起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
夜と砂糖による悪乗りした話になっています。
過度のオマージュ(パクリ)描写があります。嫌いな方はブラウザバックを推奨致します。
「ドズル閣下、第11パトロール艦隊より決別文です」
「そうか」
普段より幾分低いトーンで短く返してきた主にラコック大佐は躊躇いがちに言葉を続けた。
「これでソロモンの戦力の3割が離反しました。宜しいのですか?」
ラコックは宇宙攻撃軍設立当初からドズル中将を支え続けた副官だ。主が政に疎く、謀を嫌う性質である事は十分承知していたが、それでも口に出さずには居られなかった。
「俺もザビ家の男だ、良いとは言えん。だが、奴らの気持ちがわからんではないのだ」
「気持ちですか」
「そうだ、武人として武器を取るなら、命を賭けるなら、己の信じた旗の下がいい。…奴らにとってのそれが、俺でなかったことは残念だがな」
そう寂しげな表情を作った後ドズル中将は大きく息を吐き、そして厳しい表情になるとラコックに命じてきた。
「今は出て行く奴は追わんでいい。混乱を収めるのが先決だ、いっそそう言う奴らには出て行って貰った方が話が早い。それから少数でいいから本国、グラナダ方面へ偵察部隊を出せ。後はシン少佐を中心に歯抜けになった防衛隊を再編しろ。流石に直ぐには襲ってこんだろうが、備えは必要だ。ルナツーの状況はどうか?」
「二時間前に連絡があったきりです。観測班によりますとミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されている公算が高い、とのことです」
そしてルナツーから発せられた最後の連絡は、所属不明の艦隊の接近を知らせるものだった。幾ら察しの悪い人間であっても、この状況で答えにたどり着けないとはラコックは思わなかった。
「…とにかく、偵察隊の人員の選別を急がせろ」
送った連中が寝返ったなどとなれば目も当てられない。連邦と戦うために払ったツケは思いの外大きく、宇宙攻撃軍を苛んでいた。
「非戦闘員の退避は完了したのだな?なら次は戦えない連中を放り出せ」
矢継ぎ早に報告を捌きながらコンスコンは時計を睨んだ。降伏勧告から1時間と少し、突きつけられていた回答の期限まで残り30分を切っている。
「連中に武人としての誇りが残っているのを祈るしかないとはな」
基地内の説得という理由で引き出した時間を使ってコンスコンは可能な限りの人員をルナツーから送り出していた。旗下の艦隊も護衛という名目で既に撤退済みだ。今残っている連中は、例の放送後不穏な動きをしていたために拘束した連中と、撤退命令を聞き入れず最後までコンスコンを手伝っていた者だけだ。
「仮にも大義を掲げているのです、無体な真似はしないと思いたいですが。良くて五分と言うところでしょう」
展開している敵のムサイを睨みながらそう口にしたのは、アナベル・ガトー少佐だった。
「そんなに低いかね。少佐?」
元友軍、それも同じ宇宙攻撃軍に所属していた者達に対する辛辣な評価に、コンスコンはつい苦笑してしまった。アナベル少佐はそれに気付いた風もなく、モニターを険しい表情で見つめたまま口を開く。
「反乱に参加した者の多くは若年でした」
その言葉にコンスコンも顔を苦くする。大戦中期から増員された若い兵士は、大戦初期の凄惨な戦いを見ていない。おまけに参加できた大規模戦闘もルナツー攻略のみで、その内容は戦闘とは言いがたいほどの圧勝だった。彼らの経験では連邦は取るに足らない相手であり、戦闘とは非常に簡単かつ一方的なものなのだ。そして、若者特有の身勝手な正義感と狭窄した視野が、あの演説から何を感じたか、それを手に取るように理解できてしまったのだ。
「護衛を付けたのは失敗だったかもしれんな。連中逃げ出した卑怯者とか言いだして追撃しかねん」
「付けていなくても一緒でしょう。要は気分良く拳を振るえる相手を探しているだけです。実に性質が悪い」
求めていた言葉を口にしてくれたことに内心安堵しながら、それをおくびにも出さずコンスコンは言葉を続けた。
「そうなると問題だな。もうすぐ離脱する最後の艦が出るが、護衛が心許ない。少佐、貧乏くじで悪いが、貴様の隊で護衛を頼まれてくれんか?」
「少将。お言葉ですが、現在基地に残っているMS部隊の最上位者は私です。少将閣下の才覚を疑う訳ではありませんが、艦隊相手に基地を防衛しつつMS隊の指揮を執るのは些か荷が勝つのではありませんか?」
鋭い視線で、今更放り出すのはなしだと言外に伝えてくる少佐へ、コンスコンはコメディアンのように肩をすくめてみせる。
「ところがそうでもない。なんせ残っているMS隊はお前さんの部隊だけだからな。その隊が居なくなれば指揮の必要も無いという寸法だ」
「MS隊無しに基地の防衛など不可能です!」
「今更遅いよ。堅物のお前さんがそう言うだろうと思ったから、他の連中を先に出したんだ。少佐の腕は信じているが、それでも一個中隊であの数は如何とも出来まい?」
そう言ってモニターへと視線を送る。敵は既に展開を開始しており、映っている範囲だけでも大隊規模のMSが見て取れる。
「やりようはあります。持久戦に持ち込めば、ソロモンから増援が!」
