起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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遅くなりました、今月分です。


第百六十八話:0080/01/13 マ・クベ(偽)とソロモン攻略戦-Ⅴ-

「思い切りの良さは相変わらずか」

 

「は?何か仰いましたか、大尉?」

 

ランバ・ラルがそう呟くと、同じく近くのバリケードの裏に機体を潜ませながら待機しているステッチ軍曹がそう聞いてきた。彼はランバの部下としては新人であり、独立戦争の際に部下として加わっていた。故にランバが幼少のダイクン兄妹を地球に逃したことを知らないし、その際にキャスバルが起こした騒動も知らない。あの件は表向き独立派のテロという事で処理されていたからだ。尤もたとえ真実を語ったところで与太話の類いと思われるのが関の山だろうが。

 

「連中も思ったよりやるなと言ったんだ」

 

はぐらかす意味もあって、ランバはそうステッチ軍曹に応える。

 

「はい、正直ここまで押し込まれるとは思いませんでした」

 

事実当初の想定では要塞内での白兵戦は想定されていなかった。

 

「腹黒大佐も全て見通せる訳ではないと言うことだな。それよりステッチ、気を引き締めろよ、連中の中にはソロモンからの離反者も居る。こちらの手の内はばれていると考えろ」

 

反乱が発生してからまだ一週間。防衛体制こそ整えられてはいたが、バリケードの位置や物資の備蓄場所を変更するまでには至っていない。

 

「了解であります」

 

注意を促せば軍曹は幾分緊張した声音で応えた。MS戦技パイロットという括りで見れば軍曹は古参に数えられる。それでも部隊の中では若造と言える年齢だし、何より場数と言う面では反乱軍の連中より少しばかり多いだけと言った体である。これは元々国防軍時代から付き従っていたメンバーと異なり、MS戦力を増強するために部隊へ加えられた人員であったためである。部下の緊張を和らげるため、ランバは敢えて軽口を叩いた。

 

「注意はいるがびびることはない、奴らより貴様の方が腕は確かだ。普段通りやれば何も問題ない」

 

そう口にしたところでランバの操るゲルググに振動が届くと同時に、幾らかの破片と煙が通路の先から流れてくる。申し訳程度に仕掛けておいたブービートラップが見事に役割を果たしたようだ。

 

「さあ、おいでなすったぞ!」

 

ランバの部隊が配置されたのは敵艦隊の正面方向に当たる第6ゲートからMS格納庫まで続く通路だ。ゲートを制圧された場合を想定し、通路はゲートの直後で90度に曲げられており、そこからは比較的長い直線になる。相手が要塞に突入してきた場合、突入速度のまま格納庫まで侵入できないよう、またゲートから直接射撃を行えないようにとの設計である。

 

「撃て!」

 

通路の角から飛び出してきた敵機に向かい、ランバはそう部下に命じながらトリガーを引いた。シールドを構える暇もなくビームライフルの直撃を受けた敵機が、後ろに続いていた僚機を巻き込んで爆発を起こす。後続は慌てて身を隠し、角から腕だけを突き出して射撃を行ってくる。当然ながらろくに照準のつけられていない砲弾は見当違いの方向に飛び、通路やバリケードに弾痕を残すに留まる。

 

「戦い方を教えてやる!」

 

言うと同時にランバはビームライフルの下に装着されていたグレネードランチャーから連続して砲弾を撃ち出す。空中炸裂モードで放たれた砲弾は碌な迎撃を受けることもなく通路を直進し角を過ぎた時点で炸裂、敵のビームライフルを吹き飛ばす。射撃武器を失った敵機は慌てて後退していった。

 

「ふん、まるで素人だな」

 

「大尉に比べられては連中が可哀想ですよ」

 

おもわずランバの零した言葉に苦笑しながらギーン曹長が合いの手を入れた。ソロモンから出た離反者の多くはパトロール艦隊。言ってしまえばソロモン周辺を巡回するのが主任務であり、当然訓練もそれに即したものになっていた。

 

「皮肉だな、軍の効率化に俺達は助けられているわけだ」

 

MSは既存の兵器と比較にならない汎用性を誇る。特にゲルググに至っては性能の低下を考慮しなければ、それこそ全く設定も機体も弄らずに宇宙空間から水中でまで使用可能なほどだ。しかしそれはあくまで機体が対応しているというだけである。

