起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百六十五話:0080/01/13 マ・クベ(偽)とソロモン攻略戦-Ⅱ-

最外周に配置された砲台や人工衛星群が次々と信号を途絶させ、存在の喪失を告げてくる。その数が50を超えた辺りから急速に減少速度が鈍るのを見て、ラコックは笑みを浮かべた。

 

「予定通りというわけか。しかし金のかかる戦い方だな」

 

出撃前にふらりと現れたかと思えば、件のMAエルメスの対策を伝えていったマ・クベ大佐の言葉をラコックは思い出す。

 

「なに、ニュータイプだなんだと嘯いた所で所詮人間とそれの操る兵器です。神話に出てくる怪物のように武器が効かぬわけでも死なぬ訳でもない。ならば倒し方など幾らでもありますとも」

 

曰く、連中は膨れ上がったとはいえジオン軍全体を相手取るには戦力が全く足りていない。ならばソロモンを攻撃する際も可能な限り喪失を抑えようとするはずである。その為、エルメスが出撃するならば戦闘開始の最序盤、両軍が射程外のタイミングで出撃し、一方的に損失を与えようと考えるであろう。

 

「しかし、あのMAにはまだまだ欠点が多い。攻撃の要であるビットは数が増えればそれだけパイロットへの負担が増大します。パイロットを使い捨てにする気ならばまだしも、最高戦力である彼女を継続して運用する事を考えれば全力での出撃は難しい。加えて装弾数です。火力こそMSの携行ビーム兵器に勝りますが、一基辺りの弾数は10発。最大で120発を発射すれば、あの機体は補給に下がらざるを得ないのです。しかも現状それだけの継戦にパイロット側が耐えられない。ならば話は早いでしょう?」

 

相手が無視できず、そしてこちらが失っても許容できる戦力を用意し撃ち切らせてしまえば良い。勿論敵も馬鹿では無いのだから、ある程度消耗した段階でMAを下げるだろう。だが、少なくともその間は無力化できる。

 

「初撃はくれてやり、大いに戦果を挙げさせてやりましょう。聞けば連中は随分と統制が甘いようだ。気の大きくなった兵は喜び勇んでこちらの懐に飛び込んでくれるでしょうな。そして乱戦になればこちらのものです」

 

敵味方が入り乱れる戦況ではエルメスは十全に働けない。仮に軍が構想していたエルメスとニュータイプパイロットのみで構成された戦闘単位であれば、ニュータイプ同士の相互ネットワークによりあるいは運用できたかもしれない。しかし彼らの主軸となるMS戦力は彼らの言うオールドタイプによって構成されているのだ。ビットの操作難易度は飛躍的に増大する。そうなれば最早想定された戦闘能力は望めない。

 

「出てきたならば猟師を放ち、出てこなければ挟撃するソロモン艦隊で母艦ごと仕留める。人工衛星100基は少々高い買い物ですが、安全にあれを狩れる代金と言うことでご容赦願いたい」

 

そう笑うマ大佐を思い出し、ラコックは頼もしさより先に安堵を覚えた。

 

「彼が味方である事は僥倖だな」

 

岩石に偽装されたセンサーが次々となだれ込んでくる敵MSを捉える。その動きもまた、彼が想定したとおりの動きだった。作戦が順調に推移していることを確信しながらラコックは強く拳を握り絞めた。

 

 

 

 

「エルメス、最終射撃を終了。後退します」

 

「敵陣地外縁に突破口を形成、第3戦隊前進を開始、ヴィクトリア・ルイーゼ及びヘルタ、フライア、ウィネタが射点に着きます」

 

「ヴェッティン並びにメクレンブルクよりMS隊出撃します!同じくオイローパ、ポツダムからも出撃!」

 

「ソロモン表面に噴射光を確認!ミサイルによる迎撃と思われます!数50!更に増加します!」

 

「全艦対空防御、艦隊の陣形を乱すな。ミサイルの次はMSが来るぞ、MSの発進を急がせろ」

 

矢継ぎ早に上げられる報告を聞きながら、キャスバルはモニターを眺める。既に艦橋の窓には防御用のシャッターが降りており、それ以外外部を確認する方法がなかったからだ。

 

「エルメスの収容作業、完了しました。パイロットは医務室へ向かうとのことです」

 

「一人で動けているのだな?」

 

「はい、医療スタッフが付き添っておりますが意識の混濁や錯乱などの兆候はみとめられないとのことです」

 

「そうか、ならば良い。想定よりも敵の戦意が高い。再出撃もあり得るから十分に休むよう伝えろ。それから良くやってくれたと」

 

今すぐ医務室へ向かい自らそう伝えたい衝動を堪えてキャスバルはそうオペレーターへ命じた。総司令官として、今艦橋から離れるわけにはいかなかったからだ。

 

「第3戦隊発砲を開始!続いて第4戦隊も開始!弾着まで3…2…ソロモン表面への着弾を確認!更に爆発光を確認しました!敵防衛施設へ着弾した模様!」

 

ソロモンへ次々と撃ち込まれる艦砲をモニターで確認しながらキャスバルは命令を発する。

 

「こちらは火力に劣るが機動力で勝る。MS部隊にはこのまま外縁の防衛設備群の処理を進めさせろ。艦隊は移動しつつソロモンへ火力を集中、MSが出てくるまでに可能な限りソロモンの火力をそぎ落とせ。第5戦隊と第7戦隊は対MS戦闘準備、第3、第4の直掩に当たらせろ」

 

