起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百二十一話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―14―

続けざまに届く報告に、ヨハンは帽子を脱ぎ額を押さえた。

 

「パウル少将の戦死は間違いないのだな?」

 

「はい、現在先鋒はアーレイバーク大佐が指揮を代理しております」

 

アーレイバーク大佐は元々ジャブロー配属であったために今次大戦でも実戦経験が乏しい。空爆成功と特別降下部隊の展開成功の報告を受け、直ぐにヨハンは増援を決断する。

 

「レオニード少将の第71師団を前線に合流させてくれ、敵が拘束されている今がチャンスだ。902大隊も71師団に合流、突破しオデッサを目指すよう伝えろ。それから…ああ、残っている機甲師団は幾つか?」

 

「現在待機中の部隊は36、37、60、61、62、63の6個師団です」

 

「…致し方あるまい。第72師団をグディニャに向かわせろ、それから36、37、60、61、62、63師団へも前進命令を、パウル少将の挺身を無駄に出来ん。今のうちに前線を押し上げる。73にも出撃準備に入るよう伝えてくれ、しかし、EXAM…だったか、幾ら高性能とは言え、暴れるだけでは戦果は見込めんか」

 

そう報告書に目を通し、ヨハンはため息を吐く。投入された20機の内、既に3機が反応を消失している。しかも最終手段であった自爆が出来たのは僅かに1機だけだ。画期的な無人MSという触れ込みとRX-78の性能を完璧に引き出すという売り文句に期待し、オデッサの直接攻撃に使用してみたが、その内容はあまり芳しくないようだった。だがこれはヨハンのあずかりしらぬ事だったが、相対した敵の技量が極めて優れていたためであり、仮に投入されていた先が欧州方面軍司令部であったなら、その半数であっても配備されていた部隊ごと司令部をこの世から消し去っていただろう。

 

「閣下、それでは本営の守備戦力がMSとMTそれぞれ1個大隊以外、機械化歩兵になってしまいます。本営から戦力を抽出しすぎでは?」

 

その懸念にヨハンは目を閉じながら答えた。

 

「後方遮断に現れたのは多くても大隊規模のMS部隊、しかも母艦を伴ってだそうじゃないか。つまりそれ以上先行して送り込める手段が敵に無いと言うことだ。ならば敵の移動速度を考慮すれば、今夜中にここへ戦力を投入することは難しい。今の戦力でも過大なくらいだよ。むしろ西部戦線に増援を送りたいくらいだ」

 

本営に残る戦力以外は東西の前線構築で出払っている。確かに陸上戦力の接触が今のところ無いため、ここには無傷の機甲師団が居るが、配置転換には最低でも半日は掛かる。何より囮部隊の上陸が3日遅れた結果、想定よりもあちらの前線が拡大しておらず、敵戦力が予定より拘束出来て居ない。特に北方から転進した部隊が拘束出来て居ない事は、ヨハンにとって大きな懸案事項になっていた。

 

(想定より遥かにMSの数が多い。ならば西側から機甲戦力は引き抜けない)

 

現在ウッチ、ビドゴシュチの両都市を基点に30個師団が配置されている西部戦線だが、この大半は機械化歩兵師団であり、機甲師団は3個師団のみだ。状況からして彼らには逆襲してくるであろうジオンの欧州主力を受け止めて貰わねばならないのだから、引き抜くどころかむしろ増やしたいくらいである。情報ではホバー機は配備が進んでいるものの稼働率が低く、頻繁なメンテナンスを要するため物資面でもジオンを圧迫しているとのことだった。だが蓋を開ければどうか?戦場で見かける機体はどれもこれもホバー機で、戦闘中も故障どころか、被弾しても平然と逃げ帰っていた。ならば、事前に情報部が掴んだあの補充部品の多さはどう言うことか?認めたくない現実にヨハンは頭を抱えたくなる。整備の頻度が従来と変わらず、稼働率が維持できるなら、その部品量が示す事実は一つしか無い。

 

「ビルフィッシュのスクランブル機を増やすように伝えてくれ、最低でも現在の倍だ。それから可能ならフライ・マンタの飛行隊も何時でも出せるように。今夜の西部戦線は修羅場になるぞ」

 

 

 

 

「なあ、フィクサー、本当に良かったのか?」

 

「トラヴィス少佐、だろ?マーヴィン中尉。俺たちはもうレイスじゃない」

 

「代わりにコウモリ、いや、騙しているんだからキツネか?まあ、それはともかく俺もボマーの意見に賛成だ。このタイミングで連邦を裏切る理由は何だ?フィクサー」

 

「私も聞きたいわね。少なくともグレイヴが消えた以上、連邦内でも私達の安全は保証される。ここで態々あの大佐に義理立てする理由はなに?」

 

そう部下達に問いただされ、トラヴィス・カークランド少佐は覚悟を決めた。彼らとはスレイヴ・レイス隊の頃からの付き合いだ。嘘は吐きたくなかったし、ここから先は自身の事情があまりにも比重を占めすぎている。

