起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
「MSの性能差が戦力の決定的差となる事を教えてやろう!!」
『このぉ!』
『当たらなければどうということはない!』
連続して吐き出される散弾はどれも空を切る。MSサイズに大型化したとはいえ、所詮散弾だから射程が短い上に、弾体をルナチタニウムなんかで作っているから距離減衰も激しい。必然距離を詰めることになるのだが、相手もそれが解っているからこちらが突っ込むと回避に専念してしまい、結果弾薬だけが消費されている。あまり楽しくない状況だ。
「ちょこまかとよく逃げる!む!?」
向かって右側へ回避したガンダムへ射撃を加えるが、1回撃っただけで右手に収まっていたショットガンは沈黙してしまう。その瞬間を待っていたようにゲルググが動きを止めてビームを放ってきた。
『大言の割には底が浅いな大佐!己の武器の弾数も知らずに使っているのかね!?』
「この程度で喜んで頂けるとは、サービスのし甲斐もあるというものだね!」
『減らず口をっ!』
体勢を立て直したガンダムからも射撃が飛んでくる。二人の連携と攻撃は流石としか言いようがない。全く休む暇が無く、攪乱幕散布ユニットと分厚い装甲が無ければあっという間に落とされているだろう。やはりMSの性能は大事だ。
「ちっ!こうも一方的では!」
左腕に持っていた予備のショットガンも撃ち尽くした俺は、ヒートランスに持ち替えながら強引に後ろへ飛ぶ。
「私一人にかまけていいのかな?ウチの海兵は優秀だぞ?」
『下手な揺さぶりだな。先ほどまでの威勢は何処に行ったのかな大佐殿?頼りの味方とはあのゲルググのことだろう?残念だったな、行きがけの駄賃で墜とさせて貰ったよ!』
『立場が弱くなれば直ぐに口に逃げる、そんな時点で貴方はパワー負けしている。もう止めたらどうですか?』
クソガキ共が言ってくれるじゃねえか。
「私にも面子があるのだよ!」
言いながら俺は左腕のPDWからグレネードを撃ち出す。咄嗟に回避する二人だが、残念それじゃそいつには不足だぜ。
『うぁっ!?』
『閃光弾だと!?』
一瞬のブラックアウト、だがそれで十分。おまけとばかりにスモークも展開し俺は予定通りに距離を取った。
「さて、来て貰おうか。二人とも」
「おまけに煙幕とはな、見失ったか?」
「こんな手を使って。あの人、小賢しいと思います。どうしますか?一度皆と合流した方が」
アムロ・レイ少尉の言葉にキャスバルは視線を艦隊へと向けた。グラーフ・シュペーの損傷は深刻なようで移動の目処が立っていない。チベ級アルコナを放棄したため既にどの艦も限界近くまで人員が乗り込んでおり、これ以上の艦の喪失は事実上味方を見捨てる事となる。戦意を失った者達には辛辣であったアムロ少尉も、戦い続けようとしている仲間を見捨てられるほどには冷酷にはなれなかった。
「…逃げる間際、マ・クベ大佐はウチの海兵と言っていた。つまりここに居る連中は彼の子飼だけとみて間違いあるまい」
装備も練度も一級品、しかもコロニー内で待ち構えていた連中の中にはシーマ・ガラハウ中佐の機体もあったので間違いないであろうとキャスバルは考える。そして彼は賭けに出ることにした。
「アムロ少尉。我々はこのままクベ大佐を追う。そして身柄を拘束するのだ」
「人質ですか?」
「交換してもらうのさ。大佐の命と彼らの艦をね」
正直に言って分の良い賭けとは思えなかった。海兵隊の以前の扱いを思えば、大佐とも打算的に付き合っている可能性は否定できないし、外に居る戦力が未知数であることも気がかりだ。第一今いるのが目の前に現れた戦力だけとは限らない。だが、悩めるだけの時間は彼には残されていなかった。
「時間が経てばソロモンからの追撃部隊が追いついてくる。そうなってはもうどうにもならない。今逃げるには連中の艦が必要だ」
「了解しました。総帥、これは勘なんですけど、この場を演出しているのはあの大佐な気がします。だから盤をひっくり返すには、あの人を倒すのは間違っていないと思うんです」
そう告げてくるアムロ少尉にキャスバルは笑顔で答える。
