起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第二十話:0079/05/27 マ・クベ(偽)と親父

海兵隊がオデッサの愉快な仲間達に加わって4日が過ぎた。流石精鋭、1日もすれば重力に慣れて、元気よく訓練中の連中に因縁をつけては模擬戦を繰り返していた。行儀良くしろと言ったのに…なんて呟いて頭を抱えていたシーマ少佐を見て、思わず笑っちゃったら、顔を真っ赤にしてそっぽ向かれてしまった。ごめん、昼のプリンあげるから許してって言ったら、

 

「あたしゃ子供かい!?」

 

って怒って行ってしまった。むう、エビフライの方が好みだったんだろうか。その後どうやら怒りを鎮めるべく模擬戦をしようとしたら、丁度いたデメジエール少佐と鉢合わせたらしく、煽り合い、罵り合い、大人げない模擬戦を経て、昼の食堂では和気藹々と飯を食っていた。ちなみに声を掛けたらクリームコロッケを強奪され、それじゃ俺もとかいってデメジエール少佐にプリン取られた。俺この基地の最高司令官なんですけどぉ!?って切れたら食堂が爆笑の渦に包まれた、解せぬ。

その後、良く解んないが俺のあげますよー、じゃ俺もーって山盛りになったクリームコロッケを食い尽くし執務室に戻ると、ウラガンが呆れた顔で待っていた。

 

「大佐、最近緩みすぎです。少しは威厳を保ってください」

 

「善処はしよう」

 

飯くらいリラックスして食いたいじゃん。厳めしい表情で食ってたら食い物にも失礼というものである。そんな俺の気持ちを察したのか、ウラガンはしょうがねえなコイツ、という表情になりながら報告書を読んでくれた。緊急性高そうなのとか、厄介そうな案件を最近こうしてくれるので、実に政務が捗っている。良い部下に恵まれた俺は幸せだ。これで上司の無茶振りがなければ最高なんだけど。

 

「先日連絡がありました、MS製造ラインの設置に伴う人員受け入れの件ですが、本日先行してジオニックより技術者が派遣されるとのことです」

 

「そうか」

 

グフⅡは最優先生産機体としてキャリフォルニアだけでなく本国でも製造されているのだが、それでも地球方面軍全体の需要は賄いきれていない。そんなわけで、オデッサ基地を本格的に製造拠点にしようぜ!って意見が総司令部で出たらしく、既に出来ているツィマッド社の製造工場を増築、ついでにジオニックも降ろして欧州方面のMS供給はオデッサを中心にやりくりする方針になったそうだ。ちなみに俺の階級は変わらない。責任だけ重くなっていくとか、とんだ罰ゲームである。

また、ついでに増産に対応するために鉱物資源のノルマ増やすね、来月までに今の150%なって指示が来た時は、思わず端末壁に投げつけちゃったね。幸い端っこにひびが入るだけで済んだけど。

 

「まったく、現金なものだな?つい一月前は送れる人員など居ないと言っていたのに」

 

利益が出ると分かればそんなことおくびにも出さず人を送ってくる。まあ、体面気にして送らないと言われるよりは全然マシなので、こっちも大人の対応である。

 

「仕方ありません。ドムの完成度は高く、今は欧州方面軍限定ではありますがかなり好評です。このまま広まれば無理をしてまで手に入れた主力機のシェアを持って行かれてしまいますから、ジオニックも必死でしょう」

 

本当に気持ちに余裕がねえな。

 

「それで、その技術者はいつ到着予定だ?」

 

「15時に予定しております追加のHLVに同乗するとのことでしたが」

 

え、もうすぐじゃん。

 

 

そんな訳で一通り書類に目を通した後、HLV発着場に来た。ウラガンが留守番してくれると言うのでふらふら一人で行こうとしたら、お供くらい連れて行けと注意された結果、キラキラした目で訴えていたエイミー少尉についてきてもらう事にした。

 

「ジオニックの技術者の方って、どんな人なんでしょうか?」

 

歩きがてらそんなことを言うエイミー少尉。実は俺もあんまり知らないんだよね。

 

