起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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1周年記念投稿。


第百二十二話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―15―

「クソが!ジオンの連中調子に乗りやがって!」

 

響き渡る警報に毒づきながら、ディーター・ボッシュ中尉は愛機へと走る。既に管制機が離陸し、戦闘機隊も上がれる機から片端に離陸している。前線の対空監視所から緊急の連絡が入ったのはグディニャへ敵MSが現れたという連絡から30分もしない内だった。

 

(昼間の攻撃はこのための囮か!?)

 

ワルシャワを攻略して数日、敵航空機による襲撃は毎日発生していたが、今日の攻撃は非常に大規模であった。当初これはオデッサ上空の防空支援のためにこちらの戦闘機や攻撃機を拘束する事が目的だと考えられていたが、グディニャが襲撃されたことでその為の陽動であったと聞かされていた。更にこの状況を突いて西部戦線に敵MSの襲撃が予測されたことから、航空隊にも即応待機が命じられていたのだが。

 

「フライ・マンタは出せないのか!?」

 

「全機対地攻撃装備に換装しています!最低でも1時間は…」

 

「相手は攻撃機なんだろう!?ならバルカンが撃てれば牽制くらいにはなる!とにかく数を上げろ!」

 

整備班や管制官の怒号を横目に、コックピットへ収まると、素早く機体を立ち上げた。周りの言葉から察するに、昼間のミノフスキー粒子でレーダーが殆ど使用不能となった状況で夜襲、それも攻撃機のみで低空侵入をジオンは試みてきたようだ。ガウ迎撃用に待機していたビルフィッシュはともかく、対MSを想定していたフライ・マンタ隊は対地攻撃装備のまま出撃するとさえ言っている。

 

『進路クリア、滑走路の各機は順次発進!繰り返す、滑走路の各機は順次発進!ジオン共をたたき落としてやれ!』

 

発進許可を示す緑のガイドビーコンが滑走路に浮き上がる。ディーターは苛立つ気持ちを懸命になだめながらスロットルを解放した。

 

(落ち着け、空じゃ冷静さを失った奴から死ぬ)

 

舞い上がった機体が次々と編隊を組み、臨時の飛行隊が組織される。その様子を無線で聞いていたディーターは胃の辺りが重くなるのを感じた。ミノフスキー粒子下では当然のように通信に支障が出る。日頃から行動を共にしている僚機ならばその状況下でもある程度の連携が可能だが、この状況では難しい。その上視界も制限された上に、連中は地上ぎりぎりを飛んできているという。低空での戦闘となれば、当然リスクは跳ね上がる。

 

「たいした度胸だが、ここは地球の空なんだよ」

 

自分達の庭で好き勝手はやらせない、そう決意を固める彼の耳に管制機から悲鳴が届いたのは、未だ敵機を捉えていない内からだった。

 

『何だ?ブリップが増えた!?光学観測はどうなっている!?』

 

『冗談だろ!連中倍以上に増えやがった!どんなトリックだよ!?』

 

どうやら状況は加速度的に悪い方向へ進んでいるらしい。ディーターは覚悟を決めて操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

「ああ、生きているって素晴らしいな」

 

そんな言葉を口にしたのは欧州方面軍第54飛行隊に所属するオットー・キッテル少尉だった。作戦のためとはいえ、自機のコントロールを他人に明け渡し操縦せずに空に居る据わりの悪さは幾ら乗り慣れた愛機のコックピットでも拭えなかった。

 

「だがそれももう終わり!」

 

スロットルと操縦桿を握り締めれば、愛機は貪欲に大気を吸い込み、飛翔のための咆哮を上げる。周囲では同じく、ド・ダイからの曳航ワイヤーから切り離され、次々と高度を上げる味方機の姿があった。

 

(昼間の作戦に参加させて貰えなかった分はきっちり取り返させて貰うぜ)

 

彼の所属する第54飛行隊は欧州方面軍の中でも第52飛行隊に次いでドップⅡを受領した飛行隊であり、文字通り桁の違う飛行時間を誇っている。司令部は昼の航空戦に自分たちを敢えて投入せず、この取っておきを送り届けるためのエスコートに指名してきたのだ。

 

「各…ロッテ…繰り返…機、ロッテ…」

 

濃密に撒かれたミノフスキー粒子によって通信は不明瞭、レーダーも当然のように使えない。だが個々の技量、そして機体に設けられた、その為の装備が現代の闇夜にあって、オットー達を猛禽たらしめていた。

 

「オウルアイ正常作動中…、警告!二時方向に光点確認!」

 

オウルアイ、それがドップⅡに設けられた強力な武器の名だ。元々はMA用に設計された小型モノアイだったのだが、本機の開発にあたり夜間の作戦行動能力は必須であるとした開発担当の大佐が取り付けさせたものだ。これのおかげでドップⅡは夜間であっても昼と遜色ない視界が得られるだけで無く、複数配置されているために、本来死角となる機体下方や後方に対しても視界が通る。更に高い画像処理能力で肉眼では確認できないような遠距離も視認範囲に入れることが出来る。尤もそのせいでHMD越しの視界は、空に体一つで放り出されたようになるため慣れるまで時間が掛かった。だが、一度慣れてしまえばその利便性は計り知れない。現に今、オットーはドップでは確認できないような遠距離の光点を即座に発見することが出来た。即座に発光信号を送れば、味方機は一糸乱れぬ動きで機首を敵へと向ける。

 

「長っ鼻に…膨れ面も若干。足の遅い輸送機じゃどちらも脅威になる!」

 

