起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百五十一話:0080/01/07 マ・クベ(偽)と奴

「エリー女史、エリー女史。一体この艦は何処へ向かっているのかね?私の記憶が確かなら、本国へ帰るのにこんなルートは取らない筈だが」

 

苛立たしげに端末を叩きながらそう告げてくる技術本部の大佐に、エリーはつい溜息を返してしまった。逃亡開始からそろそろ24時間が経過するが、この大佐の小言は二桁を優に超えている。中にはよくそれだけ不満を思いつくなどと感心している者もいたが、その全てを聞かされている身としてはたまったものではなかった。艦に乗り込んだ瞬間紅茶が無いと文句を言い、自販機に案内すれば淹れ立て以外を飲めというのかと文句を言う。あげくスコーンが無い、ミルクが無い、三時なのに誰も茶を飲まないと文句を言い出す始末だ。顔に缶入りの茶葉を投げつけたエリーはいまだに自身の行動は正当であったと確信している。

 

「当たり前です。本国ヘは向かっていませんから」

 

「成程、グラナダか。だがあそこのツィマッドの設備はあまり役に立たんと思うが?」

 

その言葉にエリーは、この大佐が優秀である事は認めた。事実ツィマッド社の宇宙における拠点は本国に集中しており、各地にあるものの大半は艦艇のメンテナンスベースだ。それも移動可能な浮きドックが精々で、部品に関しては幾らかの在庫を持つのみで、生産は完全に本国の本社に集中させていた。これは主力商品であった艦艇に用いられているエンジンは殊更耐久性と整備性を重視して設計されていたため、部品交換やメンテナンスの回数が極端に少なくそれでも対応出来てしまったこと。MSの販売において陸戦機が主であった事もあり、宇宙における各拠点の拡張は最小限に抑えられた事が原因だ。原作であれば、戦況の悪化やゲルググの配備遅延などからリック・ドムが誕生し、更に艦艇の損耗率が激増したことから、殆どの拠点においてMSのラインや下手をすれば艦艇の建造用ドックまで拡張されたのだが、そんなことはエリーのあずかり知らぬことである。

 

「グラナダにも向かっていませんよ。ハマーン少尉が月は止めておいた方が良いと言っていましたし」

 

「では何処に…。まさか女史、地球に降りるつもりか!?いかん、いかんぞ!それでは私のブラウ・ブロはどうする!?」

 

遠慮の無い大佐の発言に、元々沸点の高くないエリーが限界を迎え怒鳴り返す。

 

「その!あんたの!でっかい玩具が邪魔でっ!本国にもソロモンにも逃げられないんですよ!」

 

「玩具!?あれの素晴らしさが解らんとは!所詮エンジン狂いのツィマッドか!」

 

「おい、言って良いことと悪いことがあるぞ?あんなマッドどもと一緒にするのは止めて貰おうか」

 

「すまない、興奮して言い過ぎたようだ。許して欲しい」

 

謝罪する大佐に、エリーは頷いてそれを受け入れる。自称英国紳士である彼は、悪いと思えば素直に謝罪できる。これに関しては大佐の数少ない美点であるとエリーは思った。ただし謝罪は女性限定である。

 

「私も玩具は言い過ぎました。それから大佐の考えるように地上へ降りるつもりはありませんからご安心下さい」

 

「だとしたら、このコースは?」

 

荷を満載した都合上、リュッツォウは追っ手のムサイより足が遅くなることは明白だ。故に加速の回数が増え、それに伴う軌道修正で推進剤が更に目減りする。結果、たどり着ける先は最寄りのルナツーかサイド6だけであり、それ以上となると途中で反乱軍に捕まる可能性が高かった。故に、エリーはハマーン少尉の勘に賭けることとした。

 

「軌道上までなら、追いつかれずに逃げ切れます。そしてそこまで行けば、彼がいるでしょう?」

 

彼が動くかも、それどころか連絡すら取っていない。本来であるならば合流できるかなど考えるまでもなく絶望的なのだが、何故かエリーには妙な確信があった。

 

「態々MSを持って来たんです。受け取りに来ないなんて失礼なこと、あの大佐ならしませんよ」

 

 

 

 

「揃ったな。忙しいところ悪いがブリーフィングだ」

 

会議室の中を見回し、主要な面子が揃っているのを確認した俺はそう切り出した。

 

「先ほど、ユーリ・ケラーネ少将から本国までの護衛の依頼が来た。我々の任務が彼らの支援である以上これは断れん。少しばかり、上の方も騒がしいようだしね」

 

俺の言葉に幾人かが笑い声を漏らす。ただ、幾人かは表情が強張っている。うん、ちょっと良くねえな。少々不安を感じるも、それを飲み込んで話を続ける。

 

「有り難いことにユーリ少将は本国までの移動に関して、こちらに一任してくれた。よって、まず我々はソロモンへ向かう」

 

