起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百七十六話:0080/01/14 マ・クベ(偽)と死闘-Ⅱ-

「このぉ!」

 

「落ち着けアムロ少尉!」

 

冷静さを失い執拗に撃ち続けるアムロ・レイ少尉をキャスバルは窘める。しかし完全に頭へ血が上った少尉の耳には届かない。

 

「先制しなければ相手の思うつぼです!」

 

相手の気配を感じ取れるが故だろうか、アムロ少尉は酷く焦り攻撃的になっていた。その豹変ぶりにキャスバルは驚くと同時に苛立ちを覚える。

 

「相手もこちらは視認出来て居ない!面制圧用の装備を多用しているのが解らないか!射撃で徒に位置を教えるなと言っている!」

 

声を荒げると、アムロ少尉が攻撃を漸く止める。しかしそれは事態の好転を意味してはいなかった。

 

「…さっきの大佐の言葉、あれは本当に嘘だったんですか?」

 

「どう言う意味かな?」

 

僅かに生まれた隙に機体の状態をチェックしていたキャスバルは、アムロ少尉の言葉に眉を寄せた。

 

「ルナツーを落とすのはブラフ、それで動いた連邦高官を粛清する。総帥はそう仰いましたよね?あれは本当だったんですか?」

 

「勿論だ。私は無益な殺生を好む質ではないよ」

 

キャスバルの答えに対し、アムロ少尉の声は冷淡だった。

 

「嘘です、総帥。僕ら相手にそんなごまかしが通用すると思ったんですか?」

 

「そうか、そうだな。君たちはニュータイプだものな。ならば正直に言おう、あの作戦で私はルナツーが本当に落ちたとしても構わないと考えていた」

 

「何故そんな事を!?」

 

「解らないのか!?地球連邦政府とは地球に住む人間達の代表者に過ぎない!たとえ彼らを排したところでまた別の誰かに挿げ替わるだけだ!人が地球に住み続ける限りアースノイドとスペースノイドの確執は消えず、争いは永遠に消える事が無い!そして争いが無くならない世界において、ニュータイプは戦いの道具としてしか価値を見いだされない。だから地球が滅びようとも人類を全て宇宙へ上げる必要があるのだ!」

 

「じゃあ、地球に住む善良な人たちはどうなるんです!?」

 

「逆に聞こう、君はスペースノイド搾取の上に成り立つ現在の生活を享受し続けるアースノイドに、その善良な人間とやらが本当に居ると思っているのか?」

 

アムロ少尉は言葉を失った。目の前の男が本心からそう口にしていることを正しく理解できてしまったからだ。

 

「あ、貴方は!」

 

思わず銃を向けかけたアムロ少尉だったが、その銃口は即座に別方向へ向けられた。視界の片隅では総帥の乗るゲルググも同様に同じ方向へライフルを向けている。

 

『戦争の最中に口喧嘩とは余裕じゃないか!』

 

 

 

 

「シデン少尉、頼みがある」

 

向かってくる敵機を迎撃した後通信の途絶えてしまった総帥の代わりに、艦の指揮を執っていたアリソン・ジーヴ少佐が真剣な声音でそう告げてきた。

 

「な、なんでしょうかね?少佐?」

 

一見、見目麗しく能力もある彼女のことがカイ・シデンはどうにも苦手だった。他の人間が比較的階級に緩い中、それを前面に押し出した物言いをするところもそれに拍車をかけており、つい卑屈な物言いになってしまう。その様子を見たアリソン少佐が、苦笑しながら言葉を続ける。

 

「君が私を嫌っているのは知っている。だが今だけは頼まれて欲しい。機体と一緒にバーデンへ移乗してくれ」

 

バーデンは第一戦隊に配属されていたムサイで後期生産型に属する艦だ。戦時量産型や初期型よりも様々な面で性能向上が図られていたため、万一の際に旗艦の代艦とするべく準備されていた艦だった。

 

「駄目なんですか?」

 

カイの問いかけに、アリソン少佐は頷いて事情を口にする。

 

「ああ、エンジンの復旧は絶望的だそうだ。残念ながらこの艦はここで放棄せざるをえないだろう。だが総帥が逃げ延びるためには艦も人員も必要だ、そちらを君に任せたい」

 

真剣な表情でそう伝えてくるアリソン少佐にカイは戸惑いを覚えた。確かにソロモンからの撤退の際、一時的にではあるが艦隊を指揮する事にはなった。しかし訓練も受けていない自分より少佐の方が間違いなく適任であるし、何よりここで彼女の言葉を受け入れてしまえば、カイは一兵士ではなく指揮官として皆を率いていく立場になる事は明白だ。

 

「まって下さいよ。これからもっと敵の追撃は厳しくなるんでしょ?だとしたら、指揮官は優秀なヤツじゃないと駄目なんじゃないですかね?」

 

