起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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一月中に終わらせるといったな?
アレは嘘だ。(今更)


第百十八話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―11―

ノイズ混じりの緊急連絡が届く頃、オデッサの指揮所も蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。監視衛星が件の物体を捉えていたからだ。

 

「発射地点はスカンジナビア半島!ブリテン島!それも複数箇所からです!」

 

「監視は何をやっていたんだ!?」

 

「昼の戦闘でミノフスキー粒子濃度が高く、レーダーが…」

 

「御託は後で良い!とにかく高射砲部隊をたたき起こせ!そうだ!全員だ!なんとしても基地への落着は阻止しろ!」

 

「最終落着点!算出出来ましたモニターへ出します!…え?これは?」

 

「今度は何だ!」

 

そう防空担当の大尉が怒鳴ったが、オペレーターによって落着地点が映し出されたモニターを見て、同じく懐疑的な顔になる。

 

「計算を間違えたのではないか?もう一度計算を…」

 

「…いえ、間違いありません。ボギー1、落着を確認、爆発光も確認できず!不発?」

 

「ボギー2、3、同じく落着、こちらも確認できません」

 

指揮所の空気は一気に弛緩し、そして疑問に包まれる。表示されている落着地点はどれも基地から離れた位置で、仮に被害を出そうとするならば核弾頭、それも戦略核が必要となる位置だからだ。しかし次々と落着するそれらは、一つとして爆発することなくその飛翔を終える。

 

「何だったんだ?連邦は何がしたかったんだ?」

 

仮にこの時、大佐が指揮所に居たのなら、落着地点へ即座に部隊を派遣していただろう。だが、欧州方面軍との折衝で離れていたために、その初動がほんの少しだけ、臨編大隊からの次の連絡が入る僅か3分だけ遅れた。それは悪意が動き出すには十分な時間で、もし大佐が居たとしても防げなかっただろう。

 

 

 

 

「なに?」

 

それに最初に気付いたのは、基地司令から無理矢理待機命令をもぎ取ったハマーン・カーン特務少尉だった。最初は弱々しかったそれは、だんだんと明確な不快感となり、今は確信を持って言える。

 

「悪意が来る…ここに!?」

 

横を見れば、同じくこの不快感を感じ取ったのだろう、マリオン少尉が顔を強ばらせ、僅かに体を震わせていた。

 

「大丈夫か、少尉」

 

その様子に同じく待機していたニムバス大尉が気遣わしげな表情で聞いた。

 

「来ます、大尉。多分これはあの人の…」

 

「っ!!クルスト・モーゼスか!」

 

大尉が激昂する様を見て、ハマーンは正直に言えば驚いた。表情が硬く、口数も少ないためあまり知られていないが、ニムバス大尉はとても高潔な色をした人だ。そして同時に自分に厳しく、弱者を労る事の出来る正におとぎ話に出てくる騎士のような人でもある。そんな彼がここまで露骨に敵意を示す相手とはどんな人だろうと思い、そして同時に合点がいった。不快感の中に混じっている恐怖、悲しみ、つまりその人物は、味方にすらそんな感情を振りまく存在なのだろう。

 

「行きましょう、大尉。あの人の生み出したものなら、ここに私が居ては皆が危険です」

 

その言葉にハマーンは、以前偶然聞いた大佐と博士の話していた内容を思い出す。

 

「ニュータイプを見つけて、殺す機械?」

 

思わず出た言葉に、マリオン少尉とニムバス大尉が驚いた後、真剣な表情で頷いた。

 

「そうだ、カーン少尉。愚かな男の妄執の果てに生み出された殺人機械。あれを止めねば、彼らが危ない」

 

彼ら、今この基地で最も安全と思われる地下シェルターに避難している子供達だろう。シェルターにはHLV発射機が隣接していて、万一の場合はそれで彼らだけでも宇宙へ逃がす手はずになっている。当初はハマーンもそちらに護衛の名目で加えられていたのだが、自身の階級と任務を盾に基地に残留したのだ。

 

「でしたら、私も戦います」

 

そう言うと大尉は頭を振った。

 

「駄目だ、危険すぎる。君も今からあちらに合流しなさい」

 

「出来ません」

 

「少尉」

 

困った顔でこちらを見る大尉に毅然とハマーンは答える。

 

「その方が作り出した機械がニュータイプを殺すというのなら、私も無関係ではありません。そしてそのような場合に守られるのではなく、守る場所に立つ覚悟を持って私はこの階級章を得たのです。それに」

 

「それに?」

 

「大佐に言われたんです。子供を守ってやれるような人になれって」

 

