起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。


第百二十話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―13―

「成程!確かにこりゃ危険だわ!」

 

横薙ぎに放った120ミリは、敵を捉えること無く空を切る。エディタは舌打ちをしたくなるのをこらえて、盾を突き出した。直後、盾に連続して敵弾が吸い込まれ、機体を僅かに揺らす。負けじと応射するが、やはり弾は空を切った。

 

「思っていたよりも速い!それに少しずつ動きが良くなってる。この子、学習しているの!?」

 

ハマーン少尉が驚愕の声を上げるが、それに付き合っている余裕は無かった。何しろザメルはでかくて鈍重だ。サイズ的に言えば素早いと言えるだろうが、現実問題として敵に捕捉され、命中弾を出され続けている現状の何の慰めにもならない。被弾を減らす意味合いも含めて、エディタは回避を強要するべく射撃を継続する。

 

「参ったね!もう少し楽な相手かと思ったが」

 

120ミリの弾が切れた瞬間、両肩に接続された75ミリガトリングが即座に起動、弾幕を形成する。しかしこちらも敵を捉えるには至らず、弾だけが消費されていく。

 

「ですね、油断しました。一対一はちょっと欲張りすぎでしたね」

 

ガトリングの発射音が響く中、120ミリのマガジンを交換しつつエディタは内心ため息を吐いた。欲張りすぎと言うより、ここまで戦闘になっている時点で規格外だ。仮に自分一人が通常のMSで戦ったなら、最初の弾切れからリロードの機会を与えられず、格闘戦に持ち込まれて磨り潰されて居ただろう。それに悔しいが自分が放つ120ミリよりもハマーン少尉が操作する75ミリの方が敵の回避が激しい。つまり、それだけハマーン少尉の射撃が正確だと言うことだ。無論自分は機体を操作しながらで、彼女が射撃に専念していると言う差はあるだろうが、それでもその未来を知っているかのような射撃は、パイロットとして頼もしくも恐ろしく感じた。

 

「爺様達はどんなだろうね?くたばった?」

 

エディタの言葉にハマーン少尉は困ったように眉根を寄せる。一機目をつり上げた後、比較的至近にもう一機基地方向に向かう機体が居たため、ガデム少佐達はそちらの対応に当たっている。

 

「中尉、流石に少佐相手にその物言いは。皆さん無事ですよ、向こうも撃破出来て居ないようですが」

 

「おいおい、爺様と魔獣共の1個中隊で仕留められないのかい?ホントとんでもない化け物を造ってくれたもんだ!」

 

言いながら再び飛来した敵弾を盾で防ぐ。ザメル専用に作成されたこの盾は、基地司令が何をとち狂って要求したのか、ヒルドルブの主砲に耐えられる防弾性を与えられている。おかげで敵の撃って居る90ミリだか100ミリだかは全く効かないが、MSパイロットにとって敵に撃たれ続け、それが当たり続けるという状況は大きなストレスだった。

 

「ペチペチペチペチうざったいったら!少尉何とかならない!?」

 

「ですね、この子だけに時間を掛けているわけにも行きませんし、一気に行きます。中尉、お願いします」

 

「任された!」

 

言うや、それまで一定の距離を取っていたザメルが急速に距離を詰める。その突然の動きに敵機は動じる事も無く手にしていたマシンガンを放棄するとビームサーベルを引き抜いた。

 

「可愛げ無い!ちったあ驚きなよ!」

 

ザメルはその速度を補うために幾つかの装備が追加されている。例えば今はリアスカートに内蔵されている緊急用ブースターを展開して、通常の倍近い速度で突撃している。はっきり言って大佐以外に見せていない奥の手を披露しているのだが。

 

「所詮無人機、どんなに性能が良くとも燃えないね」

 

戦闘狂とまでは言わないが、エディタもパイロットである。戦うことに高揚は覚えるし、強敵と対すれば興奮もする。けれどそれはやはり、生の感情があってのものなのだ。人間の持つ狡猾さ、死力を尽くして戦おうという意思。それらを持たない機械ごときに、負けてやるほどジオンのパイロットは弱くない。

