。合流後35を中核にリヴィウを攻略するようにと」

 

「閣下、61式では損害が無視できません。901か902大隊を投入しては?」

 

901と902大隊は今回の作戦における対MS戦闘の中核に位置する部隊の一つだ。本命は量産化されたRGM-79-D、ホワイトベースが運用した改良型ジムの発展型であるが、それだけでは数を確保出来なかったために、陸軍が以前から増強していた対MS用機甲戦力を強引に引っ張ってきたのだ。この大隊は東南アジアで高い評価を受けているアヴァランチと呼ばれる機体の改良モデルで、陸軍ではTYPE-79C、スーパーアヴァランチと呼称されている機体で構成されている。ガンタンクをベースとしているとされるが、どちらかと言えば61式を拡大し、そこにMSで採用された有視界戦闘用の各種センサーを追加、主砲をビーム兵器に変更すると同時に、近接用防御火器を追加した形になっている。ジムに比べれば汎用性は大幅に劣る一方、装甲と火力は圧倒的で、特に連装砲を4連装に換装したスーパーアヴァランチは単機でジム2個小隊分の火力に相当するという報告まで挙がっている。これを借り受ける代償として陸軍へ予算を都合するのに、ビンソン計画の予算を絞る事になったが、その価値はあるとヨハンは考えている。故に今は動かせないとも。

 

「これまで遭遇したMSは合わせても精々2個大隊、どう考えても敵はオデッサで待ち構えている。ならばここで901と902を消耗させるわけにはいかない。敵は歩兵が中心なのだろう?陸上打撃群からウェリントンとキャンベラを付ける、早急に攻略するように伝えたまえ、それと42、43、45、46、及び47に進撃命令を。リヴィウの攻略状況の如何に関わらず、オデッサへ向けて前進するようにと」

 

「それらの師団はファンファンⅡ主体で構成されております、敵部隊と接触した場合、十分な対応が出来ないのでは?」

 

ファンファンⅡは、サイド7での反省から宇宙軍が急遽増産した機体だ。といっても基本的な構造は全く変わらず、MSに効果の薄いロケットポッドを廃して、代わりにラーティビームライフルを両側にそれぞれ4基づつ搭載した間に合わせの兵器だ。射撃回数の少なさは機体の数で補うという、強引なコンセプトであったが、そもそものファンファンが脆弱で戦場に留まる性質の機体で無い事、再設計もウェイトの調整のみで即座に生産に移れたこと、そして何より安価で運用する地形を選ばないことに加えエレカが操縦できれば誰でも扱えることから、補助戦力として大量に生産されている。

 

「だが機動力はある。今連中は時間稼ぎをしている。恐らくこちらの囮部隊を撃退した主力が戻ってくるまで粘る腹づもりだろう。つまり寡兵で持久しようと言うのだ、ならば話は簡単だ」

 

恐らく敵は歩兵でこちらを拘束し、その間に機動力のあるMSでこちらの突破を阻むつもりだ。ならば、対処できないほど突破してやれば良い。

 

「身動きが取れなくなったところで、こちらの主力をオデッサに叩き付ける。その為にもエルラン中将にはもう一働きして貰う必要があるのだが…。あちらの状況は?」

 

「昨夜2100時に再度上陸を敢行、ブレスト周辺を確保したとのことです。現在は全方位に向けて部隊を前進させ、敵部隊の拘束をはかるとのことです」

 

「…もう一手、欲しいな。すまんが通信の準備を頼む」

 

敬礼をして直ぐに出て行く参謀を見送りつつ、ヨハンは帽子を脱ぎ独りごちた。

 

「損害に構わず前進せよ…か。私は地獄に堕ちるな」

 

その言葉に応える者は、誰も居なかった。

 

 

 

 

「やれやれ、大将殿は人使いが荒い」

 

通信を終え、深々とため息を吐きながら、そうエルランは参謀達へ肩をすくめて見せた。

 

「大将はなんと?」

 

「作戦機動群を編成して浸透させろだそうだ。まあ、3日も海の上にいた身としては耳の痛い要求だな」

 

作戦機動群とは単独で敵地深くまで侵攻し、敵の後方や戦術核などの破壊を目的として編制される部隊だ。その性質上精強かつあらゆる事態に柔軟に対応できる戦力が求められ、かつ補給が受けられない事を前提として編成されるのも特徴だ。

 

「しかし中将のお考えが間違っていたとは思えません。確かに予定より遅れはありましたが、部隊の被害は想定を遥かに下回っております。敵の防衛状況から考えれば、これは得がたい結果です!」

 

「我々にとっての正解が他者の正解とは限らんよ。特にレビル大将は今回の作戦を今次大戦の決戦と考えている。であるならば多少の損害よりも時間が重要だと考えても不思議ではない。特に我々は彼にとって手元で使えない兵力だからな。どんな被害が出ても敵を拘束しておけと考えても何ら不思議はないさ」

