起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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やることがある時って、別のことがよく進みません?
つまりなにが言いたいか。

E-3の攻略が全く進んでいません。



第三十四話:0079/07/02 マ・クベ(偽)は賞金首

地下だというのに、その場所は完全にコントロールされた照明と空調により極めて快適に保たれている。現状の地球環境からすれば非常に羨ましい環境ではあったが、それを加味しても部屋に居る男達の気持ちは全く上向かなかった。

 

「これで欧州は完全に連中の勢力圏か」

 

「大陸はもう無理だ。ブリテン島も先日の空襲でポーツマスが機能を失ったからな。攻勢どころか島を守れるかすら怪しい」

 

「北米は?」

 

「カリブ海周辺は維持している。と言えば聞こえは良いが連中が戦線の拡大を嫌って動いていないだけだ。何よりキャリフォルニアの失陥が大きい。装備も弾薬の補給もジャブロー頼りでは、攻勢など夢のまた夢だ」

 

そう言えば、隣で煙草を燻らせていた男が溜息と共に続ける。

 

「こちらも似たようなものだな。地中海の制海権を取られてから北アフリカの部隊の動きが活発化している。今日明日でキリマンジャロが落ちるとは考えたくないが」

 

「例の機動兵器か」

 

その言葉に男は黙って頷いた。先日の欧州におけるジオンの大攻勢において唐突に現れたその機動兵器は、巨大戦車の対応にすら苦慮している連邦にとって正に悪夢のような存在だった。防衛の中核であるメガ粒子高射砲をこうも簡単に潰されては、再びMSの空挺降下が行なわれてしまう。

 

「おまけにあの羽つきに骨董品だ。一体連中に何があったんだ?」

 

行動範囲を飛躍的に広げたホバー移動するMSに、旧ロシア軍機を模倣した戦闘機。骨董品などと蔑んでいるが、新鋭機であるセイバーフィッシュですら1対1では対処できないという頭の痛くなる報告が上がっている。現状それ程配備が進んでいないため何とかなっているが、これの量産が本格化すれば各地の制空権すら怪しくなってしまう。

 

「まったくレビルの奴め、何がジオンに兵無しだ」

 

確かに開戦以前、連邦政府とジオン公国には30倍近い経済力の差と、それに近い戦力差があった。だがそれは単純に艦が30倍あるとか、兵士が30倍存在すると言うような単純な話ではない。更に言えば各サイドが壊滅した事で経済は大幅に縮小しているし、地球もコロニー落としの影響で太平洋沿岸地域は甚大な被害を受けている。更に月面都市やサイド6が中立宣言をしたために、今は良くて3倍と言ったところだろう。

無論国家の危機である現在軍事は優先されているが、それでもそのリソースは有限だ。肥大化した組織を効率よく運営するための官僚機構の弊害で、食料や医薬品など共有可能な物資は余裕があるが、その一方で人員の確保や装備の生産とその予算の獲得については、各軍が必死でパイを奪い合う様相を呈している。特に開戦初頭で甚大な被害を被った宇宙軍と海軍は組織を立て直すべくそれらをかき集めているが、現在矢面に立たされている陸軍や空軍にすれば、いつになれば使えるか解らないマゼランを一隻建造する資源で一台でも多く戦車や戦闘機を寄こせと言うのが本音である。

更にジオンはMSという新兵器により、宇宙と地上を同じ人員で戦わせるという荒技まで使ってきた。おかげで陸軍同士で比べれば、宇宙軍に人的資源を多く奪われているため、むしろジオンの方が戦力は優勢という笑えない状況に連邦陸軍は陥っていた。

 

「その辺りは多少負い目を感じているようだぞ。例のV作戦で出来たMSの先行量産機をこちらに回すと打診があった」

 

「ふん、自分の持論を証明するのに俺たちを体よく使うつもりだろう?」

 

