起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

174 / 181
第百七十三話:0080/01/14 マ・クベ(偽)とテキサスコロニー

「予定通りに追い込んだね。お前達仕事だよ!」

 

そう発破をかけながらシーマ・ガラハウ中佐は自機を宇宙港へと向かわせた。既に宇宙側の出口は味方艦隊によって封鎖されており、コロニー側への隔壁もぎっしりと詰め込まれた機雷によって封じられている。文字通りネオ・ジオンの艦隊は袋のネズミとなっていた。思惑通りに進む状況に。シーマは作戦開始前のブリーフィングを思い出す。

 

 

「連中の技量で最も脅威なのは何か?それは回避と射撃精度だ。自由に動き回れる宇宙空間での射撃戦において彼らは無類の強さを誇る。ならば、だ。動き回れない閉鎖空間に押し込み、腰を据えての撃ち合いをしてやれば良い。こちらは数で勝り、あちらは艦という防衛対象まで抱えている。ならば磨り潰すだけだ」

 

そう語る大佐に対し、シーマの放った言葉は単純だった。

 

「でしたら大佐は後ろで見学ですなぁ」

 

閉所での戦闘となれば高い連携が要求される。その点に於いて海兵隊とマ大佐は万全とは言い難かった。何しろ最も技量に優れた個人と基地屈指の精鋭である。戦闘訓練は必ず相手同士に振り分けられるから連携訓練など全くやっていない。

 

「おまけにギャンは高機動格闘戦型のMSでしょう?交じられても歩調が合わせられません」

 

何より腰を据えての撃ち合いとなれば、単純に手数の多い方が有利だ。その点で言えば少しでも火力を持ち込みたいシーマとしては、ギャンよりもゲルググマリーネを選ぶのは当然であった。無論、そこに大佐を徒に危険な場所へは連れて行けないという気持ちが働いたことは否定できないが。

 

「それに万が一があります。金髪坊やとその側近は手練れでしょう?艦を見捨ててMSだけでならあるいはこちらを突破するかもしれない。その時に後詰めが要ります」

 

断固として引かない姿勢を見せるシーマに大佐がゆっくりと息を吐く。

 

「…任せるのも信頼の証か。そうだな、中佐達にはこれまでも散々な注文をしてきた。それに全て応えてくれているのだから、私が信じないのは侮辱に等しい。承知した、私は後詰めに回ろう」

 

「どうせなら、MSからも降りて艦の方で眺めていて頂いても構いませんよ?」

 

シーマは嘘偽り無い本心を口にする。それに対し笑いながら大佐は答えた。

 

「それはイヤだ」

 

 

その時の笑顔を思い出し、思わず顔を顰めながらシーマは通信に向かって更に檄を飛ばした。

 

「いいかいお前ら、ここでしくじるとあの馬鹿な大佐が飛んでくるよ!」

 

『泣く子も黙るシーマ海兵隊が、基地司令に助けられたなんて言われた日にゃ、パイロットを廃業しなきゃなりませんな!』

 

『そいつは困るな!これ以外の飯の食い方なんざ知らんぞ!』

 

軽口を叩きながらも海兵隊のゲルググは淀みなく、滑るように宇宙港へと向かう。当初は港内部での待ち伏せも検討されたのだが、それはハマーン・カーン少尉の発言により却下された。

 

「ララァ・スン少尉の感知能力は非常に高いです。少なくとも私くらいの能力者が待ち伏せていれば即座に気付くでしょう。そしてその能力が普通の方々相手にどこまで対応しているのかは未知数です」

 

「例の人の感情が見えるってヤツかい?厄介だね。それじゃあそもそも待ち伏せなんて出来ないじゃないか」

 

「そうとも言い切れません。私達が感じているものは皆さんから解らないように、私達からも普段の皆さんの感情は解りにくいんです」

 

「けれど個人差があるんだろう?少尉よりよく見えてたらやはり難しいんじゃないかい?」

 

そう聞き返すシーマにハマーン少尉は少し思案顔になった後しっかりとシーマを見ながら答えた。

 

「おね…姉から聞いた話になるのですが、研究所にあの元連邦軍の二人が送られてきたとき、ララァ少尉は入港した辺りで気がついたそうです」

 

それもあくまでニュータイプ同士の話であるから、宇宙港から10キロほど離れればほぼ感知できないのでないか。と言うのがハマーン少尉の考えであり、更に確実を期すための行動を進言してきた。

 

「逃げ込んだ段階で私が全力で相手を狙います。そうすれば私の方に気を取られて中佐達のことに気がつかなくなる可能性が高いと思います」

 

そして少尉の言葉通りに事態は進み、シーマ達は気取られること無く接近した。

 

(あれはもう一端の兵士だ。やってらんないね)

 

シーマの目から見たハマーン少尉は既に一流の戦力だ。あれこれと周囲の人間が妨害しているが、もし軍に彼女が兵士として戦えるかと問われれば、シーマは可能としか答えられないだろう。それは酷く危うい未来をシーマに想像させた。そしてその一瞬の注意散漫が、彼女に状況変化への対応を遅れさせた。

