起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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就職が決まりました故、今後本格的に亀進行、不定期となります。
楽しんで頂いている所大変申し訳ありません。



第十二話:0079/05/14 マ・クベ(偽)と海

笑顔とは本来攻撃的なものである、と言ったのは誰だったか。今日も今日とて鉱石採掘に勤しんでいたら、ユーリ少将が訪ねてきた。お茶出して、良いでしょーこのカップ、コペンハーゲン製なんだぜー、とか言ってたら肉食獣みたいな笑顔でコミュに放り込まれた。

 

「なあ、大佐。俺はそんなに気が長くないんだ。あまりからかってくれるな」

 

笑顔で恫喝とか、もうおいちゃんこの少将がヤクザにしか見えないよ。ナイーヴなギニアス君と相性悪い訳である。そういや、ラサ基地も今月頭に稼働状態になったって言ってたな。気持ちに余裕がある内はギニアス君も比較的まともだったし、お話ししてみるのも良いかもしれない。

 

「ユーリ少将、クリミアの件は欧州方面軍の直轄という話だったと記憶していますが」

 

なんて取り留めのない事を考えながら外の景色を見ていたら、大体の行き先が解ったので、ユーリ少将に半眼で文句を言った。行き先は絶賛建造中の黒海潜水艦隊の根拠地であるクリミア半島のセバストポリだろう。

実はセバストポリには旧ロシアの軍艦が戦史博物館扱いで多数停泊していた。100年は経っている骨董品だから再利用は望むべくもないが、それでも一級の資料であるし、何よりジオンに本当に必要な兵器がそこにはあった。

その名をプロジェクト941戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦アクーラという。まあ、長ったらしい本名よりNATOコードのタイフーン型原子力潜水艦の方が知っている人も多いかもしれない。

100年どころじゃ無い旧式艦であるコイツが何故ジオンに必要なのか。それは、現在運用しているU-コンがジオンのドクトリンに全く適していないからである。

そもそもU-コンは、連邦軍が運用していたU型潜水艦をそのままコピー、ミノフスキー粒子下では運用の難しい巡航ミサイルのVLSを一部廃してMSの搭載能力を持たせた艦である。一見すれば問題無いように見えるが、実はそもそもこの艦の設計思想自体が問題だったりする。採用当時、既に地球連邦海軍に比肩する敵対的海軍戦力が存在しなかった。必然、想定される任務は非対称戦が主であり、環境としては制海権、制空権は完全に確保された状況。あるいは、満足な対潜能力を有さない相手との戦闘だった。そうした中で採用されたU型潜水艦に求められたのは、強力な対地攻撃力と指定海域に迅速に展開する航続力と高速性だった。結果静粛性は重視されず、推進効率が優先されたため、移動時にアホみたいな騒音をまき散らす潜水艦が建造される事になったのだ。ちなみにそんな事考えもしていなかった地球方面軍によって設立された潜水艦隊の栄光ある配備1番艦と2番艦は慣熟訓練中見事に連邦の対潜哨戒網に引っかかり太平洋の藻屑になっている。この時の教訓から、潜水艦の航行は緊急時を除き最高速度の20%以下に制限されており、その速度は旧世紀の潜水艦と大差ない速度になっている。笑えねえ。

こんな艦のため、当初ジオン海軍が想定していた潜水艦とMSによる通商破壊や、沿岸基地への奇襲といった作戦は予定より遙かに低調となっている。さて、翻ってアクーラである。骨董品ではあるものの、古き海のニンジャと呼ばれていた時代の静粛性を重視した設計、加えて極めて巨大な弾道ミサイルを艦内に収容する必要があった本艦はU-コンと遜色ないペイロードを誇っている。つまりちょっと弄ればMSを搭載可能な静粛性に優れた潜水艦に早変わりするのである。

その事を教えて、ついでに公文書館から引っ張ってきた設計図やら操艦マニュアルやら渡した筈なんだけど。

 