「ジオニック社の人間とは営業や経営陣としか面識がなくてな。私も想像できないな」

 

ただまあ、国でもトップの企業だし、普通にエリートエリートした人がくるんでないの?ツィマッドやMIPの人達みたく温和な人だと良いなあ。なんて思ったのが悪かったのか、着陸したHLVから降りてきたのは、想像していた人物からかけ離れた容姿だった。年相応に寂しくなった頭頂部、しわの刻まれた顔はふてぶてしくも鋭い眼光を放つ。背は中肉中背、少しくたびれて見えるツナギの上にドカジャンを羽織り、足はまさかのサンダルで固める。首元に引っかけたタオルはそれらを纏めるに相応しい完璧なコーディネート。どこからどう見ても、まさにステレオタイプの町工場のおっちゃんが大地を踏みしめていた。

 

「あっ、お迎えの方ですか?ジオニック社と業務提携しておりますホシオカより参りました、ミオン・ホシオカです!…ほらっ、父ちゃんも挨拶!」

 

横にくっついてきていた、同じく作業着姿(流石にこちらは汚れ一つ無い営業用のものだったが)の女性が元気よく声を掛けてくると同時、中年男の肩を叩く。

 

「…ゲンザブロウ・ホシオカだ」

 

俺を迎えの人呼ばわりしたことに、エイミー少尉が絶句しているが、俺もまた別の意味で絶句していた。

 

「初めまして。突撃機動軍隷下地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ鉱山基地司令、マ・クベ大佐と申します」

 

あかんちょっと震えてきた。ちなみにミオン女史はどうやら俺がどういう人物か理解したらしく顔を青ざめさせている。が、今の俺には気にする余裕はなかった。

 

「ゲンザブロウ・ホシオカ氏、お会いできて光栄です。ミオン女史も、ささ、立ち話も何ですからこちらへ。エイミー少尉、荷物をお持ちしてくれ」

 

俺の予想外の厚遇に唖然とする少尉。案内するべく歩き始めると、慌てて近づいてきて小声で聞いてきた。

 

「あ、あの、マ大佐。あの方達はそんなに凄い人なんですか?」

 

ああ、そうか。普通しらんわな。

 

「ホシオカ氏はあのザクの生みの親だ。ミオン女史はザクのモーションパターンの制作者であり、教導大隊でも使用したシミュレーションのエグザンプル・データも作成している。言ってしまえば全てのMSパイロットの教師、それどころか母と呼べるような人物だ」

 

「あれ、でも、ザクってジオニック社が作ったんじゃないんですか?」

 

「基本設計をした、と言う意味ではジオニックが作ったと言えるな。だが実用レベルに達する機体に仕上げたのはホシオカ氏だ」

 

もし、彼らがいなければMSの性能はもっと低いものとなり、戦争に耐えられなかったかもしれない。あるいは実戦に投入されても、今より遙かにグロい戦果になっていたか。そこまで説明したところで、エイミー少尉が首をかしげた。

 

「んんん?でも、今回のお仕事って製造ラインの立ち上げなのでは?」

 

その辺も知らんよね。

 

「そもそも彼らがMSに関わったのは、核融合炉を持つ作業機のライン試作をジオニックから受注したからだ。その後のザクⅡにも関わっていたはずだから、これほど経験豊富な技師は居ないよ」

 

そんなこんなでウキウキしながら応接室に通して、お茶を出したところで気付く、あれ?ゲンザブロウ氏なんか具合悪そう?

 

「失礼ですがホシオカ氏。お加減が悪いのですか?」

 

「…いや」

 

そう言ったきり黙ってしまう。仕方が無いので説明を求めてミオン女史の方を向けば、何かを言いかけた女史を制して、ゲンザブロウ氏が静かに口を開いた。

 

「俺ぁな、軍人さん。確かに金に目がくらんだってのもあるが、あくまで人類の発展の為にMSを作ったつもりだったんだ」

 

その声にははっきりとした憤りを感じた。ああ、そうか。この人は知らずに人殺しにされてしまったのか。

 