 

「っ!?全機隔壁から離れろ!!」

 

叫べたのは彼女の能力の高さ故だったが、それでもそこまでが限界だった。熱と内圧で大きく歪んだ隔壁が、次の瞬間ビームによって破孔が穿たれ、更に誘爆した機雷によって激しい爆発と共に、宇宙港へ侵入しようとしていた海兵隊のゲルググ諸共コロニー内へと吹き飛ばされる。巻き上がった爆炎と煙は、気圧差によって直後に宇宙港へと吸い出され、その中をかき分けるように大破したチベがコロニー内へと侵入してきた。

 

「艦を盾にして主砲で隔壁を吹き飛ばしたのか!?」

 

損傷艦を壁にしたのだろう。チベは無人らしく、突入して直ぐに制御を失い近くの島へと落下を始めた。その先にいた海兵隊はたまったものではない。

 

「逃げろ!」

 

この時ほどシーマは部隊の機体がゲルググに統一されていることを感謝したことは無かった。脱出装置が標準装備されているおかげで、隔壁の爆発に巻き込まれ機体が動かないほどの損傷を受けた者でも素早く離脱することが出来たからだ。爆発こそしなかったものの、地面をえぐりながらチベが味方の放棄したゲルググを挽き潰す姿はシーマに冷や汗を流させた。

 

「後先考えてない奴らは厄介だね!滅茶苦茶しやがる!」

 

態勢を立て直すべく声を上げようとしたシーマは、次の瞬間咄嗟にスラスターペダルを蹴り飛ばすように踏み込んだ。搭乗者の意思をくみ取るように、ゲルググはその推力を存分に発揮し、弾けるように後方へとその身を動かした。

 

『ちぃ!』

 

混線した通信に入り込んできたのは、聞き覚えのある少年の声だった。ゲルググを追いかけるように放たれる光条を躱しながらシーマは毒づいた。

 

「はっ!つくづく妙な縁もあったもんだね!こんな事ならあの場で撃ち殺しときゃぁよかったよ!」

 

言いながらシーマは空を睨み付けた。巻き上がる砂埃の先、砲口を向け双眸を光らせたMSが再びビームを放った。

 

『そこ!』

 

「調子にのんじゃないよ!」

 

言い返しはしたものの、シーマは内心舌を巻いていた。相手の射撃は非常に正確で回避するのが精一杯だったからだ。しばしば創作の世界では正確な射撃は読みやすく回避がしやすいと描写されることがある。しかしそれは間違いだ。狙っている位置に正しく弾が飛んでいくなどと言うのは当然の前提で、本当に正確な射撃とは、撃たれている側が避けにくい、避けられない射撃のことだ。その点において目の前のMSが放つ射撃は、嫌になるほど正確だった。こちらの動きが解っているかのように飛んでくるビームが二発目には機体を掠め、三発目には機体を捉える。以降は直撃を受け続け、シールドと追加装甲が無ければ既にやられているであろう程だ。故に相手がわざと直撃を出さぬよう戦っている事がシーマには解った。

 

「遊んでるつもりか!」

 

反撃の為に持ち上げたライフルが、即座に撃ち抜かれ爆発する。その余波で体勢が崩れた隙に放たれたビームが、今度はシールドを破砕した。シーマが舌打ちしつつ機体を岩陰へと滑り込ませる。その瞬間、再び通信に苛立たしげな少年の声が響いた。

 

『悠長にしている暇なんて!』

 

その余裕の無い声音に危機感を覚えたシーマが機体を動かそうとするが、それはほんの少しだけ遅かった。

 

「やめ―!」

 

制止する間も無く連続で行われた射撃が、シーマを援護するべく集まっていた海兵隊のゲルググを次々に撃ち抜いて行く。次々と部下の機体が行動不能となっていく中で、敵の艦隊が悠然と姿を現わした。それを確認するように相手のMSは振り返ると、こちらへの攻撃を止め、艦隊を先導するようにコロニー内を進んでいく。

 

「クソがっ!」

 

直ぐに追いかけたい気持ちを必死に抑え、シーマは作戦失敗の信号弾を打ち上げた。

 

(不甲斐ないったら無いね。けどまだ負けちゃいないよ)

 

そう自然と考える自分にシーマは驚いた。そして同時に口角を釣り上げる。

 

「簡単には行かせないよ。何せウチのとっておきがまだ残っているんだからね」

 

シーマの台詞に応じるように、一条のビームが空を貫く。それは先頭を進んでいたティベ級のエンジンを捉え、派手な爆発を引き起こす。それを確認したシーマは通信に向けて叫んだ。

 

「お前達、生きてるね!?機体を損傷した者は一旦引いて艦隊と合流しろ!無事な者はこのまま追撃!海兵の意地を見せな!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。