起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ストック尽きましたので以後早くて月一投稿になります。
文字数も少ないです。


第二話:0079/04/15 マ・クベ(偽)のそれなりに長い一日

キシリア・ザビを君はどう思うだろうか。色々な意見はあるだろうが、俺の彼女に対する評価は、最悪のタイミングでやらかした紫ばばあである。年齢的には20代?しらん、あの一族の呪われた老け顔が悪い(人これを責任転嫁と言う)。

政治家としてのセンスは無い訳ではないし、新しいモノでも使えそうなら試してみるその姿勢は評価できるが、彼女には致命的な欠点がある。政治家や軍略家としては感情的すぎるのだ。

無論それが良い方面に作用する場合もある。例えばドズル・ザビも感情豊かな人物であるが、彼の場合それが兵との共感や弱者への慈しみとして発揮されることが多い。政治家として見ればやはり失格であるが、軍人、それも大隊の指揮官くらいなら魅力的な人間であろう。もっとも、そんな人物が方面軍の総指揮官なのは笑えないのだが。

対してキシリアは、感情の発露する部分が自身の理想や正義に寄る部分が多い。だからリアリストなギレンとはかなり相性が悪いし、理想や正義をギレンに預けているドズルも気に入らないのだろう。そして自身のそれを制御しきれないから、重要な最終局面であんなことをやらかすのだ。

長ったらしく分析したが、ようは癇癪持ちの潔癖症な小娘と言うことである。

こう考えるとデギン公は政治家としては一流だが父親としては精々二流だったんだなぁ、などとどうでも良いところに思考を飛ばしているのは、目の前で起こっている事にちょっと脳が追いついていないからだったりする。

 

「息災のようだな。火急の用件と聞いたが」

 

時間も僅かだし、多忙と言うことで音声だけだと思っていたら、思いがけず画像付きだった。

それはともかく、問題はモニターに映し出されている人物だ。切れ長だがやや垂れ気味でかわいらしさが抜けない目元、彫りは浅いが通った鼻立ちは典型的なモンゴロイド系美人の特徴を抑えており、亜麻色で丁寧に整えられた髪はつややかで絹と例えても違和感の無い、語彙の少ない俺では表現しきれず申し訳ないが、とにかくすっごいかわいい系美人が映っている。秘書官ですか?いいえキシリア本人です。…いやなんだこれ。

 

「ほ、本日はお忙しい所恐縮にございます」

 

「口上はよい、用件はなんだ」

 

声までかわいいでやんの、ほんと誰だこれ。

原作でキシリア相手に舞い上がっているマさん見て趣味わりいなとか思ってたが、どうしよう、キシリア様俺の超好み。これが本来のキシリアだとしたら、マさんと良い酒が飲めるか取り合って殴り合いかの二択である。いかん、思考があらぬ方向に飛んでいる。

 

「は、はい、先日受領しましたMSの件です」

 

「ああ、追加要請の。あれなら要求数を送ったと聞いているが?」

 

数はね。その言葉で漸く気持ちが落ち着いてくる。

 

「確かに数は届きました。即日2機解体処分するようなボロでしたがね」

 

その言葉にキシリアが眉を顰めた。だろうね、今までこんなクレーム入れたこと無いもんね。

 

「受領しました9機の内、稼働機は3機のみ、残りの6機は動かすことも出来ないガラクタ寸前でした。整備班の奮闘で4機は再生可能とのことですが、とても戦線で運用出来るとは言いがたい」

 

「…つまり?」

 

「ザクⅡの新品を寄こせとは申しません。しかし、せめてまともに動くモノを送って頂きたい。それから部隊の運用体制の見直し許可を。重力下では整備員の負担が極めて増大します。最低でも今の倍は人員が必要です」

 

「随分強請るじゃないか。他の戦線からそのような報告は上がっていない、貴様の工夫が足りないとは考えないか?」

 

国家のリソースは有限である以上、最小限のコストで目標を達成したいという気持ちは良く解る。そして自身の評価を考えれば、手持ちの戦力が十分でないから戦果を出せないとのたまうのは成程、無能と評価されても仕方が無いかもしれない。

 

「成程、であるならば重力戦線は一年と持ちませんな」

 

「何だと?」

 

「簡単な理屈です」

 

後方の採掘基地程度の指揮官ですら気づく程度に部隊が疲弊していると言うのに、もっとその辺りに敏感なはずの前線指揮官から増員の要請や兵站強化の陳情が上がっていない。つまりそれは相手を舐めきっているか、上層部に期待をしていないか、はたまた最悪指揮官がその辺りに無頓着なのか。いずれの理由であっても戦力の根幹であるMSの整備能力が低下すれば早晩前線は維持できなくなり、崩壊すれば後は連鎖的に宇宙まで追い返されるのは明白だ。

そう伝えれば、キシリア様は形の良い眉を寄せ目を閉じた。うん、解りやすく悩んでいらっしゃる。

 

「マ大佐、MSの件は都合するが整備部隊については即答しかねる…が、興味深い意見だ、こちらからも動くことを約束しよう。では以上だ」

 

沈黙はほんの数秒だったろう。目を閉じたままそう言葉を放ち、通信は一方的に切られた。たっぷり10秒、伸ばした背を維持していた俺はゆっくりと背もたれに体を預け大きく息をついた。

 

「ああ、緊張した」

 

俺には骨董趣味なんて無かった筈なんだが、なんだか無性に壺を眺めたい。マさんも壺を癒やしにしていたんだろうか、などとどうでも良い事を考えて居たら、コンソール横の机にティーカップが置かれた。そこで初めて仏頂面の副官が居たことを思い出す。

あ、これやばいかもしれん。

 

 

 

 

