起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

28 / 181
いつもお読みいただきありがとうございます。
なんか、結構高評価いただいているみたいで、感謝の言葉もありません。
何とか完結できるよう頑張りますので今後ともよろしくお願いいたします。
この先全然ノープランなんですけどね!


第二十七話:0079/06/12 マ・クベ(偽)と燃える長靴

「作戦開始1分前、時計合わせ、50、49、48…」

 

緊張から、喉の渇きを覚え水差しに手を伸ばした。いよいよ欧州攻略の大規模作戦、トライデント作戦が始まる。作戦の流れそのものは実に単純。アルプスを北壁にしてイタリア半島を北部の陸路、アドリア海を通り抜ける空路、そして地中海から南端へと上陸する海路の3方向から襲う。イタリア半島を落としたら、陸軍はそのまま西進しニースまでを確保、エクラン国立公園からニースまでに防衛線を構築し、その間に空軍の空爆でマルセイユの港湾機能を停止させる。そしてティレニア海の制海権を奪取している間にバレンシアへ上陸、橋頭堡を築き敵戦力を誘引したところで、ジオンのお家芸であるHLVによる衛星軌道降下で拠点制圧を行なう。この軌道降下にはシーマ少佐が参加を志願してくれた。

 

「ドムの宣伝としてはこれ以上無い舞台でしょう?」

 

つまり部隊分のドム用意しろって事ですねワカリマス。まあ、ドム自体は既に欧州戦線各所に配備されては居るんだが、実は国民向けにはまだ紹介されていない。欧州攻略の決定打とセットとか、さぞかし宣伝省にしてみれば美味しいネタだろう。これでツィマッドの株価でも上がれば一応罪滅ぼしにはなるかもしんない。

イベリア半島、というよりジブラルタルまでを落とすのが今回の作戦だ。いやあ、自分で提案しといてなんだけど、こんな壮大な作戦上手くいくのか不安になってきた。

 

「上手くいくでしょうか?」

 

時計を見つめながらエイミー少尉が呟いた。

 

「その為に準備をしました」

 

端末の資料を確認しながらウラガンが応える。その口調は普段と変わらない、なんて鋼のメンタルなんだ。

 

「物事に絶対はない。だがそれでもあえて言おう、この作戦は必ず成功する」

 

そう俺は言い切った。戦争、というより軍事行動はそもそも戦う前にどれだけ情報を正確に集めたか、そしてそれに従いどれだけ勝つ準備が出来たかで決まる。その意味では、今回の作戦は俺の知識というチートのおかげで史実よりも遙かに充実した状況で迎えられている。史実でも成功していたのだから、はっきり言って今回はイージーモードである…そのはずだ。内心ビクビクしているのだが、ここから先、俺が出来るのは精々物資を滞りなく送るくらいであり、今更オタオタしたところでもうどうにもならない。ならば、不貞不貞しい陰謀家を演じて少しでも周囲の不安を減らすのが俺に出来る最善だろう。

 

「3、2、1…作戦開始!」

 

「始まりましたなぁ」

 

司令室に置かれた自分の机に座って紅茶を楽しんでいたシーマ少佐が目を細めながらそう呟いた。ちっくしょう、俺が言いたかったセリフなのに!

 

「ああ、事前の連絡では地中海艦隊はスエズに張り付いたままだそうだ。デトローフ中尉達には楽をさせてやれそうだよ」

 

「楽をしすぎて鈍らないか心配ですよ」

 

「それは困ったな、幾ら私でも敵を増やすことは出来ないぞ?」

 

「これは凄い発見ですね、大佐にも出来ないことがあったとは」

 

シーマ少佐のおどけた台詞で司令室に笑い声が響いた。流石シーマ様、兵士の扱いを心得ていらっしゃる。

 

「少佐は私をなんだと思っているのかね。それから諸君、笑いたければ堂々と笑いたまえ。作戦は長い、だらけろとは言えないが張り詰めていては保たないぞ?」

 

