起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
赤く染まるモニターを眺めながら、ジョニー・ライデン少佐はこれを考えついた奴は間違いなくイカれていると確信していた。
「コムサイやHLVを用いた降下は、降下後搭載機側の人員に対するリスクが大きい。本装備はこれらを解決するべく制作されたものである」
そう言って部隊に回されてきたのは、どう見ても半分に切っただけのシャトルの腹だった。
「これに乗っかって大気圏に突っ込む?イヤイヤ、冗談だろ?」
「突入そのものはMS側でオート制御か、的が小さくなる分HLVよりはマシ…か?」
結局の所、一パイロットに過ぎない自分たちに拒否権など有るわけも無く。出撃命令と共に愛機に収まった部隊の面子は次々と大気圏へ降下していく。幸いにしてトラブルを訴えてくる機体は一機も居ないが、正直生きた心地がしないと言うのがジョニーの本音だった。
(本当に制御された降下なんだよな!?)
疑いたくなる程度にめまぐるしく下がっていく高度計の数字と機体を襲う振動に、叫びたくなるのを懸命に抑えていると、センサーが高速で接近してくる物体を捉えた。
『でかいぞ!?』
叫んだのは第3小隊の小隊長を務めているジーメンス・ウィルヘッド大尉だった。それは一瞬で自分たちを追い越し、地上へと降下していく。突入の熱をものともせず、アプサラスはその巨躯を敵前へさらけ出す。
『随分と雄々しい天女様だ』
軽口を叩いたのは自小隊の2番機、ロッテを組んでいるジャコビアス・ノード大尉だ。同じ感想を抱いていたジョニーは思わず笑いながら軽口を返した。
「だがいい女だ」
あれは間違いなく自分達を意識した動きだ。あの機体のパイロットは自らが前進することで敵の火力を自機に集中させ、後続の自分達が少しでも容易に突入できるようにしているのだ。MAの装甲はMSより遥かに分厚いし、アプサラスにはIフィールドというビームを無効にする装置が積まれていると聞くが、だとしても敵の集中攻撃を自ら受けるというのは勇気がいる。
(機体への信頼か、それとも命を懸けるだけの価値がこの戦いにあると思っているのか)
どちらであっても、その決断には敬意を示すべきだとジョニーは思った。そしてそれは他の連中も同じであったらしい、可能な限り各機が密集しアプサラスを盾にする。
「各機予定通り1500で開傘。ヘマして地面にキスするなよ?」
部隊長のガイア少佐が落ち着いた声でそう告げた。既に高度は9000をきり、突入ユニットは緩やかではあるが減速を始めている。迎撃は想像していたより遥かに少なく、ジョニーは作戦の成功を確信した。
「折角降りるんだ、せいぜい手柄を立てさせて貰うとするか!」
大地は目前に迫っていた。
「やってくれる」
モニターに映し出される巨躯を睨み付けながらヨハン・イブラヒム・レビル大将は、即座に迎撃とビーム攪乱幕の展開を指示する。情報部の報告でアプサラスと呼称されるMAの存在は、本作戦における重要な課題だった。直撃すれば間違いなく戦艦ですら破壊可能なメガ粒子砲を上空に投入できるこの兵器は、遭遇した者が言うとおり正に頭上の悪魔だ。こちらの防空能力が弱まったところを突いてくると予想は出来ていたが、実際にやられると肝が冷える。
「攪乱幕を絶やすな。高射砲は全て上空の敵機に集中、MT、MSは地上の敵に集中させろ、機械化歩兵も展開させる。正念場だぞ」
言いながらヨハンは自らの失策に歯がみする。MSが飛んで侵攻してくるなど完全に想定外であったからだ。おかげでHLVの降下に備えて都市内に展開させていたMTは現在遊兵になってしまっている。しかもこの機体はビーム主体であるため、アプサラスとは極めて相性が悪い。おまけにあれが居座る限りビーム攪乱幕を維持し続けねばならないから、素早く撃墜出来ない場合、降りてくる攪乱幕の影響で戦力として使い物にならなくなる危険性さえある。
(だが、早まったな。その手札はもう見ているよ)
ジャブロー上空での手痛い教訓から、アプサラス迎撃のために専門の部隊を用意していたヨハンはその事実を以て精神の安定を図る。だがその試みはオペレーターの悲鳴で無情にも打ち消された。
「そ、空からMSが!?滑走路が破壊されています!」
「対空監視何をしていた!?」
「HLVもコムサイも確認できておりません!れ、連中MSを単独で大気圏降下させたのか!?」
驚愕の声は司令室まで届く振動に遮られる。
「状況報告!」
参謀の一人が声を張り上げる。続いた言葉は文字通り悪夢のようなものだった。
