起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。


第百五十話:0080/01/07 マ・クベ(偽)宇宙へ

ガルマ様との打ち合わせを終えて基地内の事を確認していたら、あっという間に日付が変わっていた。幸いなことに基地内から離反者は出なかった。正直、寄り合い所帯だし、ザビ家に良い印象を持っていない人間も多いから最悪の場合も考えていたが、杞憂に終わって何よりである。そうして基地の掌握が済んだら直ぐにでも宇宙へ上がりたかったのだが、ここで俺の立場が問題になった。そう、オデッサと俺の指揮下にある戦力は総司令部直轄の戦力なのだ。おかげで地球方面軍のガルマ様からの指示では動けないし、勝手に動くのはもってのほかである。何せ二回目だからな、今度は降格じゃ済まないだろう。どうしたものかと悩んでいたら、唐突に鳥の巣頭から連絡があった。

 

「よう大佐。そっちの調子はどうだ?」

 

苛立っているのか、口調はともかく目つきが悪いユーリ少将がそんな風に聞いてきた。多分、俺も同じような顔をしているだろう。

 

「良くはありませんな、最悪と言うほどではありませんが。欧州方面軍も比較的落ち着いているようですな」

 

「ああ、ウチは元々ザビ派の連中ばかりだからな。増員された連中も古参が上手くまとめてくれたよ。だが、問題はここからだ」

 

そう切り出すユーリ少将に頷き返し、俺は考えを口にする。

 

「本国の通信途絶、グラナダも繋がらない。となれば、間違いなくクーデターでしょう」

 

「状況的にはな。だがあの金髪坊やにそれだけの根回しが出来たとは思えないんだが」

 

そらそうよ、多分してないからね。演説の後、月のビスト財団へも確認をとろうとしたが門前払いをくらった。マーセナス氏が裏切るとしてもシャアに石碑を渡すとは考えられないから、何らかの政変があったのだろう。だとすればアナハイムがネオ・ジオンに付いている可能性が高い。資金や物資はある程度そこから都合出来たとしても、本国に人員を送り込むことは難しいだろう。そして、原作知識持ちとしてはどうしても気になる人物がいるのだ。

 

「首都防衛隊を指揮しているアンリ・シュレッサー准将は熱心なジオニストだったと記憶しております。いっそ狂信的と言って良いほどの。彼があの放送に呼応して動いたとすれば、この状況も不思議ではありません」

 

「まてまて!?首都防衛隊は名誉職だろう!?あんなお飾り部隊に何が…」

 

残念だがその情報は少し古い。

 

「ところがそうでもありません。元々彼らは負傷したベテランですから、体さえ満足に動けばその戦闘能力はジオンでも有数の隊なのです。そして、最近彼らの隊で熱心にテストされていた装備があります」

 

リユース・サイコ・デバイス。サイコ、なんて入っているからサイコミュ関連の技術と勘違いされているが、これはニュータイプなんかとは全く関係無い装置だ。端的に言ってしまえば、人が自身の体を操作する上で脳裏に描いている理想の動作を義肢側が受け取ることで、通常の神経接続以上に柔軟かつ本人の思った通りに義肢を動かそうというものだ。ただ、現実には理想と自身の肉体の限界という現実に差があるから、原作のように未成熟な状態だと残っている四肢と齟齬を起こす。なので何処かの凄腕狙撃手は、これを解消するために、理想に追いつけない現実を全部取り外すという方法で解決したわけだが。

 

「千を超える人員によるデータの蓄積は良好な結果に繋がったようですな。報告によれば大半の人間が実戦レベルの動作に十分耐えられる結果を出しているそうですよ」

 

傷病兵が一人でも多く社会復帰出来るという点は非常に喜ぶべき所なのであるが、それが敵勢力を強くしているのは実に残念である。

 

「おいまて、じゃあ何か?首都防衛隊はお飾りどころかベテランばかり揃った精鋭部隊になっているということか!?」

 

「確実ではありませんが、現状から考えるにそう仮定しておいた方が良いでしょう」

 

俺の言葉にユーリ少将は頭をかきむしった後、深々とため息を吐いた。そして少し視線を落とし、俺に問うてくる。

 

「で、お前はどうするんだ?」

 

どうするかね。

 

「正直に申し上げれば、動きたくとも動けません」

 

そう返す俺に、半眼になったユーリ少将が皮肉げに煽ってきた。

 

「横紙破りの常習犯が、何を今更迷っている?ここに至って動かんなどという選択肢は無いだろうに」

 

「無論、私には動く理由があります。しかし、部下には無い。これは戦争では無いのです。敵と戦って死なせるのはまだ責任の取りようもあるでしょう。しかし…」

 