「来んよ」
なおも食い下がる少佐の言葉を、コンスコンはあっさりと切って捨てる。
「脱出した連中にも指示してある、援軍は無用だとな。それにウチの基地でもこの状態だ、大所帯になっているソロモンの方が混乱は酷いだろう。連中が動いていると言うことは、その辺りも確信しての事だろう」
「では、尚のことここを離れるわけにはいきません」
「それは困る」
「困る?」
言葉の意味が理解しきれなかったのだろう。眉間にしわを寄せながら困惑するアナベル少佐に、笑顔でコンスコンは己の考えを告げた。
「お前さんは強いからな、ここで戦えば多くの人死にが出る。そして死ぬのは、若い奴らだ」
「少将、それは」
「確かにあいつらは、国家に弓を引いた度しがたい馬鹿かもしれん。だがあれもまた、我々が守るべきスペースノイドの1人なのだ。折角苦労して生き残らせたというのに、自分達で殺してしまってはあまりにも甲斐が無いじゃないか」
コンスコンは言葉を続ける。
「連中の拠点はペズンだけ、性急にここを攻めたのは、少しでも物資と生産設備を確保したいからだ。つまり、設備さえ渡さなければ、こんな石ころの一つくらいくれてやってもかまわんのさ。そして時間が経てば経つほど、あいつらは先細る。何せ金も物も無いんだからな。飯も食えなくなれば、流石の馬鹿も頭が冷える。そうなれば殺す必要だって無い」
「しかし、それでは少将が…」
見目麗しい女性に、憂いを帯びた表情で心配される。思いもよらなかったシチュエーションに少し照れながら、コンスコンは己の考えを曲げない。
「無謀と失敗は若い奴の特権だし、その尻を持ってやるのは上司の仕事の内だよ。まあ、全員が全員、許してやるとはいかんだろうがね」
俯いてしまった少佐に、できる限りの威厳を持ってコンスコンは命じる。
「アナベル・ガトー少佐、貴官に離脱する機動艦隊の直掩を命ずる。一隻たりとも失わず、そして一機たりとも失わせずソロモンへ撤退せよ。困難な任務であるが、貴官とその配下である精鋭ならば成し遂げてくれると私は確信する」
コンスコンの声に少佐は瞳を僅かに揺らせたまま、それでも素晴らしい敬礼を以って返事をする。
「アナベル・ガトー少佐、拝命致しました!必ず、全員送り届けます!」
返礼しながら、コンスコンは頷いて見せる。
「宜しい。では少佐、時間がないぞ。直ぐに出発したまえ」
「はい、閣下もお元気で」
「はっは、私は小心者のコンスコンだぞ?心配せんでも大丈夫だよ」
振り返ることなく去って行く少佐の背を見ながら、残っていたオペレーターや司令部要員に向けて、コンスコンはもう一度口を開いた。
「と言うわけで諸君、悪いがルナツーは今日で閉店だ。君たちも脱出したまえ」
「しかし、閣下」
言いつのろうとする中尉へ煩わしそうにコンスコンは手を振ってみせる。
「お嬢さんの手前格好付けたが、私だってさっさと逃げたいんだ。お前さん達が居ちゃ逃げられん。ほら、行け」
その言葉に皆一様に涙を浮かべ、敬礼をしながら足早に退出していく。最後の1人が扉をくぐり、圧縮空気が扉を閉めると、部屋は電子機器の静かな駆動音に支配された。
(まあまあ、上等じゃないか)
『時間です、少将。答えをお聞かせ願いたい』
浸っていた余韻を台無しにするタイミングで電子音が鳴り響き、高圧的な口調の男がモニターに映し出された。
「何度見ても、信じられんな。まさか貴様が公国を裏切るとは思わなかったよ、カスペン大佐」
『私としてもこのような事になったことは残念です。さて、そちらの都合には十分付き合わせて頂いた。返答は如何?』
真剣な表情で問うてくるヘルベルト・フォン・カスペン大佐に、コンスコンは椅子の背もたれへ深く体を預けながら、ゆっくりと問い返した。
「その事なんだが、もう一度確認したい。ルナツーを明け渡せば、私の生命の保障はしてくれる。確かそうだったな?それから、シャア…、キャスバル様に取り次いでくれると」
『ええ、キャスバル閣下は少将の事を高く評価しておいでです。参加の暁には中将として方面軍を任せたいとのことです』
方面軍とは大きく出た。そう思いコンスコンは思わず笑ってしまう。
「くっくっく、この私に方面軍か。…シャア少佐はこれを見ているのかな?」
こちらの意図を測りかねているのだろう。訝しげな表情になったヘルベルト大佐が答える。
『いえ、閣下は現在ペズンで指揮を執られておいでです。少将とのお目通りは降伏後、日を改めてとなります』
「そうか、そいつは残念だ。…面と向かって言ってやりたかったんだがな」
視線の隅に入っていたモニターには最後のシャトルが脱出していくのが見える。その映像を満足げに見届けたコンスコンは、ふてぶてしい笑みをヘルベルト大佐へ向けた。
『少将?』
「イヤだ」
『…は?』
「お前達に協力するなんてまっぴらご免だと言ったんだ」
そう言ってこれ見よがしにコンスコンは手を挙げてみせる。そこに握られているものが何であるか、ルナツーに所属していたヘルベルト大佐は理解したのだろう。先ほどとは打って変わって焦りを含んだ声で制止してくる。
『おやめ下さい!少将!』
その顔に笑み崩さぬまま、コンスコンは言い放つ。
「そんな頼みは聞いてやれん!」
握っていたスイッチを強く押し込むと、ルナツーは轟音に包まれた。
拒否からの自爆は男のロマン(錯乱