「か、滑走路に複数の質量弾が着弾!更に敵MSが降下中です!」
「航空隊の発進は!?」
「発進は確認されておりません…」
その言葉に参謀はその場にへたり込んでしまう。ぶつぶつと条約がどうとか呟いているがヨハンとしては構っている暇はない。
「艦長、Mk-53の使用を許可する。すまないが、全軍に通達してくれたまえ」
「な!?」
あり得ない命令に絶句する艦長に対し、ヨハンは静かに繰り返す。
「ここで倒れる訳にはいかんのだよ。悪逆と罵られようとな」
その目には確固たる意思が宿されていた。
「狂ったか!レビル!?」
届けられた暗号を握りつぶし、エルラン中将は思わず叫んだ。
「し、司令?レビル大将はなんと?」
あまりの形相におののいた様子で、暗号を持って来た以外の参謀が問うてくる。それに対しエルランは憚る事無く口を開いた。
「Mk-53の使用許可だそうだ!あの爺め人類を無理心中させるつもりか!?」
Mk-53とは、ビッグ・トレーやヘビィ・フォーク級の主砲から発射する核砲弾である。サイズの問題からICBMなどに比べれば威力は劣るものの、それでも間違いなく核兵器、条約に抵触する装備だ。
「閣下、しかし現状を打開する為には多少の事は致し方ないかと」
そう口にしたのはヨハン大将から送られてきた参謀だった。その顔には醜悪な笑みを浮かべている。
「多少?多少だと!?貴様解っているのか?こちらが条約を破ればジオンは遠慮などしないぞ!それこそ損壊したコロニーなど幾らでもあるんだ。奴らは地球をいつでも死の星に変えられるのだぞ!?」
「そこはやり方次第ではありませんか?幸いMSもMTも核で動いています。艦砲は敵を正確に狙えません。不幸な直撃があっても何ら不思議ではない」
参謀の言わんとしている事を理解し、エルランは頭を抱えたくなった。敵のMSやMTを狙い核砲弾を撃つ。至近弾でも十分破壊力のある核ならば容易に撃破し、MSの炉を誘爆させられるだろう。そしてその事を追及されたら、あくまで通常砲弾で撃破したMSの炉が誘爆したと言い張れば良いと言っているのだ。
(そんな子供も騙されんような嘘が通じると、コイツは本気で思っているのか?)
「どうされました?既に賽は投げられたのです。そもそもここまでレビル長官が苦戦しているのは、閣下の采配による敵拘束が不十分であったことに端を発しているのは明白です。これ以上は背任の疑いを掛けられても致し方ないですぞ?」
「貴様ぁ!言わせておけば!!」
「兵を死なせぬ?大いに結構。だがそれで作戦自体が破綻しては意味が無い。雁首そろえてそんなことも解らんからこのような事態になっているのだ!」
エルランを置き去りに舌戦にもつれ込む参謀達に対し、エルランは内心で喝采をあげていた。今、この瞬間こそ最高の機会であると確信したからだ。
「…撤退だ」
その内心を悟られぬよう、低い声でそう口を開く。
「…何ですと?」
「撤退だと言った。条約違反を連邦軍の総意とする訳にはいかん。我々は連邦軍人として先ほどの暗号から今作戦は失敗したものと判断する」
「馬鹿な!まだ味方が戦っているのだぞ!?」
なおも食い下がる参謀を睨み付けながらエルランは続ける。
「ならばこそ余計にここで引かぬ訳にはいかん。軌道上の制宙権はジオンが握っているのだ。核など使ったら降伏も認められず吹き飛ばされるぞ?」
無論、軌道上の敵部隊が準備しているとは限らない。しかし自分達が戦場へ核兵器を持ち込んでいるのだ。敵が同じ事をしていない保証など何処にもない。最悪艦艇の数隻でも落とせば、各戦線は簡単に地獄へと様変わりするだろう。
「つまり、中将はレビル長官の命令に逆らい、持ち場を放棄すると言うのですな?…手を上げろ!エルラン中将!貴官を敵前逃亡の容疑で拘束させて貰う!」
そう勝ち誇り銃を向ける彼は、自分がどのような立場にあるか理解できていなかった。
「それでどうするのかね?命令に従い核を撃ち、人類史終焉の引き金にでもなるつもりかね?」
そう問えば、男は嘲りの表情で言葉を吐く。
「勝てば良いのだよ!歴史は勝者が紡ぐのだ!そのような些事は勝てば全て解決する!」
「度しがたい男だな、君は」
その言葉が合図となり、密かに近づいていた護衛がテイザーを放つ。
「あぎ!?」
悲鳴と共に痙攣し男が倒れると同時、同じくヨハン大将から派遣されていた参謀達が素早く拘束される。その様子こそこの部隊の総意であると確信し、エルランは再び口を開いた。
「前線部隊に連絡!作戦は失敗、我々は撤退する!各部隊は可及的速やかに後退せよ!」
「了解しました!」
返ってきた言葉に満足しながらエルランは椅子に体を預けた。
キマイラ参戦。