起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ちょっと早いですが連休と言うことで。


第十九話:0079/05/23 マ・クベ(偽)と海兵隊

「いやいや、聞いてはいましたが、見れば見るほど混沌とした基地ですなぁ」

 

アサクラ大佐に罵倒された次の日、滑走路に大量の輸送機が来たというので何事かと見に行ったら、シーマ少佐が良い笑顔で敬礼してた。どうやら艦の乗組員まで全員ごっそり連れてきたらしい。来るの早いし、思い切り良すぎだろう。

 

「来る前には一言いってくれ、少佐。部下に野宿をさせるつもりかね?」

 

そう言いつつ、俺は昨日のキシリア様との会話を思い出していた。

 

 

アサクラ大佐の通信が切れて数分もしないうちに、キシリア様から連絡が入った。今更だけどこんなに頻繁に通信してて防諜とか大丈夫なんだろうか?そんなことを考えながらほいほい出たら、珍しく困り顔に頭まで抱えた姿のキシリア様がモニターに映った。

 

「困ったことをしてくれたな、大佐」

 

私怒ってます、と全力アピールされているキシリア様だが、見た目のせいで今一迫力が無い。むしろその手の人にはご褒美みたいな顔になってらっしゃる。後でコピー取っておこう。

 

「困ったこと、シーマ・ガラハウ少佐の件でありますか」

 

俺の言葉に盛大な溜息で応えるキシリア様。

 

「そうだ。海兵隊を1部隊丸ごと引っ張っていくなど、なにを考えている」

 

幸いにして宇宙は小康状態だったことと、装備は残していったので、グラナダで再編していた連中や本国からの増員で補填だけは出来たらしい。ただ、当然戦力価値が大きく下がってしまったので海兵隊から一般部隊に格下げされたようだ。それも含めて随分アサクラ大佐に噛みつかれたようだ。

 

「欧州侵攻に彼女たちの力が必要だと思いまして。申し訳ありません、事前に話を通しておくべきでした」

 

まさか、勝手に転がり込んできた。なんて言える訳もなく、しょうが無く苦しい言い訳を宣う俺。もう一度溜息をつきながら、半眼でキシリア様が問うてくる。

 

「で、本当のところは何だ?あれは引き入れるにしても厄介な連中だぞ?」

 

汚れ仕事をさせていたという自覚がある分、出来れば切りやすいアサクラの下で使いたいというのがキシリア様の考えなんだろう。この兄弟ほんと兵に対する接し方が極端だよなぁ。

 

「だからです。今までの冷遇があればこそ、ここで厚遇すれば彼女らは忠勇な兵として働いてくれるでしょう。多少の醜聞など比較にならない価値が彼女たちにはあります」

 

「他の部隊で手を打つ気は無いと、彼女ら以外にも海兵隊は居よう」

 

随分歯切れが悪いな。なんか相性悪いとかあったっけ?

 

「それこそ下策です。約束を反故にすれば、彼女たちの忠誠は永遠に失われ、上層部への不信は暴走すら引き起こしかねません」

 

熱心に説得すると、何故か不機嫌になるキシリア様。そんなにシーマ少佐を引き入れたくないのかな?

 

「だが、今いる部隊との軋轢もあろう、そこまでして彼女に拘ることは…」

 

「私が説得致します。もっとも、優秀な部下達です、それ程の労はないでしょう」

 

そう言い切ると、キシリア様は腕を組み鼻を鳴らした。

 

「貴様の考えは良く解った。転属申請は受理しておいてやる、以上だ!」

 

そう言って通信は一方的に切られてしまった。なんか不機嫌みたいだったけど、何だったんだろう?

 

 

「ご命令なら部下に野営準備をさせますが。テントくらいは貸して頂けるんで?」

 

そんなことを考えていたら、楽しそうにシーマ少佐が言うので溜息で答える。

 

「冗談は止してくれ。呼びつけておいて野宿をさせたなど私の沽券に関わる。私が外に寝てでも君たちには屋根付きの場所で寝てもらうぞ」

 

その言葉にころころと笑うシーマ少佐。いや、笑うところじゃないからね?

 

「…この度は、多大なるご配慮、感謝の言葉もございません。私め以下海兵隊総勢2000名、いかようにもお使いください」

 

不意に真面目な顔でそんなことを言ってくるシーマ少佐。見捨てられないよう必死なんだろうな。とりあえずジョークでも言ってリラックスさせよう。

 

「ああ、手間の分は存分に働いてもらうとも。といってもまだ準備が整っていなくてね。暫くは地球と基地の食事に慣れる所から始めてくれたまえ」

 

そう言って笑えば、破顔した敬礼を返してくれた。

 

 

 

 

「君たちにやってもらいたいのは、潜水艦からの強襲上陸だ」

 

施設を案内しながら、大佐は世間話のように任務の内容を伝えてきた。なんでも、簡易改造を施した陸戦用のザクを潜水艦から発進させて、敵地後方を破壊するらしい。成程、効果は絶大だが、万一失敗すれば敵中に良くて孤立、最悪文字通り全滅すらあり得るリスキーな任務だ。それでも、今までの公開すら出来ない非合法な作戦や、アサクラが指示してきた威力偵察に比べれば随分と飲み込みやすい仕事だとシーマ・ガラハウは思った。