 

「ここ!」

 

こちらの動きに合わせ、正に計算上最適の場所で敵機がスラスターを吹かせて突撃する。こちらの予測通りに。ハマーン少尉が叫ぶや、エディタは機体に急制動を掛ける。既に最大加速に入ってしまった敵機は軌道を変える事無く、最短距離でこちらへと肉薄する。だが、それこそが狙い、それこそが望む状況。ハマーン少尉の意思に呼応するように機体に取り付けられたサブアームが蠢動し思い思いの武器を構える。普通の兵士では同時に複数、それもバラバラの位置に取り付けられた装備を全てコントロールし使いこなすなど不可能だ。だがこの機体と、ハマーン少尉ならば別。展開した6本の腕に握られたそれぞれの火器が、正に理想的と言えるタイミングで敵機を包み込むように火を噴いた。そこから先はエディタの目では追えない世界。後から戦闘ログを確認したところ、こちらの射撃を強引に避けようとした敵機は、しかし避けきれずに被弾、急激な進路変更と重なり機体側が物理的制御限界を迎え転倒する。そして、その転んだ先は、ザメルの主砲の目の前だった。

 

「さようなら、次は本当の貴方と会えることを期待します」

 

エディタには解らない言葉をつぶやきながらハマーン少尉がトリガーを引き、戦いはあっけなく幕を閉じた。

 

 

 

 

一方、ハマーン達と別れて、付近に居たもう一機を相手取っていたガデムとマルコシアスは正に大捕物と言った様相だった。相手は獣でも盗人でも無く、MSという違いはあったが。

 

「ギー!そっちへ行ったぞ!」

 

「おうよ!くっそ!はええな!?」

 

「足を止めずにとにかく囲め!」

 

部隊全機がゲルググであり、装備がビームライフルで統一されていたことも災いした。威力と弾速に優れる反面、弾数が少なく発射サイクルの長いビームでは、弾幕を形成する事が難しく、更に今回のように密集した状況であると威力が過大であり、外した際の周辺被害が大きい。必然射撃機会は限られ、その分敵機の接近を許すという悪循環に陥っていた。

 

「セベロ!ギー!タイミングを合わせろ、格闘で行くぞ!」

 

このままではいずれ損害が出る。そう確信したガデムは、即座に部下の中から格闘に秀でた二人を選びビームサーベルを構える。敵の動きそのものは稚拙としか言い様がない。攻撃目標の選定も適当だし、攻撃の一つ一つが連続性を無視したものだから、どうしても一動作ごとの隙が大きい。

 

(問題はそれを補ってあまりある反応速度と機体性能!)

 

そのアンバランスさは敵が人では無く機械である事をガデムに強く意識させる。そしてそれは、MSの開発に携わった者への侮辱にしか見えなかった。

 

「なめるなよ、人形ごときが!!」

 

鋭く放った刺突は背後からであったにもかかわらずあっさりと躱される、だがそれは予定通り。切っ先を振り下ろし、その反動で浮き上がる足を相手の上半身めがけて放り出す。目の前に迫った足を敵は躊躇無く手にしたビームサーベルで切り裂いた。ガデムの思惑通りに。

 

「やれやれ、始末書ものだな」

 

内蔵された熱核ジェットエンジンが切り裂かれたことで、内包していたプラズマが敵機の頭部を焼き、視界を奪った次の瞬間には想定通り、二本のビームサーベルが敵機に突き立てられた。これがMSであれば勝負はここで付いていただろう。

 

「いかん!セベロ!ギー!離れろ!!」

 

ガデムが叫ぶが既に遅く、二人がビームサーベルを離すより先に、敵機が大爆発を起こした。

 

「爆発!?」

 

「セベロ!ギー!ねえ!返事をして!?」

 

