起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百三十六話:0079/12/22 マ・クベ(偽)と攻略

警備艇から連続して発射される魚雷が水面を叩くと、間を置かず巨大な水柱が上がる。暗闇を濁ったあかね色が僅かに照らし、収まると同時に探査を再開したソナー手が喜色を浮かべつつ叫んだ。

 

「駆動音消失!ざまあ見ろジオンの一つ目野郎が!」

 

コロンビアの前線にジオンの戦力が集結しつつあり、そんな報告から僅か3日と経たずにアマゾン川流域は激戦区になっていた。ジオンの水中型MSが連日押し寄せ、警備に当たっていた沿岸部隊は連日全力出撃を繰り返している。今し方魚雷を撃ち込んだ821号艇も今日二度目の出撃であり、既に魚雷を撃ち尽くしていた。

 

「ジオンの奴ら底なしかよ、後から後から湧いて来やがる」

 

「今だけさ、この3日で何機仕留めたよ?」

 

「だな、今頃連中損害の多さに顔を青くしているだろうさ」

 

その言葉には確かな自信が見て取れた。事実821号艇だけでも既に2機を撃沈しており、警備隊全体で見れば40近い数になる。正しく大戦果と言える数字であり、彼らの言葉も無理からぬことだった。

 

「よし、一度補給に戻る。各員警戒を怠るな!」

 

艇長の言葉と共に艇は闇を裂いて基地へと帰還した。

 

 

 

 

「…行ったみたいです」

 

「鼻の悪い番犬だな」

 

警備艇が去った後、僅かな間を置いて近くの水面が盛り上がった。濃緑色のまだら模様に塗装されたアッガイが頭部だけを水面に出しせわしなく周囲を確認する。

 

「敵影無し、パッシブにも反応ありません」

 

「よし、上陸だ」

 

言葉と共に3機のアッガイが次々と上陸を開始する。それぞれの機体は思い思いの追加装備を施しており、一目で重武装である事が見てとれた。

 

「それにしても楽勝過ぎて変な気分だぜ、そう思いませんか?赤っパナ隊長?」

 

「ノルト軍曹、お前は腕は良いが態度が最悪だ。少しはベルデ伍長を見習え」

 

ため息を吐きながらアカハナ少尉はそう年若い部下を窘める。無論それが軍曹なりの親愛の表現であると理解しているからこその発言ではあるが。

 

「さて、2日も我慢したからな、今日は存分にお返しと行こう。ここからはランで行くぞ」

 

「「了解」」

 

アカハナの言葉と共に滑るように3機は動き出す。静粛性の高いアッガイとは言え、12mを超える巨体が殆ど音も出さずに動く様は、パイロット達の確かな技量によって実現されていた。機体を動かしながらアカハナは改めて部下2人に作戦を説明する。

 

「繰り返すが、俺達の仕事は本命の攻略部隊のための掃除だ。明朝0600までに哨戒艇とその拠点を潰す。その後は可能な限り周囲の防衛拠点を破壊して撤退だ」

 

「最優先は哨戒艇ですよね」

 

ベルデ伍長の言葉にアカハナは頷いて応える。

 

「そうだ、攻略部隊の使っているゴッグやズゴックはアッガイほど隠蔽能力が高くない。しかも大所帯で動き回るからな」

 

勿論水雷対策も行っているし、双方とも純戦闘用であるためアッガイより高い防御力を誇っている。哨戒艇から発射される魚雷では損傷はしても撃破には至らないだろう。だが問題は、哨戒艇はノルト軍曹の称した通り、この河川における番犬でしかないと言うことだ。それらが吠えれば、今度は厄介な番人の相手をする必要が出てくる。いくら水陸両用とは言え、上陸中や回避しにくい河川内で攻撃されては損害を覚悟しなければならない。

 

「破壊工作に陽動、攪乱。ここは連中のお膝元だ、確実にMSも出てくる。適切に対処しろ」

 

「無茶言ってくれるぜ」

 

そうぼやくノルト軍曹にアカハナは笑いながら告げる。

 

「なんだ、ノルト知らんのか?コイツのテストパイロットは、あのオデッサのMS小隊相手に単機で勝利しているぞ?それも追加装備の無い状態でだ。それに比べたら連邦のMS程度、俺達でもやってやれん事はないさ」

 

 

 

 

「真っ赤なおっ鼻のー…」

 

「ご機嫌だな大佐?」

 

虚ろな目でクリスマスソングをヘビロしていたら皮肉を言われたでゴザル。もうすぐクリスマスだというのに俺はこんな所で何をやって居るんだろう?戦争ですねワカリマス。…いかん、灰色の社会人時代が長すぎてこの時期はどうも精神が暗黒面に堕ちるな。ウラガンの淹れてくれた元気の出る紅茶を口にして気分のリセットを試みる。

 

「ガルマ様の作戦は順調のようだな。こうもなるといっそ敵の司令官達が哀れなほどだ」

 

余剰していたフロッガーユニットやグフをあるだけ送ってくれと言われたときは、強襲揚陸でもかますのかとびびったが。

 