「なあ、解るか?自分が世に出した製品が、何千、何万、いや、何十億の人間を殺したと聞いたときの気持ちが。そんなことに社員を、家族を巻き込んじまった人間の気持ちが。…仕事はする、だが、それ以上はなにも求めねえでくれや」

 

成程、責任感がある、そして自分の作るものに確かなプライドを持つからこその発言だ。

 

「そこまで仰るなら、致し方ありません。ウラガン、シャトルを手配しろ」

 

俺の言葉に訝しがる二人、対して察したウラガンは表情を変えず、エイミー少尉は焦りと動揺で愉快な顔になっている。俺は結論を伝えるべく口を開いた。

 

「嫌ならやって頂かなくて結構。代わりの者に頼みます、どうぞお引き取りください」

 

告げた言葉に、二人の顔は正反対の色になった。ゲンザブロウ氏は真っ赤に、ミオン女史は真っ青に。

 

「仕事はするっつってんだろうが!」

 

胸ぐらを掴む勢いで立ち上がったゲンザブロウ氏がつばを飛ばしながら叫ぶ。だが、ここは俺も引けない。

 

「ええ、ええ。ふて腐れても職人気質の貴方だ、人並みくらいにはやってくれるでしょう。だが、人並みなら他の人で事足りる。態々貴方を使う必要なんて無い」

 

そして、こういうタイプの人間は気分が乗らないときは、どうやっても人並み以上の事はしない。出来ないのでは無く、しないのだ。

 

「降りてきた技師が貴方だと知ったとき、私は柄にもなく神に感謝した。何故か解るか?貴方がこの道において最高の技師だと知っているからだ。だが今の貴方はどうだ?ふて腐れ、倦厭し、おまけに無気力!そんな人間に部下の命を預けられるか!」

 

MSは恐らく、世界で最も乱暴に扱われる精密機器だ。ちょっとの狂い、加工の甘さ、そんなもので簡単に人が死ぬ。それを造る工場をやる気の無い人間なんかに任せられる訳がない。

 

「手前に俺の何が解る!?」

 

「解らないですとも、私は貴方ではない。立場も生き方も違う我々が、言葉も交わさずわかり合うことなど出来るはずが無い。だから私は、今の貴方からしか判断出来ない」

 

そう言い返すと、部屋は沈黙に包まれた。

 

「勘違いしないで頂きたいが、私は貴方達に悪意など持ち合わせていない。ただ、今の貴方達には頼めないと言っているのです」

 

その言葉に、倒れ込むようにソファへ腰を下ろしたゲンザブロウ氏が、打って変わって弱々しい声で返してきた。

 

「買ってくれているのは、解る。けど俺は、俺の造ったものが人を殺すのがどうしようもなく怖いんだ」

 

その言葉にため息を吐く。流石にそのくらいは俺でも想像出来るからだ。

 

「当然ですな、それに恐怖できない人間など、想像力の欠如した欠陥品でしょう」

 

戦争大好きなサイコパスなら違うかもしれんけど。

 

「軍人さん。あんたは怖くないのかい?」

 

怖いよ?

 

「恐ろしいですとも。ですが、ここで止めてどうなります。せめて独立を勝ち取らねば、それこそ我々はただの虐殺者だ」

 

本当に嫌になるね。冷めかけた紅茶を口にしていると、俯いていたゲンザブロウ氏がゆっくりと顔を上げた。

 

「すいません、改めてお願いします。この案件、是非私にやらせて下さい」

 

先ほどまでの何処か世捨て人のような雰囲気は消え、腹の据わった表情でゲンザブロウ氏はそう言い切った。

 

「宜しいので?」

 

多分、ここが彼にとっての分水嶺だ。だからこそ、改めて俺は問うた。

 

「始めたのは誰でも、乗っかったのは俺の意思だ。気に入らねえからって自分だけ逃げるのは筋が通らねえ。せめて自分のケツくらいは拭かんとでしょう」

 

そう言って悲しそうな笑みを浮かべるゲンザブロウ氏。俺は黙って握手を交わした。




嫌がるおっさんに無理矢理…正に鬼畜の所業。

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