起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ただいまー


第百六十六話:0080/01/13 マ・クベ(偽)とソロモン攻略戦-Ⅲ-

砲撃の集中していた第3戦隊のムサイが遂に2発の直撃弾を受け、船体を火球へと変える。

 

「ヘルタ轟沈!続いてミサイル12波接近!」

 

「あれは、攪乱幕か!?」

 

それに反乱軍の中で一番最初に気付いたのはアリソン・ジーヴ少佐だった。彼女の所属していたグラナダは開戦初頭より数度、連邦艦隊によるハラスメントを受けていた。その際に連邦側が多用したのがこの攪乱幕と旧式の実体弾砲を用いた手法だったのである。

 

「不味いぞ、旗艦に繋げ!」

 

艦長席のステップを蹴ってオペレーターに近づいたアリソンは自らヘッドセットを付ける。

 

『こちら旗艦グラーフ・シュペーです』

 

「第7艦隊司令アリソン・ジーヴ少佐だ、総帥へ意見具申。ソロモン要塞は攪乱幕によるビーム兵器の無効化を実行中。我が戦隊のMSを前進させ友軍部隊の支援を行うべきだ」

 

現在先鋒として投入されている第3、第4戦隊のMS部隊はゲルググで構成されており、その全てがビーム兵器のみで武装していた。軍事的に柔軟性の欠ける編成だったが、これはネオ・ジオンの台所事情からすれば無理からぬ事であった。

 

『ジーヴ少佐、出来るかね?』

 

意見具申に対して即座にキャスバル・レム・ダイクン総帥が対応し確認を取ってきた。アリソンはその問いに対し、堂々と言い放つ。

 

「はっ、問題ありません。しかしその間艦隊直掩機が不足致します。そちらの対応を別部隊にお願いしたいのですが」

 

『承知した、艦隊の守備にはエルメスを回す。同志の救援を頼む』

 

「はい!お任せ下さい!」

 

通信を終えると、アリソンは大きな声で再度宣言した。

 

「聞こえたな?今頃ピーピー泣いているだろうひよっこ共を救援する!ミサイル斉射後にMS隊を突入させろ」

 

『宜しいのですか?』

 

抑揚の無い声で問うてきたのはMS部隊の隊長を務めている大尉だった。その言葉に酷薄な声音でアリソンは返事をした。

 

「ふん、志も理解できぬ愚物だが総帥の盾くらいにはなる。限りある資源は有効に使わねばなるまい」

 

アリソンを含め義勇艦隊の者達は極めて狂信的なジオニストだった。彼らの忠誠はダイクン派のような思想にも、ましてジオンの名を騙った国家にも向いてはおらず、純粋にダイクン家へと向けられている。彼らにとって優先されるものは何を措いてもダイクン家の人間の示した意思であり、そこから派生する結果に対しては何ら興味を抱いていない。それでいて自らを穏健なダイクン派と擬態する程度には知恵が回り、またそれを周囲に悟らせない程度には有能であった。そんな彼らにしてみれば、演説の内容が気に入ったなどと言う程度の理由で参じる者など生死を考慮するにも値しない存在なのだが、総帥にとって有益であるうちは同胞と躊躇無く呼ぶし、危険を顧みず助けることも厭わない。

 

「注意しろ、少なくとも相手はあのバカ共よりは頭が回る。ダイクン家に弓引く反逆者だとはいえ油断はするな」

 

『了解』

 

その返事と同時に第7戦隊の各艦からミサイルが放たれ、展開していたザクが光の尾を引いて戦場へ突撃していく。その様子に漸く笑みを作りアリソンは呟く。

 

「真の忠臣に思考など不要、ただ主の求める結果を齎すのみで良い。そんなことも解らぬから貴様は臣ではなく狗なのだよ、青い巨星」

 

炯々と光るその瞳には狂気の炎が宿っていた。

 

 

 

 

「増援?いや、艦隊の直掩を捨てて突っ込んでくる!?思い切りの良いことだ!」

 

敵機に突き立てたヒートサーベルを引き抜きながら、シン・マツナガ少佐は忌々しげにそう吐き捨てた。攪乱幕と武装で優勢を取ったソロモン守備隊だったが、この部隊の投入でソロモン側に傾いていた天秤が一気に戻されたからである。

 

「おまけに腕も悪くない!厄介な!」

 

機体こそザクであるが、その動きは先ほどまでのゲルググより遥かに良い。だがこれは当然の事ともいえた。元々ゲルググの運動性能に関しては、新兵が搭乗した際に標準的なザクR型と同等の能力を発揮できる事を目指して設計、調整されている。無論シンが搭乗している機体のようにチューンされていれば話は変わるが、反乱軍のゲルググ乗りの大半は新兵であり機体側をパイロットに合わせねばならない程の技量を持つ者はごく希だ。一方でザクはと言えば、旧式と侮れるものではなかった。何しろプロペラントの問題とビーム兵器を搭載出来ない点を除けば、その性能はゲルググと遜色ないのだ。そして殆どの場合ザクにはベテランが搭乗している。これはゲルググが正式化された際に新設の部隊へ優先して充当され、既存の部隊へはザクが回されたからである。可能な限り戦力を低下させずに軍備を拡張しようとしたが故の事だった。

