起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百七十七話:0080/01/14 マ・クベ(偽)と死闘-Ⅲ-

降り注ぐ艦砲射撃に耐えきれなくなった地面が崩壊し、キャスバル・レム・ダイクンは宇宙へと投げ出された。

 

「どう言うことだ!これは!?」

 

体勢を立て直し、今自らが吐き出された破孔を睨む。既に砲撃は止み、穴からはコロニーの内容物が次々と吐き出されていた。

 

「カイ少尉ではないな。ならばジーヴ少佐か?なんと言うことを!」

 

クベ大佐の乗った機体はビームに対し高い防御力を持っていた。しかし動けぬ状況で艦艇からの砲撃に晒されても無事だとはとても思えない。つまりそれは、パイロットの生存も見込めないと言うことだ。加えてもう一つの事実が彼の焦燥感を駆り立てる。

 

(アムロ少尉の機体は損傷していた、あれでは満足に動けんはずだ!)

 

考えの行き違いは確かにあった。そして未だ相手を感じ取ることが出来ないキャスバルは、まだアムロ少尉を説き伏せられると考えていたのだ。だがそのアムロ少尉もあの砲撃から生還出来るとは、彼には思えなかった。幸か不幸か、ニュータイプと呼ばれる者達の死に直面していない彼には、常識的な価値観でしかアムロ・レイの生死を判断出来なかったのだ。一度に有力な交渉材料と強力な手札を失ったキャスバルは、迷わず次の行動に出た。

 

「艦の奪取が叶わんのなら、せめて数を減らす!」

 

コロニーへ目を向ければ、採光用の透明な構造区画――通称川と呼ばれる部分だ――から断続的にビームの光が見て取れた。敵艦隊が追撃に移ったのだろう。そしてそれは、彼に認めたくない事実を突きつける。それらしい事を口にしつつも、彼の胸中は全く別の事柄に占められていた。

 

(敵艦隊が動けている。私はララァまで失ったのか!)

 

その瞬間、彼は全てがどうでも良くなってしまった。未だに戦っている部下のことも、己の立場も、そしてこの先のことも。だから彼は胸中からあふれ出る破壊衝動に身を任せるべく、力を振るう相手を睨み付けると、スロットルペダルを思いきり踏み込み機体をコロニーへと向ける。幸いと言うべきか手元の武装はまだ十分に弾丸が残っていたし、相手は逃げるこちらの艦隊に集中している。艦隊への攻撃に手慣れたキャスバルにとって、自身に注意を向けていない艦など、正に射的の的に等しい。筋違いな憎悪と嗜虐の喜びに顔を歪ませた彼が、もう少しでコロニーの外壁へと届くという寸前。唐突にその声が届いた。

 

『どこへ行こうというのかね!』

 

 

 

 

光が収まった瞬間、俺を出迎えたのはけたたましい警告音の洪水だった。やれ損傷度が危険値を超えた、動作に深刻なエラー、残弾ゼロ、戻ってきた視界でモニターをチェックし、俺は警告の元凶をまるごと取り外す。緊急パージ用の炸裂ボルトの振動が機体に響く中、俺は後ろを振り向き、ガンダムだった物がちゃんと残っている事を確認して安堵と共に声をかけた。

 

「生きているかね?アムロ少年」

 

酷い有様だが、見たところ俺が付けた傷以外は増えていない。勿論コックピット周辺はまるごと残っている。もっとも最後のあれは運が良かったとしか言いようがないけれど。それにしても味方ごと撃つとか向こうの指揮官は正気か?

 

『なんで…、助けたんですか?』

 

酷い有様だったが通信機能は生きていたようで、恐らく宇宙に放り出されたであろう金髪坊やを追うべく動こうとした俺に、アムロ少尉から弱々しい言葉が投げかけられた。味方に撃たれたのが余程ショックだったらしい。ところで君もついさっきまで同じ事してたんだけど、それについてはどう思うよ?

