起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月分です。


第百六十三話:0080/01/11 マ・クベ(偽)は踊る

「まるでザルだな」

 

解っていたつもりだが、実際に目の当たりにすると作戦が楽に進むという喜びよりも憐憫の方を強く感じた。装備が揃えられないから監視網が荒く、物資が無いからMSを常時展開出来ない。そして組織を育てる時間も無いから、人員の質も悪いと来ている。これで何故反乱を起こそうなどと考えたのか、俺には不思議でならない。

 

「やはり速成は百害あって一利無しだな」

 

アンネローゼ曹長やアルバート伍長が真面目で素直だから油断してたわ。あの時胡散臭いと考えていたプロフィールだが、人事の連中割と本気で書いていたのかもしれない。

 

「さて、もう遅いぞ?」

 

こちらの狙いを理解したのか、進路上にあるルナツーに据え付けられた砲台がまばらに射撃を始める。だが、文字通り散発的でロクに照準もされていない。多分コンスコン少将が何か細工をしていたのだろう。色々と抜け目ない御仁だ、それだけに実に惜しい。

 

「貴様らは、彼の死から何も学ばなかったのだな!」

 

ペダルを蹴飛ばし更に機体を加速させる。全身がシートへ押しつけられるような圧迫感の中で、俺は機体の両腕に握られた武装の最終安全装置を解除した。ルナツーの地表近くまで接近した機体が接近警報をがなり立てるが無視して直進、目標が見えたのは直ぐだった。

 

「頂く!」

 

眼前に現れた巨大なお椀のような核パルスエンジンのノズルへ向けて、躊躇無くトリガーを引いた。ルナツーの核パルスエンジンは大小8基のエンジンが十字になるように取り付けられている。事前の計算では、メインとなる4基が使用不能になれば動かすことは出来ないそうだ。ただしくせ者なのが、メインは1基でも残っていれば時間はかかるものの動かすこと自体は出来てしまうから、破壊するなら必ず全て使用不能にしなければならないと言うことか。まあ、こんな状況なら楽勝だけどな!

 

「次!」

 

馬鹿みたいにでかい火球が生まれ、並べられたエンジンノズルを飲み込んだ。流石にサイズがサイズなので一発では足りず2発目も打ち込んでえぐり取る。それを確認する間も無く、即座に持っていたバズーカを放棄し、フレキシブルアーマーにくくりつけられていた次発用のバズーカを装備、照準もそこそこに向かって右側のノズルへ発射する。先ほどの射撃が重なり気味だったのを考慮して間隔を空けて、ただし同時に発射した。思い描いた通りに火球が進むのを確認しながら、更にバズーカを取り替える。

 

「ラスト!」

 

最初の火球が作り出した大穴に飛び込み、最後に残った左側のノズルへ砲弾を放つ。強引なロールで左腕の動きが制限されたため、今度はバラバラの射撃になった。だが、何とか双方とも命中し、残ったノズル部分も徐々に崩壊している。既に機体はノズルを通り過ぎ、ルナツーを離脱する段階に入った。だが、簡単には終わらせてくれないらしい。

 

「綺麗に片づけろというのがオーダーだったな!」

 

突入方向の最奥にあったノズルが、半壊しているもののまだ原形をとどめている。あれを残しておいたら、もしかしたら他のノズルの残骸で修復されてしまうかもしれない。俺は保険のためにサイドスカートにくくりつけておいた最後のバズーカを装備して狙いをつける。角度が悪い、このまま撃てばルナツーにも被害が出るだろう。一瞬躊躇し、だが俺はトリガーを引いた。

 

「恨み言は地獄で聞いてやる、先に行っていたまえよ」

 

火球がノズルだけでなくルナツー本体を炙るのを確認した俺は、機体を翻し離脱に移る。そして次の瞬間、異音と共に左側の追加ブースターが火を噴いた。気がつかなかったが何処かで被弾でもしたのだろうか。

 

「お、おおおおおっ!?」

 

考える暇も無くネズミ花火のように急速なスピンを始めるギャン。一応全力でAMBAC制御を実行してくれているが、何しろ相手はMSを数機纏めて運べる推力を持つブースターである。傍目には暗黒舞踏を踊りつつ高速回転する滑稽なMSにしか見えないに違いない。因みに乗り心地は最悪だ。

 

「こんな、死に方は、流石に出来ん!」

 

強制パージを実行し、背面の懸架ユニットごと追加ブースターを捨てる。直後、盛大に爆発してくれた。うむ、間一髪。…と思っていた時期もありました。

 

「メインブースターに損傷!?出力が上がらんだと!?」

 