 

「だがソロモンをくれてやる訳にはいかん!」

 

叫びながらシンはゲルググを守るように前進してくるザクを迎え撃つ。更にシンは敵の意図を理解し味方へと指示を飛ばした。

 

「各機、ゲルググを狙え!」

 

護衛という重しを付けられた場合の戦闘の難しさをシンは熟知していた。更に彼我の機体の差がこれを助ける。

 

「ザクとの距離は1500を維持しろ!そうすればバズーカ以外は無視できる!」

 

この時反乱軍のザクは艦隊直掩任務から直ぐに投入されており、武装が防空用のままだったため、武装はMMP-79とジャイアントバズーカで統一されていた。対してソロモン守備隊はMSとの戦闘を前提としていたので、多くが120ミリを装備しており、一部には対艦ライフルを転用した135ミリライフルで武装している機体もあった。これに加え、ザクに対するゲルググの優位性が露骨に表れた。前に述べたとおり、運動性で比較した場合ゲルググとザクに大きな差はない。だが一方で優劣が明確な部分も存在する。それが装甲だった。

ザクに比べ余裕のある台所事情の中で採用されたゲルググは、従来のジオン系MSに使われていた超硬スチール合金ではなく、より軽量かつ強靱なチタン・セラミック複合材を用いていたのである。この差は戦闘において安全戦闘距離という目に見えた形で現れる。

 

「ロッテを崩すな!釣り出して撃破しろ!」

 

やられた側はたまったものではない。だがそれはけして一方的なものではなかった。

 

『死ねぇぇぇ!』

 

『こ、コイツっ!?うわぁぁっ!』

 

友軍機という意識が拭い去れなかったのだろう。直撃を避けていたソロモン守備隊のゲルググへ反乱軍のザクが被弾しながらも肉薄、体当たりを敢行する。もつれるように絡み合った2機は更にゲルググの僚機を巻き込んだところで変化を見せた。生き残っていた右腕を強引に動かし、ザクが自機のジェネレーターへヒートホークを押し当てたのだ。内包していたエネルギーを解き放ったザクは、もつれ合った2機のゲルググをも巻き込み素早くその身を火球へと変じる。それを見たシンは恐怖を覚えた。

 

(躊躇無く自爆した!?不味いぞ、こいつらは他と違う!)

 

不快な汗がにじみ出すのを自覚しながらシンは声を張り上げた。ミノフスキー粒子は戦闘濃度で散布されているため、何処まで通信が届くか解らない。それでも口にせずにはいられなかったのだ。

 

「各機!ザクはカミカゼを仕掛けてくる!躊躇するな!逆に食われるぞっ!!」

 

言いながら近くに居たザクへ向けてトリガーを引く。十分に狙いを付けていなかったそれは敵機に回避を強要するに留まった。今までのシンであれば、この後即座に白兵戦へ移行していただろう。だが先ほどの光景がその選択を躊躇させた。

仕方の無い事だろう。既に多くの兵士にとって戦争は終わったものであり、今の反乱軍との戦闘はあくまで自衛に過ぎない。言ってしまえば連邦との戦争が終わった時点で、多くの兵士は命が惜しくなっていた。故に躊躇が生まれ、それは戦闘に対する消極的な態度として表れる。僅かだが明確に生まれたその隙は、結果として多くの反乱軍兵士の後退を許すことになった。敵部隊の拘束に失敗したシンは内心歯がみするが、残念ながらこれを覆す方策を彼は思いつかなかった。

 

 

 

 

「敵MS部隊、攪乱幕圏外へ離脱します!」

 

「追撃は…難しいか、今のうちにMS部隊の態勢を立て直させろ、エルメスの様子はどうか?」

 

「再出撃を望遠で捉えました。艦隊と行動を共にしています」

 

「積極的には出てこないか」

 

マ大佐の言葉を信じるならば、負荷を受けたエルメスは最早十分な働きは出来ないはずだ。しかし、出撃してきたという事実がある以上、安易に決めつけることは危険であるとラコックは考えた。

 

「とにかく態勢を立て直す。攪乱幕の濃度に気をつけろ、要塞の状況はどうか?」

 

「ゲートの仮復旧は終了、損傷しました砲台並びにミサイルサイロは残念ながら再稼働の目処が立っていません。それからMA部隊が出撃許可を求めています」

 

その言葉におもわずラコックは頭を掻く。

 

「駄目だ。現状での対艦攻撃はリスクが高すぎる。機会を待てと伝えろ」

 

そう口にしながらラコックは時計を睨む。

 

「…後3時間といったところか」


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