起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百六十七話:0080/01/13 マ・クベ(偽)とソロモン攻略戦-Ⅳ-

「冷却急げ!済んだ機体から推進剤の補給と武装の交換だ!」

 

「損傷機は後に回せ!とにかく動かせる機体を増やすんだよ!」

 

「冗談だろ!?こりゃ旧式の120ミリじゃないか!?」

 

「ビーム以外じゃこれしか無いんだよ!丸腰よりはマシだろう!」

 

帰還したMS部隊を受け入れた第3と第4戦隊は混乱の極みにあった。ジオンの艦艇は基本的には戦闘艦でありながら同時にMSの母艦でもある。元々人的資源で連邦に劣ったジオンでは、可能な限り装備の多機能化が求められていた。そのためムサイやチベといった本来艦隊戦闘を行う巡洋艦にもMS運用能力が付与されている。これまでの戦闘においてこれが問題視されることはなかったのだが、そのしわ寄せが今になって噴出していた。機体の収容作業はMSの運用の中でも特に神経を使う作業だ。従来のマニュアルによれば、戦闘中の艦での収容は避け後方の艦艇に向かうか、あるいは戦闘そのものが終わる、ないし小康状態になるまで待機するようにと書かれている。当然リスクは高くなるが、危険な場合は機体の放棄が認められていた。MSよりもパイロットの喪失を恐れたが故の指示である。

そして不幸の原因は、ジオンがこのマニュアルで独立戦争を乗り切れてしまったことに起因する。ルウムまでの大規模戦闘は綿密に計算された戦闘計画の基に実施されていたため、戦闘中の収容作業はマニュアル通りに実施されていた。そしてそれ以降、MS部隊の再補給が必要になるような大規模戦闘を経験しなかったジオンはマニュアルの改定の必要を感じなかったのである。

当然パイロットの教練はマニュアルに則って行われていたから、ほぼ全てのパイロットが戦闘中、それも艦隊運動中の艦艇への着艦経験などないし、艦側でも受け入れの経験は皆無だった。更に混乱を助長させたのが反乱軍の陣容である。反乱に合流した多くは戦闘部隊であったため正面戦力こそ充実していたが、補助艦艇は元々ペズンに配備されていたものが大半を占めていて、その数はお世辞にも十分とは言いがたかった。それに加え、今回の作戦ではこれらの艦艇にペズンから持ち出した物資と人員が満載されていたため、MSを収容こそ出来るが補給も整備もままならないという状態だった。

もし仮にキャスバル・レム・ダイクンに艦隊指揮の経験があったなら、この点を考慮し何隻か帰還機の収容を想定したパプアないしパゾクを用意していたかもしれない。しかし、軍務経験の多くをパイロットとして過ごしていた彼はそこまで思い至ることが出来なかった。

 

「馬鹿野郎!大破した機体なんて収容するな!」

 

第4戦隊に所属しているメクレンブルクの艦内もまた例外ではなく、格納庫は特に混乱を極めていた。通信端末に張り付きながら懸命に指示を出す整備班長に無慈悲な通信が入る。

 

『整備班長!作業はまだ終らんのか!?もう限界だぞ!』

 

MSを着艦させるにはある程度艦の針路を一定に保つ必要がある。このため敵と交戦中にもかかわらず行動を制限された艦艇側は酷いストレスを受けていた。収容に要するほんの数分がそれこそ永遠に感じられるほどに。

 

「意見具申だ艦長!損傷機は諦めて後方の艦隊で対応して貰え!」

 

『しかし戦線に穴を開けるわけには…。何?そうか!解った!』

 

「どうした?」

 

突然声に喜色を滲ませた艦長に整備班長が怪訝そうな声を上げる。

 

『第5戦隊の装備換装が終わって前に出てくる。こちらの損傷機には後退許可が出た』

 

「成程、それならもう一踏ん張りと言うところかな?」

 

『ああ、よろしく頼む』

 

艦長の言葉とほぼ同時に収容作業完了の報告が整備班長へ届けられる。報告しようとした整備班長へ頭を振ると同時に艦長との通信が切れる。聞いていたから報告の手間を省いたのだろう。直ぐに艦が揺れ、回避行動へ入ったことを格納庫の全員が理解した。

 

「ぼさっとするな!機体の冷却急げ!」

 

安堵に緩みかけた頬を引き締め整備班長が叫ぶ。戦いは未だ終わりを見せないでいた。

 

 

 

 

その頃反乱軍の旗艦であるグラーフ・シュペーの艦橋では、キャスバル・レム・ダイクンが渋い表情でモニターを睨んでいた。

 

「そうそう思い通りには進んでくれんな」

 

「予定外のことが多すぎた。ちょっとばかし見積もりが甘かったんじゃないかい?総帥?」

 

席の直ぐ横で無重力に身を任せていたカイ・シデン少尉がそう口にする。

 

「手厳しいな。だがソロモンの戦力は確実に削れている。要塞砲の優位を捨ててまで攪乱幕を使用しているのが何よりの証拠だ。それにMS同士の戦闘も負けてはいない」

 

「だが悠長にやってる場合じゃないんじゃないか?ルナツーに行った艦隊のこともあるだろう?カスペン大佐からは連絡は無いのかい?」

 