ちょっと早い気もしますけど、そう続ければ、あっけに取られた顔になった後、俯いた大尉は肩をふるわせ、最後には大笑いを始めた。

 

「はっはっは!流石だよ少尉。あの大佐と渡り合うのだから、私とは役者が違いすぎる!良いだろう、君も立ちたまえ」

 

「大尉…」

 

「だが死ぬことは許さん。そのような場合私が君の盾になろう、それを忘れるな」

 

「はい!」

 

「…あのー、盛り上がっているところ悪いんですけど、私の意思とかは関係無いのかしらね?」

 

そう、壁際に立ちながら恨めしそうに声を上げたのは、ハマーンとコンビを組んでいるエディタ・ヴェルネル中尉だった。トリッキーな動きと上半身を銀色に塗装した機体を駆っていた事からシルバーフォックスの異名を持つパイロットだ。

 

「ちゅ、中尉!?別にのけ者とかそう言うんじゃなくて!?」

 

「いいんです、いいんです、私はしがない運転手ですからねー。お嬢様の行きたい場所にお連れしますとも。ええ、ええ、地獄でも天国でも言って下さいなー」

 

そう言ってよよよ、と泣き真似をするエディタ中尉。だがハマーンは騙されない。手で隠している口元は明らかに笑っているし、何よりあそこまで口を挟まなかったと言うことは、中尉もとっくにその気なのだ。ただ、皆があまりにも決意に身を固くしていたから、緊張をほぐそうと敢えて道化を演じているのだ。

 

「もう!じゃあ命令しちゃいますよ!さあ、私を戦場へ連れて行って下さい!」

 

そう笑顔で言い切ると、中尉もにっこりと笑顔を返し、堂々と宣言した。

 

「ええ、喜んで。未来を信じられない哀しい機械なんて、みんなここで壊しちゃいましょう!」

 

その言葉をきっかけに、全員がハンガーへ駆け出した。

 

 

 

 

「無茶苦茶だぞお嬢!コイツはまだ未完成なんだぜ!?」

 

純白に化粧直しをしたザメルを前に、ゲンザブロウは反論する。

 

「あら?嘘は良くありませんよ、ホシオカのおじ様。この子の何処が未完成なんです?」

 

笑顔でそうハマーン少尉に言い返され、ゲンザブロウは言葉を詰まらせる。否、未完成なのは事実なのだ。取り付ける予定の主砲が届く前に戦いが始まってしまったために、今は適当な砲…アッザムに搭載されていた試作砲を代わりに載せている。しかし、言ってしまえばそれ以外は全て出来上がっている。繰り返しシミュレーターで取られたデータを基に調整は完璧だと自負しているし、機体そのものの出来において不満のある部分も無い。つまりハマーン少尉の言う通り、この機体が未完成だとゲンザブロウが言い張るのはただ一点、自身の造り出した機体に、自分の子供より年若い少女が乗って鉄火場へ征くという事に、ゲンザブロウが耐えられないからだ。

 

「おじ様、どうか我儘を聞いて下さい。私は私であるために、私が納得できる未来を歩くために。私は、今この子が必要なんです」

 

「5分…いや、3分だけくれ。機体の最終チェックをする」

 

何とか絞り出した答えに、ハマーン少尉は深くお辞儀をした。その姿を見て、ゲンザブロウは深くため息を吐く。子供というのは、こちらの気持ちなんてお構いなしに大人になっていく。

 

(いや、違うな)

 

彼女が大人になるのは彼女のせいでは無い。周りの大人が、彼女が子供である事を許さなかったのだ。ならば、そのうちの一人として、せめて己の務めだけは完璧にこなさねばなるまい。そう決意したゲンザブロウは大声を張り上げる。

 

「お前らいいか!これからコイツを出すぞ!」

 

「ちょ、ちょっと父ちゃん!ほ、本当に?多分大佐、すっごく怒るよ!?今度こそクビになっちゃうかも!」

 

慌てた様子でそう止めてくるミオンに、ゲンザブロウは正面から応じる。

 

「大佐には俺が言っておく。おら、お前ら!お嬢の花道だ!ヘマしやがったらムンゾまで蹴り返すぞ!気合いを入れろ!」

 

「「応!!」」

 

「まったく、若い子には甘いんだから…」

 

聞き捨てならない台詞を娘が吐くが、ゲンザブロウは敢えて無視した。出撃まで3分の約束を守るために。




アッザム1号機の砲は量産化に伴い正式生産されたものに換装されています。
以上今回の言い訳。

「ザメルを出すのか!?」

「今出さないでいつ出すんだよ!」

も使いたかったなあ。

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