 

「MSは自分の体と同じ、自分に出来ないことがMSに出来るはずがない。でありますね?」

 

それは教練の際ランバが良く口にした言葉だった。思わず苦笑をしながらランバは返す。

 

「そうだ、そんなことも解らん連中に負けてやる訳にはいかん。貴様ら気合いを入れろ!」

 

「「了解!」」

 

応えた声は強い自信に満ちていた。

 

 

 

 

「取り付いたか」

 

「はい、現在第5戦隊のMS部隊が突入路を確保すべく要塞内に侵入中です。また突入機からの連絡によりますと、要塞内部には攪乱幕の散布は無いとのことです」

 

「そうか、再出撃の準備をしている機にはビームを携行させろ。それから艦隊を前進させる。突破口が形成され次第陸戦隊を投入するから第6戦隊に準備をさせろ」

 

「了解しました」

 

要塞表面に咲く爆発の閃光を見ながら、キャスバルの胸中に去来したのは興奮でも高揚でもなく安堵だった。ネオ・ジオンを立ち上げその総帥と名乗ったキャスバルであったが、これまで目立った功績も実績も示せていない。むしろここまではあくまで父ジオンの名声に頼り切った形であり、それ故に十分な賛同者が得られていないと彼は考えていた。

 

(アナハイムからの連絡も無い、当然サイド6も他の月面都市も同様。無理もない、しかし今後もそうでは話にならん)

 

それらに大きな期待は寄せていない。むしろこれまでの経緯を考慮すれば裏切り者に等しい彼らへ心を許すのは下策だろう。しかし弱小組織であるネオ・ジオンに仲間を選ぶなどという自由は今のところ存在しない。

 

「ソロモンを入手すれば我々を無視することは出来なくなる」

 

単独で各種生産設備を整えているソロモンという存在は組織の拠点として極めて大きな価値がある。宇宙軍の最大拠点を攻略したと言う実績も踏まえれば、革命への参加を躊躇しているダイクン派の心も大きく動かせる事だろう。

 

(もう少し、もう少しだ)

 

多くを諦めてきた、幾つも失った。闘争に負けた権力者の落胤として歩んだ生は、最初から望めるものなどほんの僅かだった。そんな自分が初めてかも知れない、己のためでなく、誰かのために何かをしたいと考えた、その第一歩が漸く踏み出せる。その思いに思わずゆるみかけた頬を明るい光が照らした。

 

「…何?」

 

光の次に襲ってきたのは振動。それが近くを航行していた第1戦隊に所属するムサイ、スケッギョルドの爆発であると認識出来たのは、乗艦の船体を飛び散ったデブリが激しく叩いたからだった。

 

「攻撃!?どこからだ!」

 

慌てた様子で叫ぶカイ・シデン少尉を理解の追いつかない頭で見る。

 

「ほ、本艦隊後方に複数の艦影!こ、これは」

 

「どうした!何が居る!?」

 

「照合出ましたソロモン艦隊です!」

 

「馬鹿な!?早すぎる!」

 

当然の反応だった。ルナツーまでの道程を考えれば、途中引き返したとしても時間が合わない。

 

「監視は何をしていた!?」

 

叱責が飛ぶが無理からぬ事だった。周囲は戦闘中ということもあり、極めて濃密にミノフスキー粒子が散布されており、突入している味方MS部隊との通信すら満足に出来ない状況だ。それに加えてソロモン艦隊は、かなり遠距離から慣性航行に切り替えていたようで、光学監視にも引っかからなかったのだ。ソロモンの攻略が順調に進んでいたこともあり、艦隊に広がる動揺は大きなものだった。

 

「敵艦隊、平文で通信を行っています!」

 

「内容は!?」

 

「読み上げます!『水天の涙は流れず』繰り返します、『水天の涙は流れず』以上です!」

 

「ソロモン要塞の抵抗が激化しております!あ、あの通信は一体!?」

 

「落ち着け!」

 

何とか叫んで見せたが、キャスバル自身も大きく混乱していた。そして通信の意味は判らなかったが、少なくとも敵にとって朗報であったことは間違いない。ならば考えられる内容は多くはない。

 

(大佐がしくじったか!)