 

『っ!』

 

通信越しに息を呑む音が聞こえたところで、俺は大きく息を吐き出し答えてやることにした。

 

「これでも私は大人でね、物事を自身の好悪だけで判断出来るような自由は無いのだよ」

 

俺の言葉を理解できないのかしたくないのか、益々混乱した様子になるアムロ少尉に、仕方なくはっきりと告げてやる。

 

「テム・レイ博士と約束しているのだよ。彼が我が軍に協力する見返りとして、君の身の安全を保証するとね。父上に存分に感謝しておきたまえよ」

 

でなきゃ、お前みたいなクソガキ相手に命なんて張ってられるか。俺は聖人でもなきゃ、博愛主義者でもないんでね。命の価値が皆同じなんて欠片ほども思っていない。もし仲間か知らない誰かの命のどちらかを選べと言われれば、その数に万の開きがあろうと仲間を選ぶだろう。

 

『それ…だけの、事で?』

 

あ?

 

「約束というのは、人が人として生きる上で最も重要な事柄だ。たとえ同じ時代、同じ場所で生まれても人は絶対に同じにはならない、工場で作られた製品ではないのだからね。故に約束だ。何を思い考えているか解らない相手と手を取り合い共に生きていく為には、それを守ることが何よりも大切なことなのさ。わかり合えるらしい君たちニュータイプには、解らないかもしれんがね?」

 

最後に皮肉を込めてそう言うと、アムロ少尉は押し黙ってしまう。本当はもっとゆっくりと説教してやりたいところだが、今はタイミングが悪い。

 

「後は父上に教えて貰うといい、だからそこで終わるまで大人しくしていたまえ」

 

言いながら俺は、念のために拘束用のトリモチ弾をコックピット周りへと撃ち込んでやる。

 

『な、何を!?』

 

「逃げ出されてこれ以上手間をかけさせられてはたまらんからね、保険だよ」

 

ついでに言えばトリモチ弾はどぎついピンク色をしている。拘束対象をMSから発見しやすくするためだ。派手にペイント出来たから、これなら後で海兵隊が拾いやすいだろう。壊れたガンダムの横に奇跡的に無傷で残っていたヒートランスを引き抜いて、俺は破孔から機体を宇宙へと進める。デブリの量が少なくなっていたから、赤いのからの狙撃を受けないかヒヤヒヤしたが、それも杞憂に終わる。どうもあのお馬鹿さんは俺が死んだものと考えたらしい。あんな派手な機体に乗っておいて、身を隠しもせずに浮かんでいたかと思えば、何を思ったのか突然機体をコロニーへ向けて加速させ始めた。おいおい、まだ俺とのラウンドは終わってねえぞ?

 

「どこへ行こうというのかね!」

 

嘲るように、煽るように口を開く。フットペダルを踏み込んで機体を加速、漏れそうになるうめきは、歯を噛みしめて強引に飲み込んだ。

 

『生きていただと!?』

 

「なっていないな。状況の正確な判断は指揮官の必須とも言える技能だぞ?」

 

突き出したランスがシールドで逸らされる。だがそれは想定内、俺は機体が流れる方向へむしろ加速した上で、右足を後ろへ向けて跳ね上げた。

 

『ええいっ!小癪な真似を!』

 

逸らした後の背中を撃とうとしていたのだろう、上手いことギャンの踵にビームライフルが引っ掛かり銃口を跳ね上げる。この隙に俺は前転の要領で機体の体勢を整えて再び加速を行う。

 

「おまけにMSの腕まで悪いのか?所詮旧式兵器相手に調子に乗っていただけということかね?名前も偽りなら、中身も空っぽだったと言うことか?その挙句がこの様ならば、いやはや相応しいと言うものだなキャスバル・レム・ダイクン!」

 

『何を!』

 

突き出したランスは、今度は正確にシールドで受けられる。半ばまで潜り込むものの本体には届かない。舌打ちと同時にランスから手を離すが、ランスレストのパージが一瞬遅れる。その瞬間を見逃してくれるはずも無く、ゲルググの放ったビームが左腕を掠めた。警告音が響き、PDWの開閉機構が動作不能になったことを告げてくる。

 

「口では大層な事を並べても、貴様は只のガキだと言っているのだよ!」

 

