起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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お盆ですね。


第百五十七話:0080/01/10 マ・クベ(偽)と計略

俺達がソロモンに到着したのは、日付も変わる寸前だった。移動している間反乱軍との接触もなく順調だったが、その代わりとでも言うようにひたすら続けられたネヴィル大佐のお茶攻勢には心が荒んだ。ティーポットで頭をぶん殴ってやろうと試みたのだが、奇妙なことに手に取ると体が動かなくなり、ポットが破損する可能性で脳が占領されるという不思議な事態に陥った。しかし、そうなるとネヴィル大佐への怒りが薄れることに気付いた俺は、腹が立ったらティーポットを掴むことで道中を無事乗り切ったのである。まあ、事が全て済んだ暁には、ネヴィル大佐へ絶対仕返ししてやろうとは思うが。

 

「随分と混み合っている。ルナツーが落ちたというのは事実のようだな」

 

「その割には損傷した艦が見当たりませんが?」

 

部屋に居ると紅茶が突撃してきて落ち着かんから、ブリッジに意味も無く居座って入港手続きの間、シーマ中佐とそんな世間話に興じている。中佐の指摘通り、損傷している艦は見当たらず動きも統率が取れている。少なくとも敗残兵といった雰囲気はなく、むしろ完璧な撤退に成功した部隊と言った様相だ。

 

「ルナツーの司令はコンスコン少将だったか」

 

ルウムの後にやった戦勝記念パーティーで見たのが最後の記憶だ。確か士官交換の教官もしてたんだっけ?宇宙攻撃軍では珍しい慎重な人だから、反乱軍との直接戦闘を避けたのかもしれない。あれ?そうなるとルナツーどうなったんだ?まさかまんま明け渡してきたとかじゃあるまいな?そんなことを考えているうちに俺達の番になり、疲労を隠せていない管制官の誘導の下ソロモン入りを果たす。ベイの方も混んでいたが、何というか全体的に雰囲気が重い。気になって誰か捕まえて聞こうとする前に、見知った顔が近づいてきた。

 

「大佐、お久しぶりです」

 

「ああ、アナベル少佐、久しぶりだね。そちらも息災のようで何よりだ。…一体何があったのかね?」

 

本人は普段通り振る舞おうとしているようだが、全然出来ていない。なんと言うか全身が強張って怒っているのがありありと感じられるし表情も硬い。どう声を掛けるべきか悩んでいるうちにドズル中将の執務室に着いてしまい、俺は諦めてドアをノックする少佐を黙ってみていた。ちなみに本来ならユーリ少将が挨拶をするべきなんだが、ドズル中将からすっ飛ばして俺が呼び出された。流石に少将も笑い顔が引きつっていたのが記憶に新しい、なんかごめんよ。

 

「失礼します、ドズル中将。マ・クベ大佐をお連れしました」

 

「…おう、入れ」

 

部屋の中から聞こえてくる声も怒気を孕んでいるが、努めて表情に出さず俺は部屋に入り、そこで絶句した。怪獣でも出たんですか?言いかけて俺は口をつぐむ。不用意な発言は現在進行形で破壊衝動と戦っている部屋の主を刺激するだけだと考えたからだ。激怒するドズル中将の顔にびびったとも言う。

 

「失礼致します。受け入れ頂き有難うございます、ドズル中将閣下」

 

そう言って俺が敬礼すると、中将は嫌そうな顔になった後手を振りながら口を開いた。

 

「今更取り繕わんでいい、気味が悪い。時間も無いしな。クーデターだ、大佐。知りたいことは?」

 

なんかスゴイシツレイな事言われた気がするが、俺は気にせず質問する。とにかく情報が要るのは間違いないからだ。

 

「では、失礼ながら。本国とグラナダはどのような状況でしょう?」

 

「どちらも解りやすかったぞ。封鎖だ、双方とも出るのも入るのも軍が制限している。これで兄貴やキシリアから何か発表でもあれば話はわかるが、それがないと言うことはクーデターが成功したと判断して問題無いだろう」

 

おいおい、不味いぞ。開口一番がそれと言うことは。俺の表情から何かを読み取ったのか、憮然とした態度で中将が続ける。

 