第3、第4戦隊はチベ級を含んだ編成となっており若干ではあるが他の戦隊よりも砲撃能力に秀でている。一方で第5と第7は戦争中期に製造された戦時標準型と呼ばれるムサイを運用しており、MSの運用能力は高い一方で砲塔が減らされているため火力に劣った。その一方で対空装備は増強されていた為、こうして専ら他戦隊の防空を担う役割を与えている。

 

(言うだけのことはある。第7のザクは動きが良い)

 

更に言えば第7はあのグラナダから送られてきた義勇艦隊だった。新参と言うことでどのように配置するか悩んだキャスバルに、隊長である少佐自ら先陣に加えるよう進言してきていた。逆に言えばそれ以外に配置のしようが無かったともいえる。第1戦隊は総帥直轄の部隊であり、その防衛と予備戦力を担う第2戦隊、そして補給艦を纏めただけの第6戦隊と来れば、要塞攻略の成功率を上げるために少しでも突入戦力を増やしたかったからである。突然参じた部隊と言うことで不安が無かったわけではないが、そもそも現在のペズン艦隊自体が離反者を糾合した寄り合い所帯である。アムロ・レイ少尉やララァ・スン少尉の保証も後押ししたことで部隊の中でも急速に歓迎されたことが、更に良い方向へと向かったようだ。モニターを確認すれば、彼らは率先して艦隊前面に展開してミサイルの迎撃に当たっている。

 

「艦隊正面部の敵迎撃設備の排除を確認!要塞からの迎撃も弱まっています!」

 

「頃合いだな。艦隊前進、敵生産設備を盾としつつソロモンへ接近する。MS隊警戒を怠るな。ここからだぞ」

 

 

 

 

「第23砲台沈黙!第6ミサイルサイロも反応ありません!」

 

「外縁砲台群との通信途絶!中継衛星が破壊された模様です!」

 

「第6ゲートに至近弾!外壁が損傷!空気の漏出を確認!気密隔壁作動します!」

 

「好き放題やってくれる。迎撃状況は?」

 

「敵ムサイ1隻に着弾を確認しましたが、撃沈には至っておりません。敵の防空能力が高くミサイルは完全に防がれております」

 

「ふん、戦いだけは一人前か。速成の弊害だな」

 

とにかく死なない人材を。その為に構築された兵学校のカリキュラムは間違いなく機能していた。年若く軍人としての意識に欠ける反面、ベテラン達が新人と軽んじていた者達は技量においてのみ、互角といえる結果をたたき出す。否、むしろ

 

(友軍へ銃口を向けているという心理が働かない分、こちらより躊躇が無い。厄介だな)

 

基地守備隊の上位に位置するパイロットならば、それを踏まえても優位は揺らがないだろう。だが、そう断言できる人数は決して多くは無い。更に艦隊による支援を考慮するならば、現状が楽観できないものであることは間違いなかった。尤も、ラコック自身は負ける気持ちなど微塵も持ち合わせていないのだが。

 

「連中の切り札が出てくるまでに出来るだけ数を減らす。マツナガ少佐に繋いでくれ」

 

ラコックの言葉にオペレーターが素早く動き、ヘッドセットを差し出してくる。

 

『思ったより早い呼び出しですな、大佐』

 

「ああ、連中を過小評価していたよ。すまないが対応を頼む」

 

『了解しました』

 

生真面目な返事と共に通信が切れると同時、オペレーターがMS部隊の出撃を告げてくる。ラコックはモニターを睨みながら、次の手を打った。

 

「ミサイルを攪乱幕に切り替えろ」

 

これは事前にシン少佐から提案されていたことだった。マ大佐がソロモンに合流する前に捕らえた反乱軍兵士から得た情報の中に、彼らの装備に関する内容が含まれていた。それによると弾薬の製造設備を持たないペズン側は装備の大半がビーム兵器なのだという事だ。この情報は、ソロモン守備隊にとって非常に得がたい内容だった。

ビーム攪乱幕は大戦において、その役割を大きく変えた装備だった。従来想定されていた運用は、攻撃側が要塞攻略などの際、取り付くまでの時間を稼ぐために要塞砲を無力化する、言わば攻撃側の武器だった。しかし、連邦がMSと言う最小の戦闘単位に対してビーム兵器を配備したことでその認識は大きく変わることとなった。それまでのMSや戦闘機では要塞施設に対し十分な火力を持たなかった事から、防衛側は接近される前に如何に敵艦を撃滅するかが主眼であり、その点で艦載砲よりも射程、火力に勝る要塞の砲台を無力化してしまう攪乱幕は邪魔であるという認識だった。しかし、防御側にとってMSが艦砲と同等の脅威となってしまった現状では、守備側にとっても攪乱幕は重要な防御用装備になっていた。むしろ、補給が潤沢で迎撃に実弾兵器を憂い無く投入できる防御側の方にメリットが生まれる装備といえるだろう。問題はソロモンに備蓄されている攪乱幕が多くない事だろう。先日のジャブロー攻略戦の補給物資としてかなりの量を供出した後、補給前に反乱が発生してしまったからだ。

 

「機先を制すればシン少佐の仕事も楽になる、ここで使い切るつもりで使え。砲台は後何基残っているか?」

 

「無事なものは残り28基です!」

 

「ミサイル換装まで撃ちまくれ、一隻くらいは沈めて見せろ!」

 

叫びながらラコックはモニターを睨み続ける。その口から彼の思いが漏れ出したのは無理からぬ事だった。

 

「さあ、正念場だぞ」




ちょっと入院しますので暫く更新はありません。
直ぐ死ぬ病気とかではないので気長にお待ち頂けると幸いです。

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