残っている射撃用火器はマルチランチャーのみ、これでビームライフル持ちのエースとやり合うのは自殺行為だ。艦砲射撃を防ぐために使ったアーマーは動作不良を起こしたからパージしてしまったし、攪乱幕投射装置も残量ゼロ。故に俺は距離を詰めるしかない。

 

『知った風な口を利く!貴様こそ地上の人間をその目で見たのだろう!?あの腐敗を見てなお何故奴らのために戦う!?』

 

そんなの答えは簡単さ。俺は、お前さんやニュータイプと呼ばれる人間達ほど、人間というものに希望を持っちゃいないからさ。だが、言ったところで伝わるまい。ならば今は問答では無く只煽る。

 

「それで、ニュータイプだけの幸せな国でも作るというのかね?その為に邪魔なオールドタイプは皆殺しか?随分な理想だな!ダイクンの忘れ形見よ!そんな程度で自らニュータイプと名乗るなど片腹痛い!」

 

一太刀目は空振り、返す振りでライフルを捉える。これで相手の射撃武器も潰した。

 

『ザビ家の片棒を担ぐ貴様が言えた言葉か!』

 

応じる様にサーベルを抜き、こちらとつばぜり合いを演じるゲルググ。良い感じにゆだっているじゃないか。

 

「言うともさ!誤解無くわかり合えた結果が他者の排除である貴様らなど、進化の先などでは断じてない!そんな連中がきれい事を宣いながら人類を抹殺するというのだ!ならば私は人類として貴様らを排除しよう!」

 

『我々を、我々を偽物とでも呼ぶつもりか!?』

 

「相手を解ると言いながら、自身の理屈に合わない者を排斥しようとする連中などニュータイプである訳がない!貴様の言うとおり偽物で十分だ。人類存続のため、私の安寧な老後のためにここで死ね!キャスバル・レム・ダイクン!!」

 

『こ、の、俗物がぁ!!』

 

叫びながら膝蹴りをゲルググが仕掛けてくる。相変わらず足癖の悪い奴だ。避ける為に機体を捻った結果、推力の方向が逸れ、力の均衡が崩れる。いつの間にか向けられていたゲルググの左腕を見て、俺は咄嗟に左腕を上げてしまう。

 

「私は、格闘戦が、嫌いなんだ!」

 

そこにあったものを思い出し咄嗟にPDWをパージ、至近距離ではあったが、幸いにしてギャンは最新のガンダリウム合金を惜しげも無く使った機体だ。蜂の巣にされて盛大に爆発するPDWの破片をものともせず、機体は十全に動いた。

 

「だが出来んとは言っていない」

 

実は、オデッサで色々なデータをサンプリングする中で、一つだけ俺のデータを使わせなかったものがある。表向きは俺が格闘戦に否定的で、そんなモーション使わなきゃいけないくらいならさっさと後退しろと言う事になっていたが、実は違う。

ビームサーベルを両手にそれぞれ装備したギャンでゲルググへ斬りかかる。このデータはオデッサの中の、俺専用シミュレーターの中にしか存在しないモーションだ。整備員のシゲル中尉に皆に秘密で隠しモーションとかあったら面白いよね?と吹き込んでノリノリで完成させたものである。まさかガンダムじゃなくてゲルググに使う事になるとは思わんかったがな!

 

『冗談では無い!』

 

流石に意表を突けたらしい。振られた右腕のサーベルは止められたが、左腕のものはゲルググの肩装甲を切り飛ばす。そして調子に乗ってもう一歩踏み込んだ瞬間、背中が粟立つのを感じる。それに気づけたのは正に僥倖。だが、少しばかり遅かった。

 

『大した腕だな大佐。だが、慢心したまま倒せるほど私は安い男ではない』

 

ゲルググの左腕に握られた、もう一本のサーベルがギャンの左大腿部を深々と突き刺していた。




前回の感想にもあったんですが、ダムAで転生ものをやるそうですね。
本家がそれやるのは狡いなぁと思ってしまう反面、内容が楽しみすぎて仕方有りません。

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