「確か、潜入部隊の欺瞞に使っているんだったか?」

 

ガデム少佐の言葉に頷いて返す。

 

「ああ、おかげでアマゾン川流域は完全にこちらの勢力圏だよ。既に1個大隊分のアッガイが展開、周辺施設を荒らし回っているそうだ」

 

中には敵MS部隊と交戦、これを撃破した隊も居るという。殺意高い連中である。

 

「それで、お前さんは何の悪巧みをしているんだ?」

 

何その評価。

 

「失敬な、基地司令としての職務を全うしているだけだよ」

 

具体的にはガルマ様から要請のあった物資の供給だろ?後、欧州方面軍がブリテン島邪魔だって言うから空爆の準備だろ?どうせだからベルファストも落としちゃおうぜ!とか鳥の巣頭が言うから潜水艦隊の準備だろ?もう、なんて言うかここ数日ひたすら物資と弾薬用意して味方に叩き付けるマシーンと化してますわ。お嬢様部隊とのシミュレーターが唯一の癒やしである。

 

「全うね、まあいいさ。シーマ中佐もデメジエールも居ないんだ、あまり根を詰めてくれるな?お前さんに倒れられると仕事が増えてかなわん」

 

「普段から受け持ってくれても一向に構わんよ?」

 

「そういうのは他を当たれ、わしは新兵の面倒を見るのに忙しいからな」

 

そう言うとさっさと出て行ってしまうガデムの爺様。あの人本当に書類仕事嫌いだよなぁ。俺もだけど。

 

「失礼します、大佐。キシリア少将から通信が入っております」

 

ガデム少佐を見送って再びサインをするだけのマシーンになっていたら、珍しい連絡が入った。総司令部に放り出されてから全然接点無かったけど、どうしたんだろう?

 

「久しぶりだな、大佐。元気なようで何よりだ」

 

「はっ、キシリア閣下もお変わりないようで」

 

何だろう、こんな時どんな返事するのが正解なの?

 

「ああ、やんちゃな誰かがいなくなったおかげで突撃機動軍も落ち着いているよ、その分面白みは無いが。今日は貴様の部下を借り受けたくて連絡をした」

 

「私の部下…ですか?」

 

まあ、ウチは元々突撃機動軍から移籍したようなもんだからな、引っ張りたい人材も居るだろう。出来ればイネス大尉やエリオラ大尉、エイミー少尉あたりは勘弁して欲しい。あの辺りの事務スキル持ちが居なくなると、俺かウラガンのどっちかが確実に死ぬ。

 

「そうだ、貴様の所に居るエディタ・ヴェルネル中尉をこちらに送って欲しい。正確に言えばペズンへだが」

 

「エディタ中尉でありますか?」

 

予想外の人物の名前に俺は思わず聞き返す。中尉はザメル改のパイロットで先の作戦でもハマーンとコンビを組んで多大な戦果を出している。そんな彼女だから教導部隊にでも引き抜きたいのかと思ったが、それだとペズンに行かせる事に繋がらない。内心首をかしげていると、察したのだろうキシリア様が、何気ない口調で話し始めた。

 

「現在、突撃機動軍隷下でニュータイプ部隊の編成が進んでいる」

 

おっと、いきなりぶっ込んできましたよ。

 

「か、閣下、それは私が聞いても良いお話でしょうか?」

 

「良い、フラナガンと懇意にしている貴様のことだ、凡そ理解しているのだろう?」

 

答えられずに沈黙していると、楽しそうに続けるキシリア様。

 

「今次大戦には間に合わんだろうが、戦後彼らの存在は我が軍の象徴となるだろう。ついてはその部隊で運用予定の装備の試験に彼女を借りたい。パートナーの方は既に承知済みだ」

 

つまり、本命はハマーンの方と言うわけか。これは良い機会かもしれない。ペズンならサイド6も近いからマレーネ女史とも会いやすいだろうし、何より地上より遥かに安全だ。オデッサが襲撃される事は無いとは思うが、地上である以上絶対は無い。はっきり言ってどっかの馬鹿がICBMを使わないなんて保証は無いのだ。おのれ髭爺、悪しき前例を作りやがって。

 

「そう言うことでしたら、私は問題ありません。中尉も快く引き受けてくれるでしょう。しかし、ニュータイプ用の兵器ですか」

 

まだジオングは出来てないだろうから、順当にエルメスだろうか?真っ白なエルメスとか、ちょっとステキじゃないか。

 

「ああ、グラナダで製作していたMAでな。そうだ、ついでだから貴様の意見も聞いてみたい、データを送ろう」

 

え?

 

「サイコミュ兵器によるオールレンジ攻撃を主眼に置いた機体だ。名前をブラウ・ブロと言う」

 

ドヤ顔でジオンのお家芸たるビックリドッキリメカの資料を送って下さるキシリア様。とてつもなく面倒な事に首を突っ込んでしまった事を自覚し、俺はこっそりと溜息を吐いた。これ、絶対奴がらみだ。




ビックリドッキリメカには奴の影。

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