嫌悪感を隠そうともせずに男が口を開く。欧州方面を担当していた彼は、今回の件で出世コースを閉ざされたのだから無理からぬ事と皆考えた。

 

「だが、我々だって鹵獲頼りでは話にならん。寄こすというなら有り難く使わせて貰おうじゃないか。運用試験をこちらで行なうのだから、連中への貸しにもなるしな」

 

MSの譲渡を借りではないと明言しながら北米担当の少将が意見を述べた。キャリフォルニアからの撤退時にMSの脅威を存分に味わった彼は、何としてもあれを手に入れねばならないと確信していた。故にたとえ宇宙軍にどのような思惑があろうとも、陸軍にMSが手に入るなら許容すべきだとも考えている。ただ、それを素直に言えば面子に拘る者達の反発は必至であるため、先ほどのような物言いになってしまっているが。

 

「MSが手に入ったとしてもだ。あちらにイニシアチブがあるのは変わらん。そこはどうする?」

 

「その点については、情報部が面白い情報を持ってきたぞ。4月半ば頃からオデッサ近郊の通信量が大幅に増大しているそうだ」

 

「オデッサ…確か司令官はマ・クベか、あれが関わっていると?」

 

「確たる情報は無い。だが逆に言えば、情報部が探れん程度にはあそこが厳重に守られているのは確かだ」

 

更に偵察機の空撮画像によれば、ここ2ヶ月で基地の規模も劇的に拡大している。それも考慮すれば、その拠点の基地司令が無関係であると考えるのは楽観に過ぎるだろう。

 

「早々にご退場願いたい程度には厄介な男という所か」

 

「そちらの方面でも話を進めておこう。やれやれ、早く戦争など終わらせたいものだな」

 

「いっそのこと賞金でも懸けるか、10万ルーブルでどうだ?」

 

最後の言葉に皆が笑いながら同意し、男達は各々の執務室へと帰っていった。翌日、ジャブロー参謀本部の掲示板に紫髪の陰気な男の手配書が貼られることになるのだが、10万ルーブルの賞金が支払われたという情報は、現在に至るまで地球連邦の公式記録に存在しない。

 

 

 

 

「なあ、ウラガン。カーゴは何故丸いんだろうな?」

 

最近気に入っているのか、ワショクのテリヤキなる魚料理をつつきながら、大佐がまた妙なことを言い出した。

 

「はあ、申し訳ありません。考えてもみませんでした」

 

ウラガンは有能ではあるが万能ではない。兵器を手配することも差配することも出来るが、何故その形なのかなどは関心の埒外なので、何故丸いと言われても何か理由があるのだろうと思う程度でそれ以上の答えなど持ち合わせていない。同じ人種だった前の大佐と違い、今の大佐はそこが気になって仕方ないようだが。

 

「だっておかしいだろう。コンテナが丸いか?施設の部屋を丸く作るか?いや、意匠としてそうする場合がある事は解る。だがカーゴだぞ?運搬用の台車をなんで丸くするんだ?上の方とか絶対デッドスペースが出来るだろう」

 

言っている内に興奮してきたのか、付け合わせのナットウなる腐ったビーンズを執拗にかき混ぜながら大佐が喋る。食堂なのでエキセントリックな行動は控えて欲しいのだが、今のところ聞き入れて貰えたことはない。

 

「ああ、あれはちゃんと理由があって丸いんですよ、大佐」

 

フランクに話しかけてきたのはMIPから出向してきているジョーイ・ブレン技師だった。アッザム事件(オデッサ基地司令部要員命名)以来随分親しげに接するようになった彼は、当然のようにウラガンの横に座り説明を始めた。

 

「元々カーゴとギャロップは緊急展開用HLVとそれの運搬車両として設計されたものでしてね。前線部隊がギャロップで移動するところに、宇宙からカーゴで直接物資を送りつけようって算段だったんですよ」

 