そう指針を示すと、顔を強張らせていた一人、ウラガンが手を挙げ発言許可を求めてきた。無言で頷くと、案の定ウラガンは否定的な言葉を口にする。

 

「本国への護衛、とのことですが未だ十分な情報が得られておりません。ここは今暫く情報収集に努めるべきでは?」

 

そうしたい気持ちは良く解る。が、悠長な事を言っている場合じゃ無いんだよな。

 

「これから話す内容は極秘情報だ、他言するな。昨夜ルナツーが落ちた」

 

これはガルマ様がドズル中将と連絡を取って得た情報だ。

 

「詳細な被害は不明だが少なくともあそこを押さえられた以上、地上から今後宇宙へ上がるのは難しくなることは間違いない。故事曰く拙速は巧遅に勝るという、事実今のんびりしていては、連中に迎撃態勢を取る時間を与えることになる。それは避けたい」

 

「しかし、ソロモンでは離反者が多く出たとか。それならば独力でグラナダへ向かった方が良いのでは?」

 

ウラガンの横に座っていたイネス大尉が続いて聞いてくる。そこが悩ましい所なんだよ。

 

「宇宙に出るなら今がいい、しかしウラガンの言うとおり我々の持つ情報は少ない。連邦を刺激しない為にも戦力はなるだけ抑えたいが、そうなるとグラナダの状況次第ではかなり厳しい戦いになるだろう。そのリスクはなるべく抑えたい。幸いドズル中将は本国とグラナダに偵察を出しているそうだから、今後の連携も含めて繋ぎを作っておきたいのだよ」

 

「戦力を抑える。具体的にはどの程度をお考えで?」

 

顎に手を当て確認してきたのはシーマ中佐だ。

 

「ザンジバル級を3隻、MSは1個大隊を考えている。済まないが中佐は貧乏クジだ。諦めてくれ」

 

宇宙での実戦経験者、それも相応の腕利きとなると海兵隊に頼らざるをえない。

 

「成程、確かに大隊規模で拠点一つは少々厳しいですなぁ。まあ、やってやれんことはないと思いますが、少なくとも4つは潰す必要がある以上、出来れば情報は欲しい」

 

最悪味方を装って近づいてきてぶすり、なんてのも起きかねないからね。ついでに宇宙で補給を受けるためにも、最大の支援者の顔を立てる必要もある。

 

「うん、だからソロモンへ行くのは確定だ。その後のことは状況と相談になるが、まずは本国のギレン閣下を確保、その後各拠点を順次解放することになるだろう。宇宙へ上がる人員は送付した名簿通りだ、残った者は基地を頼む。では掛かれ」

 

俺の言葉に慌ただしく全員が席を立ち、部屋を出て行く。それを見届けていたら、最後に一人、思い詰めた顔をした男が残った。なんとなく解ってたけど、さて、どーしたもんか。

 

「解散だぞ、ヴェルナー大尉」

 

「大佐、お願いがあります」

 

うん、知ってる。

 

「時間があまりない。何だね?」

 

「俺も、俺も連れてって下さい。大佐!」

 

そう言うと思ったよ。

 

「ダメだ」

 

「お願いします!大佐!」

 

食い下がる必死のヴェルナー大尉に、俺はため息を吐きながら答える。

 

「何度も言わせるな、ヴェルナー大尉。第一、アッザムは宇宙で使えんだろう?」

 

「やりようはあります!」

 

イヤねえだろ、何言ってんだ。

 

「無茶を言うな。一体どうしたと言うんだ?」

 

敢えて解らないふりをしてそう聞けば、ヴェルナー大尉は顔を逸らし、苦しそうに答える。

 

「今の状況は、俺のせいです。あの時、俺が、俺が撃っていればこんな事にはっ!」

 

やっぱり北米のことか。だけどそれは抱え込みすぎってもんだろう。

 

「あの時少佐が不審な動きをしたのか?していないだろう。なら大尉の判断は何も間違っていない」

 

「ですが!あそこで撃っていれば!大佐もこうなると予測していたからこそ、あの時射撃の指示を出されたんでしょう!?」

 

おいおい、そりゃ買いかぶりって奴だぜ、ヴェルナーさんよ。

 

「馬鹿なことを言うな。第一こうなると解っていたら、大尉に指示などせん。自分で撃っている」

 

「しかし!それでは自分の責任が!」

 

「そう思うなら尚のこと基地に残れ、大尉。シーマ中佐達が居なくなれば、基地で緊急展開できる戦力は大尉のアッザムだけだ。終戦したとは言え、万一の備えは居る。頼まれてくれないか?」

 

それにだ。

 

「それから、責任と言ったがね大尉。命じたことの責任を取るのが、私達の仕事だ。もし責任が取りたいと言うのなら、せめて私より偉くなってからにしたまえよ」

 

そう言って俺は、大尉の肩を叩いた。




話のストックが無いんです!許して下さい!

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