「難しい、こちらがルナツーを落とした時点で通信中継用の衛星を掌握されている。ある程度戦闘が決着するまで連絡は来ないだろう」

 

「なら尚更急がなきゃならないんじゃないか?」

 

そう眉間にしわを寄せるカイ少尉に対してキャスバルもまた同じ顔で答える。

 

「時間は惜しい。しかし無理に攻めて戦力を失ってしまっては本末転倒だ」

 

「なあ、総帥。不安があるなら言ってくれよ。俺はアムロやララァ少尉みたいに聡くないんだ。それでも今あんたが悩んでるくらいは解る」

 

事実カイ少尉のニュータイプとしての能力は高いとは言えず、サイコミュも反応こそすれど操作はできなかった。一方で周囲から一歩引き俯瞰した視点を持ちながら物怖じせずキャスバルへ進言できる人材は貴重であり、その事をキャスバル自身も好ましく思っていた。

 

「正直に言えば予定より厳しい戦いになっている。元より簡単に落とせるとまでは思っていなかったが、ここまでとはな」

 

「部隊の連中の中には参っちまってる奴も出てる」

 

「ある程度予想はしていたが、ここまでとはな」

 

アムロ・レイ少尉や目の前のカイ・シデン少尉を除くニュータイプ部隊は、元々ララァ・スン少尉の搭乗するエルメスを護衛する目的で編成された部隊だ。人員に求められたのはサイコウェーブに対する高い受信能力であったが、これは同時に戦場における負の感情に強く影響されることを示していた。初めての実戦で生の感情を受け取った部隊の隊員は、戦う前から体調不良を訴え、PTSDに近い状態となっていた。

 

「見てるだけの遠足でこれじゃあな。編成した連中はこれで戦えると思っていたのか?」

 

小声でそう愚痴をこぼすカイ少尉に向かって、キャスバルは口を開く。

 

「彼らについては今後に期待しよう。今のところは厳しいとはいえこちらが優位に進んでいる。ただもう一押しが必要だ」

 

そう言ってキャスバルは手元の通信端末を操作した。

 

「私だ。ララァ・スン少尉の状態はどうか?」

 

2回のコールで繋がったのは、ニュータイプ部隊専属の医療スタッフだった。キャスバルの問いに緊張した声で医療スタッフが答えた。

 

『は、はい総帥。現在モニタリングを継続しておりますが、規定値を外れた値は出ておりません』

 

「そうか、少尉には繋げるか?」

 

『お待ちください。…出来ました、どうぞ』

 

『如何されましたか?総帥』

 

「何度も済まない、ララァ。頼まれて欲しいのだが」

 

そう言ってキャスバルは自身の考えを口にした。

 

 

 

 

「もう少しだ、持ちこたえてくれよ」

 

しきりに時計へと視線を送りながら、ラコック大佐は呟いた。自爆すらやってみせる反乱軍のザクによって、勢いを殺されたソロモン守備隊のMS部隊は劣勢に立たされていた。元々の想定では、武装を無力化する事で反乱軍の兵士の士気を下げ数的不利を補う予定だったのだが、ザクとそれに続く実弾装備のゲルググによって当初の予定は崩れつつあった。それでも戦線が崩壊せず維持出来ているのは、MS部隊の士気と技量の高さ、そして撃ち続けている攪乱幕のおかげだろう。勢いこそあるものの、反乱軍の投入できているMSは守備隊の数より若干少ない。しかも中には旧式化してソロモンには残っていないような初期型の120ミリマシンガンを装備した機体まで存在していた。

 

「情報は正しかったと言うことだな。ならばここを乗り切れば…」

 

想定よりも敵艦隊が前進しているのが気になったものの、ミサイルの残弾数や戦況を鑑みれば、想定時間まで持ちこたえることは可能であると結論づけ、ラコックは内心安堵した。だが、その瞬間ソロモンを振動が襲う。

 

「な、何があった!?」

 

振動で浮き上がりかけた体を、椅子の肘掛けを掴んで強引に戻しながらラコックは叫んだ。

 

「て、敵艦隊正面に配置されていたミサイルサイロが…」

 

「どうした!?はっきり言え!」

 

いつになく強い口調で言葉を発するラコックに顔を強張らせながらオペレーターが報告する。

 

「敵艦隊正面方向に配置されていたミサイルサイロが…、ぜ、全基反応消失しました!全滅です!」

 

「12番から22番までのメガ粒子砲も損傷、全門使用不能です!」

 

「…やられたな」

 

モニターに映ったその機影を見て、何が起こったのか悟ったラコックは苦々しく呟く。敵艦隊の奥に座していたエルメスの周辺には、ビットが1機も無かった。乱戦と攪乱幕の併用で完全に無力化したつもりになっていた為に、ラコックはエルメスへの警戒を完全に失念していたのだ。

 

「MS部隊を要塞まで下がらせろ。ミサイルと砲台が無力化された以上このままでは磨り潰される。それから陸戦隊の準備を、要塞内部に引き込んで交戦する」

 

ソロモン攻略戦は終局を迎えつつあった。




ごめんなさい。ちょっと立て込んでいまして、更新が不定期になります。

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