そう言えば、皆が笑いながら了解の返事と敬礼をしてくれる。俺は本当に部下に恵まれてるなあ。

 

 

 

 

こちらの発言の意図を直ぐに察し、望んだ答えをさらりと言ってのける上司を見て、シーマは思わず頬を緩めた。全く、この大佐は何処までも出来る男だ。先日だって、イベリア半島への降下に使えないかと自分の小隊分のドムを強請ったら、何故か降下する海兵隊全員分のドムが支給された。既にチェックを済ませてHLVに積み込み終わっており、第二段階であるマルセイユ空爆が終わり次第、シーマ自身も乗り込んで軌道上で補給部隊と合流後、ジブラルタルへ再突入を行なう予定だ。

そんなスケジュールを反芻しながら件の大佐へ視線を送れば、しきりに水差しへと手を伸ばして居ることに気がついた。

 

(ははっ、流石に緊張してるかい)

 

人の評判など当てにならないものだ。大佐を見ているとつくづくそうだとシーマは思う。兵の気持ちなど解らない陰険な政治屋気取り。無頼だと言われる自分たちにすら対等に接し、己の不安で兵が動揺しないよう道化すら演じてみせる目の前の男が、どう伝わればそんな評価になるのかシーマは不思議でならなかった。

 

 

 

 

よく考えたら、ここで眺めててもする事ねえな。

水飲んだら少し冷静になってきて気付いてしまった。別に俺が指揮してる訳じゃないし、物資輸送とかの都合上指揮所要員には詰めて貰ってるけど、俺居る意味ねえや。かっこつけた手前どうしようかと悩んで周囲を見回したら、シーマ少佐は面白そうにこっち見てるし、ウラガンは一瞬視線が合ったが直ぐに逸らされた。ヤロウこの事に気付いてたな!?ちなみにエイミー少尉は俺の動きに不思議そうな顔を浮かべている、間違いなくこの子天然だ。

うん、ここに居るくらいなら鉱夫の求人書類でも作ってる方が遙かに価値があるな。

 

「よし、格好もつけたことだし私は仕事に戻る。ウラガン、すまないがここは任せる」

 

意を決して口にしたら、シーマ少佐が腹を抱えて笑いやがった。やめて!マの心の耐久度はとっくにゼロなのよ!

 

「承知しました」

 

「佐官が一人も居ないのはマズイでしょうから、一応私はここに居ますよ、大佐」

 

まだちょっと笑いながら、紅茶を片手にそう言ってくるシーマ少佐。まあ、なんだかんだ言って自分の手の届かないところで部下が戦っているから心配なんだろう。つくづく姉御肌なシーマ様である。俺は黙って頷いて、そそくさと執務室に逃げ帰るのであった。

 

 

「それで私と世間話ですか?」

 

そう言って画面越しに苦笑しているのはギニアス少将だ。どうでも良いけど完全に敬語で喋っちゃってるけど良いのかな、後で通話ログ聞いたどっかの忠臣職業軍人に襲われたりせんじゃろか。

 

「情報の共有は大事ですよ、少将。それにこれは世間話ではありません、我が軍の貴重な新兵器開発に関する意見交換です」

 

そう言う事にしておいて。そうお願いすれば、苦笑を深めて了承してくれるギニアス少将。ただ、断っておくけど会話の内容は殆ど先日送ったアッザムのデータについての質疑応答なので、俺の言い分もあながち間違ってないと思う。まあ、技術者の会話なんてプライベートでも50%以上仕事の話だから仕方ないね。後は何かって?30%が女の話で20%が趣味の話だな(偏見)

 

「データは拝見しました。いやはや、あの玩具をよくぞあそこまで引き上げたものです」

 