「はっきり言えば、建造の進捗が思わしくない。大佐の方でどうにかならんか」

 

憮然とした表情で頬杖をつきながらのたまうユーリ少将。いや、何言ってんの。

 

「申し訳ありませんが、艦の設計開発など門外漢です」

 

「だが、ドップの後継機開発をしている。先日は不採用だったヒルドルブを再生してみせた。おまけに開発が難航している新型MS計画の誘致に、確か新兵器の改修も行なっていたな?なら、潜水艦だけ出来ない道理はないだろう」

 

うん、他人に言われると何その技術屋さんって言いたくなるね。でも俺何もしてないんだよね。

 

「望外の高評価ですが、私はどれも手出ししていません。精々働きやすいよう環境を整えた程度です」

 

だから潜水艦造れとか無理だから。

 

「そうか。なら潜水艦の連中の環境も整えてやってくれ」

 

そう言ってまた笑顔になるユーリ少将。俺この人苦手だな!

 

 

 

 

「解りました。可能な限り、善処してみましょう」

 

ユーリが笑いながら告げると、大佐は疲れたような、どこか諦めたため息を吐きながらそう答えた。その仕草はどこか旧友であるギニアス・サハリンを思い出させユーリの笑いを誘った。とりあえずこのままセバストポリに置いていこうと考えていると、それを察したのであろうか、大佐が据わった目で口を開いた。

 

「着いたらまずオデッサに連絡させて頂きたい。どうせ缶詰にするつもりでしょう?」

 

「ほう、俺のやり方が解ってきたじゃないか」

 

上機嫌に返せば、不快感を隠そうともしない表情で大佐が口を開く。

 

「承知しているとは思わないで頂きたい。それと艦の建造ですが仕様決定に関する裁量権を頂きたい」

 

「それは構わない、どうせこのままでは完成すらおぼつかんからな」

 

やはり大佐は切れ者だ。そう確信しつつも、わざととぼけてユーリは質問を投げかけた。

 

「しかし大佐、それで問題が解決するのか?」

 

返ってきたのは溜息と胡乱な視線だった。

 

「ええ、問題について大凡見当は付いていますから」

 

 

 

 

絶対貧乏クジだこれ。

面白そうに聞いてくるユーリ少将を半眼で睨みながら俺は答えた。この狸少将、どうせまた自分で解決するべき事柄も、方法も解ってるくせに俺に投げてきやがったな。仕様決定の裁量権なんかほいほい許可出す時点で語るに落ちてるわ。ただ、この人部下から人望あるし、戦い方も堅実だから、悪い指揮官では無いんだよね。ただノリが体育会系だから学者肌な人や文官系の人間とすこぶる相性が悪いけど。

 

「しかし、艦が出来ていないとなると今後の計画を修正する必要がありそうですな」

 

何しろ当初の予定ではそろそろ1号艦が完成しており各種試験を実施している予定だったのだ。乗組員の慣熟も考えると下手をすれば数ヶ月の遅延が出てしまうかもしれない。そう考えて背筋に冷たい汗が流れる。U型潜水艦が2週間くらいでぽこぽこ建造されていたものだから、そのつもりで計画立てちゃってるんだよ。

 

「建造数の心配ならなんとかなる。遅れが出た時点で本国の建造ドックを押さえてあるからな。ただ1号艦が出来ん事には起工する訳にもいかんだろう?」

 

ああ、ガウの時みたいにパーツ製造して地球で組み立てるのか、それなら工期も短縮出来るだろう。って言うか。

 

「…直ぐに2号艦以降も起工してください」

 

そう言うとユーリ少将は驚いた顔をした。いや、そこ驚くところじゃねえから。

 

「全体に手直しが必要だというならともかく。今回は大した内容で遅延している訳では無いですから、造れる所まで造ってしまって構いません」

 

大量生産の車じゃねえんだから、こんな事で一々建造止めるなよ。

 

 

 

 