 

エルランの言葉に参謀は露骨に顔を顰めた。それだけで大将の求心力が損なわれていることが良く解り、エルランは苦笑する。

 

「出向組の前ではその顔はするなよ?それとすまないがケンプ大佐とトラヴィス少佐を呼んでくれ」

 

「作戦機動群を編制されるのですか!?」

 

名前を挙げただけでそう参謀は返してくる。ケンプ大佐は非常に好戦的な人物で、彼の性格に倣うように指揮する部隊も非常に攻撃的だ。ただし、その練度は確かで、どこかを攻撃するのであれば、まず始めに名前の挙がる人物だ。一方のトラヴィス少佐は一時ジオンに捕虜として捕らわれていたことがあるため、部隊内で正直冷遇されている人物だ。だが指揮能力に優れ、彼自身も大戦の最初期からMSに搭乗していたためその技量は確かだ、その点については誰もが認めている。

 

「機甲戦力で突破浸透となればケンプ大佐しかおるまい。トラヴィス少佐は…まあ、こういった時のために囲い込んでいた所もあるしな」

 

彼の指揮する部隊はMSのみで構成された一個大隊だ。だが、その大半はジオンからの亡命者や恩赦をエサに集められた犯罪者などで構成されている。大隊という規模に対し、指揮官であるトラヴィス少佐の階級が低いのも、他の部隊と共同する際、上下関係を明確にするための措置だ。貴重なMSをそのような連中にあてがっている事に、疑問の声もあったが、今回の件で参謀は得心した。成程、確かにこのような任務には、彼らのような存在が適任だ。

 

「承知しました。直ぐに両名を呼び出します」

 

 

 

 

突然の呼び出しに慌てて出頭したトラヴィスを待っていたのは、まさしく死ねという命令だった。横にいた大佐は、戦える事に興奮して良く理解できて居なかったようだが、どう聞いてもその内容は、主力が目標を攻略するまでの時間を稼ぐための捨て駒だ。

 

「君たちには第33師団と49師団の開けた突破口からそれぞれのルートを通って主力本隊の居るワルシャワへ向かって貰う。ケンプ大佐の34師団には南ルートを、トラヴィス少佐の特務MS大隊には北ルートを担当して貰う」

 

つまり死ねと?そう喉まで出かかった言葉をトラヴィスは懸命に呑み込んだ。現在までの情報によれば、バルト海沿岸を防衛していたはずの敵MS戦力の大半が、こちらの囮―つまりこの部隊だ―に引っかかり、ライン川中流付近に集結している公算が高いという。その鼻先にのこのことMSで姿を現せば、どのようになるかなど火を見るより明らかだ。

 

「そう悲観するものでもないぞ、少佐。主力は現在リヴィウを攻略中とのことだ、あそこが落ちればオデッサまでの空域を戦闘機がカバーできるようになるから、今頃連中は大慌てで救援に向かう準備をしているだろう。事前偵察によれば敵のMS部隊はほぼ払底していて、リヴィウには只の一機も居なかったと言うからこの可能性は極めて高い。つまり君はそれを背後から適度につついてやれば良いわけだ」

 

その言葉にトラヴィスは腕を組む。成程、移動準備中の不意を突けば反撃を受ける前に離脱も容易であるし、自分たちの存在がいると言うだけで全戦力を差し向けることは出来ない。どころかある程度見つかりながら移動すれば、こちらを追撃するために戦力を割く必要も出てくる。自分たちのリスクが高いのは気に入らないが、確かに有効な選択だとトラヴィスは思った。

 

「怖いなら替わってやってもいいぞ?少佐?」

 

鼻で笑いながらそう言う大佐に、トラヴィスは笑顔で返す。

 

「有り難い申し出ですが、61では足止めにもならんでしょう。ここは我々が引き受けるしか無さそうですな」

 

「そこまでだ」

 

顔を赤くして掴みかかろうとする大佐を中将が言葉で制した。

 

「ケンプ大佐、君の部隊には欧州に点在するミサイル基地を破壊して欲しいのだ。そうなるとトラヴィス少佐の隊では手が足りん。私が考え無しに君たちとルートを選定していると思っているのかね?」

 

明確な警告にケンプ大佐は息を呑み、居住まいを正す。その姿に満足した様子で、エルランは続けて口を開いた。

 

「この任務は柔軟な対応が求められる。よって行動中の全ての判断を君たちに任せる。私からの命令は一つ、ワルシャワへたどり着くこと、それだけだ」

 

その言葉に二人が敬礼で応じると、エルランは大きく頷き、通る声で命じた。

 

「宜しい、君たちが上手くやることを期待する。ではかかりたまえ」




連邦のターン:きょうりょくな もびるすーつ ぶたいが しゅつげん!

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