MA開発って事で元のアッザムやザクレロなんかのデータも閲覧済みだったらしく、俺がミノフスキークラフト搭載MAの試験データあげるよーって送ったときは微妙な顔してた。見た後の現在は随分評価が変わったようだが。まあ、稼働時間だけ見ても単独で1日以上の飛行可能、かつ高度10000mでマッハ4とかだから、最初のアレに比べれば随分足が延びたし速くなった。正直ジオン驚異のメカニズムすぎて引いている。

 

「だが、少将の考える到達点にたどり着くことはあの機体では不可能、ですかな?」

 

「敵いませんね」

 

まあ、ちょっと考えれば解るよね。単純な大気圏内での飛行を考えれば、態々ミノフスキークラフトなんて大仰なものは必要ない。しかも浮遊だけで無く推進器にまで使用すると言うのは、はっきり言って無駄である。

では何故そんなものを作るかと言えば、恐らく連邦が思い描いていたシナリオ、つまり宇宙空間を経由する弾道飛行で地球上のあらゆる位置に迎撃不能な速度でメガ粒子砲を送り込もうと言う訳だろう。多分、史実のアレは本当は完成途中で、起動出来る最低限の突貫工事だったんじゃなかろうか。何せあんなもんがふよふよ浮いててもただの良い的になるのが関の山だからだ。そもそもアプサラスⅡまでは高速での飛行試験を主眼にテストされているところを見れば、あの動きは明らかに意図していた運用とは違うだろう。

 

「弾道飛行となればジェットエンジンは使えませんからなぁ」

 

「かといってロケット推進はプロペラントの問題が付きまといます。十分な稼働時間を考えると最低でも巡洋艦クラスのサイズになってしまう」

 

その問題を解決するのが電力供給のみでほぼ無制限の飛行が可能なミノフスキークラフトなんだけども。

 

「雑な方法で良ければ、まあ手がない訳ではないのですが」

 

「雑?」

 

「ええ、仮にの話ですが。浮遊と姿勢制御のみに割り切れば試験機のミノフスキークラフトはどの程度のサイズになりますか?」

 

俺の言葉に少し考え込みながら、真面目に答えてくれるギニアス少将。

 

「それならば現状の半分以下、少なくともアッザムに搭載したものより小型化出来るでしょう」

 

マジか、この天才ちょっと凄すぎない?

 

「であれば、空いた容積にジェネレーターとジェットエンジンを積み込めば大気圏内の飛行はクリアできます」

 

おっと、それはお前のアッザムで解ってるよって顔ですね。まあ待ちなさいな。

 

「ちなみにですがギニアス少将、弾道飛行は連続で行なうのですか?」

 

「いや、そんな予定は…」

 

その否定で気付いた顔になるギニアス少将。ほんと、天才とか話が早くて助かるわ。

 

「ほら、雑な方法でしょう?」

 

そう言えば、苦笑しつつ少将は口を開いた。

 

「確かに。けれど実に現実的だ。正に大佐らしい提案ですね」

 

その言葉につい俺も苦笑してしまう。

 

「褒め言葉として受け取っておきます。では少将、せいぜい連邦に泡を吹かせてやって頂きたい」

 

「完成しましたら必ず貴方にも進呈しますよ。ユーリよりは大事に使ってくれそうですしね」

 

それは確かに、なんて言ってからは和やかな世間話が続き、ポットの紅茶が無くなったころウラガンが重苦しい表情で入室してきた。あ、これ絶対悪い知らせだ。

 

「大佐、友軍第一陣がイタリア半島に侵入致しました。北部の部隊は優勢に事を進めておりますが…」

 

そこまで言って言いよどむウラガン、止めてよ、聞きたくなくなるじゃん!

 

「空挺部隊に甚大な被害が出ているとのことです。ガウの3割が未帰還だそうです」

 

それ、ダメじゃん!




マッハ4は正直やりすぎたかなと思う、けど木馬がマッハ12とか言ってるし許してほしい!
ぜんぶミノフスキーの仕業なんだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。