困り果てていたセルゲイ・スミノフの前に、その男が現れたのは、日差しに強さが混じり始めた5月14日の事だった。MIP社で艦艇の設計部署にいたセルゲイに潜水艦設計のチームリーダーの話が来たのは偶然で、彼自身に何か特別な才能があった訳ではない。ただ、ここの所減っていた艦艇の受注と言うことで、それなりに期待はされていると彼は考えていた。

雲行きが怪しくなったのは、到着して早々の3日目だった。最初に聞いていたのは旧世紀に設計された潜水艦からVLSを撤去し、代わりにMS用の格納庫を取り付ける、と言うことだった。

 

「簡単な仕事だ、降りてくるまでも無かったんじゃないか?」

 

そう暢気に構えていたら、突然本社から連絡が入った。曰く、仕様に追加したい項目がある。

クライアントが突然こういった事を言うのはそれなりに経験していたセルゲイは、まだこの時は、いつもの事だとしか考えていなかった。そんな自分を叱りつけたくなったのはそれから二日後の事である。当初と全く異なる仕様書が届き、設計が進まなくなってしまったのだ。

一日目の訓令では、MSの射出用カタパルトを装備すること、とあった。次の日の朝には対地攻撃能力は維持するためVLSは半数を残しMSの搭載数を減らすという。かと思えば夕方にはやはりMSの数は減らすなと言ってくる。どうにかスペースを捻出していたら今度は部品共有化の為に推進器をU-コンと同一のものに替えろと言ってきた。とどめは昨日、防空能力向上のために対空ミサイルと機銃を追加する必要があるなんて意見書を見せられた。しかも書いているのがガルマ・ザビ大佐だから始末に負えない。さらに意見書には被発見率低減の為に艦形は小さい方が望ましいなんて一文があるものだから、サイズを大きくするどころか、むしろ小さく出来ないかと担当士官が聞いてくる始末だ。

 

「俺にどうしろってんだ!」

 

この不幸の発端は、欧州方面軍の担当士官が勤勉だったことに起因する。当初、欧州方面軍司令部経由でマ大佐の資料を手に入れた担当士官だったが、資料だけでは不十分と考え、実際に運用しているキャリフォルニアの潜水艦隊に問い合わせた。この時受け取った海軍士官は快く情報を提供してくれたのだが、当然新型潜水艦のコンセプトなぞ知るよしも無く、挙がっている改善提案などをそのまま送った。更にそのやりとりを聞きつけた突撃機動軍の司令部が、新たに造るならと、今まで挙げられていた陳情の内容を訓令として送ってくる。真面目な担当士官は、階級が高い人間の大雑把な意見より、現場が欲している兵器を建造することが重要であると考える程度には善人だったので、渡された内容を、全て要求仕様としてセルゲイに伝えてしまったのである。惜しむらくは、U型と新型ではそもそもの特性が異なっている事に気づかなかった事か。

結果、根本から設計し直さねばならなくなった図面を抱えてセルゲイは途方に暮れることになる。そんな彼の前にやってきたのは、ここの所良く聞く名前の大佐だった。

 

「お困りのようですな、どれ、手伝いましょう」

 

不機嫌そうに言うと、大佐は机の上にあった仕様書を片っ端からシュレッダーに放り込み始めた。セルゲイが呆然としていると、机の上をさっぱりさせた大佐は満足そうに鞄から新しい紙束を取り出した。

 

「最新の仕様書です。これを基に御設計ください。ああ、これより後の仕様変更要求は雑音なので無視して頂いて結構」

 

手渡された仕様書は当初指示された内容そのままだった。あまりの都合良さにセルゲイが困惑していると、大佐は笑いながら付け加えた。

 

「御安心ください、責任は私が取りますよ」




嘘みたいだろ?まだ作中1月過ぎていないんだぜ?
U-コンのデメリットは妄想です。あんな形の潜水艦が静かだなんて認めません(憤怒)

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