連邦を抑える為には、今政府が動揺している事を見せてはいけない。既に赤いのがやらかしてくれたせいで足下を見られているのだ。国が割れているなどと認識されたら、それこそ連邦も参戦しての三つ巴から終戦協定の反故まであり得る。だから、彼らの反乱への対処に大兵力を注ぎ込むわけには行かない。おまけに事を小さく収めるためには、報酬だって少なくなる。つまり部下達にしてみれば、徒に危険だけが勝る戦場に放り込まれることになるわけだ。しかも、俺の我儘で。俺がそう言いよどんでいると、もう一度ユーリ少将がため息を吐く。

 

「お前は本当に…、何というか面倒な奴だな」

 

そう言ってユーリ少将は一枚の指令書をモニターに映した。

 

「これは」

 

「本国への帰還命令書だな。明日までに俺は本国へ戻る必要がある」

 

「しかし、少将。状況が状況ですが」

 

「だが、帰還中止の命令は受けておらん。つまり最新のこの命令書が有効というわけだな。さて、そこで問題だ。俺は帰らにゃならんが、如何せん道が物騒でな。出来れば護衛が欲しいところだと思わんか?」

 

そう悪戯に誘うガキ大将みたいな顔になった少将に、一瞬呆気をとられるが、直ぐに俺も返事をする。

 

「そう言えば、我が隊の主任務は欧州方面軍の支援でしたな。その指揮官である少将が命令を単独で遂行できないと仰るなら。成程、お助けするのが道理ですな」

 

詭弁?良いんだよ。動けるだけの理由があれば!

 

「そう言ってくれると思ったぜ。こっちからはザンジバルを1隻回す。上げられるのはお前さんの所の2隻も含めれば、その辺が限界だろう」

 

地上からザビ派を引き抜きすぎる訳にはいかないし、何より帰還命令で移動するには、3隻でも多いくらいだ。

 

「ですな。そちらの人員は?」

 

そう聞くとユーリ少将は楽しげに笑いながら告げてくる。

 

「艦の運航要員はデトローフ大尉以下、海兵隊の連中だ。他に乗るのは俺とシンシアだけになる。それと俺は面倒はご免なんでな。移動中の艦隊の指揮はお前さんに任せる」

 

つまりユーリ少将は大義名分を俺達に提供する以外、何もしないことになる。それも自分の命を賭けてだ。正直に言って割に合わない選択だと思うんだが。

 

「実に有り難い申し出です。ですが宜しいのですか?」

 

問い返すと、ユーリ少将は苦笑を浮かべ、口を開いた。

 

「俺自身も驚いている。祖国の為になんてのはガラじゃないからな。だがよ、大佐。そんな俺でもあの金髪坊やに未来を預けるべきじゃないと、その為なら危ない橋も渡るべきだと思うんだよ。…疑うなら、監視を付けてくれてもいいぜ?」

 

「いえ、ご無礼をお許し下さい。私は貴方を侮っていたようです」

 

俺も見る目が無いな。伊達や私欲の人間が、いくら人手不足のジオンでも少将にまで上れるわけがないじゃないか。俺が改めて敬礼と共に謝罪をすると、ユーリ少将は真剣な顔になり、俺に命じてきた。

 

「さあ、時間が無いぞ大佐。直ぐに出発の準備に掛かってくれ」

 

 

 

 

威勢の良い返事と共に暗転したモニターへ向けて取っていた答礼の姿勢を崩すと、ユーリは近づいてきた秘書官を抱き寄せた。

 

「まず第一段階はクリア、でしょうか?」

 

にこやかにしなだれかかってくる秘書官の臀部を強く掴みながら、ユーリは返事をする。

 

「おう、正に思った通りに進んだ。ここまで来ると怖いくらいだぜ」

 

「マ大佐はああ見えて忠義に篤く、それでいて部下思いの方です。このような状況では自縄自縛になる事は明白でしたわ」

 

秘書官の進言を聞いたユーリは自身の状況にとって、これが福音である事を確信した。本国への栄転などと言われているが、ベルファスト基地攻略失敗に関する処罰人事である事は間違いなく、待っているのは本国勤務とは名ばかりの窓際だ。自分を落ち目と見て離れていく人間も少なくなく、このまま行けば面白くない未来が待っていることは明らかだった。

 

「大佐が動けばこの状況も持ち直す。そして、動かした者は間違いなくこの反乱を抑えた功労者になるだろう・・・。つまり、この俺がな」

 

ザビ家にとっても、今回のクーデターが長引くか否かで今後の舵取りは大きく変わる。しかも連邦も絡んでくるとなれば、可能な限り早期に鎮圧したいことは間違いない。その時、あの大佐を動かしたという実績は、ユーリに大きな発言力を与えてくれることだろう。

 

「金髪坊やも良いタイミングで立ってくれたぜ。精々俺の為に踊ってくれ」

 

多分に打算を含んだ行動であったが、ユーリはそこになんら恥じる点は無いと考えていた。何しろザビ家にとっても、戦争を終えたい人々にとっても、そして何よりユーリにも利のある行動だからだ。

 

「さて、俺達も行くとしよう。勝ち馬に乗り遅れるのはご免だからな」

 

立ち上がったユーリは既に、この反乱が終わった後のことを考えていた。


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