「察しが良いな。そうだ、お前さんが思っているとおり、クーデターを起こした連中の規模は不明。声明と取れるものも、あのシャアの奴の巫山戯た演説きり何もない。よって暫定的ではあるが、本国並びにグラナダはネオ・ジオンを名乗る武装集団に占拠されているという事になる」

 

事前に判明していたペズンの戦力がおよそ大隊規模、そこにソロモンから少なくとも1個師団程と艦艇が合流している。ちょっと笑えない数だが、それでもソロモンとルナツーの戦力からすれば十分対応可能な戦力だ。だが、ここで一気に敵の戦力が解らなくなった。確か総司令部直轄の部隊の大半は、最終防衛ラインである宇宙要塞、ア・バオア・クーに駐留しているから、本国の戦力は多くて1個師団ほどだ。だがグラナダは本当に解らない。地球方面軍に戦力を多く出していたのは突撃機動軍側だから、流石にソロモンと同等とは行かないだろうが、それでも俺が転属する前で5個師団は保有して居たはずだ。しかも地上限定資格などの影響で地球方面に抽出されずに済んでいるから、殆どの戦力は手つかずで残っているはずだし、継続して拡充もしていたはずだから俺が知っている頃より増えている可能性すらある。

 

「厄介、ですな」

 

グラナダのおかげでこちらは全力で動くのが一気に難しくなった。ソロモンから何処へ向かうにせよ、最低限ソロモンにグラナダの戦力とやり合えるだけの部隊を残さなければならないし、かといって出撃する部隊も相応の数を用意しなければならない。ソロモンから見て本国まではグラナダからの方が近いし、ルナツーまでの距離はこちらの方が近いものの、圧倒的に有利なほどではない。むしろ攻略に手間取れば挟撃される恐れすらある。故に位置的に言えばグラナダを攻略するのが堅実なのだが、厄介なのはグラナダの価値である。要人の確保という名目で言えばキシリア様はギレン総帥よりどうしても一歩下がってしまうし、ネオ・ジオンの攻略として見た場合、本拠地でも要人がいるでもない拠点である。恐らく連携などしていないから、キャスバルからすれば落ちてもまったく痛くない場所だ。むしろ俺達が攻め込めば戦力を消耗してくれたと喜ぶかも知れない。

 

「ああ、だがコンスコンの奴のおかげでまだ楽だ。これでルナツーまであったら完全に身動きが取れなくなっていた」

 

そう言われて俺は違和感に気付く。そういやそのコンスコン少将はどうしたんだ?ルナツーの再攻略もありうるんだから呼ばれててもおかしくないよな?

 

「閣下、失礼ですがコンスコン少将はどちらに?ルナツー放棄の際の状況などをお聞きしたいのですが」

 

「死んだ」

 

「は?」

 

間抜けな声を俺が漏らすと同時、ドズル中将は拳を机に叩き付ける。非常に重厚そうに見える机が嫌な音と共に破片を飛び散らせながら真っ二つに折れる。非現実な光景がドズル中将の怒りを明確に示していた。

 

「馬鹿が恰好をつけおって!」

 

それきり俯いて肩をふるわせるドズル中将に代わって口を開いたのは、案内してくれたアナベル少佐だった。

 

「少将は、我々をルナツーから逃がすために囮としてルナツーに残られました。そして最後の艦が脱出した後、ルナツーと共に自爆を…っ!」

 

そこまで言ってアナベル少佐も俯いてしまった。俺はといえばソロモンに漂う雰囲気の原因を理解し、そしてなんとも重苦しくなった部屋の空気に思わず溜息を吐きかけて強引にそれを飲み込んだ。成程ね、少将もなんとも軽率な事をしてくれたもんだ。多分、ルナツーを放棄する上で、一番被害が双方少ない方法を選んだのだろう。周囲の状況から察するに将兵からの信頼も厚く、基地を任される程には手腕もあった筈だ。だが、最後の最後で読み違えたな。多分、コンスコン少将は自分を過小評価していたんだろう。宇宙攻撃軍で見ても後進は育ちつつあったし、もしかしたら自分がルナツーの司令に抜擢されたのも、単に空いている将官が自分くらいだったなんて考えていたのかもしれない。だから想像もしなかったのだろう、自分の死が宇宙攻撃軍を弔い合戦に引きずりこむなんて。