 

「そ、ソロモンからMSが出撃しています!更に後方の艦隊より機影多数!友軍機の反応が消失していきます!?」

 

次々と上げられてくる凶報に、キャスバルは思わすシートの肘掛けを叩いた。

 

「撤退しましょう。総帥」

 

混乱の最中にあり、その声は不思議とかき消されること無くキャスバルの耳に届いた。

 

「アムロ少尉」

 

「残念ですけど、この作戦もうダメです」

 

「しかし、まだ友軍が戦っている」

 

そう返すとアムロ・レイ少尉は苦虫を噛み潰した表情で言葉を返す。

 

「戦ってなんていませんよ。皆死にたくないとか逃げようって気持ちばかりで、自分が助かりたいって思っている人ばかりです。あの人達、連れて帰ってももう戦えないと思います」

 

「だとしても私は彼らを率いた将だ。その責任は取らねばならない」

 

「なら余計撤退するべきです。貴方が死んだら誰が地球連邦の粛正をするんですか?彼らの犠牲に責任を取るのなら、その方法はここで死ぬことじゃない、彼らの志を全うさせることです」

 

アムロ少尉の言葉に幾度かキャスバルは視線を宙に彷徨わせ、最後に俯きながら絞り出すようにそれを口にした。

 

「…オペレーター、撤退信号を上げろ。友軍は可能な限り回収するよう、それから私のMSを用意してくれ」

 

「総帥!?」

 

「せめて退路を切り開くくらいのことはさせてくれ。散っていった者達に申し訳が立たん」

 

「大丈夫です、僕たちもお供しますから。総帥には傷一つつけさせません」

 

動揺するオペレーターを尻目に艦橋から出て行ってしまう二人。それを見届けたカイ・シデン少尉は深々と溜息を吐いた後、周囲を見回し、己に視線が集まっていることに気付く。

 

「オイオイ、マジかよ」

 

総帥直属のニュータイプ部隊。特に普段から側近のように振る舞っているアムロ・レイ、カイ・シデン、そしてララァ・スン少尉はその階級に見合わぬ発言権を知らぬ間に手にしていた。端的に言ってしまえば、旗艦の副長である大尉ですらカイ少尉に指示を求める視線を送る程度には。

 

「とにかく撤退の合図だ。それから各艦を順次反転、牽制射撃を忘れるな、ああ、それからララァ・スン少尉を呼んでくれ。総帥の援護を頼むって言えば伝わる」

 

開戦と同時に行った先制攻撃後、頭痛を訴えララァ少尉は医務室で休養しているが、今彼女の力が必要だと感じたカイ少尉はそうオペレーターへ告げた。

 

 

 

 

「間合いが遠いわ!」

 

慌てて振るわれたビームサーベルを躱しながら、手足を切り飛ばし無力化した反乱軍のゲルググにランバ・ラルは吐き捨てるように叫んだ。

 

「連中、完全に戦意を失ってますね。信じられない脆さだ」

 

呆れた口調でそう通信を入れてきたのは合流したコズン・グラハム少尉だった。MSが戦場に出現する以前から軍人をやっている彼らからすれば、反乱軍の行動は哀れを通り越して怒りすら覚える程だ。

 

「素人に道理も教えず武器なんぞ持たせるからこうなる」

 

「つまり身からでた錆というやつでありますか。これは耳が痛い」

 

逃げようとする敵機を押さえつけながら無力化するアコース少尉もそう口を挟んでくる。その言葉にランバは自身の憤りの本質を理解し大きく息を吐いた。

 

(俺のこれも八つ当たりか。…連中のことを笑えんな)

 

なんと言う事はない。彼らという存在を生み出したのはジオン公国であり、その公国を生み出す一助となったのは間違いなく自分達大人の選択だったのだ。今ならコンスコン少将の行動も少しは理解できる。あれは相応の立場に就いてしまった彼なりのけじめの付け方だったのだろう。

 

「子供に責任を問うならば、まず大人が責任を取らねばならんな。小隊各機!追撃戦に移行する!解っていると思うが」

 

「なるだけ殺すな、でありましょう?」

 

その言葉にランバは笑いながら返す。

 

「そうだ、そして本当の軍人というやつを見せつけてやれ、二度と馬鹿な気を起こさないようにな」

 

こうして多大な犠牲を出しながら、ジオン宇宙攻撃軍最悪の一日は終わりを迎えた。

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