起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百七十話:0080/01/14 マ・クベ(偽)と宿命

「進路はL1で良いんだな?」

 

「そうだ、あそこにあるテキサスコロニーは損傷しているが気密は保たれているし、環境維持装置は生きている。ある程度物資の補給も望めるだろう。アムロ少尉、ララァ少尉の様子はどうかな?」

 

「かなり疲れているみたいですね、敵艦隊を振り切るのに随分頑張ってくれましたから」

 

「ああ、おかげでかなりの数が脱出できた」

 

そうキャスバルが口にした所で、ブリッジは重い沈黙に支配された。誰もが表情は暗く沈んでいる。だが現状を考えれば無理のない事だった。

 

「…参加した艦艇で、逃げられたのは8隻だけか」

 

個として極めて強大な力を持つ彼らであったが、決してその力は万能ではない。特に経験の浅い彼らにとって、誰かを守る戦いというのは荷が重かった。相手がこちらの倍以上の戦力であれば尚のことである。それは参加艦艇の7割を喪失するという厳然たる事実として全員の目の前に示される。

 

「とにかく傷を癒やし状況に備えることだ。残念だが今の戦力では主体的な行動は難しい。ここからは少しばかり厳しい戦いになるだろう」

 

「具体的には?」

 

「本国とグラナダの動きに合わせる必要がある。一度ペズンへ戻りルナツーのカスペン大佐と合流する。ソロモン艦隊の様子からすれば、大佐の部隊はほぼ無傷だろうから、ある程度戦力は回復出来る。その後本国とグラナダへ使者を立てて…」

 

「グラナダへの連絡はオススメできません」

 

「どう言うことだろうか、ジーヴ少佐?」

 

今後の予定を口にするキャスバルの言葉を遮ったのは、それまで黙っていたアリソン・ジーヴ少佐だった。彼女は撤退中乗艦を失っていたがコムサイで脱出、その後ネオ・ジオン軍の旗艦であるグラーフ・シュペーに身を寄せていた。

 

「ルーゲンス少将は信用出来る人物ではありません。閣下の立場が不利となれば平然とザビ家に閣下を売り尻尾を振るような男です。こちらが弱っているタイミングでの連絡はするべきではないでしょう」

 

「成程、ではグラナダは敵に回ると考えて良いのだな?」

 

「はい、いいえ閣下。申し上げました通り、少将は閣下の立場によって態度を変えるのです。情報を与えなければ今まで通り中立を気取るでしょう」

 

「成程。ならばその間に本国のシュレッサー准将と連絡を取り、戦力を盛り返せば再びこちらになびくと?」

 

キャスバルの言葉にアリソン少佐は頷きつつも表情は厳しいままだった。

 

「はい、ですが一度我々はソロモンの攻略に失敗しております。故に何処か一つでも自力で拠点を確保してみせる必要があるでしょう」

 

「我々の力を理解させるためか。…厳しいな」

 

「攻略の可能性があるとすればア・バオア・クーでしょうか?」

 

この時点でア・バオア・クーには親衛隊の戦力が僅かに駐留するのみであり、大半は技術部の擁する試験部隊や、各社から出向しているテストチームなどであり、ソロモンの戦力と比べれば与しやすい相手とも言えた。ではネオ・ジオン軍が何故ソロモンより先に攻略しなかったのかと言えば、旨味が少なかったからである。本国の最終防衛ラインとして想定されていたア・バオア・クーは戦中に接収改造したソロモンに比べ要塞としての完成度が高く、防衛機構も充実していた。加えて内容的にも本国からの補給を前提とした要塞だったので、内部に備える工廠の規模が小さく、仮に確保したとしても戦力の増強に時間が掛かるのは明白だった。

 

「詰めている戦力こそ少ないが、ア・バオア・クーの防衛設備はソロモンの比では無い。消耗した我々には荷が重いな」

 

そう唸るキャスバルに対して、またも口を開いたのはアリソン少佐だった。

 

「閣下、でしたらもっと容易に落とせる拠点を確保しては如何でしょう?」

 

「少佐の言い分は尤もだが、そんな都合の良い拠点が何処にある?」

 

「あるではないですか、フォン・ブラウンが」

 

その言葉に一同が愕然とする。だが、そのようなことを一切気にせずアリソン少佐は続けた。

 

「中立宣言のおかげであそこには連邦も公国の艦も存在しません。それでいて艦艇のドックからMSの製造ライン、果ては武器弾薬にいたるまで備えています。これほどの物件は無いでしょう」

 

「しかし、それじゃぁアナハイムと事を構えることになるんじゃないかい、少佐?」

 

引きつった笑みを浮かべながら、カイ・シデン少尉がそう聞けば、アリソン少佐は鼻で笑いながら返事をする。

 