おまけに先ほどのスピンを止めるために、アポジモーターは殆ど推進剤を使い切っている。そして俺はとんでもない事に今気付く。ギャンに搭載されている冥王星エンジンは、ヅダに搭載されていた木星エンジンの発展型、つまり亜鉛や鉛といった重元素を推進剤として使用するのだが、姿勢制御用のアポジモーターは一般的な推進剤を使っている。なんでこんな事になっているかと言えば、重元素を用いる推進器は大出力を得やすい分、細かな出力制御に向いていないからだ。さて、もうお解りだろう。推進剤は無いが無事なアポジモーター、推進剤は残っているが動かないメインブースター。あ、これは死にましたね。

 

「いかんな、シーマ中佐達に怒られる」

 

幸か不幸か、機体は地球の周回軌道に乗りそうだ。速度もあるから大気圏に突入する心配も無い。まあ、逆に言えば見つからない限り、永遠に衛星軌道を回り続けることになるわけだが。そんなことより問題なのは。

 

「不味いな。シーマ中佐とアナベル少佐がいるから、まず負けることは無いだろうが」

 

だが相手はあの赤い彗星と白い悪魔、宇宙世紀における文句なしのトップエースだ。おまけにララァ・スンにエルメスまでセットと来ている。そちらもハマーンが万全なら問題無いと思いたいけれど。

 

「俺が行方不明では、余計な心配を掛けるだろうな」

 

うぬぼれで無ければ、それなりの信頼関係は築けていると思う。彼女は軍人なんかに全く向いていない優しい子だから、ちょっと近しいだけの俺なんかでも居なくなれば動揺するかもしれない。そんな事が原因で彼女に、信頼して命を預けてくれた皆に何かがあったら死んでも死にきれん。

 

「…冗談にもならん。こんな所で死んでやるわけにはいかんのだ!」

 

何か、何か手は無いか!?

 

『お困りですか、大佐殿?』

 

唐突に繋げられた通信に俺は思わず体を強張らせた。ルナツーからはそれなりに距離が離れたとは言え、まだミノフスキー粒子の影響は濃い。その中でノイズ混じりとは言え、十分聞き取れる状態で通信が入ったのだ。相手は余程近くに居るらしい。

 

『ああ、擬装解いてねえや。ウエスト君よろしく』

 

言葉と同時に、少し地球寄りに浮いていたデブリの一つが弾け、中からガガウル級駆逐艦が出てきた。って、あれは。

 

「ペルル・ノワール?何故、ここに?」

 

予想外の友軍の登場に、一瞬頭が働かなくなる。

 

『予想外の事は起きるものってね。困るんですよ、こんな所で死なれたら。約束の恩給を誰が交渉してくれるんです?』

 

『万一の際、回収出来る艦が居ないのは不味いと少尉が言い出しまして!』

 

『ちょっと、ウエスト君。こういうのはスマートにやるから格好がつくの、そう言う熱い部分は敢えて見せないのが基本なわけ。まったく、副長なんだからそのくらい感じとってくれよ?』

 

「ふふ、ふ、ははははっ!」

 

緊張感の無いやりとりに、俺は思わず笑ってしまった。

 

『ほら見ろ、笑われてしまった。台無しだよウエスト君』

 

『じ、自分は少尉の良いところを知って頂こうとっ!』

 

「十分伝わったよ、レオニー少尉、ウエスト伍長。救援感謝する、君たちは命の恩人だ、個人的にも出来るかぎりの礼をさせて貰うよ」

 

『お役に立てたのなら何よりです!』

 

『そいつは期待しています』

 

『少尉!』

 

戦いの後とは思えない賑やかさの中で俺はルナツーを後にした。

 

 

 

 

時間は、マ・クベのルナツー襲撃より少しだけ巻き戻る。ソロモン艦隊出撃の報を聞き、ペズンでは艦隊が次々とゲートから吐き出され、出撃の命令を待っていた。

 

「本当にいいのかい、総帥?」

 

最小限の戦力を残し、陣形を整え命令を待つペズン艦隊を眺めながら、カイ・シデン少尉はそう疑問を口にした。

 

「増援自体がソロモンから戦力を引き出すためのものだったからね。既存の戦力で事が済んだのなら送る必要は無い。カスペン大佐にもあれは用済みだと伝えてある。こちらがソロモンを攻略すれば彼がルナツーで戦う理由は無くなるのだ、ならばソロモンを落とすことに戦力を集中した方が良い。特に君たちは我々の切り札なのだからね」

 

「見殺しにするわけじゃないんだな?」

 

アムロ・レイ少尉やララァ・スン少尉に比べ、ニュータイプとしての能力に劣るカイではキャスバル総帥の内心までは読み取ることが出来ず、そう念を押す。返ってきたのは柔らかい笑みだった。

 

「無論だ。むしろソロモンを攻略することこそ彼らへの最大の支援になる。後方を突かれて動揺しない軍など無いのだからね」

 

「…了解だ。信じるよ、総帥」

 

こうしてペズンに配置されていた軍艦は、僅かな守備隊が脱出時に用いる為に残された数隻のパゾクを残し、全て出撃することとなる。行先はソロモン。反乱発生以来、最大となる戦いが始まろうとしていた。


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