「君にそう言って貰えると心強いな。では行くとしよう」
晴れ始めたスモークから抜け出て、二人は小高い岩山へと登る。テキサスコロニーは通常の居住用コロニーと異なり、所謂観光用として設計されたコロニーだ。その名の通り中世のテキサスを模した造りで、周囲には景観用として小高い岩山や渓谷が造成されていた。
「厄介な物だな、これでは隠れる所に事欠かん…む?」
周囲を探るべくカメラで周囲を映している内に、キャスバルは異変に気付く。
「ふん、臆病者が身の丈を弁えんからそうなる」
明らかに広範囲に撒かれたスモークは今も視界を遮ってはいるが、アムロ少尉が開けた穴によって随分と流れてしまっている。だからその中で動く影を見つけることも不可能では無かった。
「行くぞ、アムロ少尉。こんなところで立ち止まる訳にはいかない」
「はい、総帥」
そして、2人の乗ったMS達は動き出す。
「掛かった」
グランドソナーの波形を確認して、俺は成功を確信した。正直偽装撤退は賭けに近かったが、俺というエサの価値をそれなりに買ってくれているようだ。
「さあ、ここからが本番だぞ?」
連中は俺を侮っている。MSの性能に頼りきって、満足な装備の知識も無いプライドだけの男。今まで彼らの前で戦ったことはないが、それなりに有名人になっている俺が露骨に逃げたら訝しがるだろう。だからアムロ少尉と戦ったとき、俺はできる限り手の内を見せず、逃げを優先してひたすら口で揺さぶった。あれで少しでも俺が口先だけの男と思って貰えたなら僥倖だ。馬鹿にされる?蔑まれる?プライドはどうなるって?そんなもん犬にでも食わせとけ。こっちは負けられないんだ、そんなことくらいで勝率が1%でも上がるなら喜んで何でもやってやる。口角を上げながら、俺は手元のスイッチを押し込んだ。
「ラウンド2だ」
煙った視界の先で爆発が起きる、薄れていたスモークが再び濃度を増し、同時にそこかしこでバルーンが膨れる。
「目が良いのも考え物だな?」
時折スモークがピンク色に染まり、そのたびにバルーンの反応が消える。恐らくどちらかが影に反応してビームを撃っているのだろう。俺はギャンにグレネードランチャーを構えさせると適当にその辺りへと弾丸を放り込んだ。スモークチャージャーに紛れさせて配置していたミノフスキー粒子散布装置がここで仕事を始める。艦艇やMSに搭載するような大型の物は持ち込めなかったが、小型の実験室で使う程度の物が都合出来たのだ。散布量も大した事は無いから濃度も範囲も今ひとつだが、それでも視界不良の中、レーダー関連が十分に機能しないのは負担が大きい。問題は。
「おっと、早速か」
ギャンの近くを太いビームが通り過ぎる。やはりアムロ少尉の方は気配とかそんな物を感じて動けるようだ。金髪坊やの方は撃たないのか撃てないのか微妙な所だが、恐らく後者だ。射撃の技量はほぼ同じなんだから、片方だけに弾薬を消費させるのは好ましくない。にもかかわらず撃たないのだから、これは撃てないと見て良いだろう。そんなことを考えながら、俺は次のコンテナに移動し、中身を取り出す。
「てけてけーん、ろーけーらーんー」
どこぞの青狸の真似なぞしながら、MSが持てるように持ち手の付けられたR-1ロケットランチャーを構え、再び光っている辺りへたたき込む。当然のように着弾観測などせず、次のコンテナへ向けてとっとと移動を開始すると、先ほどのコンテナの辺りがビームで吹き飛ばされた。結構念入りに撃ってくるな、相当頭にきてるかな?だがここからだぜー?
「おっ!」
言った傍から煙の中で複数の炸裂音が鳴り響く。恐らくワイヤートラップのクレイモアでも引っかけたんだろう。ヨーロッパでは良く連邦軍に仕掛けられてザクを失ったものだ。
「金髪坊やの方は歩兵の経験もあったと思ったが。宇宙暮らしが長くて忘れてしまったようだな?」
まあ、仕事が楽なのは良い事だ。俺は最後のコンテナにたどり着き中身を取り出す。それをギャンに装備させ終わると、俺は一度大きく息を吸った。恐怖で指先が震えているのが解ったからだ。時間にしてほんの数秒だろう。今度は大きく息を吐いて、目の前のモニターを見据え、覚悟を決めるためにその言葉を敢えて口にした。
「吶喊」