「元々事をたきつけたのはあの会社でしょう?不利になったからといって手を引こうとするような連中の事情など考慮に値しません。自ら鉄火場へと身をさらしたのですから、相応の代価は払って頂いて然るべきかと」

 

それでも難しい顔を止めない周囲へ向かい、アリソン少佐は言葉を続ける。

 

「我々の優先すべきはネオ・ジオンが今後存続し続ける為に何が必要かです。閣下の下正義をなす我々の行いの前に、それ以外のことは全て些事に過ぎません。そのようなことに拘っていては、成せることも成せませんよ?」

 

キャスバルは少佐の口上が終わるのを待ち己の考えを口にする。

 

「少佐の考えは良く解った。私としても戦力の確保は急務である以上、それも視野に入れるべきだと考える。だがまずはカスペン大佐との合流が先だ。そこで部隊を別ける。艦隊はこのままL1へと向かい予定通り身を隠す。この間にヨルク単艦でペズンへ向かって貰いカスペン大佐をこちらへ呼ぶ。最終的な判断は大佐が到着してからとする、以上だ」

 

 

 

 

次々と膨らむバルーンを見ながら、俺は満足して頷いた。

 

「さて、外の飾り付けはこんな所だろう。あとは内装も凝ってやらねば」

 

『こう言っては何ですが、連中には心底同情しますな』

 

『仕方が無いだろう?あいつらは我らが大佐殿に喧嘩を売ったんだ。相応の覚悟はすべきだろう』

 

なんか褒められているような、いないような微妙な発言が通信に飛び交っている。何をしているかと言えば、敗走してきた反乱軍の皆さんをお出迎えするために、L1宙域を絶賛ブービートラップで飾り付け中である。暗礁宙域は広大でその範囲は数百km以上になるから、本来ならトラップを仕掛けるなんて現実的では無い。が、今回ばかりは別である。

 

『コロニー内も仕掛けるんですか?』

 

「私は心配性でね、やれる準備は出来るだけやっておきたいのだよ」

 

『成程、しかし狐を狩るにしては随分と大仰に感じますが?こんなものまで持ち出すなんて』

 

そう言いながら海兵隊員の軍曹は俺がソロモンからパクってきた装備を設置する。元々は対艦ライフルの更新用として開発されていたビーム兵器だが、高出力化に伴う大型化と冷却機構の問題で携行するのが難しくなったから巨大なバイポッドを付けて設置型にしたという、なんとも産廃臭あふれる装備である。まあ、原作知識持ちとしては非常に頼りになることは解っていたので、埃被らせてるくらいなら有効活用してやんよ!とかっぱらってきた。因みに射手はアナベル少佐の予定、開発時に何度か試射をしたことがあるらしく、快く引き受けてくれた。それにしても反乱軍へのなめっぷりは少しばかり危険ではなかろうか?多分、軌道上で交戦した経験からのせいかなぁ、思いっきりシーマ中佐が蹂躙してたし。でもちょっと良くないな。

 

「彼らを甘く見ない方が良い」

 

『はあ』

 

なんとも気の抜けた声を出す海兵隊員を、ちょっとだけ脅してやることにする。

 

「あれは狐などではない、追い詰められて殺気だった熊のようなものだ」

 

そう言いながら俺は機体を近づけ、接触回線に切り替える。後で通信ログなんかを漁られたら厄介だからな。

 

「このような物言いはどうかと思うが、少なくとも私と互角と考えろ。いや、それ以上を想定して居た方がいい」

 

「そ、そんなにですか?」

 

「ハマーン少尉を見ろ、軍務経験など殆ど無い彼女ですらあれだけ戦える。そんな能力に目覚めている赤い彗星が、弱いなんて事はあり得ない。そしてもう一人はその赤い彗星に土を付けかけた男だぞ?」

 

なめてかかれる要素なんて何処にもないだろう。まったく、何だってそんな連中と戦わねばならんのだ。俺の思いが伝わったのか、海兵隊員君は息を呑んだ後、緊張した声音で了解の言葉を返してくれた。うん、今度は脅しすぎたか?加減が難しいな。

 

「大丈夫だ、私達はそれを問題無く倒すためにこのような事をしている。侮ることは出来んが、かといって絶望する相手ではない。普段通りだ、普段通りやれば上手くいく。これまでだってそうだったろう?」

 

「大佐…」

 

「こんな厄介ごとはさっさと片付けて、皆でオデッサへ帰るんだ。解ったかね?解ったなら手を動かそう、時間は有限だからね」

 

そう言って俺は機体を翻し、この宙域に唯一残っているコロニー、テキサスコロニーへと機体を進めた。…もし運命というものがあるなら掛かってこい、相手になってやる。


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