起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。


第百二十三話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―16―

戦場が大きく揺れている中、ここオデッサも一つの戦いが収束に向かっている。

 

「敵MSの自爆を確認!これで12機目です!」

 

「こちらの被害は?」

 

「MS大破16、中破2、小破が1です」

 

「パイロットは?」

 

「8名が重傷で現在治療中です、また負傷者が9名、こちらは軽傷とのことです」

 

「大佐、軽傷者の中に再出撃を志願している者がおりますが」

 

申し出は実に有り難い。少なくともまだ敵は8機残っていて元気に基地を破壊中だ。EXAM機相手じゃ無駄に死人が出るだけだと砲台を全部自動迎撃にしてるから、全く役に立たずにぶっ壊されている。破壊のために弾薬を消費させているのがせめてもの救いか。

 

「ガデム少佐はなんと?」

 

少佐も機体が大破して戻ってきているはずだ。この数日で何とか数機のMSは予備機として準備出来たが、あくまで工場から出荷されたまっさらな機体だ。大破した機体は放棄されたままだからOSのデータも移せないし、結構リスクが高いと思う。なのでガデム少佐の意見を聞いておきたい。

 

「は、その。出撃許可を求めているのはガデム少佐であります」

 

…じじいェ。

 

「大佐、エディタ・ヴェルネル中尉より補給の申請が」

 

「再出撃志願者はガデム少佐だけか?」

 

「はい、いいえ大佐。セベロ・オズワルド曹長並びにヴィンセント・グライスナー曹長、それからギー・ヘルムート軍曹の三名も志願しております」

 

算数弱い俺でもそいつらが負傷者だってのは解るぞ。

 

「彼らについてガデム少佐はなんと?」

 

「問題無いと申しております」

 

「…ザメルを戻す間ガデム少佐にその3人を付けて出撃させろ。だが極力交戦は避けるように。それからハンガーに連絡を、腹を空かせたお姫様がお帰りになる。丁重にもてなすようにと」

 

そう言って俺は時計を見る。無機質に数字を映すデジタル時計の数字は2203、予定では欧州主力がレビルの本隊に突入を掛けているはずだ。つまりここが正念場。

 

「そろそろ決着をつける時間だ。ヴェルナー大尉に出撃命令を、前線の部隊を蹴散らせ、見かけ次第撃って良し。それからガルマ様に連絡を、天女の身支度をお願いすると」

 

モニター上を移動する光点をにらみながら俺はそう命じる。しかしレーザー通信機能もった人工衛星って凶悪だな。ミノフスキー粒子下でこれだけ前線の状況が確認できると、とんでもない価値がある。事実連邦は今一前線と連携が取れていないところがあるし、こちらでも通信が出来ない機体の動きは大分悪い。史実のように軌道上の制宙圏を取れなかったらと思うとぞっとする。

 

「…通信用の専用機も用意した方が良かったな」

 

そうすりゃ各大隊がもっと連携を密に出来たはずだ。何が出来る限りの事はしただ、まだまだ幾らでも出来ることは有ったじゃないか。

 

「大佐?」

 

「いや、何でも無い。欧州方面軍の一撃が決まることを願おう」

 

信じるだけってのは、辛い。MSで飛び出したくなる気持ちを必死に抑えて、俺は指揮を執り続けた。

 

 

 

 

「ここまで来て!」

 

敵前線をほぼ無傷で突破したナム達第26師団だったが、敵の新兵器による猛烈な迎撃を受けていた。その機体は戦車の下半身にMSの胴体をくっつけたような不格好な見てくれだが、火力だけは本物だった。

 

「ああ!また墜ちた!?」

 

自分たちの前を飛んでいた機がまた一機撃墜される。空中に突然放り出されたMSもすぐに光の雨に飲み込まれ火の玉に姿を変える。

 

(このままじゃ…)

 

墜とされる、そう焦燥感を募らせるナムの目の前で中隊長のドムが片手を上げる、その意味を理解したナムは、隣に乗っているデジレ伍長に叫んだ。

 

「降りるよ!しっかり掴まりな!」

 

「おりっ!?」

 

返事を聞くより先に機体を地面すれすれまで更に降下させる。接近警報ががなり立てるがナムは気にせず更に機体を加速させる。他にも中隊長の意図に気付いた何機かが同じく降下していた。

 

「前方戦車モドキ!とにかく撃て!」

 

「後で覚えとけ!」

 

罵声を上げながらデジレ伍長は、サブアームに装備されたバズーカを連続して敵へ放った。こちらの攻撃に気付き、何機かが慌てて迎撃に移ったが、くぐり抜けた弾頭が前面に居た一機の上半身を吹き飛ばした。