 

「あの大佐が、俺たちを送り出す時に言った言葉を覚えているか?」

 

「誰かが裏切れば、別の誰かの家族を殺す…だったか?中々に性格の悪い脅し文句だったよな。まあ、俺にゃあ関係無い話だが」

 

そうマーヴィン中尉が鼻を鳴らす。元々孤児出身で身寄りと呼べる者が居ない彼ならば、確かにどうでも良い脅し文句だ。

 

「あれは、全員に向けて言った言葉じゃ無い。俺にお前達を裏切らせるな、という意味で言った脅しだよ」

 

「つまり、フィクサーの家族が人質にとられている?」

 

「何か証拠は?」

 

その言葉にトラヴィスは諦めの混じった笑顔を作る。

 

「証拠もなにも、本人とご対面させられたよ。…俺の子供は、今あのクソ野郎の部下としてあの基地でMSに乗ってる。脅し文句なんかじゃ無い、あいつはやろうと思えばいつだって…」

 

殺せる、その言葉を口にするのが躊躇われ、トラヴィスはそこで言葉を切った。しかし彼のその姿こそが雄弁に真実をものがたり、部隊は気まずい沈黙に包まれる。それを最初に破ったのは、フレッド・リーパー曹長だった。

 

「いいぜ。俺はフィクサーに付く」

 

「おい、マジかよリッパー!?」

 

慌てるマーヴィン中尉に、溜息交じりでドリス・ブラント准尉が声を掛けた。

 

「リッパーがウソなんて言えるわけ無いでしょう?それと、正直生き延びたいならフィクサーに乗る以外無いと思わない?今はまだ目こぼしされているけれど、ジオンに攻撃を仕掛けたら確実に追撃されて、間違いなく殺されるわよ?」

 

「…連邦のオデッサ攻略が成功すれば、逃げ道はあるだろう?」

 

しかめっ面になりながら反論するマーヴィン中尉にドリス准尉は笑いながら首を振る。

 

「ここで私達が頑張っても、多分失敗が2~3日延びるだけね」

 

「何故言い切れる?」

 

その問いに対し、ドリス准尉は最大級の爆弾を放った。

 

「連邦側に内通者が居て、その人物がエルラン中将だからよ。接触を嫌って電子データで情報の受け渡しをしてくれて助かったわ」

 

おかげで比較的簡単に協力者を特定できた、そうドリス准尉は笑った。それを聞いてマーヴィン中尉は頭を押さえた。

 

「オイオイ、ホント、マジかよ。じゃあ、なんだ?俺たちがここに居るのも、あの蛇野郎の差し金ってことか?」

 

「多分な。でなきゃこんなに都合の良いタイミングで重要なポイントへ俺たちが送られているはずがない。しかもワルシャワへ行くまでのあらゆる判断を自分たちでしろ、なんて都合の良い命令まであるとなっちゃ、もう確定だろ」

 

「んで?どうするの?マーヴィン中尉。私としては戦後も身の安全が保証されるなら、連邦が勝ってもジオンが勝っても良いのよね」

 

その問いに、マーヴィン中尉は不承不承とした声で答える。

 

「ここで意地張っても敵中に一人取り残されるだけじゃねぇか。つまりお前ら二人が付いてくって言った時点で俺に選択肢なんかねえよ」

 

マーヴィン中尉の答えに、トラヴィスは内心安堵のため息を吐くと、もう一度改めて指示した。

 

「おし、じゃあこれから俺たちの方針を伝える。本隊はこれより東進し、予定の合流ポイントまで移動、散開した各隊の合流を待ち、合流後、その場で待機する」

 

命令の意味を理解したドリスが呆れた声で問うてきた。

 

「他の連中も誘う気?」

 

「一時でも、連中は俺の部下になった。そして今俺の命令で命を張ってる。なら、そいつらを見捨てる訳にゃいかんだろ。筋は通さねえとな」

 

「拒否したら?」

 

あくまで確認なのだろう、明日の天気を聞くような何気ない口調のフレッド曹長に、トラヴィスはいつもの何時もの調子で返した。

 

「黙って行かせてくれれば良し。無理なら…やるしかないな」

 

そう言いつつも、トラヴィスは楽観していた。配置された部下は、ジオンからの亡命者や、トラヴィス達と同じ恩赦目的の懲罰兵だ。その上今回あてがわれている装備も彼の考えを後押ししていた。

 

(態々全員別機種をあてがったって事はつまり、これを手土産に寝返れって事だろう?俺たちは急編成だったから言い訳も立つしな。嫌になるね、蛇の友人もやっぱり蛇かい)

 

できすぎた状況に顔が引きつるのを懸命に押さえ、トラヴィスは口を開いた。

 

「他に何かあるか?無いなら5分後に移動を開始する。各機、機体のチェックを怠るなよ!」

 

彼のその選択が歴史の歯車を大きく動かすことになるのだが、それを知るのは戦後のことである。




だが主人公は出てこない

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