泣きそうな声で確認しているのはカルメン伍長だろうか、ふらつく頭を振って、ガデムは取敢えず口を開く。

 

「状況…、報告!」

 

「少佐!ご無事ですか!?」

 

「ワシはいい、状況は?」

 

「せ、セベロ機とギー機が直撃を…、機体は大破、パイロット応答ありません!」

 

「落ち着け、コックピットに損傷は?」

 

震える声で告げるカルメン伍長にそう告げると、慌てて確認を始めたようだ、ガデムも完全に機能を失った自機から這い出し、目視で二人の機体を確認する。未だに爆発の余波で煙を上げているが、見る限りコックピット周りに致命的な損壊は見られない。もしこれがゲルググでなくザクだったなら、今頃自分たちは死んでいただろう。二人の安否が確認され、機体に助けられたという思いが強くなり、それ故MSにあのような無様な動きと行動を強いる連邦への反感を呼び起こす。

 

「何処の誰だったか忘れたが、覚えておけよ。いずれMSの強さをたたき込んでやる」

 

そう言いながら、今後どうすべきかガデムは頭を悩ませる。何しろ敵はまだ10機以上残っているのだから。

 

 

 

 

「思想の違いだな」

 

以前、テム博士とした世間話を俺は思い出していた。疑問だったのは学習型コンピューターと言う存在。言っては何だがジオンのOSにだって学習機能はある。だからパイロットは乗れば乗っただけ機体が最適化され、それこそ一部の異名持ちなど、自身の手足と同等に機体を操れる。ジオンが専用機を多用するのはこれが原因だ。

 

「思想の違い?」

 

「ジオンのOSはパイロットの能力を最大限発揮できるようサポートする、文字通りのOSだ。だから学習もそこに焦点が置かれている。だが、連邦の学習型コンピューターは違う。学習型コンピューターが目指しているのは、誰が乗ってもその機体の最高性能を発揮できる事を目的としている」

 

「無理でしょう、それは」

 

博士の言葉に、俺は否定を口にした。パイロットの技量差は究極的には身体能力の差だ。思考の速度、判断力、何よりも肉体の強度。個々の限界点で機体を操作するのだから、そこにばらつきが生じるのは当然で、機体の最高性能に合わせる、というのはその限界を無視することに他ならない。それは、肉体的に耐えられないパイロットにとって死を意味するのだが。

 

「うん、人間が乗っていては無理だ」

 

博士に言わせれば、今の連邦パイロットは全員学習型コンピューターの教育係なのだという。膨大な情報を集め、最適のモーションを生み出すための踏み台。その先に生み出されるであろう、学習を終えたコンピューター、それが搭載されたとき、初めて連邦のMSは完成するのだとも。

 

「連邦は最終的にMSを無人運用するつもりだと?」

 

「少なくともガンダムを設計した私はそのつもりだった。MSにとって最もデリケートで不安定な部品はパイロットだったからね。幾ら高性能な機体を用意しても、それの能力が発揮されなくては意味が無いことは、北米で君たちが証明しただろう?」

 

そう言って博士はマグカップを傾ける。

 

「ただまあ、今次大戦中に完成させるのは難しいだろう。何しろ収集出来る母体が少なすぎる。精々誰か優秀なパイロットのモーションを誰が使っても実行できるようにする程度だろう、君の言う通りパイロットの負担を無視してね」

 

そこまで言って、博士は意地の悪い笑みを浮かべて付け足した。

 

「ただまあ、例えばであるけれど、高度な自立判断が出来るAIあたりと組み合わせれば、あるいは脅威になるかもしれないね」

 

今更思い出した言葉に頭をかきむしりながら、ガデム機大破の連絡を俺は受けた。まだ夜は明けそうにない。




70年代ではコンピューターが勝手に学習してくれるなんて、未来の技術だったのでしょうね。50年掛からず達成されてしまいましたが。
なので本作では本文中のような仕様の違いであると解釈し、学習型、と言う名前を付けたとしました。
無理矢理だって?うん、知ってる。

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