ならば、取るべき行動は単純明快、全てたどり着く前に喰えば良い。オットーの思考に賛同するがごとく、隊長機が加速を始める。長っ鼻の性能は高いが、格闘戦ならばドップⅡの方が上だ。…それに。

 

「今日は大盤振る舞いでね。まだいるんだよ!」

 

その言葉を肯定するように数条の光が敵編隊に向けて放たれる。見上げれば編隊を組んで更にドップの護衛まで引き連れたガウが4機、夜間迷彩に塗られた機体を空に浮かび上がらせていた。この4機は欧州方面軍に残存する最後の初期型で、唯一ドップの搭載能力を残す機体であったことから今回の任務にかり出されていた。

 

「こちらガウ249、これより対空管制を担当する。各機指示に従わられたし」

 

ガウの一機からミノフスキー粒子を強引に突破して通信が届けられる。あれはガウの腹を全て通信装置に置き換えて無理矢理高出力の短距離通信を行っているのだ。つまり限定的ではあるが、こちらは通信も使える状況で戦える事になる。ダメ押しとばかりに残る3機がミノフスキー粒子を散布し、敵の通信を妨害する。管制機との通信状況が悪化したことに浮き足立ち、幾つかの敵編隊が列を乱す。それを見逃してやるほど54飛行隊は優しくない。

 

「こういう時に数を減らす!」

 

オットーも例に漏れず、搭載していたミサイルを撃ち込む。敵機も即座にフレアーをまき散らし回避行動に移るが、判断の遅れた何機かがミサイルの爆発光に飲み込まれた。

 

『249より各機。ボギーは42、尚も増加中。こちらはVIPがたどり着けば勝ちだ、攻撃コースに乗った機体から最優先で処理しろ』

 

簡単に言ってくれる。オットーは思わず口元をゆがめる。事実、敵機を幾ら落とそうとも、エスコート対象が一定数を割れば作戦は失敗だ。おまけに今回のエスコート対象――信じられないことにMSを2機も乗せた輸送機だ――は見た目通りに鈍重なのだ。

 

(だが、要はやりようだ)

 

輸送機を落とすべく高度を下げた敵機に素早く照準を合わせトリガーを引く。ビーム兵器を搭載する敵の長っ鼻は機銃を装備している従来の機体に比べ攻撃コースに入ってから射撃までが非常に短い上、射程も遥かに長い。だが、大前提である予備動作は変わらないし、何より別の目標に集中している相手など、高い運動性能と高速性を有するドップⅡにとってはカモでしかない。

 

「俺たちを相手によそ見とはな!」

 

同じく攻撃コースを取った別の機体も、僚機の放った機関砲の連射を受けて火だるまになる。それを確認しつつ、オットーは即座に上昇し、攻撃位置を確保する。

 

「さて、次の獲物はどいつかな?」

 

自らを鼓舞するため、敢えてオットーは不敵に言い放つ。何しろ戦いは始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

「戦闘機隊の奴ら、俺たちを囮にしているぜ!?」

 

隣に乗った僚機からそんな不満が発せられ、緊張しながら操縦桿を握っていたナム・ヨンジュ少尉は舌打ちしたい気持ちを堪えて口を開く。

 

「そっちは撃ってこないから敵機を気にして!」

 

確かに気分の良い方法では無いが、元々航空機の数はこちらの方が少ないのだから、ある程度リスキーな方法でも取らなければ劣勢は覆せない。開戦前はガトルの部隊に所属していたナムには戦闘機乗り達の気持ちが良く解った。MSとの性能の差で侮られることが多いが、連邦のパイロット、特に戦闘機乗りの技量は非常に高い。幸いにして今上がっている部隊はあまり連携が取れて居ないので何とかなっているが、それでも個々の技量は決してこちらのパイロットに劣るものではない。

 

(昼間に消耗させていなかったら、危なかったね)

 

これで昼の内に主力同士が削り合った後なのだから笑えない。戦場もこちらが有利となるよう仕向けたが、それでも現場に居る人間からすれば綱渡りと思えるような采配だ。加えて操作しているド・ダイⅡも緊張を強いる要因だ。小型輸送機としてなじみの機体で、コンテナを背中に搭載するという構造上、上に何かを載せるというのは不思議な発想では無かったが、まさかその荷物に自分がなる上に、操縦までやれと言われるとは思わなかった。幸いにして今までの飛行データの蓄積から、高度にさえ気をつけていれば墜落することはまず無いが、安定性を重視した操作性なので運動性は期待できない。その分を二機載せたMSの片方に対空監視をさせることで補うという発想らしいのだが、MSはともかくド・ダイの方は30ミリの機銃でも簡単に墜ちてしまう脆弱さだ。幾ら高度が50mを切っているとはいえ、時速900kmを超えた状態で地面に無事に降りられる自信は無い。

 

「クソ!また来た!今度は膨れ面かよ!?」

 

「喋ってないで撃ちなさいよ!」

 

組んだ相手の悪さを呪いながら、操縦桿を倒したくなる誘惑をナムは懸命に堪える。今、ド・ダイで移動しているこの部隊は所謂コンバットボックスと言う編隊を維持している。簡単に言ってしまえば相互に援護射撃が出来る位置で飛行し、防空能力を高めているのだ。だから狙われたからといって好き勝手に動くわけにはいかない。味方を信じるしかないのだが。

 

(帰ったら、絶対転属願いを出す!少なくともコイツとは別の場所に!)

 

ワルシャワはまだ遠い。




いつもご愛読有り難うございます。
おかげさまで1周年を迎えることが出来ました。
これからもエタらぬよう頑張っていきますので、最後までお付き合い頂けますと幸いです。
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