カイは慌ててまくし立てる。今までのようなうやむやではない、明確な立ち位置を得てしまうことに尻込みしたのだ。無理もない事だろう。自身に責任が降りかからない立場であれば、人は幾らでも饒舌になれる。その言葉に自らが代償を払う必要が無いからだ。ここまでの彼はそうだった。最終的な判断は総帥がした、あるいは不在でやむなく行った。それらの責任は全て総帥へと帰結するからだ。だが、そんな甘えとも言える発言を、アリソン少佐は切って捨てる。

 

「駄目だ、私はこの艦を使って敵の追撃を少しでも遅らせる。君には無理だろう?」

 

追撃を遅らせる為ならば何でもする。そう目で語るアリソン少佐に対し、カイは口を噤むしかなかった。そして同時に自身の覚悟の甘さを指摘されたようで、羞恥に頬を染めた。そんな彼にアリソン少佐は笑いながら肩に手をかけ言葉をかける。

 

「総帥の望む世界には君のような人間が必要だ。ニュータイプ部隊の者達と装備は全て持っていけ、MSも動かせるものは全てだ。頼んだぞ」

 

 

 

 

「宜しかったのですか?」

 

カイ少尉を退艦させるのと同時に、可能な限りの人員を脱出させるという名目でブリッジクルーも送り出したグラーフシュペーの艦橋に抑揚の無い声が響いた。艦に残っているのは負傷兵と、残留を志願したという名目で残された第7戦隊の生き残り達だった。頭に包帯を巻き、左腕も半ばから失った大尉を面白く無さそうな目で見た後、アリソン・ジーヴは鼻を鳴らした。

 

「ふん、総帥が生き延びるにはまだ戦力が必要だ。あれらは頭は悪いが腕はある、今暫くは使い道もあろう。それに」

 

「それに?」

 

「ここから先はあのヒヨコ共では刺激が強すぎるだろうからな、邪魔をされては敵わん」

 

そう言ってアリソンは拡大されたモニターの一つを見ると、つまらなそうな声音で告げた。

 

「撃て」

 

 

 

 

精神面での揺さぶりは思った以上の効果を上げてくれた。まさかこの土壇場で仲間割れまで起こしてくれるとは思わなかったよ。どうだい、わかり合うってのがどれだけ難しいか身をもって知れただろう?良い勉強になったなぁ?

辛うじて放たれたビームは2発、問題は高速でこっちも移動しているから、攪乱幕の展開が出来ないことだ。ガンダムの方のビームを強引に避けた結果、ゲルググの放ったビームはフレキシブルアーマーを直撃する。

 

『馬鹿な!直撃の筈だぞ!?』

 

「言ったろう?MSの性能が戦力の決定的差になると!そら、くらいたまえ!」

 

言いながら俺はガンダムへと一気に距離を詰める。テム博士も苦肉の策だったんだろうが、最後の一歩で親としての情が勝ってしまったんだろうな。自分の子供が乗る機体に、装甲を削ってまで軽量化することで高機動を達成するという決断を下せなかったんだろう。おかげで首の皮一枚繋がったよ。

 

『このぉ!』

 

強引に振られる腕を躱して、こちらもお返しとばかりに右手を振るう。その先に握られていた武器はしっかりとガンダムを捉えた。

 

『ああっ!?』

 

ガンダムの足へと絡みつく円形の連なり。チェーンマインと呼ばれるそれは最後の一発が取り付くと同時にその力を解放する。

 

『アムロ少尉!』

 

近づこうとしてくるゲルググへ向けて連続してグレネードを放つが、全て90ミリで撃ち落とされ、代わりにビームが返ってくる。そういや腕に内蔵火器があったっけな。にしてもあの瞬間で咄嗟に全部撃ち抜くとか、赤いのも覚醒し始めてるんじゃねぇか!?

 

「寝ていたまえ」

 

チェーンマインのグリップを投げ捨て、代わりに握ったビームサーベルと左腕のヒートランスをガンダムへ遠慮無く振るう。どこぞのNT-1のような分離式の増加装甲でないのが幸いだった。しっかりと脚の内部まで損傷していたガンダムは避けられずに両腕を失う。さあ、あと一人!

 

『そんな!何で!?』

 

俺の意識はその声に思わず反応してしまった。アムロ・レイの驚愕した声、一瞬だけ頭の中にイメージのようなものが流れ込んでくる。ああ、すげえ、これがニュータイプの感応ってやつか?こんな事出来たら、そら自分が特別だと思っても不思議じゃねえわ。

 

「ウラガン、壺のことは黙っていてくれよ?」

 

咄嗟にそんなことを口走り、俺は振り返る。眼前一杯に広がるビームの光条。ああ、これ艦砲射撃だ。避けたら、ガンダムに当たっちまうよなぁ。

 

「この機体は、伊達ではないのだよ!」

 

フレキシブルアーマーを重ねるように交差させ、攪乱幕を全力で投射する。そして俺の視界は閃光に呑み込まれた。


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