 

「はっ!ジャイアントバズの名は伊達じゃねえぞ!」

 

高揚して叫ぶデジレ伍長を尻目にナムは冷静に次の行動を告げる。

 

「そろそろ降りるよ、3、2、1」

 

「ちょ!」

 

カウントの意味を正確に理解したデジレ伍長が慌てて機体を操作し、ド・ダイとの接続を外す。防空の時もそのくらいキビキビ動けば良かった、などと他人事のように考えながらナムはド・ダイに感謝を告げる。

 

「ここまでありがとね」

 

言葉を紡ぐと同時、スロットルを最大で固定。即座にド・ダイから飛び降りる。一瞬遅れてデジレ伍長の機体が飛び降り、乗り手を失ったド・ダイは最大速度のまま敵中へ突っ込んだ。誘爆こそしなかったものの、その身を質量兵器へと変えたド・ダイは、回避の間に合わなかった敵機の左上半身をもぎ取りながら後方へと転がっていく。それを見届ける間もなくナムは無事な敵機に狙いを定め90ミリをフルオートでたたき込む。その見た目に相応しく、運動性は低かったのであろう敵機はその全てを余すこと無く受け止める。

 

「やっ!」

 

撃墜を確信しあげかけた言葉は、しかし返礼とばかりに撃ち返されてきたビームの洪水にかき消された。仮に彼女が機体を加速させていたならば、この時点でこの世から蒸発していたことだろう。だが偶然はナムに味方した。敵のビームが増設されたビーム攪乱幕封入式装甲を吹き飛ばし、その内容物を飛散させる。本来であるならば機体の移動に追いつかず、覆うことが無いはずのそれは、偶然足を止めていた為にナムの機体前面に想定外の防御壁を形成する。自身の幸運をかみしめる間もなくナムはバックウェポンを起動し、装備されていたジャイアントバズをありったけばら撒いた。

 

「墜ちろ!墜ちろぉ!」

 

その攻撃の殆どは当たらないか迎撃されたが、それでも眼前に居た不幸な一機が絡め取られ、弾薬に誘爆でもしたのか大爆発を起こす。そうして敵の対空砲火が弱まった隙に、後続の部隊が次々とナム達の上を通過していった。

 

「頼んだよ…」

 

それを視界の端に収めながらナムは誰にとも無く呟き、操縦桿を握り絞めた。奇跡はもう残っていない、ならば後は実力で生き残らねばならないのだから。

 

 

 

 

「部隊の突入率は?」

 

「現段階で1割がワルシャワに達しています」

 

直ぐに返ってきた報告にユーリ・ケラーネはうなり声を上げた。想定より遥かに敵の迎撃が激しく、突入できている部隊が少なかったからだ。

 

「部隊の損耗も1割か。とはいえ残りが全て成功しても3個大隊…こいつは厳しいな」

 

この迎撃は双方の意図から外れた偶然であったが、状況としては連邦側に有利に働いていた。特にジオンにとって想定外であった大型戦車―アヴァランチのことだ―の出現と、その高い防空能力は、当初予定していた敵司令部までの肉薄を阻止し、ワルシャワに到達できた部隊も市街地に取り付けず攻めあぐねて居る。更にここから市街戦となれば、歩兵だって無視できない戦力になることは明白だ。その事実にユーリは頭をかき、切り札を切る決断をする。

 

「やれやれ、この手は残しておきたかったんだがな。グラナダに連絡を、月の加護を欲すると。それから北米へ、今夜は晴れている、だ」

 

ユーリの言葉にオペレーターが即座に暗号を送る。それを見届けてユーリは椅子へ深く座り直すとため息を吐いた。

 

「やれやれ、この失点はでかすぎるな」

 

「面子に拘って失敗するよりは宜しいでしょう?」

 

事前にあれだけ情報を掴んでいながら、欧州方面軍のみで対処しきれなかったという事実は、その司令官であるユーリの経歴に大きく傷を残すことになるだろう。しかし秘書官の言うとおり、失敗などすれば失点どころの話ではない。オデッサの再奪還は難しくないだろうが、そこから再建するまでにどれだけの時間と労力が必要になるのか、考えるだけでも恐ろしい。

 

「今でさえ、後の補償で頭が痛いって言うのに。だがまあ良い宣伝にはなるな。また宣伝省の連中が喜びそうだ」

 

それぞれから返ってくる了解の言葉に勝利を確信し、ユーリはそう口角をつりあげた。




後ちょっと。

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