なので、宇宙での運搬の利便性と生産性を確保するためにHLVの生産設備を流用したからあのような形になったらしい。ただ、実際に戦争をしてみれば頻繁に動き回る部隊にピンポイントで物資を投下するのは困難であったし、位置がずれた場合ミノフスキー粒子下では捜索が行いがたい事、加えて最悪物資が無傷で敵に渡ってしまうというリスクから、そうした運用を控えているとのことだ。

 

「成程、そういう訳だったのか。有り難うジョーイ技師、疑問が一つ無くなったよ」

 

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです。今度はギャロップを弄るんですか?」

 

「あれを弄るとなると大騒ぎになりそうですな。ガウの方も苦労しているようです」

 

以前大佐が編纂した旧式兵器のデータは、現在ジオン全てで共有されている。そして運用の結果、能力に難があるとされたガウは現在キャリフォルニアベースにてガルマ大佐主導で改良が進められているのだが、その進捗はあまり芳しくないようだ。

 

「ガウは何でもかんでも詰め込んだ機体だからな。ある程度分業させたいが、そうするには単体コストが高すぎる」

 

ミソスープを気難しげに飲みながら大佐が答えた。爆撃機と輸送機と空母を一機でこなそうと言うのだから無理も出るだろうとのことである。ただ、単純に3機に分ければ整備面での負担は倍以上になるのは明らかだし、運用するための人員も相応に必要になる。加えてあのサイズだ、生産設備自体の調整も悩みの種だ。

 

「その辺りは今度ガルマ様とも話してみよう。それで何の話だったか…ああ、ギャロップだったな。それ程文句がある訳ではないが、言わせて貰えるならあの主砲が気にいらんな」

 

射界が限定的で気に入らないとは大佐の言葉だ。

 

「大体、カーゴを連結したら左右30度ずつくらいしか撃てないとか構造的欠陥だろう?」

 

ちなみに無くてもエンジンが邪魔で180度も撃てないと、苦笑交じりでジョーイ技師が補足した。では何故そんな所に付いているかと言えば、どうやらこれも軍からの追加要求が原因だったようだ。ギャロップの試作車が出来上がっていざ実走という段階で、見に来た軍関係者が自衛用の火器が105ミリ機関砲だけでは不足だと言いだし、急遽火力を増強するために取り付けられたそうだ。ちなみに105ミリ機関砲も175ミリ速射砲に変更された。

今まで大佐が文句を言わなかったのは、そもそもギャロップが移動用の足である事に加え、整備や作戦指揮を取る人員が搭乗する移動拠点だったからだそうだ。なまじ戦える火器があると人間は逃げるよりも戦うことを選択しやすくなり、悪戯に被害が拡大するというのが大佐の意見である。

 

「MSがやられるような戦力にギャロップで勝てる訳がないだろう」

 

だが現状を考えれば、MSの行動範囲拡大に伴いギャロップ本体の安全性が高まっているので、それならば火力支援が容易な方が良いと言うのが今回改善提案を出そうと考えた理由らしい。改善したい点としては、近接防御火器の充実と主砲の射界の向上の二つだそうだ。この件についてジョーイ技師によれば、ギャロップは出力にも余裕があるので、車体を少しサイズアップし形状を弄ればそれ程難しい改造ではないだろうとのことだった。

 

「言ったらギャロップもここで造ることになりますかね?」

 

オデッサに出向する原因となったドップのことを持ち出してジョーイ技師が大佐をからかう。すると口角をつり上げて、食後のグリーンティーを飲んでいた大佐が答えた。

 

「オデッサはもうかなりの製造拠点を抱え込んでいる。生産効率は良くなるが、一度の失陥で生産能力が激減するという事でもある。これは我々がキャリフォルニアで証明した事実だ。その教訓はちゃんと司令部も認識しているさ」

 

後日、資源増産指示と同時にギャロップの改良、生産施設設置の指令が送られてきて深い溜息を吐くことになるのであるが、それを知るものはまだ居ない。




さあ、梅雨入りです、今週も頑張らずに行きましょう。

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