 

「…大佐が来てくれたのは僥倖だ。本国の守備戦力は約1個師団だが、MSは多くても2個大隊程だ。ア・バオア・クーの親衛隊と合流すれば当たれない数ではないだろう。そちらは貴様に任せ、俺はシャアの首を取る」

 

いやいやいや、お待ちになって下さいよ。

 

「ア・バオア・クーは健在なのですね?でしたら閣下が出向き直接指揮を執られるべきです。あそこの部隊を統括しているのはエギーユ・デラーズ大佐であったと記憶しております。大佐の私では彼らも容易には首を縦に振らんでしょう。それよりもソロモン時代に知己があり、階級が上、そして何よりザビ家の閣下が向かわれた方が混乱が少ないのでは?」

 

そう俺が返すと、不機嫌さを隠す事無くドズル中将は口を開いた。

 

「既に偵察の時に接触した。兄貴達が音信不通な以上、俺が軍を統括するから指揮下に入れとな。なんと返ってきたと思う?自分達は兄貴の親衛隊であり、他軍の指揮下に置かれる謂われは無いのだとよ。しかも離反者を大量に出した宇宙攻撃軍と連絡していては敵に情報が筒抜けだからと無線封鎖をしやがった!この状況で俺が向かえば三つ巴になりかねん」

 

は、ハゲェ!?デラーズお前なにしてくれてんだよ!

 

「親衛隊とは名ばかり、それではギレン総帥の私兵ではないですか。ますます、ドズル閣下に向かって貰わねばなりますまい」

 

「おい、味方の銃口を気にしながら俺に戦えと言うのか?」

 

その通りでございます。

 

「こちらと協調するつもりがないなら親衛隊も敵と考えた方が楽ですな。なにより伺った限りでは連中がまともな奪還作戦を採るとは考えにくい。…最悪ギレン総帥さえ無事なら、それ以外の犠牲を一切考慮しない作戦を考えても不思議ではありません」

 

死人に付き従ってテロリストにまでなれる人間だからな。それでいて軍才もあるのだから始末に負えん。シーマ中佐達が連中に劣るなんて絶対にあり得ないと確信しているが、それでも倍で済まない数と乱戦では何が起きても不思議ではない。これに対する対応は単純至極。連中より多い手勢で圧倒するのが一番だ。そして宇宙の拠点でソロモン以上に戦力を有している場所はなく、それを十全に動かせるのはドズル中将だけなのだ。

 

「それに、今回の事でお解りになったかと。ダイクンの名は未だ多くの人々を惹きつけ、一方でザビ家は彼らから怨敵と認識されております。ここで閣下がキャスバルの首を取ったなら、この関係は修復不可能となりましょう。それは避けねばなりません」

 

ダイクン派にとって、信用出来るザビ家は今のところドズル中将とガルマ大佐だが、ガルマ大佐はダイクン派擁護という実績においてドズル中将に遠く及ばない。戦争前から彼らを受け入れていたドズル中将がキャスバルを討てば、穏健派として動いていないダイクン派の拠り所を奪ってしまう可能性が高い。だらだらと内ゲバなんぞやっていたら、連邦だって黙っていないだろう。宇宙移民が完了した時点でまた統一政権とか言い出すに決まっている。

 

「大々的な発表がないと言うことは、まだ連中も纏まれておらず、総帥も捕まっていない証拠です。ここはまずルナツーの戦力を糾合し、戦力を整えて…」

 

そこまで俺が口にしたところで、執務室のドアが騒々しく開かれた。思わず振り返ると、そこには顔を青くしたラコック大佐が端末を片手に立っていた。

 

「し、失礼致します。監視班より緊急連絡です。ルナツーにて敵が活動を開始、敵は核パルスエンジンの修復を行っているとのことです!」

 

俺は、想定していたプランが音を立てて崩れていくのを自覚した。隕石落としは10年はえーよ!?


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