 

「艦の方は新型の潜水艦になる。今月末までには2隻は受領出来るはずだから順次慣熟訓練に入って欲しい。ああ、規模は当面6隻で運用予定だ」

 

「そうなりますと、半数ほどは手空きになりますね」

 

シーマの下には現在ザンジバル級1隻、ムサイ級7隻、パプア級2隻分の部下がいる。MSパイロットだけでシーマ自身も含めれば45名になり、2個中隊である18名を潜水部隊に転換しても、半数以上残ることになる。

 

「ここで、人数分のグフⅡやドムが用意出来れば格好もつくのだが、あいにく新型は前線で引っ張りだこでね」

 

受領出来るのは機種転換で余剰するだろうザクかグフになるとのことだった。

 

「出来ればザンジバルだって用意してやりたいのだが、良くてガウだろう。すまないね」

 

その言葉に古巣のリリー・マルレーンを思い出す。良い思い出なんて無かった気がするのだが、それでも愛着が湧いてしまうのは人の性だろうか。

 

「…君が、君たちが失ったものを全て取り返す、などという約束は出来ない。だが、手の届く範囲くらいは何とかしよう、約束だ」

 

つくづく悪い男に引っかかったものだ。シーマはそう思い苦笑する。今まで散々に裏切られてきた自分が、何の保証もない口約束を本気で信じているのだから。

 

 

 

 

一通り案内を終え、執務室に戻る。取り敢えず開設予定だった新鉱山用の宿舎に割り当てたけど、労働者の募集も掛けちゃってるんだよな、工兵部隊にまた頼まなきゃならん。いや、いっそ近所の建設業者使うか?…ダメだろうな、単純労働ならともかく、基地設備を造らせるとかスパイのリスクが高すぎる。盗聴器くらいなら可愛いもんで、爆弾でもしかけられた日には目も当てられない。やっぱり工兵隊に頑張ってもらおう。

 

「ここまでする必要があったのでしょうか?」

 

いつもなら座ると黙って飲み物を出してくれるウラガンが、今日は珍しく苦言を呈してきた。

 

「頼ってきた兵士を無下に出来るほど、私は冷酷にはなれんよ」

 

苦笑しながら答えれば、益々渋面を作るウラガン。なんだよ、ウチの副官も海兵隊嫌い組か?今後一緒にやっていくんだし、なにが嫌なのかちゃんとここで聞いておこう。

 

「なあ、ウラガン。彼女たちは確かに無頼なところがある、それは認めよう。だが貴様がそこまで厭うのが理解できん。彼女達のなにが不満だ?」

 

俺の言葉にウラガンは驚いた表情を作った後、深々とため息を吐いた。

 

「彼女たちの行いを知らぬとは言わせません。ジオンの栄光に泥を塗った張本人達ですよ?」

 

え、まじか。

 

「ウラガン、それは本気で言っているのか?」

 

「無論、作戦であったろう事は承知しております。それでも拒否もせずコロニーにガスを流し込める者など、信ずるに値するとは小官は思えません」

 

いや無理だろ。そもそも少佐達は毒ガスだと知らされていなかった訳だし、事前に知らされたとして、抗命したら最悪その場で殺される可能性だってある。それにだ。

 

「解らんな。なあウラガン。核で吹き飛ばすのと毒ガスで殺すの、そこにどれだけの違いがある?」

 

コロニー落とし用にガスを使われたコロニーは数基あったが、それ以外と言えば避難勧告もなく核攻撃にさらされている。当然住人は断言できるが全滅だ。サイド1なんて残す気が最初から無かったからどのコロニーも酷い有様だったという。心情的には一瞬で死ぬ核より毒ガスの方が残虐に見えるかもしれないが、そんなものは殺した側の主観であって、殺された側にすれば、どちらも理不尽な死だ。そして、核攻撃は練度が必要ない分、一般部隊でも広く使用された方法だ。だと言うのに海兵隊だけ悪人呼ばわりされるのは、いささか不公平じゃないかと俺は思う。まあ、コロニー出身者がより想像しやすい毒ガスに嫌悪感を抱くのは判らないでも無いんだけど。

 

「断言するぞ、自身の故郷であるコロニーを武器に使った時点でジオンに栄光など無い。そしてその作戦を是とし、乗った我々に彼女たちを責められる道理など一つも無い」

 

「しかし」

 

「彼女たちを責めるというのはそういうことだ。手を下したものを責めるならば、それを認めた者も責められる。当然のことだろう」

 

「…大佐は、あれが信じられるのですか?」

 

尚も懐疑の目を向けるウラガンに俺は言い放った。

 

「当然だ。それになウラガン、よく考えてみろ。少佐などと言っても彼女は所詮末端の兵だったのだぞ?しかも上官はあのアサクラだ。任務内容を偽っていた可能性は高いし、仮に伝えていたのなら、拒否した場合彼女らの命はなかっただろう。始めから選択肢のなかった彼女たちに罪をなすりつける者こそ、真に忌むべき者だと思わないか」

 

ウラガンはなにも答えなかった。




皆様良い連休を。

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