通信が切れ、少し光度の落ちた部屋で、キシリアは目を閉じたまま自然と口角が上がっていることを自覚した。

考えているのはつい先ほどまで話していたマ大佐の事だ。自身より少し年上で如何にも文官肌の彼は部下としては優秀であり、自身に好意を向けていることも自覚していた。そしてその上で物足りない男であると言うのがキシリア個人としての評価であった。

望んだ答えしか返せず、嫌われることを恐れて自身の弱みも見せられない。その上で気取ってみせるのだから、幼少の頃遊んだあの金髪の坊やと比較すればどうにも見劣りしてしまう。それが今日までの正直な気持ちだったのだが。

 

「正面から文句を言ってくるとは、思ったよりも骨がある」

 

正面からこちらの不手際を指摘し、堂々と強請って悪びれない。部下として見れば扱いにくくなったが、イエスマンよりもよっぽど信頼の置ける存在になったとも言える。

そしてあの表情、露骨とも言えるうろたえぶりは、むしろ取り繕ったすまし顔よりも魅力的に見え、何処か可愛らしさすら覚えた、その事実にキシリア自身が驚いていた。

可愛いなど、あの爬虫類じみた男から最も遠い所にある言葉だったろうに。

 

「困ったな、存外に私もまだまだ女だという事か」

 

自嘲じみた笑いをひとしきり上げた後、マスクとヘルメットを身につける。

さあ、女の私は暫くお休みだ。部屋から出たらまずMSの件について担当者を問いたださねばならない。ふわふわとした気持ちを押し込め端末で秘書を呼ぶ、その頃には頬を赤らめていた部下の顔は記憶の隅に追いやられていた。

 

 

 

 

朝方から感じていた疑念は確信に変わった。この男は昨日まで仕えていた大佐では無い。

自分を狼狽しながら見上げる男に何時もの無表情を返しつつウラガンは思った。

普段ならキシリア閣下との通話後10分程は入室の許可が出ない、どころか今回自分は勝手に入室し側まで寄っていたのだ。本来ならば即座に叱責が飛び、最悪副官から下ろされる。そうなるくらいに大佐は神経質であったし、部下の無礼に非寛容だった…少なくとも昨日までは。

 

「ウラガン、入室を許可した覚えは無いが?」

 

どこか作ったような、不自然な仏頂面でこちらを咎めるが残念ながら取り繕えて居ない。大佐ならここは咎めるよりもまず退出を指示する。

 

「は、申し訳ありません」

 

そんな思考をおくびにも出さずぬけぬけと謝罪してみせる。すると男は視線を逸らした後、苦笑して見せた。

 

「見ただろう?」

 

沈黙を続ければ、男は続けて話し出す。

 

「気取ったところで私も男に過ぎんということさ。好いた女性との逢瀬の余韻に浸りたい、そんな理由で職務を放棄していた」

 

人間的な弱みを見せる、本物なら絶対にあり得ない仕草にウラガンは自身がこの男に好感を抱いている事を感じ動揺した。

この男は大佐では無い。どのような手段なのか容姿も知識すらも同様だが、思考・感性に決定的な差異がある。同時に疑念が生まれる。違うとして、ならばこの男の目的はなんだ。

最も短絡的な答えは連邦のスパイ。現在の整形技術なら容姿を偽装するくらいは出来るし、知識も覚えれば良い。だが、最も気を遣うべき仕草や言動がこうも乖離していては全く無駄だとしか言えない。第一こちらの警戒をくぐり抜けて基地司令一人をすげ替えるなどと言う離れ業が出来るとして、すげ替えたのがこれではお粗末すぎる。

さらに解らないのが行動だ。敵対的な行動どころか積極的に献策し、基地環境の改善に努める。昨日までの、鉱山の稼働状況以外に興味を示さず、兵に対し忌避感じみた感情を隠そうともしない大佐とは雲泥の差だ。今のところ兵士には困惑しか与えていないが、少なくとも以前より良好な関係になっていくことは間違いないだろう。

そこまで考えてウラガンは自身の思考に混乱した。

おかしい、副官として仕える人物が明らかに変わったのだから更に上に報告することは当然として、すぐに拘束すべきだ。だと言うのに自分は本物の大佐より、目の前の男の方が仕えるに値する男なのでは無いか、などと考えて居る。

そんな自分の葛藤などお構いなしに目の前の男は告げてきた。

 

「職務放棄を黙っていてくれるなら今回の無断入室は不問にしよう…君の紅茶が飲めなくなるのも困るしな」

 

その言葉にぞくり、と背中がむずがゆくなるのを感じる。大佐は優秀だ。優秀故に部下に求めるのは自身の任務を忠実にこなすことで、それ以外は何も求めない。部下に望みはするが期待はしない。それはつまり、任務さえこなせば誰であっても構わないと言うことだ。

軍人としてあってはならないことだが、それでもウラガンはこの男をもう少しだけ黙認することにした。

 

 

 

 

確実にばれた。ばれたはずなんだけど、何故かウラガンさん静かに一礼して部屋から出て行った。これはあれか、この場は下がって後で拘束するとかいうパターンか?…いや、今拘束しない理由が何も無い以上、これはもう俺の名演がすり替わっていることを隠し通したと結論せざるを得ない。ふふふ、己の才能が恐ろしいぜ!脳内の誰かがんな訳あるか、バカか貴様、とか言っている気がするが気にしない、俺の精神衛生の為に。

 

「さて、この後の予定は報告会議だったか」

 

偉い人たちが集まっての会議とか謹んで遠慮したいがそうはいかないだろうなぁ。まあ、ヨーロッパ方面軍の定時報告が主みたいだし、今回は大人しく様子見しておこう。け、決して怖じ気づいた訳じゃ無いんだからね!

 


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